千の風になっ…ちゃえ
里沙:作
(0:6:0)or(0:3:0)
一美(かずみ) ♀ てんねんさん。 38 双葉(ふたば) ♀ つんでれさん。 40 美奈子(みなこ) ♀ わがままさん。 28 椎奈(しいな) ♀ しっかりさん。 29 いつみ ♀ ボクっこさん。 39 睦美(むつみ) ♀ こわがりさん。 30
001 | 一美 | あー、美味しかったー!猪鍋(ししなべ)、最高に美味しかったー!あのお刺身もこんな山の中なのに、新鮮で美味しかったよね! |
双葉 | あんたはたくさん食べ過ぎ。あれだけ量あったのに最後の雑炊まで食べちゃうなんて、信じらんない。あんたの胃はどうなってるのよ! | |
美奈子 | ねえ、明日の行動、どうするー?計画書の通りに歩く?それとも寄り道する?私、お土産買いたいんだけどー。 | |
椎奈 | あー、やっぱり3番目の神社は行かなくて良いんじゃない?行くとなると、かなり遠回りになるよ? | |
いつみ | そうだね。あそこだけ見学場所から離れてるし。結構歩くと思うから、行くとしたら時間的に最後の方までいけるかどうか判らなくなるよ。 | |
美奈子 | ええっ!?やーよ!そこの神社、私が一番行きたかった所なんだから。お願い!せっかく来たんだから、寄ってよー。 | |
睦美 | あ、ねえねえ、お布団敷いてあるよ。仲居さんが敷いてくれたのかな。嬉しー。私、真ん中とったー! | |
双葉 | ちょっ!何勝手に真ん中とってんのよ!あんた寝相が悪いんだから、端っこ行きなさいよ。 | |
睦美 | えー!私、寝相悪くなんてないもん!双葉の方がひどかったじゃん! | |
010 | 椎奈 | もー、美奈子だけ行きたいんでしょ。仕方ないなぁ。その変わり、こっちのここの場所は特に絶対見なくちゃ損って訳でもないみたいだし、外すよ? 3日目に回しても良いと思うし。 |
いつみ | そだね。それよりこっちの工房の方が見所はあるかも。近くに地元の特産品のお店もあるし。ここ回って計画通りに行こう。 | |
一美 | 特産品?んね!それって食べ物?美味しいの!?お饅頭(まんじゅう)か何か? | |
美奈子 | 一美って、いっつも食べ物のことばっかり。食べてばっかりなのに何で太らないのよー…。 | |
一美 | えへへー。何か私、胃下垂(いかすい)?とからしくてさー。食べても食べても、太らないんだよねー。でも、その所為で冷え性だから、良い事じゃないんだけどねー。 | |
椎奈 | 胃下垂は下手すれば胃潰瘍や胃炎を引き起こすから、暴飲暴食は止めなさいって何度も言ってんのに…。 | |
睦美 | だからー、良いじゃない。真ん中でも!窓際なんて絶対いや!入口から一美、椎奈、いつみに私に美奈子、後は好きにしたら? | |
双葉 | 何言ってんのよ!こう言うのはジャンケン!あんた子供の頃から真ん中ばっかりじゃない。その所為で何度もあんたに蹴られたんだからね! | |
いつみ | こらー、そこ、うるさいぞー。隣近所に迷惑だろ。シーズンオフだからって、泊まってるのはボクたちだけじゃないんだから。 | |
美奈子 | そうだぞー。ご飯の時もご年輩のご夫婦居たじゃん。おじさん数人とかさー。結構人、泊まってたし、怒鳴り込まれたら双葉たちの所為よ。 | |
020 | 双葉 | だって、睦美が悪いのよ。いつもいつも真ん中でさ。たまには私だって真ん中に寝たいー!いつみの隣で寝たいー! |
いつみ | ……は? | |
美奈子 | ちょっと!何どさくさに紛れて告白してんのよ!あんたってば、抜け駆け!ルール違反よ! | |
睦美 | 何!?美奈っちもいつみに憧れてたの!?ずるーい!今更そんなこと言っても、いつみは上げないからね! | |
椎奈 | 上げないからねって…いつみは誰のもんでもないでしょうが…。 | |
いつみ | ちょ…。三人とも何言ってんの…。ボクはそんな趣味ないぞ…。 | |
双葉 | 私だってレズの気なんてないわよ。でも、いつみは女の子なのにかっこいいし、頼りになるし、優しいし、そこらの草食系の男よりずーっと上の存在なんだもん。 | |
睦美 | そうそう。いつみって、結構鈍感だよね。転校してきてからいつみ、女の子にモテてたのに、全然気が付いてないんだもん。 | |
美奈子 | バレンタインの時とかさ、同級生どころか後輩からもチョコもらってたじゃん?男子ども、影で涙してたしねーw | |
