怪談レストラン
『真夜中の王女』
原作:松谷みよ子・『怪談レストラン』チーム 台本化:里沙
(3:2:0)
甲本ショウ | ♂ | アコのクラスに転入して来た、帰国子女の美少年。金髪でサスペンダーの服装が多い。 怖い話が好きで、世界各地の怪談を収集している。 |
33 |
大空アコ | ♀ | 山桜小学校6年生。あだ名は「アンコ」 地味で控えめな性格をしており、どちらかといえばクラスでも目立たない存在。 怖い話は苦手だが、好奇心旺盛で真実を確かめずにはいられない性格。(王女、女性と被り推奨) |
7 |
佐久間レイコ | ♀ | アコのクラスメイトで学級委員。頭脳明晰で成績優秀、科学的根拠のないことは信じない現実派。(幽霊ねーさん、母親、奥さんと被り推奨) | 4 |
お化けギャルソン | ♂ | 「怪談レストラン」のオーナーであり支配人。 本人曰く支配人なのにギャルソンなのは少々納得がいかないらしい。(老人、王様、兵士、運転手と被り推奨) |
6 |
幽霊ねーさん | ♀ | 怪談レストランの従業員。 | 5 |
王女 | ♀ | 悪魔に取り憑かれた王女。 | 16 |
ジュゼッペ | ♂ | 信仰心厚い、勇敢な若者。 | 24 |
老人 | ♂ | 助言を与えてくれる不思議な老人。 | 10 |
他、(♂)王様、兵士、運転手。 (♀)母親、奥さんがいますが、すべて被りでお願いします。 |
メインキャラクターの紹介は、『怪談レストラン』Wikiから引用しました。
001 | お化けギャルソン | 怪談レストランへようこそ。わたくし、支配人のお化けギャルソンです。 では早速、幽霊ねーさんお勧めのメニューをご覧下さい。 |
幽霊ねーさん | 前菜は、涙のドレッシングをたっぷりと掛けたフレッシュサラダ「じゃ、バーイ」。 メインは、死んだ王女が作る本場イタリアのマカロニ「真夜中の王女」。 デザートは、食べたら震えが止まらない舌触りのシャーベット「雨の夜の客」。 |
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お化けギャルソン | それでは、どうぞ…。 | |
幽霊ねーさん | 怪談レストラン メインディッシュ「真夜中の王女」……。 | |
アコ | ショウ君…こんなところに住んでるのぉ!? | |
ショウ | こんなところって、結構住み心地いいんだよ。部屋には棺桶もあるしね。 | |
アコ | ぅえええっ!? | |
レイコ | 冗談に決まってるでしょ。 | |
ショウ | ここがボクの部屋。 | |
010 | アコ | うわあ!本がいっぱーい!いいなぁ。 |
レイコ | でも、アンコが読むのは無理よ。 | |
アコ | どうしてよおっ! | |
レイコ | だって、外国の本ばかりだもの。 | |
アコ | ぅぇ…。 | |
ショウ | 世界中から怪談話を集めてるんだ。 | |
アコ | ええっ!?ぜ、全部恐い本なの!? | |
ショウ | その本なんて、特にね。 昔、ある国の王女が病の床に伏していた。 |
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王女 | 私が死んだら、棺に入れて教会に運んで。 そして、毎晩一人、寝ずの番を付けて…。 |
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ショウ | 王女の遺言通り、亡骸は教会に運ばれ、毎晩兵士が、一人で寝ずの番をした。 しかし…。 |
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020 | 兵士 | うわあぁぁぁぁーっ! |
ショウ | 兵士は次々と姿を消し、誰一人、戻ってくるものはなかった。 | |
兵士 | 王女の亡霊が、兵士を食べてるらしいぜ! | |
ショウ | 街ではそんな噂が囁かれ…そして、ある日。 寝ずの番は、ジュゼッペと言う若い兵士に回ってきた。 |
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ジュゼッペ | とうとう、ボクに回ってきましたか。では、お祈りをしてから教会に向かいます。 | |
兵士 | そうか。しかし、毎日お祈りを欠かさないとは、見上げたものだな。 | |
ジュゼッペ | これは、故郷の母との約束なんです。 | |
母親 | いいかい、ジュゼッペ。このロザリオで、毎日、父さんのためにお祈りをしておくれ。 そして、父さんの形見のこのロザリオを、いつも身に付けておくんだよ。 いいね? |
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ジュゼッペ(M) | はい…母さん。父さん。このジュゼッペをお守り下さい。 | |
ショウ | そして、寝ずの番の時刻、ジュゼッペは教会へと向かった。 | |
030 | ジュゼッペ | ……あれが王女様の眠る教会…。 |
ショウ | 教会は、不気味なほどに静まりかえり、闇夜の中にぼんやりとその姿を見せている。 | |
老人 | ジュゼッペよ…。 | |
ジュゼッペ | …っ!?だ、誰!? | |
老人 | 怖がらんでいい。ジュゼッペよ、ロザリオをしっかり握って、説教壇の下に隠れておいで。 | |
ジュゼッペ | え? | |
老人 | 真夜中から1時間の辛抱だ。1時の鐘が鳴ったら、出てきても大丈夫だよ…。 | |
