名探偵ポワロとマープル
『パディントン発4時50分〜その3,シンプルな動機〜』
原作:アガサ・クリスティー 台本:里沙
(3:3:0)
ミス・マープル | ♀ | ロンドン近郊のセント・メアリー・ミード村に住む老婦人。ミス・マープルと呼ばれている。 上品だが、おしゃべりが大好き。ゴシップも含め、村のことなら何でも知っている。その鋭い観察眼で、難事件も鮮やかに解決。 質素な生活を営み、編物とガーデニングが趣味。 |
26 |
メイベル | ♀ | マープルの甥レイモンド・ウエストの娘。 好奇心にあふれ行動力もあわせ持ち、時には失敗もするが、いつも元気な16歳。 当代一の女探偵をめざし、ポワロ探偵事務所のドアをたたいた。 オリバーと一緒に、あるときはポワロの新米助手として、またあるときは尊敬する大伯母を手助けしながら、探偵としての腕を磨いていく。 |
43 |
クラドック | ♂ | スコットランドヤードの刑事。今回の殺人事件の担当者。 | 23 |
クインパー | ♂ | クラッケンソープ家の主治医。 | 15 |
ハロルド | ♂ | ラザフォード・ホールのクラッケンソープ家の三男。金融会社運営。 | 4 |
セドリック | ♂ | ラザフォード・ホールのクラッケンソープ家の次男。画家。 | 6 |
ルーサー | ♂ | ラザフォード・ホールのクラッケンソープ家の当主。気むずかしい老人。 | 5 |
エマ | ♀ | ラザフォード・ホールのクラッケンソープ家の次女。 | 14 |
ブライアン | ♂ | 亡くなった長女の夫。元空軍のパイロット。 アレックスの父親。 | 5 |
マルティーヌ | ♀ | ジェイムズの母親。黒髪の美しい夫人。 | 12 |
アレックス | ♀ | エマの甥。 | 10 |
ジェイムズ | ♂ | アレックスの友人。 | 9 |
N | ナレーター | 16 |
注意:台詞配分の都合でアニメとは違ったキャラの台詞になっていたりします。ご了承下さい。
001 | メイベル(M) | マープルおばさまの友達のエルスペスさんが、併走する列車の中での殺人を目撃しました。 マープルおばさまは、ラザフォード・ホールという場所に死体が隠されていると推理し、メイドとして潜り込んだ私は、死体を発見しました。 そして、クラッケンソープ家の人々の、遺産を巡る様々な思惑が明らかになる中、戦死した長男、エドモンドさんの結婚相手を名乗るマルティーヌという女性から、手紙が届いていたことが判ったのです。 |
N | クラッケンソープ家を訪ねてきたマープルは、屋敷の一室でエマ達から表面上は歓迎の意を受けていた。 | |
マープル | お茶のお誘い、本当に感謝いたしますわ。 | |
エマ | こちらこそ、お越し頂いてとても嬉しく思っております。 | |
メイベル | おばさま、どうぞ。(紅茶を差し出し) | |
マープル | まあ、ありがとう。 それにしても、ここはなんてすてきなお屋敷です事。でも、何よりすばらしいことは、こうして家族が一緒にいらっしゃる事ですわね。 |
|
エマ | ありがとうございます。でも、ハロルドとアルフレッドは、普段、ロンドンに住んでいるんですよ。 | |
マープル | あら、そうなんですか? | |
エマ | セドリックは画家で、スペインのマジョルカに住んでいます。 | |
010 | マープル | 確か、ショパンもマジョルカでしたね。…あら、彼は音楽家だわ。 そうそう、ゴーギャンです。でも私は、島の女達の絵が、どうしても好きになれませんのよ。 |
セドリック | なるほど。大変芸術にお詳しい。それに、お年に似合わずお元気だ。メイベルも、マープルさんに似たのかな。 | |
ハロルド | (嫌みっぽく)確かに、色々なことに興味を持っていらっしゃるようだし。 | |
メイベル | …っ…。 | |
マープル | メイベルは、昔から頭が良くて、算数なんて、吃驚(びっくり)するほど出来たんですよ。 私が牛肉を買って、お肉屋さんの請求額が多すぎたときも、この子が直ぐに、暗算で正確な金額を弾き出しましてね。メイベル、覚えてる? |
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メイベル | あ、はい。 | |
N | そこに、クラッケンソープ家の主治医をしている、クインパーが現れた。エマが直ぐに立ち上がり、迎える。 | |
エマ | クインパーさん、いつもありがとうございます。 | |
クインパー | メイベル、クラッケンソープ氏がお茶は書斎に運んでくれということだよ。 | |
メイベル | 判りました。直ぐに。 | |
020 | セドリック | 我々が来るとお茶は必ず書斎だ。こういうのは、心理学的に見て、どういう事ですかねぇ、ドクター。 |
クインパー | 私は心理学者ではありませんので…。まあ、このごろはみんなが素人心理学者を気取って、困りものですがねぇ。 | |
マープル | 私は、父のことを思い出しますわ。父はね、母が友達を連れてくると、必ずこういうんです。 『ばあさんが大勢来るんだって?お茶は書斎に運んでくれ』 ほんとに我が儘でしたわ。 |
