名探偵ポワロとマープル
『ABC殺人事件〜その4.ポワロ、謎を解く』
原作:アガサ・クリスティー 台本化:里沙
(3:1:1)
エルキュール・ポワロ | ♂ | アガサ・クリスティーが生んだ名探偵。 ベルギー警察を退職後、ロンドンで私立探偵事務所を開いた。トレード・マークは、ポマードで固めた八の字型の口ひげ。 恰幅(かっぷく)のよい体型に似合わず、身のこなしは軽い。ユーモアがあり話もうまい、古きよき時代の紳士。 |
43 |
ヘイスティングス | ♂ | ポワロ探偵事務所の探偵助手。 原作ではポワロの古くからの友人だが、アニメでは20代の若者に設定。 体術が得意で、本人はポワロ以上に有名になるチャンスを狙っている。メイベルとコンビを組み、ポワロの手助けをしながら難事件を解決していく。 |
11 |
メイベル | ♀ | マープルの甥レイモンド・ウエストの娘。 好奇心にあふれ行動力もあわせ持ち、時には失敗もするが、いつも元気な16歳。当代一の女探偵をめざし、ポワロ探偵事務所のドアをたたいた。 オリバーと一緒に、あるときはポワロの新米助手として、またあるときは尊敬する大伯母を手助けしながら、探偵としての腕を磨いていく。 |
18 |
フランクリン | ♂ | Cの街の被害者、カーマイケル・クラーク卿の弟。兄の右腕として世界中を飛び回って骨董品を買い集めている。 | 12 |
シャープ警部 | ♂ | スコットランド・ヤードの警部。ポワロの昔からの知人。(フランクリンと被り推奨) | 19 |
刑事 | ♂ | チャーストンの事件担当者。(ヘイスティングスと被り推奨) | 11 |
カスト | ♂ | ストッキングのセールスマン。真犯人の策略によって、一連の事件の犯人であるという濡れ衣を着せられる。(ヘイスティングスと被り推奨) | 6 |
ミーガン | ♀ | Bの街の被害者、ベティ・バーナードの姉。(メイベルと被り推奨) | 5 |
N | 不問 | ナレーター | 18 |
001 | メイベル(M) | ポワロさんに、不気味な挑戦状が届きました。 Aの街、Bの街、Cの街で殺人事件が起こり、側にはABC時刻表が。 そして、第4の手紙。『9月11日、Dで始まるドンカスターにご注目あれ』 そんな中、それぞれの現場を訪れていた、ストッキングのセールスマンが浮かび上がって来たのです。 |
N | ドンカスター競馬場。恒例の大レースが行われるとあって、会場や周辺は大勢の人であふれ返っている。 その会場に、ポワロ達3人と、被害者の関係者達が集まってきていた。 |
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ヘイスティングス | この中から一人を見つけないといけないのですね。 メイベル、僕たちはあっちに行こう。 |
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メイベル | ええ。 | |
N | ベティの恋人ドナルドはミーガンと反対側へ。フランクリンやミス・グレイもまた、別々にそれぞれ会場を見回り始めた。 | |
メイベル(M) | 小柄で、眼鏡を掛けて、猫背の人…。 | |
N | だが、そんな彼らを嘲笑うかのように、事件は意外なところで起きたのだ。 ドンカスター映画館。 映画が終わって帰路に着く人々の中、一人の男性が角の座席で殺されていたのだった。 側にはABC時刻表が…。 一方、ドンカスターホテルの一室で、血染めのナイフを握った一人の男が、メイドによって発見されていた。 |
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刑事 | 映画館で殺されたのはジョージ・アールズ・フィールド。理髪師でした。 | |
ヘイスティングス | ジョージ・アールズ・フィールド!?Dから始まる名前じゃない! | |
010 | 刑事 | はい。それから、ABC時刻表が椅子の下より見つかりました。 何人かの話によると、映画の終わる直前に被害者の側を通って、一人の男が出ていくのを目撃されています。 |
シャープ警部 | 出ていった男の人相は? | |
刑事 | 暗くてよくわからなかったそうです。 それと、映画館にいた人に尋問を行ったところ、殺されたフィールド氏の前に座っていた人の名前がダウンズでした。 |
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ヘイスティングス | Dから始まるダウンズか…。 | |
シャープ警部 | 間違えて後ろに座っていた人を殺してしまったのか。 | |
ポワロ | ABCは途方もなく几帳面なやつなのですが…。 | |
刑事 | 警部。ホテルの主人が、どうしても知らせたいことがあると言ってきてるんですが。 | |
シャープ警部 | なんだ? | |
刑事 | そのホテルの客の一人が、血の付いたナイフを持っていたと。 | |
シャープ警部 | なに!? | |
020 | 刑事 | メイドがシーツを代えようと部屋に入っていったら、ナイフをじっと見つめていたらしいです。 |
