怪談レストラン
『キキーモラ人形』
原作:松谷みよ子・「怪談レストラン」原作チーム 台本化:里沙
(2:3:0)
大空アコ | ♀ | 山桜小学校6年生。あだ名は「アンコ」 地味で控えめな性格をしており、どちらかといえばクラスでも目立たない存在。 怖い話は苦手だが、好奇心旺盛で真実を確かめずにはいられない性格。空想好きで将来の夢は冒険小説家。 |
33 |
甲本ショウ | ♂ | アコのクラスに転入して来た、帰国子女の美少年。金髪でサスペンダーの服装が多い。 怖い話が好きで、世界各地の怪談を収集している。 |
13 |
佐久間レイコ | ♀ | アコのクラスメイトで学級委員。頭脳明晰で成績優秀、科学的根拠のないことは信じない現実派。 | 27 |
小和田マリ | ♀ | アコのクラスメイト。 活発でミーハーな性格で、ショウに興味を持っている。好奇心旺盛なためレイコと違いオカルト好き。 |
13 |
水窪ユウマ | ♂ | アコのクラスメイトのガキ大将。 いたずら好きであり、転校して来たショウにもちょっかいをかけていた。(マリと被り推奨) |
4 |
お化けギャルソン | ♂ | 「怪談レストラン」のオーナーであり支配人。 本人曰く支配人なのにギャルソンなのは少々納得がいかないらしい。(Nと被り推奨) |
1 |
ナレーター | 不問 | ナレーター。 | 16 |
001 | ユウマ | キキーモラ?なんだよ、それ。 |
ショウ | ロシアの話さ。 | |
ユウマ | おーい!お前ら、キキーモラさずに聞けよ!何つって!あはは(笑) | |
レイコ | ショウ君、話を続けて。 | |
ショウ | 日本ではまだあまり知られていないけど、死に神のキキーモラが夜更けに現れて、「ブーンブーン、ジジェールジジェール」と糸を紡ぎ、その家の運命を定めるという話だ。 | |
レイコ | 他に意見もないので、これで行こうと思いますが、反対の人は? では、今度の学芸会の人形劇は、キキーモラの話で決定します。 次に、係りを決めます。 |
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N | クラスメイトからは何の反対もないまま、話は進められ、副委員長が係りの決定を黒板へと書いていく。 | |
レイコ | まずは台本を書く人。これはアンコに決定ね。 | |
アコ | えええっ!? | |
010 | レイコ | 知ってるのよ。あなたが小説家志望だって。 |
アコ | な、何でレイコがそれを…。 | |
ユウマ | アンコ。思いっきり怖い話にしろよ。みんながトイレに行けなくなるくらいのな! | |
レイコ | そんなこと言って良いの?本番でお漏らしするのは、ユウマ君かもよ。 | |
N | レイコの言葉に、クラス中がどっと笑いに包まれる。 | |
ユウマ | !?っうっせぇ! | |
レイコ | では次に、人形を作る人。 | |
マリ | はい!私がやります! | |
アコ(M) | マリが自分からやるなんて…。めずらし。 | |
レイコ | では、マリに決定です。 | |
020 | マリ | やったぁ!ショウ君!キキーモラ人形のこと、教えてね。 |
アコ(M) | 何だ…そう言うこと。 | |
N | 放課後、誰もいなくなった教室で、アコとショウ、そしてレイコとマリが集まって今度の学芸会で使うための人形作りに励んでいた。 | |
ショウ | まず、針金で作った体に、白いぼろ布を着せて。 | |
マリ | それから、頭の上にニワトリの置物を乗せて、スカーフで縛る。 | |
アコ | 後は顔をかいて、キキーモラ人形の出来上がり!……って、何で私まで手伝わなきゃなんないの! | |
レイコ | 文句言わないの。以外と簡単なのね。 | |
ショウ | ああ、だけど、有名な人形作家が言ってたよ。人形だって自分の足でしっかり立つことが出来れば、生きていけるって。 | |
マリ | へぇ。ショウ君、物知りね。 | |
レイコ | ばかばかし。 | |
030 | アコ | じゃ、この人形も生きていけるの? |
レイコ | 私も有名な人形作家の言葉を知ってるわ。 | |
アコ | (小声で)負けず嫌いなんだから…。 | |
レイコ | なんか言った? | |
アコ | あぁ…いえいえ…。 | |
