怪談レストラン
『池のふちの道』
原作:松谷みよ子・『怪談レストラン』チーム 台本化:里沙
(3:3:0)
大空アコ | ♀ | 山桜小学校6年生。あだ名は「アンコ」 地味で控えめな性格をしており、どちらかといえばクラスでも目立たない存在。 怖い話は苦手だが、好奇心旺盛で真実を確かめずにはいられない性格。 |
17 |
大空ブンタ/少年の声 | ♀ | アコの弟。囲碁ができる。好奇心旺盛で、アコに比べると度胸があるが怖がりな一面も。 | 19 |
父 | ♂ | アコの父親。 基本的に憶病な性格で、アコはどちらかといえば彼よりの性格である。幼い頃、友人を池で亡くしている。 |
38 |
母 | ♀ | アコの母親。 基本的に強気な性格で、ブンタはどちらかといえば彼女よりの性格である。 |
7 |
幼なじみ | ♂ | アコの父親の幼なじみ、バイクで事故った。 | 10 |
幼なじみの妻 | ♀ | 幼なじみの妻。(母と被り推奨) | 2 |
お化けギャルソン | ♂ | 「怪談レストラン」のオーナーであり支配人。 本人曰く支配人なのにギャルソンなのは少々納得がいかないらしい。 |
2 |
みどり | ♀ | 魚屋の娘。(母と被り推奨) | 10 |
金谷 | ♀ | みどりの同級生。(ブンタと被り推奨) | 3 |
親父/祖父 | ♂ | みどりの父。/アコの祖父。(幼なじみと被り推奨) | 6 |
N | ♂ | ナレーター。(ギャルソンと被り推奨) | 15 |
メインキャラクターの紹介は、『怪談レストラン』Wikiから引用しました。
001 | お化けギャルソン | 怪談レストランへようこそ。わたくし、支配人のお化けギャルソンです。 当レストランでは、血の凍るようなお料理を、取りそろえております。 早速、化けネコおすすめのスペシャルメニューをご覧下さい。 こちらがメニューとなっております。 前菜は、牙を剥いた獣の風味が立ち上る、「ネコ、学校へ行く」。 メインは、溺れそうなほどたっぷりの冷たいスープ「池のふちの道」。 デザートは、料理される側の気持ちになれる「ヒラメになれ」。 なお、本日のお料理は食べ過ぎると、多少毛深くなるおそれがありますので、ご注意下さいませ。 |
化けネコさん | 『池のふちの道』ニャーオw | |
N | 休日、アコは家族と一緒に、父親の実家に向かうために、車に乗っていた。 田舎風系が続く街道。静かな道ではあるが、そこかしこに家が建ち並んでいる。 |
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アコ | あれ?なんか前に来たときと変わってる見たい。 | |
母 | え?あら、ほんと。新しい家がずいぶん増えてるわねぇ。 | |
父 | どんどん変わるなぁ、この辺りも。 パパの子供の頃は田圃(たんぼ)ばっかりだったけど。 |
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母 | へぇ、そうなんだ。 | |
父 | 田圃の中に綺麗な小川が流れていてねぇ、時々釣りに来たなぁ。 | |
ブンタ | 魚、釣れるの!? | |
010 | 父 | ま、ちっちゃい奴だけどな。大きいのは、森の中の池に良くいた。 ブンタくらいの頃に、すっごいでっかい魚を釣ったことがあったなぁ。 |
ブンタ | ほんと!?池ってまだある!?この近く?僕にも釣れる!? | |
父 | (ためらったように)ああ…あ、いや、あの池も、もうなくなってるんじゃ…ないかな…。 | |
N | その夜。父親の実家で家族で団らんしていたとき。話は池の話になったようだった。 | |
父 | え?まだあるの?あの池 | |
祖父 | ああ。どういう訳か、あの池の辺りだけは手つかずのまま残ってるんだ。 | |
ブンタ | あの池って、さっき言ってた池!?まだあるの!? | |
父 | あ…ああ…うん…。 | |
ブンタ | あはっ!じゃあ、明日行こうよ!僕、釣りしてみたい! | |
祖父 | ブンタは、釣りが好きなのか? | |
020 | ブンタ | まだやったことないけど、でも、やってみたい!ねえ、行こうよ、パパ! |
父 | 明日は、パパの幼友達の家に行く予定があるんだ。またにしよう。な? | |
ブンタ | ええー!? | |
母 | 帰ってから連れていってあげれば?ブンタがこんなに行きたがってるのに。 | |
父 | うーん…。 | |
祖父 | まあ、良いじゃないか。お前だって釣りは好きだったし、昔使ってた釣り竿、まだ物置にあるぞ。 | |
父 | え? | |
ブンタ | あはっ!ほんと?ねえ、パパ。いいでしょ、行こうよ! | |
父 | (気乗りしない感じで)うーん。…じゃあ、久しぶりに行ってみようか。 | |
ブンタ | やったぁ! | |
030 | アコ | あたしは、おはぎ作るのよ。ねー、おばあちゃん。 |
N | 次の日、父は手みやげを持って幼なじみのところへ、アコは祖母と母親と一緒におはぎ作り。 ブンタは、祖父からもらった父が使っていたという釣り竿を楽しそうに弄っていた。 |
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父 | ほんと、対したことなくて良かったよ。バイク、気を付けろよ。 | |
幼なじみ | はは、判ってるって、 | |
幼なじみの妻 | わざわざお見舞い、ありがとうございました。 | |