シャープ警部 | それで。 | |
刑事 | メイドが悲鳴を上げたら慌てて逃げ出したと。 | |
シャープ警部 | その男の人相は!? | |
刑事 | ええと…。小柄で眼鏡を掛けて、グレーのスーツを着ていた…。 | |
メイベル | っ!? | |
刑事 | その男の荷物が、まだ部屋にあるそうです。 | |
シャープ警部 | ポワロさん! | |
ポワロ | 行ってみましょう。 | |
N | 男の泊まっていたというホテル。 男の荷物を調べると、ストッキングで詰まった鞄が置いてあった。 宿帳には、男の名が記されている。 |
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030 | シャープ警部 | Alexander Bonaparte Cust…。(アレクサンダー・ボナパート・カスト) |
メイベル | あぁっ!ABCだわ! | |
シャープ警部 | 職業、セールスマン。うむ、間違いない!ポワロさんの勘が当たったな! よし、全国に手配書を配ろう! |
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メイベル(M) | すぐさま全国に手配書が配られ、その後の捜査で、男の住んでいるところも判明しました。 たくさんのストッキング、何冊ものABC時刻表、それに、タイプされたリストやタイプライターが発見されました。 |
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刑事 | あっ、シャープ警部! | |
シャープ警部 | んっ!?乾いた血がまだこびり付いているな。すぐに鑑識に回すんだ! | |
刑事 | はっ! | |
N | アパートの主人の言うことでは、カストはドンカスターの事件のあった後、一度帰ってきたらしいが、すぐに出ていったと言うことだった。どこに行ったかは判らないと言う。 | |
シャープ警部 | もう事件は解決したも同然です。 カストの部屋から発見されたナイフに着いていた血液は、被害者と同じものでした。 後は犯人を逮捕するのみ!ポワロさん、感謝しますよ! |
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ポワロ | いえ、まだ重要なことが判っていません。 | |
040 | シャープ警部 | えっ?なんです? |
ポワロ | 動機です。それが判るまで、事件はまだ解決していません。 | |
N | その夜、アンドーバー。 雨の降る中、傘も差さずにふらついている一人のよろよろとした男が、壁に貼られていた手配書に気付き、戦き、アンドーバー警察署に駆け込んだ。 手配書の男、カストであった。 瞬く間にそれは「ABC殺人犯自首する」という見出しで新聞を賑わせ、号外が出回った。 |
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メイベル | ポワロさん、元気がありませんね…。大丈夫かしら。 | |
ヘイスティングス | 納得してないようなんだ。あの犯人に。 | |
シャープ警部 | やあ、ポワロさん、ちょっといいですか? | |
ポワロ | ん? | |
シャープ警部 | 弱りました。カストは殺人も手紙の件も否認しているんです。 誰も殺していない、手紙も出していないと。 |
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ポワロ | 私も、あんな大胆な犯行を重ねたやつが、自首するとは考えられないのですがねぇ。 | |
ヘイスティングス | でも、自分の部屋から凶器のナイフが見つかっているんですよ? | |
050 | シャープ警部 | あれは、気が付いたらポケットに入っていたと主張している。 |
ヘイスティングス | ええっ!? | |
シャープ警部 | その上、ちょっとやっかいな事実が…。 ベティ・バーナードが殺された晩、ホテルでカストとずっとドミノをやっていたと証言する男が現れたんです。 |
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メイベル | えっ!? | |
シャープ警部 | 退役軍人なんですが、頑固な人でねぇ。海外旅行に行く予定があるから、その前に証言させろってうるさいんですよ。 とにかく、その晩はカストと一緒にドミノをしていたと譲りません。 |
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ポワロ | ベティさんが殺された時間は確か…。 | |
シャープ警部 | 夜の11時。その退役軍人の証言によれば10時から夜中の1時まで、ずっと一緒にドミノをやっていたそうです。イーストボーンのホテルで。 そのホテルから現場まで20キロもありますから、犯行時間に現場にいることはあり得ないんです。 |
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ヘイスティングス | どういう事でしょう | |
