魔法の呪文
里沙:作
★この作品には一部グロ表現が含まれます。(そこまでひどいものではないと思いますが…)
ユーリ ♀ 20代の普通の少女。 アレク ♂ 20代の優しそうな青年。
★場面説明は読んでも読まなくても構いません。人数いれば誰かに振っても可。
タイトルと呪文の一部の文字に『あんずもじ』を使わせて頂きました。
001 | アレク(M) |
ヨーエナ カオイガネ テーリ ヨニエニ ヨーエナ カオイガネ テーリ ヨニエニ 神様。 |
002 |
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郊外にあるある街。決して小さい街ではないはずなのに、車通りはもとより、人の行き交う姿は見当たらない。聞こえるのは鳥の声と、風の音だけ。 |
003 | アレク |
ふう。今日はもうこれくらいで良いかな。そろそろ日も暮れるし…。 大体、掘っても掘ってもキリがないからなぁ…。毎日穴掘りじゃ、今に腰が痛くなっちゃうよ…。 |
004 | ユーリ | アレクー。向こうはもう終わったよー。こっちはどう? |
005 | アレク | ご苦労様、ユーリ。こっちもあらかた終わったよ。ここら辺はもうないんじゃないかな。 じゃあ、残りは明日にして、今日はもうこれくらいにして終わろうか。 |
006 | ユーリ | うん。じゃ、私ご飯の用意してくるね! |
007 | アレク | あ、良いよ、ユーリ。今日は僕が作るから。ユーリはお風呂でも沸かしてよ。 |
008 | ユーリ | え?でも…。 |
009 | アレク | たまには僕が作るのも良いだろ?毎日ユーリが作るのも大変だし。 僕だってユーリには負けるけど、結構作れるんだよ? |
010 | ユーリ | えー。アレクってばセレブのおぼっちゃまだから、全部コックさんが作ってたんじゃないの?(笑) |
011 | アレク | ひどい誤解だな。 そりゃ、家にいた時は僕が作る暇なんてなかったし、作る必要もなかったからコック任せだったけど、僕だって一応料理くらいは作れるんだぜ? だから今日は僕が作って、ユーリにあっと言わせてみせるのさ。 |
012 | ユーリ | ……スクランブルエッグにカリカリのベーコンだけって言うのは止めてよね? |
013 | アレク | ……本当に信用してないな?ちくしょー。判った!じゃあ、ユーリが認めるくらいなものを作ってやるさ! ユーリが負けたと思ったら、僕の願いを1つだけ聞いてもらうからな!? |
014 | ユーリ | いいわよ?ちゃんと食べられるんなら文句は言いませーん。じゃ、お風呂沸かしてくるわね(笑) |
015 | アレク | まだ言うか!(笑)ああ、そうだ。地下の貯蔵庫からワインでも何でも好きなの出してきてよ。 飲んでも誰も文句は言わないからね。 |
016 | ユーリ | あ…うん。そうだね。誰にも文句は言われないから、今日は飲んじゃおうか。 |
017 | アレク | うーん。ワインに合うチーズ、どこかにあったかなぁ。残ってると良いんだけど。 |
018 | ユーリ | ふふ。それ、私が探してあげる。じゃ、また後でねー。 |
019 | アレク | うん、ありがと。料理、楽しみにしてろよ。 さてと…ユーリの好きな物はちゃんと把握しているからね。絶対に参ったと言わせてやる。 ……ユーリが元気出してくれると良いんだけど…。 |
020 | こじんまりとした家の中。テーブルの上には所狭しといろいろな料理が並んでいる。そのどれもが一流レストランで出されるような物ばかりだ。 |
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021 | ユーリ | うわぁ!すごい!これ全部アレクが作ったの!? |
022 | アレク | 他に作る人なんていないだろ。どうだい。僕のことを見直したかい? |
023 | ユーリ | むぅ…見た目はすごいけど、問題は味よ、味!美味しくなくちゃ、認めたことにはならないわ! |
024 | アレク | では、召し上がってみてください、お嬢様。 |