父 | いえいえ。 あ、なんか、降りそうだな…。 |
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幼なじみ | ああ、傘持ってく? | |
父 | ああ、いい、いい。平気。何とかなる。 | |
幼なじみ | そう。森の中を突っ切っていけば近道だけど、やっぱちょっと、気味悪いよな…。 覚えてるだろ。幽霊が出るって噂。 |
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父 | …ああ…うん…。…まあ、昔の話だ…。 | |
040 | 幼なじみ | ところがさ、いまだに出るらしいんだと。浅田君の幽霊…。 |
父 | …っ!? | |
幼なじみ | ほら、俺たちと同じ学年の、浅田けんじ君。 | |
父 | …ああ…小学3年くらいの時だったな…。釣りしてて…うっかり足滑らせて…結構騒ぎになった…。 | |
幼なじみ | 「助けて…助けて…」って叫ぶ声がいまだに聞こえるらしいよ。 | |
父 | ……っ…(ごくっ)… | |
幼なじみ | なーんてね!あははは…w | |
父 | …っおいおい! | |
幼なじみの妻 | この人ったら、ほんとは自分が恐いんですよ。いい年して、いまだにあの森の道、通らりたがらないんですもの。 | |
幼なじみ | !うるせぇな…! まあ、噂だ。気にするなよ。 |
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050 | 父 | う、うん。 じゃあ。 |
N | 森の道。雷が鳴る中、とうとう雨が降ってきた。 | |
父 | わあ、降り始めたか。んぁっ…。 | |
N | 急いで帰ろうと、走り出す。だが、途中雨はますますひどくなり、雷も近付いてきた。 | |
父 | ……近道だ! | |
N | 森のちょうど真ん中頃、細い分かれ道がある。家までの近道だと言われたそこに、アコの父親は意を決して踏み込んでいった。 森の中は鬱蒼と茂っており、天気のせいで薄暗い。 |
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幼なじみ(M) | 未だに出るらしいんだと。浅田君の幽霊が…。 | |
父(M) | あの事故以来、ここを通るのが恐くなって、だんだんと近付かないようになっていったんだ…。 | |
N | ひどくなる雨。鳴り響く雷の音。辺りは薄暗く、雨の音と、雨が湖面をたたく音と、そして自分が走る足音しかしない。 どんなに急いで池のふちの道を走っていても、頭の中から先ほどの幼なじみの言葉が頭から離れなかった。 |
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幼なじみ(M) | 「助けて…助けて…」って叫ぶ声が未だに聞こえるらしいよ…。 | |
060 | 父 | は…はは……まさかな…。こんな真っ昼間、幽霊なんて…。 |
N | ちょうど池の真ん中あたりの道まで来たとき、それは突然に聞こえた。 ぴちゃんと言う水の音と共に…。 |
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少年の声 | 助けて……助けて…。 | |
父 | …っ!! | |
N | 池のふちには何も見えない。ただ、ぴちゃり、ぴちょりと水の音が聞こえるだけ。 | |
少年の声 | 助けて…。 | |
父 | うわ…うわああぁぁっ! | |
N | 恐怖が先に立って、父親は後ろを振り向かずに、脱兎のごとく走ってそこから逃げ出した。 森を抜けた場所、田圃(たんぼ)が並ぶ辺りでアコや母、祖父達がブンタの名前を呼びながら、探し回っている。 |
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父 | ど、どうしたんだ。 | |
アコ | あ、お父さん、それがね、ブンタの姿が見えないの! | |
070 | 父 | ええっ…。 |
アコ | あたし達がおはぎ作ってる間、退屈そうにしてたんだけど。 | |
母 | あの子、一人で釣りに行ったのかも知れないわ。釣り道具もなくなってるし。 | |
父 | 釣り…。 | |
N | 昼間はまだ天気が良かった。おはぎ作りを手伝わないブンタが、退屈のあまり釣りがしたくて一人で家を出たとしたら…。 池で釣りをしていたとき、足を滑らせて池の中に落ちたとしたら…。 |
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父 | …ぁっ!! | |
母 | ねえ、昨日言ってた池って、どこに? | |
父 | …っ!! | |
アコ | お父さんっ!? | |
N | 厳しい顔付きになった父親がきびすを返し、今来た道に走っていく。 その後を、アコと母親も慌てて着いていこうと走り出した。 |
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080 | 父(M) | …はぁっ…はぁっ…まさか、さっきの声はブンタだったのか!? |
少年の声 | 助けて…。 | |
父(M) | ブンタが助けを求めてるってのに、俺は…っ、俺はっ! ブンタ、生きていてくれ! |
