名探偵ポワロとマープル
『パディントン発4時50分〜その2,忍び寄る影〜』
原作:アガサ・クリスティー 台本:里沙
(4:2:0)
ミス・マープル | ♀ | ロンドン近郊のセント・メアリー・ミード村に住む老婦人。ミス・マープルと呼ばれている。 上品だが、おしゃべりが大好き。ゴシップも含め、村のことなら何でも知っている。その鋭い観察眼で、難事件も鮮やかに解決。 質素な生活を営み、編物とガーデニングが趣味。 |
7 |
メイベル | ♀ | マープルの甥レイモンド・ウエストの娘。 好奇心にあふれ行動力もあわせ持ち、時には失敗もするが、いつも元気な16歳。 当代一の女探偵をめざし、ポワロ探偵事務所のドアをたたいた。 オリバーと一緒に、あるときはポワロの新米助手として、またあるときは尊敬する大伯母を手助けしながら、探偵としての腕を磨いていく。 |
30 |
クラドック | ♂ | スコットランドヤードの刑事。今回の殺人事件の担当者。 | 59 |
クインパー | ♂ | クラッケンソープ家の主治医。 | 13 |
ルーサー | ♂ | ラザフォード・ホールのクラッケンソープ家の現当主。気むずかしい老人。(ブライアンと被り) | 3 |
ハロルド | ♂ | ラザフォード・ホールのクラッケンソープ家の三男。金融会社運営。(ブライアンと被り) | 7 |
セドリック | ♂ | ラザフォード・ホールのクラッケンソープ家の次男。画家。 | 12 |
ブライアン | ♂ | ラザフォード・ホールのクラッケンソープ家の今は亡き長女の夫。アレックスの父親 | 14 |
エマ | ♀ | ラザフォード・ホールのクラッケンソープ家の次女。(マープルと被り) | 29 |
ウィンボーン | ♂ | 弁護士(セドリックと被り) | 7 |
アレックス | ♂ | エマの甥。(セドリックと被り) | 12 |
ジェイムズ | ♂ | アレックスの友人。(ブライアンと被り) | 6 |
N | ♂ | ナレーター(クインパーと被り) | 17 |
1 | メイベル(M) | マープルおばさまの友達の、エルスペスさんが、パディントン発40時50分の急行に乗っていて、併走する列車の中での、殺人を目撃しました。 マープルおばさまは、ラザフォード・ホールという場所に死体が隠されていると推理し、私はそれを調べるためにメイドとして潜り込んだのです。 そして! |
メイベル | おばさま!見付けました!間違いありません! | |
マープル | 直ぐに、警察に知らせなさい。 | |
メイベル | でも、どこまで話して良いんでしょう…。 | |
マープル | 真実をすべて、正確に話すのが一番だと思うわ。 | |
メイベル | はい。判りました。 | |
N | マープルへの電話を切って、そのまま警察へとダイヤルを回す。 | |
メイベル | もしもし、警察ですか? | |
N | クラッケンソープ邸は大騒ぎになっていた。 死体が発見された石棺のある納屋では、警察や報道陣が詰めかけ、現場の状況をつぶさに調べている。 |
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10 | アレックス | すごいなー…。まるで映画みたいだ。 |
ジェイムズ | ああ。死体を発見したのも、こんなお嬢さんだったしね。 | |
N | 納屋から、警官に付き添われて、エマが出てくる。 死体に面識があるかどうか、問われていたのだ。 |
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刑事 | こんな事をお願いして、申し訳ありませんでしたな。 | |
エマ | いいえ。とにかく、今まで見たことのない女の人でした。 | |
刑事 | ご協力、ありがとうございました。 | |
クインパー | エマさん。あなたは芯が強い。 | |
クラドック | こちらは? | |
エマ | 父の主治医で…。 | |
クインパー | クインパーと言います。 | |
20 | クラドック | スコットランドヤードの、クラドックです。こちらはブラックハンプトン警察のベーコン刑事。 |
クインパー | 一体、どういう事なんです? | |
クラドック | まだ何とも。調査はこれからですから。 | |
クインパー | 私も遺体を見た方がいいですか? | |
クラドック | お願いします。ミスター・クラッケンソープにもお願いしたいんですが、ご病気とか。 | |
クインパー | いえ、心配は無用です。見たくてうずうずしていましたよ。 足が痛い、心臓が悪いなどと騒ぎ立てていますが、至って健康ですよ。 |
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エマ | 父を呼んできます。 | |