椎奈 | そう言えばそんなことあったねー。 同じクラブの男から、すっごい目の敵にされてたりとか、後輩の凄い可愛い女の子に告白されても、判ってるんだか判ってないんだか、「ありがとう」って笑っただけでそのままになっちゃったりとか。 |
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030 | いつみ | え…あれそう言う意味だったの?チョコもらって、ありがとって言ったらそのまま泣き出しちゃって…なんか周りの子がわたわたしてて…ボクも大会近くて忙しくてそのままにしちゃったんだけど…。え…まじで? |
一美 | あははー。いつみって天然なところあるもんね。男子に意地悪されたって言う記憶もないでしょーw | |
椎奈 | 意地悪されたってか、何かあれ?っと思うことも知らないうちに交わしてたりとか、後で考えたらそうだったのかも…って事がいくらでもあったわね。 | |
美奈子 | …ぷぷw 思い出した。高2の時、木村っていたじゃん?あいつなまじ成績良かったから変にプライド高くてさ、女の子にモテると勘違いしてて、痛い発言多かったよね。 で、バレンタインどころかちょくちょく後輩からプレゼントもらってたいつみに嫉妬して、色々姑息な意地悪してたじゃん。 |
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睦美 | 覚えてる覚えてる。良くいつみの持ち物隠してたりとか、事ある毎に突っかかってたよねー。 | |
いつみ | え?良く物がなくなるなとは思ってたけど…あれ、そうだったんだ? | |
椎奈 | あはは…やっぱりいつみってばそんなこと考えもしなかったんだw まあ、なくなる度にHR(ホームルーム)で手を挙げて何々が無くなったんだけど、誰か知りませんか?とか発言してたし、男子に嫌味とか言われても判って無さそうで、そのくせ痛い所をつくように返事しちゃうしw こっちが先生方に話そうと思っても、その前にいつみが解決しちゃうから、出番がなかったわね。 |
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美奈子 | うんうん。教科書にいたずらされて、落書きされたり破られたりしても、「これ、誰かのと間違って入ってましたー。それと、私の本が行方不明なんですけど、誰か知りませんか」とかにこにこしながら言ってたよね(笑) | |
双葉 | あれ、意地悪してた奴らばかりじゃなくて、先生も困惑してただろうね(笑)私たちもどうしたらいいのか、すっごい困ったもん(笑) 様子見ながら、あんまり酷かったら私たちでいつみを助けようね!って団結したんだよね。 |
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一美 | でもさ、そのおかげかどうか判んないけど、男子たちも2年の終わり頃には大人しくなってたよねー。うちのクラスだけじゃない?いじめが無くなったのって。 | |
040 | 睦美 | …そうだね。2年の終わり頃になった時の3組の学級崩壊はこっちもびっくりしたし。何が切っ掛けなんだっけ?3組の女子が自殺騒ぎ起こしたこと? |
椎奈 | その前から結構3組の女子たちの間でいじめ問題が頻発してたみたい。いじめグループが男子たち巻き込んで、被害者たちに乱暴したって聞いた。 | |
いつみ | あれはねー…。ひどいよね。いじめのリーダー格の子が有名俳優の娘だったとかで、担任と学年顧問がもみ消しに躍起(やっき)だったからなぁ…。 校長が被害者の子に申し訳ないって、公(おおやけ)にしたんだよ。 |
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美奈子 | うんうん。色々批判されたりもしたけど、あの時の校長先生には私、感謝してるな。 あんな事件にもなったのに、ちゃんと事実関係を明るみにしてくれて、フォローしてくれて、卒業するまでちゃんとしてくれたもん。 |
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双葉 | んだねー。良い先生だった。……って、何ちゃっかり布団に入り込んでんのよ!睦美ってば!ジャンケンだっていったでしょ! | |
睦美 | きゃー!良いじゃない、どこだってー! | |
双葉 | どこだって良いなら、端っこへ行けってのー! | |