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クインパー | では私は、お父上を診察してきます。 | |
エマ | ご一緒します。 | |
マープル | エマさんは、お父様にとてもお尽くしになっているようですね。 | |
セドリック | あの親父に対して、よく我慢している。 | |
ハロルド | 父は、妹を可愛がっていますから。そのせいで、未だに結婚出来ないんですよ。 | |
マープル | エマさんは、遅く結婚なさるタイプなんですよ。そして、幸せになられる。 | |
セドリック | ここに住んでちゃ、難しいな。結婚相手になりそうな男との出会いもない。 | |
030 | マープル | いいえ。牧師さんだっていらっしゃいますよ。それに、お医者さんだって。 |
セドリック | ははは。そこまでは考えが及びませんでしたね。 | |
ハロルド | くだらない。クインパーは、エマが学校に行っている頃から父の主治医を勤めているんだ。 しかもすでに結婚している。 |
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マープル | それにしても、お招き頂いて、本当に嬉しいわ。どんなお宅かと、心に描いておりましたのよ。 メイベルが働いている姿を思い浮かべながら。 |
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セドリック | 申し分ない家族ですよ。殺人事件までくっついていますからねぇ。 | |
ハロルド | 兄さん! | |
N | とても和やか…とは言えない雰囲気の中、お茶会は進み、やがて時間が来て、マープルはクラッケンソープ家を後にしようとしていた。 | |
メイベル | どうでした? | |
マープル | 色々なことが判ったわ。ミスター・クラッケンソープに会えなかったのは残念だったけど。 | |
メイベル | おばさまは、殺人を犯した人に出会ったら、判るんですか? | |
マープル | つい、検討付けたくなるけど、当て推量はいけないわ。 メイベル。大切なのは関係者、もしくは、関係があったかも知れない人たちを、良く観察する事よ。 |
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040 | メイベル | はい。 |
マープル | あまり無理しちゃだめよ。それじゃ。 | |
N | マープルを乗せた車が走り去る。その光景を眺めていたメイベルの背後から、突然声が掛かった。 | |
ジェイムズ | やっぱりただのメイドじゃなかったね。 | |
メイベル | っ!あ…。あの…。 | |
ジェイムズ | 安心しなよ。誰にも言わないから。 | |
N | 意味ありげに微笑みながら、屋敷の中へと戻っていくジェイムズ。 その夜。医師クインパーの元にクラドック警部が訪ねていた。 |
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クラドック | クインパーさん。あなたにお礼を申し上げたい。エマさんに例の手紙の件を話すように、助言してくださったそうですね。 | |
クインパー | 何かの手がかりになればいいと思ったんです。エマさん自身も、話した方がいいと考えていたようですしね。 | |
クラドック | あなたは、手紙の女性がマルティーヌ本人だと思われましたか? | |
050 | クインパー | どうでしょうね。事実関係を知っているものが、遺産を騙し取ろうとした可能性もありますから。 ま、私には関係のない話です。 |
クラドック | 一つ、伺いたいことがあります。 | |
クインパー | 何でしょう。 | |
クラドック | 2ヶ月ほど前、ミスター・クラッケンソープがヒ素を盛られて殺され掛けたことがあったと聞いたんですが。 | |
クインパー | ああ。彼の誕生日の件ですね。 | |
クラドック | 何があったんです? | |
クインパー | 久しぶりに会った一族の食事中、ミスター・クラッケンソープだけが胃腸炎を起こしたんですよ。 | |
クラドック | それが、ヒ素によると? | |
クインパー | いえ、違いますよ。 | |
クラドック | ヒ素は検出されなかった? | |
060 | クインパー | 調べていません。元々彼は脂っこいものを食べると、そう言った症状を起こしていたんです。 それに、高齢ですしね。 |
クラドック | そうですか。 | |
クインパー | ま、遺産相続をめぐる疑心暗鬼から、ヒ素を盛られたと、思いこんだんでしょう。 | |
クラドック | これは、仮定の話ですが、誰かが食べ物にヒ素を混入していたとして、ミスター・クラッケンソープが死なずにすんだのは、何故だと思いますか? | |
クインパー | その人物が、無知だったんですよ。 もし、自然死に見せかけるなら、少量のヒ素を定期的に投与し続けなければならないんです。それなのに、ヒ素の量が多すぎる。逆に、一度で殺すには足りない。 どちらにしても、薬物について、知識のないものによる犯行でしょう。 |
