友達

 

男性セリフとなっていますが、女性セリフに変えてもOKです。
いじめの場面は過度になりすぎない程度であれば改変も可。

「友達になろうよ」

入学式に出会ったあいつは、開口一番にそう言った。
小柄でどこにでもいるようなあいつ。
声が小さくて、いつもおどおどしているようなあいつ。

「誰がお前なんかとw」

気に入らない。
なぜだか判らないけど、そう思った。
態度はおどおど、人の顔色をうかがうような上目づかい。
へりくだったような、顔に張り付けたその笑い顔が、ひどく感に障った。
だから、他の奴と一緒になって、あいつを虐めた。

制服をチョークの粉まみれにしてやった。
体操服はトイレに突っ込んだ。
大事なプリントは渡さなかった。
大雨の日にあいつの傘をボロボロに壊してやった。
虐めれば虐めるほど、なぜだかもっとあいつが嫌いになった。

「友達になろうよ」

けれどあいつは懲りもせず、何度も何度もそう言う。
変わらずの人の顔色を窺(うかが)った目で、笑顔で。
イライラする。
ムカムカする。
胸の中でどんどん黒いものが沸き起こる。

「友達になろうよ」

殴ってやった。
階段の上から蹴飛ばしてもやった。
他のみんなと一緒になって、あいつを痛めつけてやったりもした。
あいつを見るたび、あいつの声を聞くたび、胸の中のどす黒い感情はふくれあがり、直ぐにでもあふれ出しそうだった。

何で俺なんだよ!
他にもいっぱいクラスメイトはいるだろうが!
わざわざ俺を選んだ訳は何なんだよ!
俺はお前となんか友達になんてなりたくないんだよ!

そう言うたびに、あいつはほんの少しだけ悲しい瞳をして、その反対に作り笑いで俺を見て言うんだ。

「友達になりたいから…」

友達ともだちうるさいんだよ!
イライラの感情が爆発した。
だから……。
俺は言ってやったのさ。

「だったら死んでくれない?そしたら友達にでも親友にでもなってやるよ」

笑いながら言った言葉に、あいつは……あいつは………作り笑いじゃない、本当に嬉しそうな顔で…笑ったんだ……。


そうして…。
今。


あいつの姿は教室のどこにもいない。
あいつの存在はどこにも見えない。
あいつの名前は出席簿からも消された。
あいつがいた机には、菊の花が飾られてるだけ。

みんな直ぐにあいつを忘れてしまった。
あいつの存在なんて、それだけちっぽけなものだった。
けれど……。

『嬉しいな』

嬉しそうなあいつの声が聞こえる。
あいつの姿は見えないけれど、確かにあいつは俺の側にいる。
俺の……肩越しにあいつの声がする。

『やっと友達になれたね』

嬉しそうなあいつの声が、俺だけに聞こえる。

『ずっと…友達だよ』

俺だけに、聞こえる。