睦美 | 端っこはいやー!怖いじゃない!変なの入ってくるかも知れないし、連れて行かれるかも知れないし、絶対いやー! | |
双葉 | はあ!?またそんなこと言いだして! | |
美奈子 | あー、よく言うよね。端っこに寝ていると、窓の外から黒い影が壁を通り抜けてきて、寝ている自分の上に覆い被さってくるとか、死んだ人間たちがうつろな顔をして団体で通り過ぎていくとか、手だけが伸びてきて、足を掴んで引きずっていこうとするとか…。 | |
050 | 睦美 | いやー!止めてよ!怖い怖い怖いー! |
椎奈 | こ、こら!静かに!回りに迷惑だっていったばかりでしょ。美奈子も変なこと言わないの! | |
一美 | あははー、そんなの都市伝説の類(たぐい)じゃない?ほら、良くみんなで集まったら恒例の百物語とかで話されるお話だよー。 | |
いつみ | 百物語…。まあ、みんな怖がらせようって言う作り話とかだし…。気にしなきゃ怖い事なんてないだろ? | |
睦美 | 怖いものは怖いわよ!やだ!絶対端の方なんて寝られない!端の方で寝るくらいだったら、みんなで起きてた方がマシよぉ!(グズグズ泣きながら) | |
双葉 | 泣き真似してもダメ!みんなもいつも睦美を甘やかしてばかりいないでよ!ますます性格我が儘になっちゃって、ルームメイトの私は大変なんだからね! | |
美奈子 | マンションの部屋のベッドは壁側にあるのに、なんで端っこが嫌なんだか。 | |
一美 | おお、美奈っち、なんかそれ真理をついた。そうだよねー。同じ壁側じゃん?何が違うん? | |
いつみ | いや、1人とか2人で寝る時は端とかそう言う概念はなくなるらしいよ。3人以上になって初めてその場に空間が出来て、『端』という言い方が出来るんだって。 | |
一美 | おおー、なるほど。さすがいつみー。物知り。 | |
060 | いつみ | で、その『空間』が出来上がると、色々な物を引き寄せる『場』が発生して、それに引き寄せられる『もの』があるってことらしいね。 |
椎奈 | 引き寄せられるものって? | |
いつみ | んー…まあ、いわゆる幽霊とか…?他の次元の存在とか…。妖怪とか…。 | |
睦美 | やだっ!そう言う話し止めてよ!みんな知ってるじゃない…私、見たくないもの見えちゃうって…(泣)だから端っこは嫌だって言ってるのにー(泣) | |
双葉 | あー、もう!判ったわよ!真ん中でもどこでも好きにしなさいよ!あんたが見えちゃう体質だって言うのは知ってるけど、いい加減慣れないものかしらねー。 | |
睦美 | 慣れるわけないでしょ!見えても何も出来ないし、怖いものは怖いんだから! | |
一美 | あれー?でも、睦美、今回は…。 | |
美奈子 | (一美の言葉を遮るように)ハイハイはいはい!もうそこまでにしなさいって。ほら、他の部屋に迷惑だって何度言ったら判るのー。 | |
双葉 | あんたがそれ言うか…。 | |
椎奈 | そうね。もう22時すぎてるし、明日も早いから、そろそろ休まない? | |
070 | 一美 | えー?早すぎるよー。22時なんて、いつもならまだ起きてる時間じゃんー。いくら何でも眠くならないって。 |
睦美 | 私先に寝る。何だかすごい寒気がするし、風邪引いたら明日困るもん。みんな起きてるなら起きてても良いけど、静かにしてよ。 | |
椎奈 | 私も寝るわよ?今日は結構歩いたから疲れちゃったし、起きててもここじゃ何をすることも出来ないでしょ。 | |
いつみ | 山奥の旅館だしね。土産屋さんとかは軒を連ねてたけど、コンビニも喫茶店もなかっただろ?外に遊びに行っても何もないし、この旅館の中にも遊び場はなかったよね。 | |
一美 | むー。温泉はすごく良いのに、遊ぶ所がないのはマイナスだなぁ。でも、まだ眠くないしー。 | |
双葉 | 一美、温泉もう一回入らない?私、寝る前に入って暖まりたいし。 | |
一美 | あ、じゃあ、行く行く。ここの温泉、肩こりにも効くんだよー。もう、毎日パソコンの前に座ってると、腰と肩に来ちゃってさー。 | |
いつみ | ボクも行くよ。夕方入ったきりだから湯冷めしちゃってるし、明日は早くにチェックアウトだから、入ってる暇なんて無いだろ? せっかく温泉来たんだから、堪能しなくちゃもったいないし。 |
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双葉 | 決まり!じゃ、今度は外の露天風呂行こうよ!夕方行った時は地元のおばちゃんたち入ってて行けなかったからさ! | |