025 | ユーリ | いただきまーす。(もぐもぐ)うわ…うそ…おいしい…。なにこれ、レストランで食べたものよりおいしいなんて…。 |
026 | アレク | ふふん、さあ、どうだ。僕だってやる時はやるんだぞ。金持ちのぼんぼんだって言われて黙ってられるほど、僕は大人しくも愚かでもないからね。 ごくたまにだけどコックからいろいろ教わってたんだぜ。 |
027 | ユーリ | ううう…… |
028 | アレク | さあ、ユーリ?君の素直で正直なな感想を聞こうか? |
029 | ユーリ | くうっ…… |
030 | アレク | ユ・ウ・リ?(笑) |
031 | ユーリ | ああ、もう!私の負けよ!ごめんなさい!私の作ったものよりおいしいです! もう、やんなっちゃう、アレクってば。勉強やスポーツだけじゃなく、料理までプロ級だなんて。これじゃ私、今まで作ってきてた食事じゃアレクに申し訳なかったなって思っちゃうわ…。 |
032 | アレク | そんなことはないさ。僕のはただレシピ通りに作った型にはまった料理なだけだし、何か1つでも材料が足りなかったらそれこそ味の方は補償出来なくなっちゃうと思うよ。 ユーリのようにそこにあるもので簡単にいろいろ作れる方が、僕はすごいと思うけどね。 |
033 | ユーリ | 私のは自己流だもの。味付けも何も全部適当よ。だから同じ味の物なんて一度も作れた試しがないわ。 |
034 | アレク | そういう自由な発想が出来る所は、ユーリのすごい所さ。それに、僕だってユーリの美術の点には、一度として勝てたことなかっただろ。 |
035 | ユーリ | …ずっとパパみたいな自然を描く画家になりたいって思ってたから…。 |
036 | アレク | うん…。ユーリの描く絵は、いつも穏やかで優しい雰囲気で、僕は好きだな。みんなユーリの絵は好きだって言ってた。 |
037 | ユーリ | ……もう…描いても誰も見てくれない…誰も褒めてくれないんだね…。 |
038 | アレク | ユーリ…。 |
039 | ユーリ | ごめん、言っても仕方ないのにね…。食べようよ、アレク。毎日毎日穴掘りばかりで、疲れたでしょ?肉体労働なんて、アレクには似合わないのに。 |
040 | アレク | 僕は男だからね、日頃鍛えてた分多少の疲れは一日寝ればなくなっちゃうよ。 それよりも、ユーリの方がきついだろ?ここ最近は慣れてきてるけど、一年前に比べてずっと痩せちゃったし…。 |
041 | ユーリ | あら?原因はさておきちょうど良いダイエットにはなったと思わない?マダム・フィオナの店のドレス、着れるようになったのよ? |
042 | アレク | え!?あの店って、スレンダーの女の子用しか扱ってない店だろ!?この街の誰が着るんだよって感じのドレスばかりで、女の子たちの憧れだったらしいけど、モデルとか芸能人しか着てるの見たことないぞ。 |
043 | ユーリ | そう!あの華やかなドレス!友達の間でも超憧れのドレスばかりで、見るだけでも幸せだったのよ!?それがこの間借りて着てみたら、なんとぴったり! もう、嬉しすぎてお店にある奴何枚も試着しちゃったー!し・あ・わ・せ! ……って、何、アレク、何で私の取り皿にこんなに料理盛るの? |
044 | アレク | あのドレスってさ、マジで小学生の子が着るくらいのほっそいのしかないじゃないか。痩せたなーって思ってはいたけど、そこまで痩せてたなんてショックだよ。 ユーリは前のようにとは言わないけど、もう少し太るべきだ!そんなんじゃ体力落ちすぎて、倒れるぞ!? |
045 | ユーリ | ちょっ!まってよ!そりゃ私だって体重落ちすぎてやばいなーとは思ったけど、でも、ちゃんと食べてるでしょー。前より食べるようになったし。 毎日の穴掘りだって、しっかりこなしてるじゃない。わあっ!こんなにたくさん食べられないってばー! |
046 | アレク | 自分でやばいと思ったあぁぁ?ユーリ!これからは君のカロリー計算は僕がやる! 事が事だけに参るのは仕方ないけど、君がどんどん痩せていって枯れ木になるのは、僕はいやだからね! |