クインパー | では、見に行くとしましょう。 | |
アレックス | 刑事さん!僕たちも見て良いでしょう? | |
クラドック | だめだ。下がって。 | |
30 | ジェイムズ | でも、どういう人か、僕ら知ってるかも知れませんよ。 |
アレックス | そうですよ。家の納屋で起きた事件なんだから、僕にも見る権利があるんじゃないですか? | |
クラドック | 君たちは? | |
アレックス | 僕はエマの甥でアレックス。こっちは友達のジェイムズです。 | |
クラドック | …よし、入れてやれ。 | |
アレックス | !ありがとうございます! | |
クラドック | さてと…。 君が第一発見者だったね。 |
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メイベル | はい。メイベル・ウェストです。 | |
クラドック | 詳しく話を聞かせてもらって良いかな。 | |
メイベル | はい。、 | |
040 | N | メイベルは、屋敷の一室でクラドックの質問に答える。 |
クラドック | つまり、こういう事かい?列車の中で目撃した殺人事件を解決するために、ある人の推理に基づいて、この敷地内で死体を探していた。 しかも、わざわざメイドとして雇われて。 |
|
メイベル | はい。 | |
クラドック | 無茶なことを…。 で、その「ある人」とは誰なんだい? |
|
メイベル | マープルおばさまです。 | |
クラドック | マープル!?それはもしかして、セント・メアリ・ミード村のミス・ジェーン・マープルのことかい? | |
メイベル | おばさまを知ってらっしゃるんですか? | |
クラドック | ふっ…。参ったな。ミス・マープルがこの事件に関係しているとは。 | |
メイベル | あの…私のことについては、この家の人には黙っていてもらえませんか? | |
クラドック | と言うと? | |
050 | メイベル | 私の目的を知られれば、おそらく辞めさせられます。 でも、この後警察は遺体の確認のために、クラッケンソープ家の関係者を集められるのでは? |
クラドック | そうなるだろうね。 | |
メイベル | だとしたら、屋敷ではこれまで以上にメイドも必要になりますし、他にもお役に立てることはあると思うんです。 | |
クラドック | 他にも…ね…。 | |
メイベル | お願いします。 | |
クラドック | 判ったよ。そう言うことなら、黙っていよう。 | |
メイベル | っ、ありがとうございます。 | |
N | そこに他の刑事が遺体の確認が終わったとの報告に来た。誰も見覚えがないとのことであった。 | |
メイベル | あっ!大事なことを言い忘れてました。私、被害者のものと思われる、毛糸とコンパクトを見付けたんです。 | |
メイベル(M) | 翌日、遺体の確認のために、クラッケンソープ家の人々が集められました。 メイドのキダーさんの話によると、画家の次男セドリックさんは外国暮らし。 三男ハロルドさんは金融街にオフィスを持っている。 四男アルフレッドさんは保健関係の仕事をしているが、裏では怪しげな事も。 そして、亡くなった長女の夫ブライアンさんは、元空軍のパイロットで、英雄だったそうです。 |
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060 | アレックス | パパ! |
ブライアン | アレックス。 | |
アレックス | パパも呼ばれたんだね。 | |
ブライアン | ああ。お前達は昨日、遺体の確認をしたんだって? | |
アレックス | うん、僕の知らない人だった。 | |
ジェイムズ | みなさんの中で、遺体の女性に見覚えのある人はいなかったんですか? | |
ハロルド | ああ、誰もいなかった。 | |
アレックス | えー。つまんないの。何か事件に進展があったらと、期待してたのに。 | |
ブライアン | こら。遊びじゃないんだぞ。遊びじゃ。 | |
アレックス | へへ…ごめんなさい…。 | |
070 | メイベル | みなさん、お疲れさまでした。 |
ハロルド | 全く!君が用もない場所をつつき回したりしなければ、こんな事にはならなかったんだ。 | |
セドリック | ハロルド、嫌みな言い方はよせよ。 えーと、メイベル…だっけ?ミス・メイベルは何で、あんな重い石棺の中を覗こうと思ったのかね。 |
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メイベル | え?…あの、私、納屋の中で、どうやってここを掃除しようかと考えていたんです。そしたらなんだか嫌な匂いがして…。 | |
ハロルド | だろうな。監察医の話じゃ、死後約一週間と言っていた。 | |