ポワロ | うーむ…。 | |
メイベル | ………ベティさんだけは殺していないのかしら…。 | |
060 | ポワロ | ん!?メイベル、もう一度言ってくれますか。 |
メイベル | えっ。あの…犯人は、ベティさんだけは殺していないのかな…と…。 | |
N | その言葉に、ポワロは席を立つと窓辺に寄り、外を眺めながら考え込んでしまった。 しばらく時間だけが静かに過ぎる。 突然、ポワロが何かを思いついたように、ひげを弄った。 |
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ポワロ | そうか!メイベル、いいヒントをありがとう。感謝しますよ。 | |
メイベル | …はあ…? | |
N | ベクスヒル。 ジンジャー・キャットカフェに、ポワロ達はいた。 女主人やウェイトレスに、事件の関係者達の写真と、カストの写真を混ぜて、何事か訪ねている。 その次は、チャーストンのクラーク邸。そして、ドンカスターの映画館。 そのどこでも、同じように写真を見せて何事か訪ねているポワロ達の姿が見られた。 ホテルまで戻ってきたポワロ達が、車に乗り込もうとしているとき、街の子供達が歌いながらこちらに歩いてきた。 『そして、キツネを捕まえて その歌に、ポワロは関心を示す。 |
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ポワロ | (歌の部分は適当な節で呟くように) 『そして、キツネを捕まえて。 そして、囲いに閉じこめて、 そして、絶対逃がさぬように… ………絶対逃がさぬように』 |
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メイベル | あの?ポワロさん? | |
ポワロ | さ。後はカストに会うだけです。 | |
N | スコットランド・ヤード。 ポワロは取調室で、憔悴しきったようなカストと面会していた。 |
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070 | ポワロ | 私は探偵のエルキュール・ポワロと申します。少しお話を聞かせてもらいたいのです。 |
カスト | …僕は殺していない…。一人も殺していない…。 本当です…本当なんです! |
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ポワロ | 私宛に手紙は? | |
カスト | 手紙なんて、書いたこともない。あなたがどこに住んでいるのかも知らないのに、手紙なんか、掛けません。 | |
ポワロ | 事件の現場には、事件の起こった日にいましたね。 | |
カスト | だから、会社からリストが送られてきたんです。そのリストに従って、僕は、ストッキングを売り歩いただけなんです! 何度同じ事を言わせるんですか!? |
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ポワロ | あなたの部屋からタイプライターも発見されていますが。 | |
刑事 | リストは、発見されたタイプライターで打たれたものだな。 | |
カスト | だから、そのタイプライターも会社から送られてきたんです。ストッキングと一緒に。 | |
ポワロ | 会社に問い合わせたところ、あなたに送った覚えはないと。カストという名前のセールスマンもいないと。 | |
080 | カスト | 送られてきたんです!本当です! うっ…うう…っ。(苦しそうに頭を抱えて) |
ポワロ | 大丈夫ですか? | |
カスト | ……っ。 僕は……僕は、この前の戦争に行きました。 怖かった。恐ろしかった。何度も死にかけました。戦争が、僕の人生を変えてしまったんです。 周りのすべてが、恐ろしく思えました。 頭痛が襲うようになったのも、そのころからです…。 その紳士は、とても親切な方で、私に同情してくれました。そして、仕事を紹介してくれたんです。 本当です!僕は、何もしていません!…うっ…うう…。(泣) |
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N | カストの話を聞いたポワロは、スコットランド・ヤードを辞し、車で待っていたメイベル達と合流した。 | |
ヘイスティングス | ポワロさん、どうでした? | |
ポワロ | カストは、かわいそうな青年ですね…。 メイベル、みなさんを集めてもらえますか。 |
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メイベル | え? | |
ポワロ | 解けない謎はない。 真実は私に微笑む。 |
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N | ホワイトヘイブンマンションの、ポワロの事務所。 そこに、メイベルやヘイスティングス、シャープ警部だけでなく、今回の事件の関係者が一同に会していた。 アンドーバーでの被害者、アリス・アッシャー夫人の姪メアリー、ベクスヒルでの被害者、ベティ・バーナードの姉ミーガン、ベティの恋人ドナルド。 チャーストンでの被害者、クラーク卿の弟フランクリン、秘書のミス・グレイ。 彼らを前にして、ポワロは徐(おもむろ)に話し出す。 |