047 | ユーリ | 枯れ木って…大げさよぉ…。うう…ちゃんと食べてるのにぃ…。 |
048 | アレク | ……頼むよ、ユーリ。本気でもう少し太ってよ。このままじゃマジで倒れるかも知れないし、そうなったら僕は…どうしたら良いんだい…。 ここには医者も病院も、何もないのと一緒なんだよ…。それに君が居なくなったりしたら…。 |
049 | ユーリ | アレク…ごめんなさい…。 でも、本当にもう大丈夫よ。そりゃ、始めは信じられなくてこれが夢ならってずっと思ってて…食べても砂を噛んでるみたいに味がしなくて食欲がなかったけど…。 でも、本当にもう大丈夫よ?だって…今は目標が出来たんだもの…。 |
050 | アレク | 目標? |
051 | ユーリ | うん、目標。 |
052 | アレク | その目標ってなんだい? |
053 | ユーリ | 内緒。 |
054 | アレク | えー、教えてくれないの? |
055 | ユーリ | 今はね。そのうち教えてあげる(笑) |
056 | アレク | ちぇ、絶対に教えてくれよ? それよりも、はい、これも食べる。 |
057 | ユーリ | えー!まだ食べなきゃダメなの!?これ以上は入らないわよー!あっ!それにこれ大嫌いなピーマン入ってる!やだ!絶対食べられない! |
058 | アレク | ……ふーん…食べられないねぇ…。じゃあ、お店で見つけたオッズのシュークリーム。これも食べられないんだ。惜しいねぇ。冷凍物だったから、明日まで残しておくなんて味の落ちることはしたくないし、じゃあ、これは僕が1人で食べるよ。 いやぁ、本当に食べられないなんて、可哀想だなぁ。うん、本当に、食べられないなんてねぇ。 |
059 | ユーリ | ……あ…アレクの意地悪ー! |
060 | 静かすぎる夜が明け、次の日。天気は晴れ。だが、気のせいか空がどんよりしているように感じる。 |
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061 | アレク | やあ、おはよう、ユーリ。よく眠れた? |
062 | ユーリ | おはよう、アレク。うん、ぐっすり。 それで、今日はどこまで行くの? |
063 | アレク | うん…大学があった地区まで足をのばしてみようかと思う。望みはないかもだけど、それでも…ね。 辛いならユーリは残ってて良いよ。様子を見て、後で教えてあげるから。 |
064 | ユーリ | ううん…。大丈夫。私も行くわ。この目で見ておきたいの。 |
065 | アレク | そう。じゃ、車に乗って。辛かったら、いつでも言ってね。無理することはないんだよ? |
066 | ユーリ | うん、ありがと。そういえば、昨日賭けてた勝敗の、アレクの願いって何だったの?まさか私に太れって言ったこと? |
067 | アレク | あはは、まさか!もうちょっと太って欲しいのは本当だけど、それはまた今度言うよ。 |
068 | ユーリ | 太れ太れ言われたら、なんだか複雑な気分になるわ…。普通は痩せろって言われるのにね。 |
069 | アレク | 今のユーリも良いけど、やっぱり少し健康そうには見えないからね。もう少し筋肉付けて、出る所は出た方がもっと魅力的でいいじゃないか。マダム・フィオナのドレスが着れたって事は日本のこけし体型みたいな…とと…いや、ゴホン…。 |
070 | ユーリ | ………アレク…それ、私が貧乳だって言ってる? |
071 | アレク | …………いや、そこまは言ってないよ!?はは、やだな、ユーリってば、何言ってんのさ…。 |
072 | ユーリ | 否定する前の間は一体何かしらね! |
073 | アレク | ちょ!ユーリ、ぁぶっあぶないってば!ごめん、そんなつもりで言ったんじゃないって! |
074 | ユーリ | 対向車がないことに感謝しなさいよ!もう!今日の食事はアレクの嫌いなものばかり作ってやる! |
075 | アレク | 勘弁してよー;ごめんってば。本気でそう思った訳じゃないんだよ?ユーリは元から小柄で可愛いと思ってるし、大学の連中だって、ユーリ狙いで近付いてくる奴が何人居たか…。 その度に僕はやきもきしてたんだから…。 |