レイコ | 作った人形には、魂を入れないと、ちゃんと動いてくれないんですって。 アンコ。その人形に魂を吹き込みなさいよ。 |
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アコ | どうやって? | |
レイコ | 人形の口に、ふーって息を吹き込むそうよ。 | |
アコ | えーっ!?これ、死に神のキキーモラなのよ!そんなことしたら、こっちの魂が捕られそうだもん、やーよ! | |
レイコ | なあに?人形が怖いの? | |
040 | アコ | 恐いわよ!いけない!? |
ショウ | 僕も、止めた方がいいと思うな。 | |
マリ | ショウ君、器用ねー。 | |
レイコ | 臆病ね。全く。ほら、こうするのよ。ふーっ…(小さく軽く) | |
N | レイコがキキーモラ人形を顔の前に持ち上げると、人形の顔に向かって息をふーっと吹きかけた。 そんなに強く吹きかけたわけでもないのに、人形の纏っているぼろ布がふわりと巻き上がり、手の部分がぴょこぴょこと動いたように見えた。 |
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ショウ | あっ!? | |
アコ | !動いた…。 | |
マリ | え?嘘でしょう? | |
アコ | 嘘じゃないよ。確かに動いたって! | |
マリ | まさかぁ。 | |
050 | N | レイコが人形を机の上に戻す。 だが、そのレイコは涙を流しながら、声もなく泣いていた。 |
レイコ | あ…ぁ……っ…(泣) | |
アコ | 何で、泣いてるの? | |
マリ | どこか、痛いの? | |
レイコ | (泣きながら)判らない。何故かとても悲しい…。心が、穴の空いた風船みたいにしぼんで……うぁあぁん……(激しく泣き出す) | |
ショウ | ……っ…!? | |
N | レイコが泣いているのを呆然と見ている3人。 そんな時、下校の時刻を告げ、速やかに下校するようにとの放送が掛かった。 |
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マリ | とりあえず、帰ろ? | |
アコ | うん。 | |
マリ | レイコ、立てる? | |
060 | N | 泣いたままのレイコを、マリが帰るように立たせながら、促した。 |
ショウ | 人形はどうする? | |
アコ | なんか気味悪いから、置いていこうよ。 | |
N | ショウとアコたちが帰るために階段を下りていたとき、アコがふと立ち止まる。 | |
アコ | あ!リコーダー忘れちゃった!取ってくる! | |
マリ | 門、閉まっちゃうよ?いいのー? | |
アコ | 門の外で待ってて。すぐいくー! | |
N | そう伝えて、アコは教室に戻り、忘れたリコーダーを持ち出した。 夕日が赤く染める教室。後ろの棚に、キキーモラ人形が置かれている。 |
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アコ | やだなぁ…何だったんだろ、さっきの。 | |
N | ちらりと人形を振り返る。その瞬間、向こうを向いていたキキーモラ人形が、勢いよくアコの方を振り向いた。 | |
070 | アコ | うわっ!? |
レイコ | かわいそう…。(低い声で) | |
アコ | うわあっ!? …レイコ。何がかわいそうなの? |
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レイコ | お前だ。かわいそうに。 | |
アコ | なんで? | |
レイコ | 死ぬ定めだからだ。 | |
アコ | !何よ、それ。 | |
レイコ | 私には判る。 なぜなら、私は、死に神だからだ。 |
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アコ | 死に神? …っ!キキーモラ人形! | |
レイコ | ブーンブーン…ジジェールジジェール……ブーンブーン… | |
080 | アコ | ああっ! |
N | レイコが呪文のような言葉を呟きながら、ゆっくりとアコに向かってくる。 そのとき、教室のドアからショウが飛び込んできた。 |