メイベル(M) | 一週間前?ちょうどエルスペスさんが事件を目撃した日だわ。 | |
エマ | あの女性は、私たちと何か関係があるのかしら。 | |
セドリック | かもな。何しろ家の納屋で見つかったんだ。 | |
N | その話は中でしようと、兄弟達は屋敷に戻っていく。 一室でクラドックが一人一人に話を聞いていた。 |
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クラドック | ウィンボーンさん、所持品や服装などから、死んだ女性は最近外国からやってきたようなのです。おそらくはフランスからだろうと。 | |
080 | ウィンボーン | なるほど。 |
クラドック | ウィンボーンさん。あなたは弁護士としてクラッケンソープ家の代理人をしておいでです。知っていること。特に先代クラッケンソープの遺言について教えて頂きたいのです。 | |
ウィンボーン | 判りました。 先代のクラッケンソープは多大な財産を信託にして残しました。そこからの収入は、今の当主、ルーサー・クラッケンソープが生きている間は、彼に支払われ、彼の死後は、元金がその子供達の間で均等に分配されることになっています。 |
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クラドック | 長男のエドモンドと、長女のイーディスはすでに亡くなっていますから、遺産は、セドリック、ハロルド、アルフレッド、エマに分配されると言うことですね。 | |
ウィンボーン | いえ、長女のイーディスの息子、アレックスにも、その権利があります。 | |
クラドック | 現党首のミスター・クラッケンソープは信託の元金には手を付けられないんですか? | |
ウィンボーン | はい。それだけでなく、この家や土地を処分することも出来ません。 | |
クラドック | ずいぶん変わってますな。先代に嫌われていたんですか? | |
ウィンボーン | …お察しの通りです。納屋をご覧になったでしょう。若い頃から、暇さえあれば美術品を収集していたそうですから。 | |
N | 一方、メイベルは厨房で料理の下拵えをしていた。そのメイベルに、声が掛かる。 | |
090 | ブライアン | お手伝いしましょうか? |
メイベル | え? | |
ブライアン | 家事なら得意ですよ。 | |
メイベル | ブライアンさん。お料理なんてなさるんですか? | |
ブライアン | ええ。ベーコンエッグとか、ステーキの網焼きとか、そうそう、スープの缶を開けるのも得意だ。 | |
メイベル | 戦闘機のパイロットでいらしたんですよね。 | |
ブライアン | 近頃は飛行機乗りが好きだという女性が大変多いようだ。勲章を受けた軍人とか、冒険旅行の英雄とかね。 しかし、そう言うものが道を誤らせる。勲章をもらったからって、戦争が終われば誰もちやほやはしてくれない。 僕なりのアイディアがあって事業を興そうとしているんだが、出資者が集まらなくってね。 せめて、少しでも資本金があれば…。 義父が亡くなれば死んだ女房のイーディスの取り分は、息子のアレックスが相続するだろうが、アレックスも21歳になるまでは遺産に手を付けられないことになっているしね…。 |
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N | 弁護士のウィンボーンが帰ろうと入り口で帽子を被っているところに、階段から下りてきたエマが声を掛ける。 | |
エマ | ウィンボーンさん、お夕食を召し上がらなくて良いんですか? | |
ウィンボーン | ええ。ロンドンで重要な約束があるもので。 ああ、クラドック警部。先ほど伺ったことを彼女に話して良いですか? |
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100 | クラドック | ええ、どうぞ。 |
ウィンボーン | エマさん。警察の考えでは、殺された女性はおそらく外国人だと言うことです。 | |
エマ | 外国人…。…っ!フランス人ですか!? | |
N | エマのその言葉に、そこにいた誰もがはっとなる。その驚いた声に、エマは思わず言ってはいけなかったかと、目を伏せたのだった。 数時間後、また別室にてクラドックがクラッケンソープ家の一人一人に話を聞いていた。 |
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クラドック | 昨晩遅く、スペイン領のバレアレス諸島から戻られたんですよね。現在はあちらにお住まいですか。 | |
セドリック | ええ。マジョルカの暑い日差しが性に合うんでね。 | |
クラドック | つい最近も一度帰国されたようですが。 | |