一美 | そだねー。回りの景色は見れないかもだけど、行ってみたいよね。美奈っちはどうするー? | |
080 | 美奈子 | 私もいかなーい。今から入ってたらせっかく基礎化粧したのにまたやり直しだし。睡眠不足は美容の大敵なのよ。 それに、夜の外の露天なんて何があるか判んないし、いやーよ。 |
椎奈 | 男女別にちゃんと離れてたじゃない? | |
美奈子 | それでも嫌。良いから、いつみたちだけで行っておいでよ。私たちは先に寝てるけど。 | |
いつみ | じゃ、ボクたちお風呂いってくるから、美奈子と椎奈と睦美は先に寝てて良いよ。適当に寝る所開けといてくれれば良いから。 | |
睦美 | うん、行ってらっしゃい。 | |
椎奈 | お風呂に時間制限無かったと思うけど、あまり遅くならないようにね。明日は9時にはチェックアウトする予定だから、しっかり寝ないと辛くなるわよ。 | |
双葉 | りょーかい。じゃ、行ってくるねー。 | |
睦美 | 何だかホントに寒い…。ごめん、椎奈、毛布もう一枚あったっけ? | |
椎奈 | ん?ちょっと待って。押入にあったはず。風邪の引き始めかな?薬飲んどく?私持ってるから。 | |
美奈子 | 何?睦美、ちょっと、ほんとに顔色悪いよ?大丈夫?もうさっさと寝なさいって…。ほら、布団入って。 | |
090 | 睦美 | うん…。おやすみ…。 |
いつみ | (少し間を空けて)……んー…。 | |
双葉 | 何?いつみ、どうかしたん? | |
一美 | 誰もいない露天は貸し切りみたいでいいねー。星がきれーい。 | |
いつみ | ん、ちょっと気になっただけ。なんでもないよ? | |
双葉 | 気になったって何が? | |
一美 | なになに?またいつものいつみの感?いつみの感って、変に鋭い所あるもんね。…あふん…良いお湯ー。気持ちいー。 | |
いつみ | いや、感って言うか…睦美、寒いって言ってただろ?でも、部屋に帰ってくるまでそんなに具合悪そうでもなかったのに、ちょっとおかしいなって…。 | |
一美 | あやや……もしかして…睦美、また? | |
いつみ | …うん…あんなに怖がってたから、また何か引き寄せちゃったのかなーって…。 | |
100 | 双葉 | ……あの子のオカルト体質にも困ったものよね…。なんにも出来ないし、本人めっちゃ怖がってるのに、変なもの引き寄せたり見ちゃったり、体験しちゃったり…。 子供の頃から一緒だったけど、睦美の霊媒体質(れいばいたいしつ)って言うの?あれにはさすがの私でもどうしようもなくてさー…。 |
一美 | 困った困ったって言いながら、双葉ちゃんってば睦美のこと絶対見捨てないんだもんね(笑) すっごく怒ったりする割には、昔っから睦美のこと助けてたりするし。双葉ちゃんてばツンデレー(笑) |
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双葉 | な、何言ってるのよ!仕方ないでしょ!睦美のお母さんに頼まれちゃってるし、まがりなにりもあいつってば私の従姉妹(いとこ)なんだから! 従姉妹だから、仕方ないの! |
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いつみ | 一度ちゃんとした所で見てもらったら?睦美ってば、結構見ちゃう割にはそう言うの対処するようなこと、全然してないんだろ? | |
双葉 | そうなんだよねー。親父さんがそう言うのぜんっぜん信じない人でさ。昔っから、そう言う話すると怒り出すから、おばさんも睦美もなかなか言えないみたい。 でも、今のままじゃまずいなーって思うから、今度うちの本家の爺様に頼んで、話してもらうって言ってた。 |
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一美 | でも、睦美ってよく今回のこの旅行に来るの賛成したねー? | |
いつみ | ん?なんで? | |
一美 | だってここらあたり、昔は古戦場だったって言う所だよ? オカルト系の掲示板とかじゃ、ちょっと有名な所らしいし、睦美、そう言う曰く付きの所は今まで避けてきたじゃん?今回はよく来たなーって思ってさ。 |
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双葉 | ……ちょ…それなによ、睦美どころか私も聞いてないわよ! | |