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ショウ | 人形だ!きっと、人形とレイコの魂が入れ替わったんだ! | |
アコ | どうすればいいの!? | |
ショウ | 息を吹きかけて入れ替わったんなら、もしかして吸い込めば! アンコ!それを使え! |
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N | レイコに乗り移ったキキーモラ人形が、ものすごい力で片手でそこらの机をショウに投げつける。 それを交わしながら、ショウはアコが持つリコーダーを指差した。 |
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アコ | レイコの魂を、返して! | |
N | アコが手に持ったリコーダーを、キキーモラ人形の口へと押し当てる。 そのまま反対方向から息を吸い上げた。 キキーモラ人形の口から、きらきらした影が浮かび上がってリコーダーの中へと入っていく。 |
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レイコ | 邪魔をするなぁぁ! | |
ショウ | レイコの口へ! | |
090 | N | 背後から襲いかかろうとするレイコの口へリコーダーをつっこみ、思いっきり吹く。 きらきらした影は、レイコの体の中へ入っていく。 |
レイコ | うあっ!うあぁぁぁぁぁぁっ!…ああああっ! | |
N | 身悶えるレイコの横を走り抜け、ショウはキキーモラ人形をひっつかむと、床に叩き付け、思いっきり踏みつけた。 壊されたキキーモラ人形の骨組みから、地の底から響くような悲鳴を上げて得体の知れない影が霧散していく。 悲鳴が止んだとき、すべてが終わり、骨組みはただの針金へと戻っていた。 |
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ショウ | キキーモラが死んだ…。 | |
アコ | あたし…もうだめ…。 | |
N | へたり込んだアコに、ショウが手を差し出し立ち上がらせようとしたとき、それまでぼーっと立っていたレイコから声があがった。 | |
レイコ | どうしたの?あなた達。 | |
ショウ アコ |
……っ…! | |
レイコ | な…何よ…。 | |
アコ(M) | レイコは何も覚えていなかった。 | |
100 | マリ | アンコー!遅いー! |
アコ(M) | だけど翌日、キキーモラ人形を作り直すとき、レイコはもう、魂を吹き込もうとは言わなかった。 | |
お化けギャルソン | ブーンブーン。ジジェールジジェール。 怪談レストランの特別料理、美味しく召し上がって頂けたでしょうか? そうそう!言い忘れておりましたが、当レストランには出口はございません。一度入ったら、二度と出られないのです。 |
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アコ | これは…ある学校の旧校舎で、本当に起こった事件よ。 | |
ショウ | 「行ってしまった女の子」 | |
アコ | その旧校舎は、かなり古くて、いろんな噂があったの。開かずのトイレとか、壁から手が出て触るとか。 そして、階段の踊り場には大きな鏡があって、真夜中にその前を通ると、向こうの世界が見えるって言われてた。 大きすぎる鏡って、その前に立つだけで恐いでしょう。信じてる子も結構いたみたい。 でね、ある女の子が言ったの。 |
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少女(レイコ) | 私、夜中に探検しに言ってみようかな。 | |
アコ | 次の日、学校中大騒ぎになったの。その子がどこを探してもいないから。 鏡の前に上履きだけがあって。 それは、その子の上履きだった。 そして、旧校舎の取り壊しが決まって。 大きな鏡も壊されたの。 誰かが言ったよ。 |
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110 | マリ | あの子、これでもう戻って来られないね…。 |
アニメ参考キャスト
大空アコ:白石涼子 甲本ショウ:優希比呂 佐久間レイコ:浅野真澄 マリ:矢島悠子 お化けギャルソン:平田広明