セドリック | ああ、一週間ほど前にね。手紙で、エマが親父の我が儘に悩んでいるようでしたから。 | |
クラドック | なるほど。妹思いな方だ。で、直ぐにまたマジョルカに戻った? | |
セドリック | 画家と言ってもそう暇でもないんでね。 | |
110 | クラドック | セドリックさん、あなたは被害者の女性のことを実は知ってらっしゃるのでは。 |
セドリック | よして下さいよ。すでに話した通り、全く見覚えはありません。 | |
クラドック | 見覚えがなかったとしても、誰だか見当を付けることは出来るのでは。例えば、かつてこの家と関係があった女性で…。 | |
セドリック | 警部さん、僕は正直、こう思ってます。納屋を逢い引きにでも使ってた男が、別れ話のもつれから女を殺した。 ま、そんなところですよ。 |
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クラドック | ハロルドさん。この事件に関してどうお考えですか。 | |
ハロルド | きわめて不愉快、そして我がクラッケンソープ家にとっては、非常に不運な出来事だ。 | |
クラドック | では、やはり被害者の女性は全く無関係の人物だと。 | |
ハロルド | 当然だ!それより、新聞記者が早速インタビューを求めてきた。私の会社にまでやってきて、仕事にならん!誰がその責任をとってくれるんだ! | |
クラドック | アルフレッドさんは、保健関係の仕事をなさっているんでしたね。 | |
アルフレッド | ええ。ちょっと前までは、新型の蓄音機を市場に出す仕事をしていました。 いやあ、大分儲かりましたよ。 |
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120 | クラドック | アルフレッドさんは、被害者の女性について、どう思います? |
アルフレッド | さあ。見当も付きませんね。家で働いていたメイドに外国人はいたけど、エマが知らないと言うなら、別の人物だ。 それより、被害者の女が外国から来たと思われる根拠は、何ですか? …口外出来ないってわけですか。 ま、犯人は、この家のことに通じていたんでしょう。私なら、そっちの方を探しますけどね。 |
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クラドック | ブライアンさんは、ご病気で亡くなった、長女のイーディスさんのご主人でしたね。 | |
ブライアン | ええ。 | |
クラドック | 何か、捜査の助けになりそうなことをご存じではないですか。 | |
ブライアン | あれば話しますが…。 そう言えば、被害者の女性は外国人だって噂が飛んでいますが、本当なんですか? |
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クラドック | それで何かぴんと来ますか? | |
ブライアン | いいえ。 | |
クラドック | 女はフランス人かも知れません。 | |
ブライアン | ほう。花の都、パリか。 | |
130 | クラドック | 家族の中で、フランス人の女性と何かしら繋がりがある人をご存じですか? |
ブライアン | そう言うことは判りませんね。ま、セドリックにスペイン人のセニョリータが何人かいる程度でしょう。 | |
クラドック | 最後に一つだけ。ブライアンさんの、現在のご職業は? | |
ブライアン | これから事業を興すため、準備をしています。 | |
クラドック | つまり、失業中というわけですな。 | |
ブライアン | …っ!…ええ…まあ。 | |
クラドック | 全く、被害者の身元が確認出来ず、困っています。エマさん、ほんとに何かご存じではありませんか。 | |
エマ | 何か、持ち物はありませんでしたの?ハンドバックとか、書類とか。 | |
クラドック | 所持品はありませんでした。あなたご自身は見覚えはないとしても、心当たりのある人物はいませんか? | |
エマ | …まるで、見当も付きません。 | |
140 | クラドック | 先ほど、弁護士のウィンボーンさんが、女性は外国人だと言ったとき、どうしてあなたは、フランス人だと? |
エマ | えっ!?…ああ、どうしてかしら。ただ…普通外国人と聞くと、フランスの人だと思ってしまいますでしょ。 | |
クラドック | そうでもないでしょう。特にこのごろは色々な国籍の人がいますよ。 | |
エマ | …っ…。 | |
クラドック | それでは、これに見覚えはありませんか? | |
N | クラドックが差し出したのは、メイベルが見付けたコンパクトだった。 | |
エマ | いいえ。ありません。 | |
ルーサー | 困ったものですな!一番最初に家の主に話を聞くだけの礼儀がないとは! | |