一美 | あれ?美奈子から話し行ってない?睦美たち誘ったの美奈子でしょ?元々今回の計画立てたのって、美奈子からだったし。 | |
110 | いつみ | 美奈子ってば!自分がオカルト系大好きだからここの旅行に決めたんだよ! 言えば絶対睦美も双葉も来なかったろうし、椎名も反対しただろうから旅行行くにしても他の所になっただろうから、内緒にしてたんだ! |
双葉 | それで変な場所見学を組み込んでたのか! | |
一美 | やだ…てっきり知ってたのかと思ったー…。 | |
双葉 | んなわけないでしょ!あの子の霊感は本物だし、かといって霊能力者とかじゃない一般人だから、見ちゃうだけで何も出来ないんだし。 あの恐がりがこんな場所の旅行にのこのこ着いてくるわけないわよ! |
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いつみ | まったくもう、美奈子ってば。前々から曰く付きの有名な所に行きたがってたけど、騙し討ちみたいなことするなんて。 | |
双葉 | 美奈子も睦美の体質のこと知ってるのに、何考えてんだか!ほんと、自分勝手なんだから! | |
一美 | ダメだよー。美奈子ってば、お嬢様だから自分の思うようにいかなかったら拗ねるんだから。どうしてもここに来たいって言ってたし。 | |
いつみ | とりあえず、早く部屋戻ろう。何もなければいいけど…。 | |
双葉 | 古戦場跡って、本当の話?ありがちな話じゃなくて? | |
一美 | 本当らしいよ。戦国時代はここら辺で合戦があったって、ガイドブックにも載ってるし、第二次大戦の時もここら一帯、焼夷弾(しょういだん)とか落とされたって。 | |
120 | 双葉 | 戦争関連の跡地って言うのは、睦美が避ける一番の場所なのに。そう言う所の方が強く感じちゃうらしいのよ。 |
いつみ | なんか…やけに静かだね?まだ23時回った所だろ?一緒に泊まってるどこかの会社のおじさんたち、確か同じフロアだったよね? ボクたちがお風呂いく時、結構賑やかな声が聞こえてたのに。 |
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双葉 | もう寝たんじゃないの?止めてよ、いつみってば。変なこと言わないで。 | |
一美 | ただいまー…と。あ、もうみんな寝てるみたいだよ。 | |
双葉 | 睦美?…・ん、ぐっすり眠っちゃってる。何もなかったみたい。 | |
いつみ | そか、よかった。心配するようなこと、無かったみたいだね。 じゃあ、ボクたちも寝ようか?明日6時起きくらいだろ? |
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一美 | そだねー。さすがに疲れちゃった。私、端っこ行くね。 | |
双葉 | 明日朝起きなかったら、置いてくからね、一美。 | |
一美 | いやん、ちゃんと起こしてねー、いつみ。おやすみー。 | |
いつみ | はいはい。ちゃんと起こすから大丈夫だよ。って言うか、自分で起きろよ…。おやすみ。 | |
130 | いつみM | みんなぐっすり眠っていたはずの真夜中。何だかすごい得体の知れない気持ちの悪さでボクは目を覚ました。 |
睦美 | (うなされる感じで)ん……う、ん…。んんっ……。 | |
椎奈 | ん……睦美?どうかした? | |
美奈子 | (寝ぼけた感じで)ん…何?朝? | |
いつみ | 椎奈?…睦美、どうかした?具合でも悪そう? | |
椎奈 | ううん、熱はないみたいだけど、ひどくうなされてて。睦美、睦美? | |
美奈子 | 何?睦美うなされてるの? | |
双葉 | あふ……何?みんなどうしたの?え?睦美?ちょっと、睦美!? | |
睦美 | う…っ…ぁ…(がばっと起きあがって苦しそうに)はあっ!はぁ…はぁ…嫌…何だかすごく…すごく…嫌…。 | |
美奈子 | ちょっと、睦美!真っ青だよ?大丈夫なの? | |
140 | 椎奈 | 何か飲む?温かいお茶でも飲めば落ち着かない? |
睦美 | うん…ありが(何かに驚いたように)……ひっ! | |
いつみ | 睦美? | |
睦美 | ぁ…あ…あ…いやあぁぁぁっ!! | |
双葉 | ちょっ!睦美!? | |
睦美 | いやあっ!やだっ!いやーっ! | |
