花
里沙:作
それは、古い古い物語。
「きれいね」 と。妻が言う。 「ずっとこのきれいな花が咲いていてくれたらいいのに」 愛しい妻のその笑顔をずっと見ていたくて、男はその願いを叶える。 「いつまでも咲き続ける花を作って欲しい」 「それは永遠に咲き続ける花ですね」 技師は応えた。 「花は何に致しましょう」 そうして技師は、朝に必要なものを揃え、昼に図面を引き、夜に着手する。 一月が過ぎて根と茎が出来上がった。 半年が過ぎて葉と蕾が出来上がった。 一年が過ぎ、二年が過ぎ、三年目にしてようやく花が出来上がった。 「永遠に枯れることのない、永遠に咲き続ける花です」 技師のその言葉に大いに満足した男と妻は、にっこりと笑って優しく抱き合った。 技師のその言葉通りに、花は枯れることなく咲き続けた。 春の暖かい日差しの中で。 いつまでもいつまでもその姿を保ち、咲き続ける。 やがて。 花を見る人の顔に笑顔がなくなり、悲しい顔が増え、それにもまして怒号が飛び交うようになった頃。 光の花が散った後、大きな、大きな、大きな黒い花が咲いた。 大きな黒い花に黒い雨が降り注ぎ、冷たい風が地上を駆け、音のない世界が広がった。 変わらないのは、天空に浮かぶ太陽の光。 黒くて静かな春が過ぎ。 繰り返し繰り返し、何度の季節が回っても。 それでも、花は咲いている。 男が願った通りに、ただ花は咲いている。 幾つの季節が過ぎただろう。 明るく、あたたかく、優しい色の、大きく、美しく、見ていて飽きない花が。 ずっとそこに咲いている。 「きれいな花ね」 「きれいな花だね」 「ずっとこの花が咲いていたらいいのに」 「もっと沢山の花が咲いたらいいね」 それは。 永遠に咲き続ける花のお話。 永遠に続く、永遠と永遠の間の物語。 |
絡繰士=からくりし
蕾=つぼみ
凍える=こご・える
凍てつく=い・てつ
頑な=かたく・な
彩る=いろど・る
★朗読としてお一人で読むのも良し、どなたかとご一緒に掛け合いながら読むのも良し。
レイ・ブラッドベリ風を目指したのが見事に玉砕…orz
黒い花や光の花、鋭い種を的確に「それ」と捉えてくれたら嬉しいのですが、お解りになったでしょうか?
【答え】黒い花=原爆
光の花=砲撃弾
鋭い種=銃、ライフル