ショウ | そう言うと、老人はすーっと消えてしまった。 ジュゼッペは、王女の眠る教会へ来ると、老人に言われた通りに説教壇に隠れた。 |
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ジュゼッペ | ……っ!! | |
ショウ | 雷が鳴り、その光の中に浮かび上がったのは、死んだはずの王女だった。 | |
040 | 王女 | …兵士はどこだ…。兵士はどこだ! |
ジュゼッペ | ぁぁ…ぁ…。(震えながら) | |
王女 | 今夜の晩飯は、どこだぁ!うぅぅ…! | |
ジュゼッペ(M) | …王女様!? | |
王女 | どこだ!兵士はどこだ!晩飯は、どこだぁーーっ!! | |
ショウ | 王女の白くて細い指は、鋭く尖る爪が伸び、絹糸のような髪はうねうねと蠢き、とぐろを巻く蛇のように伸びきった。 | |
ジュゼッペ | ぁぁぁ…。(震えながら) | |
王女 | !? | |
ショウ | 説教壇から顔を覗かせたジュゼッペの気配を察したのか、王女が勢いよく振り返る。 さっと下に隠れて、ロザリオを握って目を瞑るジュゼッペの耳に、こちらに近付いてくるらしい王女のドレスのさらさらという音が、不気味に聞こえてきた。 だが、階段の途中で、王女の動きが、まるで何かに阻まれたように止まった。 |
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王女 | …っ!くっ!むうう! | |
050 | ショウ | 鋭い爪が説教壇に繋がる階段をえぐる。すぐそこまで来ている。後3段…後2段…後1段! そのとき、1時を告げる鐘の音が鳴り響いた。 |
ジュゼッペ | はっ!1時の…鐘…。 | |
ショウ | 棺を見ると、ふたが開いたままではあったが、王女の姿はもう見えなかった。 ジュゼッペが無事だったことを知ると、王はもう一晩頼むと言ってきた。 ジュゼッペは再び教会に向かった。 すると、その夜も老人が現れ…。 |
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老人 | 今夜は、祭壇の陰に隠れるように…。 | |
ショウ | そしてまた、深夜の鐘が鳴り響き、雷の光に照らされて、棺のふたが開いた。 外はひどい風が吹き荒れ、木々が怪しくざわめき始めた。 |
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王女 | 兵士はどこだ! | |
ジュゼッペ | っ!? | |
王女 | 昨日から何も食べていない!腹が減った!兵士はどこだー! どこだ!飯は、どこだあーーっ! |
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ジュゼッペ | ……っ! | |
ショウ | 固く閉ざされていた教会のドアが、吹き荒れる風に負けて大きく開く。その風は王女の長い髪を吹き上げ、教会の中を無象に流れていった。 | |
060 | 王女 | どこだ…どこだ! |
ジュゼッペ | ううっ…! | |
王女 | 兵士はどこだ! | |
ショウ | 王女は鬼気迫る顔で隠れているジュゼッペを探し回る。 祭壇を回り、階段を上がり、昨夜ジュゼッペが隠れていた説教壇まで上ってくる。 だが、ジュゼッペがいないことで王女は焦ったように探し回った。 そして、1時の鐘が鳴る。 その鐘の音と共に、風はぴたりと止んで、棺も元通り、静かにあるべき場所にあった。 |
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ジュゼッペ | はぁ…はぁ…。(安心したように) | |
王 | 一度ならず二度も帰ってくるとは。なんと勇敢な兵士だ。頼む、もう一晩、寝ずの番を引き受けてはくれまいか。 | |
ショウ | 断ることも出来ず、ジュゼッペはまた教会への道を進んだ。 その途中、いつも老人と出会う場所で、三度(みたび)老人の姿が現れた。。 |
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老人 | ジュゼッペよ…。今夜は告悔室に隠れなさい。お前の苦労も、今日でおしまいだ。 | |
ジュゼッペ | えっ!? | |
老人 | 王女様は悪魔に取り付かれていなさるのだ。悪魔は、三日間食べなければ王女様から出ていくはずだ。 | |
070 | ジュゼッペ | 悪魔!? あなたはいったい…。 |
老人 | 勇気を持って、耐え抜くのじゃぞ。 | |
ショウ | そう告げると、その姿はふっとかき消えた。 真夜中。3度目の鐘が鳴り響く。ジュゼッペは告悔室の中で、ロザリオを握りしめて隠れていた。 |
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王女 | うああ!兵士はどこだ…。腹が減ってもう我慢出来ない! 今夜は何が何でも探しだす! もたない…からだが…兵士を…晩飯を…よこせーーーっ!! ああああーっ!! |
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ショウ | 教会の中が風で吹き荒れていく。ジュゼッペは思わずロザリオを取り落としてしまった。 不気味な光の中、映し出されたのは、真っ黒な影。それは。 |