美奈子 | ちょっと!睦美!?どうしたのよ! | |
椎奈 | 睦美!?痛っ!そんなにしがみつかないで!何?どうしたって言うの!? | |
睦美 | あれ…っ…あれよっ!みんなあれが見えないの!?いやっ!怖い! | |
美奈子 | (少し怯えて)……ちょっと…何、あれ…。なんか…なんか…え…何…あれ…。 | |
150 | 椎奈 | ……え…人…?何…昔の軍人みたいな…。 |
いつみ | ボクにも見える…。ぼんやりとだけど、見えるよ…戦中の軍人の…幽霊…?…幽霊!? | |
双葉 | いやーっ!なんで!?なんで私にも見えるのー!? | |
美奈子 | やだっ!こっち来る!こっち来るー!嫌ーっ!怖い怖い怖いー! | |
睦美 | きゃーっ!やだ!怖いー!来ないで!来ないでー! | |
いつみ | あ…悪意はないみたいだけど…やだっ!気持ち悪い! | |
椎奈 | ひっ!軍人の後ろ!もっとなんかいる! | |
双葉 | やだー!もう怖い!やだやだやだー! | |
一美 | (がばっと起きあがり)うるさーーーーい!何騒いでんのよー!眠れないじゃないー!! | |
椎奈 | か、一美! | |
160 | 美奈子 | な…何暢気(のんき)なこと言ってんの!あんたあれが見えないの!? |
一美 | あれ?あれって何よー…。 | |
双葉 | 後ろ!あんたの後ろだってば!すぐそこにいるじゃない! | |
一美 | んー?後ろ? | |
睦美 | いやー!怖い!もうやだー!何とかしてー! | |
一美 | ………何もないじゃない。何言ってんのー? | |
いつみ | ちょっ、一美…そこにいる軍人たち…見えないの!? | |
一美 | 軍人ー?……………………どこに? | |
椎奈 | どこにって…一美のすぐ後ろにいるじゃない…! | |
一美 | ……んー?いないわよー? もー。いくらここが昔戦場だったからって、今頃軍人なんているわけないでしょー。 いたとしても、こーんな観光地になっちゃって、でも夜はなーんもない寂しい所にいたってつまんないじゃないー。 |
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170 | 双葉 | ちょ…一美? |
一美 | もしいたとしてもさー、なんだっけ。歌にあったじゃん。お墓の前で泣かないでー、お墓には自分はいませんー。千の風になってなんちゃらーって。 まあ、千の風になるんだったら、こんな所でくだ巻いてないで、お墓に帰るなり、家に帰るなり、さっさとお嫁さんや息子や娘や孫の顔を見に行くなりすればいいと思うんだよねー。 その方が家族にとっても良いじゃなーい? 見知らぬ私たちの顔見て怖がらせるよりはさー、そっちの方がよっぽど建設的じゃーん(笑) |
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美奈子 | 建設的って…。 | |
いつみ | あ……軍人さんたちが…。 | |
椎奈 | き…消えてくね……。 | |
一美 | 奥さんや子供の顔見て安心したら、さっさと成仏して天国でも行ったらいいと思うんだよねー。 後はあの世から見守っててくれてー、もし何かあったらちょっとだけ手助けしてくれちゃったりしたら、世の中良い方向へ進むんじゃないー?(笑) |
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双葉 | あ、消えた…。 | |
一美 | ん?何?何が消えた?電気最初から消えてるよ? ていうかー、まだ眠ーい。まだ朝じゃないんでしょ。もうちょっと寝かせてよー。もー、途中で起きるの嫌いなのにー。 今度騒がしくして起こしたら、怒るからね!朝、ちゃんと起こしてね! おやすみ! |
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椎奈 | う…うん。おやすみ……。 | |
双葉 | これって…助かった…って言うのかな…。 | |
180 | 美奈子 | わ、判んないけど…もう何も見えないし…もう何も出ないよね? |
睦美 | ……みんなにも見えてたから判ったと思うけど…軍人さんたちの後ろに侍みたいな落ち武者みたいな、そんな人たちもいたよね…。 あの人たち、消える時すっごく申し訳なさそうな顔して消えてったけど……一美の説得に納得しちゃったってことなのかな…。 |