076 | ユーリ | 知らない! |
077 | アレク | ユーリー;; |
078 | ユーリ | …………………。 |
079 | アレク | ユーリってば; |
080 | ユーリ | ……………。 |
081 | アレク | ごめん、本当に謝るから、機嫌直して。 |
082 | ユーリ | (アレクの言葉に被せるように)静かね。 |
083 | アレク | え? |
084 | ユーリ | この路(みち)、一年前までは車通りがすごくて、路沿いにあるお店も人気店ばかりで、人で賑わっていたのに…。今は風の音と鳥の声しか聞こえない…。 |
085 | アレク | うん…。よく友達たちと一緒にカフェテリアでお茶したりしたな。ジャックがライブした楽器店にもよく行ったよ。 |
086 | ユーリ | エミリーがよく通ってた花屋さんにはね、すごく素敵な店長さんが居たの。エミリーは花じゃなくてその店長さん狙いで通ってたのよ。でも、その人には奥さん居るって判って、エミリーとカレンと三人で失恋記念日の会なんてした事もあったわ…。 |
087 | アレク | あれから一年か…。 |
088 | ユーリ | うん……一年…。 |
089 | しばらく会話が続かず、静かなまま車が走る。やがて街並みが見え、一際大きな学校の前で車が止まった。二人とも車から降り、少しの間ためらうように学校を見回す。 | |
090 | アレク | 着いたよ、ユーリ。どうする?僕は様子を見に行くけど…ここで待ってる?それとも…。 |
091 | ユーリ | …一緒に行くわ。言ったでしょ。この目で見ておきたいって。 |
092 | アレク | 辛かったら無理しなくて良いんだよ?ここには…あの日から来たことなかったし…。どうなっているのか漠然とは判っても想像でしかないから…。 |
093 | ユーリ | 大丈夫よ。私、覚悟はしてるから…。それに… |
094 | アレク | それに? |
095 | ユーリ | ううん。何でもない。行きましょう。 ああ、懐かしいな…一年前まではこの門、毎日のように潜(くぐ)ってたのよね。 |
096 | アレク | あの頃と変わらないね。少し薄汚れてはいるけど。 ………やっぱり車に戻っていた方がいいんじゃないか? |
097 | ユーリ | 平気だったら!うっ…!(驚愕した感じで) |
098 | アレク | ユーリ、どうした…うっ…! これは…ひどいな…。野生化した犬にでも荒らされたのかも…。って、ユーリ!どこに行くんだい! |
099 | ユーリ | 部室にっ…。あの日、みんなで集まる予定だったの! |
100 | アレク | ユーリ!ダメだよ!野犬がまだいるかもしれないから危険だ!ユーリ! |
101 | ユーリ(M) | ずっとずっと夢なら冷めてって、ずっと思ってる。あの日からずっと…こんなひどい夢覚めてって! でも、目が覚めても毎日が現実で…でも、諦めたくない。諦めたくないの!こんなひどい現実があるなんて、信じたくないの! お願い…誰か…誰でも良いの!誰か生きていて! |
102 | 走っていくユーリを追いかけるアレク。 |
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103 | アレク | ユーリ!ユーリ!よかった、何事もなかったんだね。ここに来るまでに犬を2,3匹見つけたから、気が気じゃなかったよ。 ユーリ? |
104 | ユーリ | ぐっ…ぐうっ…(気持ち悪そうに) |
105 | アレク | ユーリ!?どう…うっ!(室内の様子を見て驚愕) ここから出るんだ!ユーリ! |
106 | ユーリ | アレ…ク…。 |
107 | アレク | ここに来るまでにも大学に残ってた人たちの遺体を何体も見かけた…。野良犬に荒らされたのかとも思う遺体もあったし、半分以上骨になってるのも…。 あの部屋は閉め切ってあったんだね…。だからあんなにハエや虫が…。部屋中にウジやハエが動き回って…。人間死ぬと溶けていくって聞いたけど…ひどいものだな…。 ユーリ…あの部屋の溶けたような遺体は…。 |