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ポワロ | みなさん。今回の一連の事件で、私が発見しなければならなかったのは、犯罪の動機です。 なぜABCなのか、何故私に手紙を書いてきたのか。 |
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090 | フランクリン | 事件は解決したのではありませんか?今更そんなことを言われても…。 |
ミーガン | 犯人は、ストッキングのセールスマンをしていた、カストという男だと…。 | |
ポワロ | カストは犯人ではありません。 | |
全員 | !? | |
ミーガン | 違うんですか!? | |
ポワロ | カストには、ベティさん殺害時に揺るぎないアリバイがあります。 | |
ヘイスティングス | ある退役軍人がその時間にカストとドミノをやっていたと証言しています。 それに、宿帳のカストの筆跡と、一連の手紙の筆跡と一致しませんでした。 |
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ポワロ | この事件は、同一犯の犯罪です。よって、ベクスヒルの犯人ではないカストは、他の3件の犯人でもないのです。 | |
ミーガン | それじゃ、誰がベティを!? | |
ポワロ | まず、この事件の犯人像をはっきりさせましょう。 第一に、リストを作るのが好きなこと。この犯罪は、ABC順に行われましたからね。カストに送られてきたリストからも判ります。 第二に、ABC時刻表を使っていることから、犯人は鉄道マニアであると思われます。まるで、少年のように。 それから、ベティさんが殺された状況を考えれば、ベティさんは犯人に好意を抱いていた。つまり、男として、魅力的な人物である。 カストは、こう言っては何ですが、女性にもてるタイプではありません。やはり、犯人とは思えないのです。 以上の、色々な状況から、一番疑わしいのは…。 |
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100 | ミーガン | えっ!? |
フランクリン | あ…?な、なにを。 | |
ポワロ | フランクリンさん。あなたはリストを作るのがお好きなようだ。この前みなさんにお集まり頂いたとき、しきりにリストを作っていましたね。 そのとき、新聞広告を出したらどうかととも言いました。実に、子供っぽい発想です。 |
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フランクリン | ばかばかしい! | |
ポワロ | フランクリンさん。あなた、私に、クラーク卿からの手紙を見せてくれましたね。 | |
フランクリン | それが? | |
ポワロ | あれはあなたの優越感から出た行為でしょう。 でも、勇み足でしたね。 手紙にはミス・グレイのことが書かれていた。そう、クラーク卿はミス・グレイを大変信頼していたのです。 |
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N | クラーク卿のことを思い出したのか、ポワロの言葉にミス・グレイが感極まったように溜息を漏らした。 | |
ポワロ | あなたは慌てて中国からイギリスに帰ってきました。 そこで目にしたのは、親しげなクラーク卿とミス・グレイ。 クラーク夫人が嫉妬するくらいですからね。もし、重い病の夫人が亡くなったら、クラーク卿は、ミス・グレイと再婚するかも知れない。 二人の間に子供が出来たら、クラーク卿の財産は、あなたに行かなくなる。そこで、あなたはクラーク卿を殺そうと考えた。 石を隠すなら砂利の中。木を隠すならば森の中。 死体を隠すならば……死体の中。 兄を殺そうと決意したあなたは、クラーク卿がCから始まる街、チャーストンに住み、名前もCから始まる事に気が付きました。 ABC殺人事件の。 Aから始まる街アンドーバーで、アリス・アッシャー夫人を見つけ、Bから始まる街、ベクスヒルではベティさんを見つけた。 |
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N | ポワロは全員の顔を見渡す。皆、ポワロの言葉を一言も聞き漏らすまいと、真剣な顔で聞いていた。 | |
110 | ポワロ | 次に、第3の殺人、クラーク卿殺しです。手紙が着いたのは当日です。 あなたは、宛先をホワイトヘイブン・マンションではなく、わざとホワイトヒーロー・マンションと書きました。手紙が遅く着くようにするためです。 さすがに3人目では警察も警戒すると思ったのでしょう。 そしてこれが、エルキュール・ポワロを選んだ理由です。 |
フランクリン | くっ! | |
ポワロ | クラーク卿の夜の散歩の習慣も、あなたなら当然知っていたはずです。 | |