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N | 息を切らせて池の畔(ほとり)まで来ると、父親は丈の高い草むらの中を必死になってブンタを探し始めた。 | |
父 | ブンター!ブンター! (M)ブンタ!生きててくれ!頼む! |
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N | 池のふちに近い草むらの中。必死で掻き分けると、そこに少年の足が見えた。 慌てて駆け寄り、抱き起こす。 |
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父 | ブンタ!しっかりしろ!ブンタ! | |
ブンタ | …っ…パパ…。 | |
父 | あ…あ…良かった…。 | |
ブンタ | …ごめんなさい、パパ。僕、どうしても釣りがしたくて…。 | |
090 | 父 | うん…うん。判ってる。 |
アコ | ブンタ、大丈夫? | |
母 | やっぱり池に来てたのね。こんなに濡れて。 | |
ブンタ | 僕、急に雨が降り出したから、帰ろうと思ったんだけど…足が滑って、池に落ちちゃったんだ…。 | |
アコ・母 | ええっ!? | |
父(M) | やっぱり、あのときの声はブンタだったんだ…。 | |
ブンタ | でも、浅田君が助けてくれて…。 | |
父 | !!? | |
ブンタ | 僕が溺れていたら、浅田君が池のふちまで押し上げてくれたんだ…。 | |
アコ | 浅田くんて? | |
100 | ブンタ | 僕と同じくらいの男の子だった。 |
ブンタ | 一人で釣りに来ちゃ危ないよ…って。 胸のところに「浅田」って名札があったんだよ…。 |
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父 | …ぁっ!? | |
ブンタ | どこ行っちゃったのかな…浅田君…。 | |
アコ(M) | 後からお父さんが、昔池に落ちた、「浅田けんじ君」って子がいたことを話してくれた。 お父さんは、もしかしたらその子の霊が助けてくれたのかもー…なんて、冗談ぽく言ったけど、お父さんの目は、笑っていなかった。 たぶん、きっと、その子がブンタを助けてくれたに違いない…。 |
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お化けギャルソン | 怪談レストランの特別料理、いかがでしたか? ほーう、冷たいスープの底に沈んだような気分になった?それはそれは喜ばしい。 さて、美味しい料理の後は、グサッと息の根が止まるほど刺激的なデザートを用意しておりますので…。 |
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アコ | これは、友達に聞いた話なんだけどね。 | |
お化けギャルソン | 「ひらめになれ」 | |
110 | アコ | 魚屋さん家(ち)のみどりちゃんが、不思議な人形を手に入れたんだって。 それは、呪いの人形だったの。 虫ピンを刺して、土に埋めて、呪いの言葉を唱えると、その通りになるんだって。 何でかそのとき、みどりちゃんは学校で自分の隣に座っている、金谷さんって言う子のことを思い出したんだって。 みどりちゃんは、その子のことが大嫌いだったの。いつも横目でじろじろノートを見るから。まるでヒラメみたいに。 ヒラメって魚は、ぺったんこで、目が片側に二つあるの。横目で見てるみたいで、気味悪いんだって。 |
みどり | 金谷さん、ヒラメになれ! | |
アコ | みどりちゃんは、人形に虫ピンを刺して、庭の隅に穴を掘って埋めたの…。 次の日学校へ行ったら、金谷さんは休みだった。 それからしばらくして、お父さんに店番を頼まれたとき。 |
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みどり | っ!? | |
金谷 | よくも私をヒラメにしたわね…。 | |
みどり | あ…あなた、金谷さん!? | |
金谷 | 私だけヒラメにはならないわ…。あんたもヒラメになるのよ! | |
みどり | そっ…そんな!…あ…ああ…あ…ああっ! | |
アコ | いつの間にか気を失っていたみどりちゃん。しばらくして気が付いたら…。 | |
みどり | あれ?ここどこ…。あたし、どうなっちゃったの? | |
120 | 金谷 | ふふふ…ほらね。あなたもヒラメよ。 |
みどり | えっ…。 | |
アコ | まな板には一匹だったはずのヒラメがもう一匹…。 | |
みどり | そんな!いやーーっ! | |
親父 | たーくぅ。留守番してろって言ったのに! | |
みどり | 父ちゃん助けて! | |
親父 | あれ?2枚もあったっけ? | |
みどり | 父ちゃん!あたしよ!ヒラメじゃない!助けて!! | |
アコ | どんなに助けてと叫んでも、とどかないの。だってヒラメがぱくぱくしてるだけ…。 | |
親父 | 生きのいいヒラメだな!こっちから、刺身にすっか! | |
130 | アコ | お父さんが持つ刺身包丁がきらりと光って…。 |
みどり | やめて!殺さないでーーーーーっ!! | |
アコ | 今日の夕食のヒラメも、誰かかも知れないわよ…。 |
参考「怪談レストラン」アニメキャスト
大空アコ:白石涼子 甲本ショウ:優希比呂 佐久間レイコ:浅野真澄 お化けギャルソン:平田広明