108 | ユーリ | カレンとエミリーと…残ってる服装からしてシンゴとジャックだわ…。一年前のあの日…みんなで今年の大学祭の出し物を考えようって事で、代表して私たちが集まるはずだったの…。 私はちょうどパパの用事で画廊に立ち寄って…お店を出た途端に「あれ」が起きたのよ! |
109 | アレク | ユーリ…。 |
110 | ユーリ | ねえ、アレク!どうして!?一体何がどうしてこんなになっちゃったの!? あの日あの瞬間!一年前のちょうどこの日よ!?10時の鐘が鳴った途端に私の目の前でみんなそのまま息絶えたの! 車に乗ってた人も、電車のなかでも、店の中も外もありとあらゆる人が! 私たち二人を残して、全部の人がその場で死んだなんて、一体どうしたら信じられるの!? |
111 | アレク | 僕も覚えてる。ちょうどニュースで外国の中継ライブをやってたけど、いきなり一切の音が途切れて、人々が倒れ込んでいた…。 怖いと思ったよ。何がって、みんなライブに熱狂したままの表情で笑って死んでいくんだ…。ミュージシャンも、楽器を持ったまま…。 そのままカメラマンもTV関係の人も死んだんだろうね…何も映らなくなったけど、そんなことより僕は今みたことを家族に話そうと思って下に降りたら…。 |
112 | ユーリ | 走っていた車が次々に事故を起こして…火事も起きて…私は次々に死んで倒れていく人の中を走りながら、これは夢なんだ…夢を見ているんだって…そう思い込もうとしてた…。 いつ自分がみんなと同じように死ぬんだろうって恐怖もあったけど、それよりもパパやママは無事なんだろうかって…。カイル兄さんは?妹のエイミは? 怖くて恐くて…泣きながら家に走ったわ…。その後のことは…正直思い出したくない…。 |
113 | アレク | 僕もだ…。父さんも母さんも…家中がシンとしていた時の恐怖は…。電話も通じない、テレビも映らない…携帯も着信音だけが鳴り響いてるだけで、誰も何も答えてくれないんだ。 僕は僕自身が狂ったのかと思ったよ…。 |
114 | ユーリ | どうしたらいいのか判らなくて…私はいつママたちの所に行くんだろうって呆然とそんなこと考えて…。怖くて恐くて…私きっと叫んでた。喉が壊れるくらいに叫んでた。 誰でも良いから返事してって、意地悪で大嫌いだったマギーおばさんでも良いから返事してって…泣き叫びながら街中を走ってたんだわ… |
115 | アレク | 僕もだ…。叫びはしなかったけど、誰か返事をしてって…生きてる人はいないのかって…。 そしてユーリ、君を見つけた。 その時の僕の気持ちが判るかい?ずっと憧れてた、ずっと好きだったユーリが、僕の目の前に生きて現れたんだ。 奇跡だと思ったよ…。 |
116 | ユーリ | 怖い…怖いの…アレク。これはまるで昔聞かされた「審判の日」だわ。 全人類が1人残らずその日消滅する…。 ねえ、アレク!ここにいるわよね!?アレクは私の側にいるわよね!? |
117 | アレク | 居るよ、ユーリ。僕は君の側にいる。 |
118 | ユーリ | アレク…私怖いの…。私…あなたまで居なくなったらどうしようって…毎日が不安で怖くて…1人になるのが怖いの!アレクがいなくなったら、私…私…! 1人はいや!1人にしないで! |
119 | アレク | 死なないよ。 |
120 | ユーリ | アレク…。 |
121 | アレク | 僕は死なない。ユーリを1人残して、僕は死なないよ。 もっとずっと後で言おうと思ってたんだけど…賭けの時の僕の願い事を言うよ。本当は賭けの対象になんてしたくなかったんだけど…。 |
122 | ユーリ | アレク……。 |
123 | アレク | 結婚しよう、ユーリ。君を愛してる。 |
124 | ユーリ | ……でも、アレク…私…。 |
125 | アレク | 君が誰を好きだったのか知ってる。でも、僕はずっと君が好きだった…。 もう…僕たちだけしかいないのかも知れないなら、僕は自分に正直になりたい。ユーリ、君を愛してる。僕は君が欲しい。 |