クラドック | 失礼しました。お体の具合を気にして、遠慮した次第です。 | |
ルーサー | ふんっ。まあ良い。で、何が知りたい。 | |
150 | クラドック | もう一度伺いますが、あの女性に見覚えはありませんか。 |
ルーサー | 外国人らしいな。わしの息子の誰かと関わり合っておるなら、アルフレッドだ。ハロルドやセドリックではない。あいつらは慎重な奴らだ。 アルフレッドは昔からうそつきだった。いや、家の息子達は皆うそつきだ。わしが死ぬのを待っておる。 …エドモンドさえ、生きておれば…。 |
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N | 後日。マープルが身を寄せている家に、クラドックが訪ねてきていた。 | |
マープル | 嬉しいわ。あなたがこの事件の担当になったなんて。 | |
クラドック | マープルさんのことを話したら、私の名付け親も、とても喜んでいました。 | |
マープル | 元、警視総監の、サー・ヘンリーね。 | |
メイベル | おばさま、そんな方ともお知り合いなんですか? | |
クラドック | 知り合いどころか。彼がマープルさんのことをどう表現したか、知ってるかい? | |
メイベル | さあ? | |
クラドック | 『神がお造りになった、もっとも優秀な探偵』 | |
160 | マープル | ずいぶんと大げさね。私はほんのちょっと、人間の本性を知っているだけなのに。 |
クラドック | 人間の本性ですか…。 | |
マープル | さて。先ほどまでに伺ったこと以外で、何か判りました? | |
クラドック | はい。被害者の女性は35歳前後。死亡推定時刻は、11月20日の午後3時から9時の間です。 | |
メイベル | エルスペスさんが目撃したのは、午後5時50分頃だから、死亡推定時刻とも合いますね。 | |
クラドック | 南フランスへ旅行中のエルスペスさんに写真を送って確認したところ、目撃した女性に、間違いないとのことです。 しかし、発見されたコンパクトは、ロンドンで大量に売られていたもので、どこの店の売り子も、この女性に見覚えはありませんでした。 衣類はすべてフランス製で、ほとんどパリで購入したものです。 パリ警察にも被害者の特定を頼んでいますが、今の所は…。 |
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マープル | 被害者の年齢と風体に一致する女性の、失踪届けは出ていない…という事ね。 | |
クラドック | ええ。 | |
N | 次の日、クラッケンソープ邸の庭でハーブを摘んでいたメイベルに、壊れ掛けた小屋の方から、エマの声が届いた。 | |
エマ | 私、すごく心配なの。兄さんは心配じゃないの!?警察では、死んだ女の人はフランス人だと言ってるのよ。 まさか、マルティーヌじゃ…。 |
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170 | セドリック | マルティーヌ…。 |
エマ | 警察に話すべきだと思わない? | |
セドリック | なにを? | |
エマ | 手紙の事よ! | |
セドリック | 止めとけ!面倒なことになるだけだ!だいたい、あの手紙。僕は信じちゃいない。それはハロルドも同意見だ。 | |
エマ | だけど…。 | |
セドリック | 黙ってろ!わざわざ厄介ごとを招くな! これが僕のモットーだ。 |
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エマ | 兄さん…。 | |
クインパー | やあ。こんな所にいたんですか。 | |
N | セドリックが立ち去った後、立ちつくすエマの元にクインパーが現れる。 | |
180 | エマ | クインパーさん…。 |
クインパー | 何か、あったんですか? | |
エマ | ……。不安なんです。 | |
クインパー | 良かったら、話して下さい。 | |
エマ | 覚えてらっしゃいますか?この間お話しした、エドモンド兄さんの結婚に纏わる一連の出来事。 | |
クインパー | 覚えていますよ。 | |
ジェイムズ | 盗み聞きは良くないよ。 | |
N | 影からこっそりと盗み聞きをしているメイベルの背後に、アレックスとジェイムズがそっと声を掛ける。 驚いたメイベルだったが、そのまま3人はクインパーとエマの話を立ち聞きする格好に入った。 |
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クインパー | エドモンドは、フランス人の女性と結婚すると、戦場から手紙を寄越した。ところが、その直後、彼は戦死し、その女性の消息もわからなくなった。 しかし、一月ほど前にその結婚相手だったと名乗る女性から、手紙が届いたんでしたね。 「会いたい」と。 |