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クラドック | なるほど。 | |
N | 翌日。クラッケンソープ家の庭を掃き掃除しているメイベルの元に、アレックスとジェイムズが駆け寄って来た。 | |
アレックス | メイベル!事件の手がかりを見付けたよ! | |
メイベル | えっ! (一葉の手紙を差し出され)手紙? |
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アレックス | ジェイムズが、ボイラー室のゴミ箱で見付けたんだ。 | |
070 | ジェイムズ | 中身はなかったけど、エマさんが、マルティーヌに出した返事みたいだ。 |
アレックス | 僕たち、事件の手がかりはないかって、あちこち探し回ったんだよ。 | |
ジェイムズ | 手紙がここにあったと言うことは、マルティーヌって言う人がここに来たって言うことなのかな。 | |
アレックス | やっぱり殺されたのは、マルティーヌ! | |
メイベル | それは判らないですけど… | |
アレックス | どちらにしても、犯人はこの家に詳しい人だね!うん! | |
メイベル | とにかく、クラドック警部に報告しましょう。 | |
N |
手紙の件は、直ぐにクラドックからマープルへと伝えられた。 | |
マープル | それで、手紙の確認は? | |
クラドック | エマさんは、自分の出した手紙に間違いないと言っていました。 | |
080 | メイベル | 宛先の、ロンドンの住所はどうだったんですか? |
クラドック | 学生などが下宿する、アパートでした。郵便受けは利用する人が多く、外部の人間が使っても判らない状況で…。 念のためアパートの住人も調べましたが、それらしき人物はいませんでした。 |
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マープル | その少年達は大活躍でしたけど、ちょっと心配ね。そうやって、方々突き回すのは。 | |
クラドック | やはり、犯人はクラッケンソープ家と繋がりがあると思われますか? | |
マープル | そう思いますね。 | |
クラドック | 実は、動機という面で、興味深いことが判りました。 遊び人のセドリック、失業中のブライアンはもちろん、ハロルドも経営難で金に困っていることが判りました。 アルフレッドに至っては、詐欺まがいの商法で取り調べを受けた過去も判明しました。 |
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マープル | 4人のアリバイは? | |
クラドック | エルスペスさんが事件を目撃した11月20日の犯行を推定時刻の前後を細かく問いただしたところ、セドリックは20日の深夜に屋敷を訪れていますが、それまではロンドンのホテルで寝ていたと言っています。 競馬場にいたというハロルド、自宅にいたというアルフレッド、釣りに行っていたというブライアン。 しかし、それらを証明出来る人はいません。 |
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メイベル | 4人ともお金に困っていてアリバイが無い…。 | |
クラドック | うん。おかげですごく難しい。 | |
090 | マープル | いいえ。思ったよりずっと単純かも知れませんよ。 |
クラドック | 単純?そうでしょうか?遺産相続が動機なら、殺す相手を間違えている気がするんです。 | |
メイベル | 確かに、マルティーヌさんが死んでも、誰も得しませんよね。相続権があるのはその息子さんの方だし。 | |
クラドック | ああ。犯人が遺産を相続したいなら、まずミスター・クラッケンソープを狙うだろうね。 | |
マープル | もっと…別の動機があるのかも知れませんね。 | |
メイベル | え? | |
マープル | とってもシンプルな動機が。 | |
N | その夜。クラッケンソープ家。旅行の荷物をまとめているアレックス達を、メイベルも手伝っていた。 | |
アレックス | 今回の休みは、ほんと面白かったな。 | |
メイベル | この後はどうされるんですか? | |
100 | アレックス | 僕はジェイムズの家で過ごすんだ。すごいんだぜ、ジェイムズの家って。お城みたいなんだ。車だって高級車だし。 |
ジェイムズ | 別にすごくないさ。 | |
アレックス | 機嫌が悪いんだよ。ほんとはもっとここにいて、事件がどうなるか見ていたいんだってさ。 でも、ジェイムズのパパが、こんな殺人鬼がいるかも知れない家に置いておけないって。 |
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ジェイムズ | パパはそんなことは言ってない!ちょっと、心配してるだけだ。 | |
メイベル | そうですね。父親って何かしようとすると、直ぐに文句を付けますから。 | |
アレックス | メイベルも一緒にジェイムズの家に行こうよ。 | |