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椎奈 | 判んないけど…今日ほど一美って呆れるほど天然だと思ったことはないわ…。 | |
いつみ | …忘れてたよ…。一美って……霊感ならぬ零感な子だったんだ…。 | |
5人 | はー………(溜め息) | |
一美 | (少し間を空けてから) うはー!良い天気ー!絶好の行楽日和!んーっ!空気も美味しいーっ! | |
いつみ | うう…眠い……。 | |
睦美 | あの後も怖くて怖くて…余りよく眠れなかった…。 | |
美奈子 | 起きてすぐネットで調べたんだけどねー…、ここの旅館ってオカ板(おかいた=オカルト掲示板)では出るって有名だったみたい…。 何でも、季節によって出たりでなかったりらしくて、その時期になればその話題で騒がしいんだけど、はずれちゃうとぱったりらしくて…。 今回はずれ時期なはずだったんだけど、なんでか出ちゃったみたい…。 |
|
椎奈 | 美奈子!あんたってば、最初から知っててここ誘ったの!?冗談じゃないわよ!?一美のおかげで事なきを得たけど、何かあったらどうしてたつもり!? | |
190 | いつみ | マジで洒落(しゃれ)にならないよ…。あの幽霊さんたち、そんなに悪意は感じなかったから良いけど、これが悪霊だったりしたら、今頃ボクたちどうなってたか…。 |
美奈子 | ごめんなさいぃ…。 でも、でもね!出るって有名なのは今日行く予定の神社でね!まさかこの旅館もそうだったなんて、ほんとに気が付かなかったのよー。はずれ時期だから話題になってなかったみたいでー…。 |
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双葉 | その神社、却下だからね!絶対行かない! | |
睦美 | 私も嫌っ!行くなら美奈子1人で行きなさいよね!あと、美奈子が行こうって予定した所、全部行かない!絶対行かない! | |
椎奈 | こればかりは私も双葉たちに賛成。どうせ変な掲示板で集めた情報の所、回ろうって予定だったんでしょ…。 | |
美奈子 | うう…。判ってるわよぉ…。さすがに私も懲(こ)りたもん…。昨日は怖すぎた。もう二度とあんな体験したくないから、変な所は行かないようにします…。 | |
いつみ | でもさ、あの軍人や落ち武者さんたちって、成仏したのかな? シーズンで出るって噂の旅館って、結構そう言う噂を目当てに来る人たちで賑わうんじゃないかと思うけど…成仏しちゃったらもう出ないだろうし…。 ある意味ボクたち、営業妨害しちゃった? |
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睦美 | 営業妨害でも何でも、こんな怖い所二度と嫌よ!幽霊目玉にして営業する旅館なんて、最悪! | |
椎奈 | そうね。判ってて営業してるなら、ちょっと悪質だと思うわ。よく今まで問題にならなかったなって、そっちの方が気になるけど。 | |
双葉 | とにかく、今回のことではっきりしたのは、美奈子には絶対旅行の計画は立てさせちゃダメってことだよ。 まったく、楽しいどころじゃない、変な思い出が残っちゃったじゃない。 |
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200 | 美奈子 | くすん…反省してるってばぁ…。そんなに怒らないでよぉ…。 |
いつみ | みんな寝不足っぽいけど、大丈夫か?今日の予定早めに切り上げて、次のホテル早めにチャックインしようか。 | |
睦美 | その方が良いかも…。次は何もないこと祈るわ…。また何かあったら、もう帰る…。 | |
一美 | もーっ!みんな何やってるのー!こんな良い天気になったんだから、旅行第2日目!楽しまなくちゃ損でしょー! ほらほら、行くよー! |
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双葉 | うう…人の気も知らないでー…。一美ってば、ほんと幸せよねー…。 | |
一美 | さっ!今日も張り切って行きましょー!美味しいものと綺麗なものと、もしかしたら素敵な出会いが待ってるかも! それを期待して、さっ、しゅっぱーつっ!オーッ! |
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206 | 5人 | (疲れたように)お…オー……。 |