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エマ | このことを、警察に言うべきか、迷っているんです。セドリック兄さんはそんな必要はないと言うんですが…。 | |
190 | クインパー | なるほど…私は話した方がいいと思います。 |
エマ | なぜですか? | |
クインパー | あなたがずっと心配し続けることになるからですよ。あなたの性格は、私が一番良く知っています。 | |
エマ | クインパーさん。 | |
アレックス | パパが言ってた。一月ほど前に、エマおばさん宛にフランス人の女性から変な手紙が届いたって。 名前は…。 |
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メイベル | マルティーヌって言ってたけど。 | |
ジェイムズ | マルティーヌ!? | |
メイベル | えっ? | |
ジェイムズ | あ……。 | |
N | ジェイムズの態度に不信感を抱いたメイベル。だが、その場はそのままになってしまった。 夕刻、警察署ではエマが手紙のことをクラドックに話をしていた。 |
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200 | クラドック | ドクター・クインパーの判断は賢明でしたね。この手紙の一件があったから、あのとき、フランス人…と。 |
エマ | はい…。 | |
クラドック | 『親愛なる、マドモアゼル。 私は息子のためにこの手紙を書いております。彼は、エドモンド・クラッケンソープの息子です。 マルティーヌ・クラッケンソープ』 この手紙について、ご家族の方は? |
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エマ | みんな、手紙の内容を信じていません。 | |
クラドック | ミスター・クラッケンソープも? | |
エマ | ひどく怒っていました。お金を騙し取ろうという企みだと。 でも私は、もし本当なら、喜んで迎えてあげなければと思い、返事を出しました。 ところが、間際になって彼女から「会えない」と電報が来たんです。 それ以来、連絡はありません。 |
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クラドック | 弁護士の、ウィンボーンさんには? | |
エマ | ここに来る前に、初めて話しました。そして、遺書に書かれていた、ある重大な問題が…。 | |
クラドック | ん? | |
エマ | もし、エドモンド兄さんが結婚し、息子がいたとすれば、その子は、遺産相続人の一人と言うだけでなく、ラザフォード・ホールの屋敷と土地すべてを、一人で相続する権利があると、書かれているのです。 | |
210 | クラドック | なるほど。これまでエドモンドさんに子供がいるなどとは思いも寄らなかったから、屋敷と土地は、次男のセドリックさんが相続すると思っていたんですね。 早速、この手紙にある住所を調べさせましょう。 |
ハロルド | 何だって!?エマ、何故そんな余計なことを! あの死んだ女が、エドモンド兄さんの結婚相手だったかも知れないと、警察に教えるなんて! |
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セドリック | 僕は止めろと言ったんだ。そしたら、ドクター・クインパーが… | |
ハロルド | あんな野郎の出る幕じゃない!あいつは、うるさい親父の相手でもしてりゃ良いんだ! | |
エマ | もう止めて! | |
N | 険悪な雰囲気の中、メイベルがマープルが訪ねてきたことを伝えに来た。 | |
エマ | あ、すっかり忘れてたわ! メイベルの大伯母様をお茶にお招きしていたんだっけ。 |
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アレックス | あれ。あのおばさん誰だろう。 | |
N | クラッケンソープの玄関前。 アレックスとジェイムズはサッカーをしていたところで、玄関先に佇む一人の女性を見つけた。 マープルは一人、その大きな屋敷を見上げていた。 |
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次回予告 | ||
220 | メイベル | ラザフォード・ホールに渦巻く様々な謎。 クラッケンソープ家の人々への疑惑は、深まるばかり。 次回。 |
『名探偵ポワロとマープル』アニメキャスト
ミス・マープル:八千草薫/メイベル:折笠富美子/エマ:篠原恵美/セドリック;大塚明夫/クラドック:浜田賢二