N | ポワロの話に、誰も何も言わない。ただ黙って聞いている。空は雲が出て、太陽を隠しはじめた。部屋の中は、その空気さえも暗くなったかのようだ。 | |
ポワロ | この事件を複雑にしたのは、あなたが架空の殺人者を作り出したからです。 それが、職を探していた可哀想なカストですよ。 同情して仕事を紹介する振りをし、ストッキングと訪ねる場所がタイプしてあるリストを送った。 ABC時刻表もね。 |
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フランクリン | でも、ポワロさん。そのリストを打ったタイプライターは、カストの部屋から発見されたのでは? | |
ポワロ | そのタイプライターも、リストと一緒にあなたが送ったんです。 | |
フランクリン | ドンカスターの殺人事件では、凶器のナイフがカストの部屋から発見されたと! | |
ポワロ | そうです。第4の殺人。 クラーク卿の第3の殺人で終わってしまっては、あなたが、目立ちますからね |
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フランクリン | うっくっ…。 | |
120 | ポワロ | これは簡単だったでしょう。 あなたはカストを、ドンカスターに行かせたのですから。 あなたは、競馬場から密かに抜け出し、カストの後を付けて、映画館の中に入る。 映画が終わらないうちに、あなたは通路を出ようとして、帽子をわざと落とす。そして、拾う振りをして、ナイフで……。 もう、Dから始まる人でなくてもよかったのですよ。 |
フランクリン | …ではっ、ナイフの件は! | |
ポワロ | 簡単です。 映画館の外で待っていたあなたは、出てきたカストに判らないように近付き、そっとナイフを、カストのポケットに入れる。 いかがですか? |
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N | ポワロの言葉に、フランクリンの様子が変わってきた。女性達がフランクリンから離れ、壁際に寄る。そんな彼女たちを守るように、ドナルドとヘイスティングスが彼女たちの前に立った。 | |
フランクリン | くだらん!あんたの説はばかげてる! | |
ポワロ | クラーク卿の屋敷の戸棚から、あなたがアンドーバーとチャーストンの犯行に用いたステッキを発見しました。 | |
ヘイスティングス | 柄の部分に、溶かした鉛が流し込んでありました。 | |
N | ヘイスティングスがステッキの柄の部分を分解すると、そこにはポワロの言った通りに、鉛が固められていた。 | |
全員 | …ああっ!? | |
ポワロ | ドンカスターで、競馬場にいたはずの時間に、あなたらしき人が映画館から出てくるところを警備員が見たと言っています。 ベクスヒルでも、あなたとベティさんが一緒に夜の街を歩いているのを、ベティさんの同僚が目撃しているのです。 酒場で一緒にいたところを見たという人もいますよ。 そして、これが決め手です。 カストの部屋から発見されたタイプライターには、あなたの指紋が付いていたのです。 |
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130 | フランクリン | あ…ああ…っ…。 …っくっ……。そんな、ミスをしていたとはっ…! |
ポワロ | ABCとは、あなたです。フランクリン・クラーク! | |
フランクリン | くっ…くうぅっ…。 | |
N | 鋭いポワロの言葉に、フランクリンは、ただがっくりと肩を落とし、その場に蹲るだけであった。 誰も言葉もない。信じられないと言った瞳、怒りに満ちた瞳、ただ静かに彼を見つめる瞳。 彼らの感情が、如実にフランクリンを見詰める瞳に表されていた。 こうして、ポワロの推理で、このABC連続殺人事件は幕を閉じたのだった。 |
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メイベル | これが、ミス・レモンに作り方を教わったアップルパイです。 | |
ヘイスティングス | ああ!こりゃうまそうだ! | |
メイベル | どうぞ。 | |
ポワロ | うん、ありがとう。 | |
メイベル | ポワロさん、タイプライターの指紋が決め手になりましたね。 | |
ポワロ | あれは私のでっち上げです。 | |
140 | メイベル | ええっ? |
ヘイスティングス | うっ、嘘だったんですか!? | |
ポワロ | あ、まあ、願望と言ってもよいでしょう。 | |
メイベル | はぁ…。……ふふっ。 | |
ポワロ | うーん。おいしいですね。 | |
145 | N | 何食わぬ顔でメイベルの作ったパイを口にするポワロに、メイベルはただ素直に尊敬の瞳で微笑むのであった。 |
参考 『名探偵ポワロとマープル』アニメキャスト
エルキュール・ポワロ:里見浩太朗/メイベル:折笠富美子/ヘイスティングス:野島裕史/シャープ警部:屋良有作/フランクリン:松本保典/カスト:鈴木千尋(←好きなので入れた!)