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ジュゼッペ | あ…悪魔! | |
王女 | ああああーーっ! | |
ショウ | その悪魔の影が、告悔室のジュゼッペの方を真っ赤な目で睨んだ。 | |
ジュゼッペ | ああっ! | |
王女 | ここかーっ! | |
080 | ジュゼッペ | うぁ…ああ…! |
王女 | 開けろ!出てこい!食ってやる!食ってやるーっ! うああああーっ! |
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ショウ | ジュゼッペが必死で扉を押さえていたにも関わらず、悪魔はものすごい力で、告悔室の扉を吹き飛ばした。 その拍子に、足下に落ちたままのロザリオがジュゼッペの前に跳ね上がった。慌ててそれを掴もうとするジュゼッペと、ジュゼッペに振り下ろされる悪魔の爪! |
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王女 | おおおおーっ! | |
ジュゼッペ | っ!…っ…。(恐ろしさに息を詰めて) | |
ショウ | 気が付くと、1時の鐘が鳴り響いていた。悪魔の姿はなかった。 ジュゼッペは、王女の棺を確認するために近寄った。 棺の中には、美しいままの王女が、眠るように横たわっている。 その王女の唇が、戦慄いたかと思うと、ゆっくりとその瞳が開かれた。 |
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ジュゼッペ | …あっ…! | |
王女 | ……ありがとう…。おかげで助かりました…。 | |
ショウ | ジュゼッペは王に讃えられ、王女と結婚することになった。 そんなジュゼッペの前に、再び老人が現れた。 |
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ジュゼッペ | あっ!あなたは!?一体、なんとお礼を言ったらよいか! | |
090 | 老人 | 礼を言うのは、こちらだよ。毎日、私のために祈ってくれて、ありがとう。 |
ジュゼッペ | 毎日って…。…あっ! | |
老人 | お前が祈ってくれるおかげで、死んでからも、苦しまずにいられるのだ。 これからも、ロザリオを大切にして祈っておくれ…。 |
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ジュゼッペ | 父さん…。 | |
老人 | では、な…。 | |
ショウ | それからジュゼッペは、王女と幸せに暮らしたと言うことだ。 | |
アコ | 恐いけど、いいお話ねー。ねえ、他にもいっぱいあるの? | |
レイコ | もう、ほら、宿題やるわよ。 | |
お化けギャルソン | 怪談レストランの特別料理、ご満足頂けたようですね。 | |
100 | 幽霊ねーさん | 真夜中の王女のように、残さず食べて頂き、ありがとうございます。 |
お化けギャルソン | おや?雨が降ってきたようですね。 では、こんな雨の夜にぴったりのデザートを。 |
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お化けギャルソン 幽霊ねーさん |
お持ちしましょう。 | |
ショウ | これは、ある雨の夜にタクシー運転手が体験した…本当の話。 | |
お化けギャルソン | 「雨の夜の客」 | |
ショウ | とある池の前で、女の人がタクシーを止めたんだ。 | |
女性 | 四ッ谷まで、お願いします…。 | |
運転手 | はい | |
ショウ | 女の人はそれきり、一言も喋らなかった。 タクシーは四ッ谷まで走り、ある一軒の家の前で止まった。 |
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110 | 女性 | 今、お金を取ってくるので、待っていてください。 |
運転手 | ええ? | |
ショウ | そう言って、家の中に入ったきり、何分経っても、なかなか女の人は出てこなかった。 仕方なく、運転手はその家のベルを鳴らした。 |
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奥さん | はい? | |
運転手 | 今、若い女性をお送りしてきたのですが、お金を取りに行かれたまま戻られないので。 | |
奥さん | そんな人、来てませんけど? | |
運転手 | 確かにこの家に入っていきましたよ?白いワンピースに花柄のスカーフをした人です。 | |
奥さん | っ!そ、それは、うちの娘です!娘が死んだ日に着ていた服です! | |
運転手 | ええっ! | |
ショウ | 娘さんは1年前、タクシーが乗せた、あの池に飛び込んで亡くなったんだ。 気味悪くなった運転手が、急いでタクシーに乗って出ようとすると……車内は水で満たされた…。 |
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120 | 運転手 | ううっ!うわっ!がぼっ!(水の中) |
ショウ | そして、女の人は言った…。 | |
女性 | 池まで戻ってください…。 |
参考「怪談レストラン」アニメキャスト
大空アコ:白石涼子 甲本ショウ:優希比呂 佐久間レイコ:浅野真澄 お化けギャルソン:平田広明