メイベル | ええっ? | |
ジェイムズ | アレックス!何言ってんだよ! | |
メイベル | あ…あの…。 | |
アレックス | 冗談だよ。あはは(笑) | |
110 | メイベル | もう。変なこと言わないでください。 |
N | 照れたように顔をふくらませるメイベル。そんなメイベルを、二人は笑顔で見詰めていた。 翌日、アレックスとジェイムズは車でクラッケンソープ家を後にした。 |
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メイベル | その日の献立は、ミスター・クラッケンソープの希望で、シチューになりました。 セドリックさん達が明日、それぞれの家に帰るので、一族が揃う最後の夕食になる予定でした。 でも、その夜…事件は起きたのです。 |
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N | クインパー診療所。けたたましく鳴るベル。その電話は、クラッケンソープ家に大至急来て欲しいという、メイベルからの電話であった。 | |
クラドック | クインパーさん、みなさんの容態は? | |
クインパー | ひとまずは、大丈夫でしょう。 | |
クラドック | 原因は何だったんですか。 | |
クインパー | ヒ素です。 | |
クラドック | !? | |
クインパー | 2ヶ月前のこともありましたからね。真っ先に全員が食べたシチューを調べたところ、ヒ素が検出されました。 措置はしておきましたから、問題ないでしょう。 |
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120 | クラドック | シチューを作ったのは誰だい? |
メイベル | 私と、キダーさんです。 | |
クラドック | この家の人たちの中で、シチューにヒ素を入れることが出来たのは、誰だと考えられる? | |
メイベル | 私もキダーさんも、キッチンと食卓を行き来していましたから、その間なら誰でも…。 | |
N | クラドックがキダーに話を聞きに行かせようと声を掛けたその時、メイドがアルフレッドの容態が急変したと呼びに来たのだった。 | |
マープル | 4男のアルフレッドさんが死んだ? | |
メイベル | はい…。昨晩容態が急変して、そのまま…。 | |
マープル | あなたはそのシチューを食べなかったのね? | |
メイベル | はい。その前にみんなが苦しみだしたもので。 | |
マープル | 一人で大丈夫?そろそろ屋敷を出ても良いのよ? | |
130 | メイベル | 大丈夫です。それより私、これからどうすれば。 |
マープル | 今は待つ事よ。 | |
メイベル | 何を待てば? | |
マープル | まもなく、エルスペスが旅先から帰国するわ。直ぐに帰ってらっしゃいと連絡したのよ。 | |
メイベル | おばさま。誰かがまた…。 | |
マープル | そんなことにならないように祈るだけです。でも、その場所には大変な悪意が満ちています。十分に気を付けるのよ。 | |
N | クラッケンソープ家に戻ったメイベル。仕事をしている時、ちょうど二階から降りてきたブライアンと出会った。 | |
ブライアン | やあ。みんなの具合はどうだね。 | |
メイベル | みなさん、ずいぶんと良くなりました。ブライアンさんの方こそ、出歩いたりして大丈夫なんですか? | |
ブライアン | はは、僕は体が丈夫なだけが取り柄さ。何か手伝うことは無いかい?人手が足りなくて大変だろう。 | |
140 | メイベル | いえ、大丈夫です。 |
ブライアン | そうか。 しかし、勿体ないね。 |
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メイベル | は? | |
ブライアン | しらないのかい?この屋敷はセドリックのものになるかも知れないんだ。 マルティーヌとエドモンドの間に子供がいたという話が嘘なら、この屋敷と土地は次男のセドリック一人が相続する。 あいつのことだから、さっさと売り払って外国に行っちまうんだろうなー。 勿体ないよ。この家が人手に渡るのは。 |
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ルーサー | おい!誰かいないのか!?水を持ってきてくれ。 | |
メイベル | はい。今参ります! | |
ブライアン | ふん。あの元気じゃ100歳まで生きそうだ。 | |
ルーサー | エドモンド…。 | |
メイベル | 失礼します。水をお持ちしました。どうぞ。 | |
ルーサー | エマはどうしている。何故ここへ来ない。 | |
150 | メイベル | まだ大事をとってもらっているんです。 |
ルーサー | アルフレッドが死んだというのは、本当か。 | |
メイベル | それは…。 | |
ルーサー | 隠したところで耳に入ってくる。 遺産を狙ってわしの死を待っておったようだが、あいつの方が先に死んでしまうとはな。 |