126 | ユーリ | 私…アレクのことは好きだけど、愛してるって言えるのかは自信がない…。だから時間をちょうだい。 側にいて、私を1人にしないで。アレクまでいなくなったら、私、きっと気が狂ってしまう。 |
127 | アレク | 大丈夫だよ、ユーリ。僕は君1人を残していなくなったりしない。一分でも一秒でも長く生きて、君に寂しい思いはさせない。 ユーリ、大好きなユーリ。ずっと側にいるよ。 |
128 | ユーリ | 約束よ。絶対に私を1人にしないで…。 |
129 | アレク | この街を出よう。この一年、ずっと死んだみんなを埋葬してきたけど、切りがない……。もう、みんなには悪いけど、この街を出て違う場所に行ってみよう? テレビもラジオも何も映さないから半ば予想は出来るけど…でも、諦めたくはないだろう? |
130 | ユーリ | 私…私の目標はね、誰か1人でも、私たち以外に生きてる人を見つけることだったの…。 まだ……きっといるわよね…。 |
131 | アレク | ……うん、そうだね。それを確かめるためにも、二人で世界を回ってみよう? |
132 | ユーリ | うん…うん…アレク。アレクと一緒なら、きっと大丈夫。挫けたりしないわ…。 |
133 | アレク | 他の人には悪いけど、4人だけ埋葬したら、後は必要な荷物を車に積んで、今日のうちにここを出よう。世界は広いから、時間はいくらあっても足りないよ。 |
134 | ユーリ | あの日から一年。今日はみんなの一周忌ね。そうね…この日に旅立つのも良いかも知れない…。 この一年、ずっとみんなの埋葬ばかりで、他に考えること出来なかったけど…そろそろ他のことも考えなくちゃいけないものね…。 何?アレク、何を笑ってるの? |
135 | アレク | ごめん、不謹慎だよね。笑うなんて。 でも、ちょっと一年前のことを思い出してね。 |
136 | ユーリ | なーに?何か面白いことでも思い出したの? |
137 | アレク | いや、たわいもないことだよ。 ユーリ、魔法の呪文を教えてあげようか? |
138 | ユーリ | 魔法の呪文?何それ。 |
139 | アレク | ヨーエナ カオイガネ テーリ ヨニエニ |
140 | ユーリ | ヨーエナ カオガ…え? |
141 | アレク | ヨーエナ カオイガネ テーリ ヨニエニ。 |
142 | ユーリ | ヨーエナ カオイガネ テーリ ヨニエニ。 |
143 | アレク | そう、それを2回唱えるんだよ。そしたら願い事が何でも叶うんだって。昔おばあさんから聞いた言葉だよ。 |
144 | ユーリ | 魔法の呪文ねぇ。じゃあ、みんなを生き返らせてくださいってお願いしてよ…。 |
145 | アレク | うーん、残念ながら、たった一度だけしか願い事が叶わないって事らしいから、もう効果はないかもね。 一年前、僕が唱えて願い事を言ったからね。 |
146 | ユーリ | 効力がない魔法の呪文なんて、役に立たないわよ。つまんない。 それで、アレクの願い事は叶ったのかしら? |
147 | アレク | うん、叶ったよ。 この上もないって程にね。 |
148 | ユーリ | アレクの願い事が叶ったなら、魔法の呪文も悪くないわね(笑) いきましょう。アレク。諦めなければ、きっと誰か生きてるわよね。 |
149 | アレク | ……うん、そうだね。 いこう、ユーリ。君となら、どこへでも行くよ。 |
150 | ユーリ | 私も、アレクがいたら心強いわ。 ずっと一緒にいてね。アレク。私が死ぬ、その一瞬までも。 |
151 | アレク | いるよ、ユーリ。僕はずっと君の側にいる。 僕は君の物で、君は僕の物だから。 |
152 | そっとユーリを抱きしめるアレク。 やがて二人はこの街を後にし、どこへとも知れぬ旅に出る。二人以外の生きている人を捜す旅に。 |
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153 | アレク(M) | ヨーエナ カオイガネ テーリ ヨニエニ ヨーエナ カオイガネ テーリ ヨニエニ 神様。 ユーリを僕に下さい。 だから、神様。 |