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メイベル(M) | 翌朝、ハロルドさんは仕事があると言って、具合の悪い体を押してロンドンに帰っていきました。 | |
N | ロンドンへと帰っていく車と入れ違いに、屋敷へと一台の車が到着した。 その車から降り立ったのは、黒髪の美しい女性であった。 |
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マルティーヌ | エマ・クラッケンソープさんにお目にかかれますでしょうか。 | |
メイベル | 申し訳ありませんが、エマさんはご病気で…。 | |
マルティーヌ | 存じております。でも、とても大事な用件なんです。 | |
メイベル | ですが…。 …!ジェイムズさん。 |
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160 | マルティーヌ | 昨日、家の息子から重大な事実を聞きまして、どうしてもお目に掛からなければならないのです。 |
メイベル | 判りました。 | |
N | 訪ねてきた女性を、エマの寝室へと通す。伏せったままのエマではあったが、身を起こしその女性と対峙するのであった。 | |
マルティーヌ | 突然こんな事を伺うのは、大変失礼だとは思うのですが…。 | |
エマ | 何なりと仰ってください。 | |
マルティーヌ | ここで見つかった被害者の身元についてですが。あなたの一番上のお兄さま、エドモンドさんが結婚する予定だったフランス人かも知れないと聞きました。 それは事実なのでしょうか。 |
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エマ | はい。マルティーヌという女性です。 | |
マルティーヌ | 何故そうお考えに? | |
エマ | その人から、手紙を受け取ったんです。私に会いたいと。連絡はそれきりだったのですが、私が彼女に出した手紙が、ここで見つかりました。 どうやら彼女は、ここまで来ていたようなのです。 |
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マルティーヌ | その話を息子から聞いたとき、どうしても真相を確かめなければと思いました。 | |
170 | エマ | え? |
マルティーヌ | 実は…。 私がそのマルティーヌですの! |
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エマ | …っ!? | |
マルティーヌ | 驚かれたでしょうが、本当なのです。 私は戦争が始まったばかりの頃、お兄さまのエドモンドと出会い、恋に落ちました、 |
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エマ | ………。 | |
マルティーヌ | この家で起きていることは、新聞を通じて知ってはいました。 ですが、手紙の件を聞いたとき、すべてを話すときが来たのだと思ったのです。 |
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エマ | では、あの手紙は。 | |
マルティーヌ | もちろん、私が書いたものではありません。 | |
エマ | やはり誰かが、お金を騙し取ろうと!? | |
マルティーヌ | おそらく…。 でも誰なんでしょう。私は主人にしかエドモンドのことを話していませんし、主人がそんな手紙を書くなんて考えられません。 |
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180 | エマ | …ああ…。ジェイムズが、エドモンド兄さんの子供だなんて…。 |
N |
そのころ、庭でジェイムズとメイベルが、同じような話をしていた。 | |
メイベル | このことを、アレックスさんは? | |
ジェイムズ | まだ知らない。うちに帰ってから話すつもりだ。 | |
メイベル | 驚くでしょうね。二人が従兄弟同士だと知ったら。 | |
ジェイムズ | 最初は、遊び半分の探偵ごっこだったんだ。ママと同じ名前が出たときも、偶然だと思ってた。 クラッケンソープ家の人たちが、実はおじいさんやおばさん達だったなんて。 |
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N | その夜。 事件は新たな展開を見せた。 ロンドンのハロルドの家で、薬を飲んだハロルドが急激に苦しみだし、倒れたのであった。 |
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次回予告 | ||
187 | メイベル | 3人の犠牲者。行き詰まった捜査。 そして、マープルおばさまの秘策とは? 次回。 |
『名探偵ポワロとマープル』アニメキャスト
ミス・マープル:八千草薫/マルティーヌ:杜けあき/メイベル:折笠富美子/エマ:篠原恵美/アレックス:阪口大助/ブライアン:郷田ほづみ 他