愚かなヒトとアメリカン・ピット・ブル



つい先日、ドイツでは犬に関する新しい法律が出来たそうです。
国によって、内容が違いますが、特定の犬種を「危険犬種」として、規制を計ろうとする法律は、イギリス、フランス、ドイツとヨーロッパに広がりつつあります。
こういった法律に対して、様々な意見がありますが、私は、この法律を考えていく為には、まず、アメリカン・ピット・ブルという犬種に対しての認識が必要なように思いました。

ドイツでの法律は、6歳の子供がピットブルに殺されたことから活発化したそうです。
イギリスでの闘犬禁止法の引き金は、6歳の少女がピットブルに襲われ大けがをしたことからでした。
ブルース・フォーグル氏の犬種大図鑑によれば、既に、スウェーデンでは、アメリカン・ピット・ブルは締め出されているとのことです。

ここまで、多くの国で話題になり、他の犬種まで巻き込んでの法律騒ぎになっている、「アメリカン・ピット・ブル」とは、どんな犬種なのでしょうか。

私には、限られた資料しか集められませんでした。

この犬には、似た犬で名前が違う犬達がいます。
「スタッフフォードシャー・ブルテリア」「アメリカン・スタッフォードシャー・テリア」そして、「アメリカン・ピット・ブル・テリア」です。
特に、アメリカン・スタッフォードシャー・テリアと、アメリカン・ピット・ブル・テリアは、見た目は、瓜二つの、そっくりの犬です。
でも、この3犬種は、似て非なるもので、大きな違いがあるのです。
何故、この様なことが起こったのでしょうか。そして、どこが違うというのでしょうか。
それには、まず、この犬種の歴史から振り返らなければならないそうです。

ピットブルは、19世紀初頭に、英国にて、スタッフォードシャー・ブル・テリアと、ブルテリア(共に英国原産の犬)によって、原型が作出され、1870年頃、米国にもたらされ、改良(良??)して、ピット、闘犬として使われている犬です。

ゴールドラッシュの頃、西部に流れ込んだ、ならず者たちは、飲む打つ買うに走り、その中で、闘犬は、ほんの10坪ほどの場所で出来る格好の賭事であり、血気盛んな男達の楽しみになっていったのだそうです。
ただ、強くする為、闘犬としての性能、攻撃性のみを重要視して作り替えられた、アメリカのアンダーグラウンドで長い歴史を持った犬種なのです。

健全な犬の育成を目的とした、AKC(アメリカンケネルクラブ)は、この犬の公認を拒否しました。
そこで、AKCとは別のUKCというマイナーなケネルクラブが設立されて、その公認第1号が、このピット・ブルなのです。

ブルドッグという犬種が、闘犬が禁止されてから後、凶暴な性質の除去に努め、50年かけて温順な性格に作り替えられた様に、ブル・テリア、スタッフォードシャー・ブル・テリアも、次々と改良の結果、家庭犬として、復活していきました。

米国でも、動物虐待にあたる、闘犬のあり方、ピット・ブルの増殖に歯止めをかけようとする動きがあって、ピット・ブルの闘争心の排除に努めて改良した、「アメリカン・スタッフォードシャー・ブル・テリア」を、1936年にAKCが公認しました。
ただ、アメリカン・スタッフォードシャー・テリアという名前は、あまりにも二番煎じでとってつけたような名前です。又、この名前を広めるには既に、ピットブルという名前が浸透しきってしまっていました。

ですから、このややこしい3つの犬種は、同じ様な容姿と素質を持ちながら、下記の違いがあります。

*スタッフフォードシャー・ブルテリアとアメリカン・スタッフォードシャー・テリアは、それぞれのケネルクラブ、FCIで公認された犬種であり、アメリカン・ピット・ブル・テリアは、公認されていない犬種です。

*スタッフフォードシャー・ブルテリアとアメリカン・スタッフォードシャー・テリアが、闘犬を否定し、闘争本能を抑えるための改良をくわえた犬種である一方で、アメリカン・ピット・ブル・テリアは、凶暴さを増強させる為に作り替えたピット(闘犬)なのです。

闘犬は、昔の出来事なのではありません。
99年8月に、米国カリフォルニア州の闘犬のプロモーターが、55頭ものピットブルを扱い、重罪になりました。
また、日本でもそうですが、米国でも、法律的にも、賭事にしなければ認められている州や軽犯罪にしかならない州が多くあります。

そして、法律で禁止されたからといって、無くなるということでもありません。
「アニマル・ホスピタル」という本は、厳しい規制を設けている国イギリスで、王立動物虐待防止協会(RSPCA)の直営するハームズワース病院の院長さんが、書かれた本ですが、この中にも、何度も、闘犬として使われ、見るに兼ねない大けがをしてやってきた、ピット・ブルのこと、その訴訟のこと等が、記載されています。

アメリカン・ピット・ブルは、闘犬として生まれ、そして、生存し続ける限り、アンダーグランドで、戦わされ続けるのです。

又、ヨーロッパでの規制が厳しくなる中、「闘犬を認めている無法国」として、多くのピット・ブルが日本に流出しています。
一般のペットショップ、そして、インターネットにて、販売がされています。

ピット・ブルは、どのような犬なのでしょうか。

「世界の犬種図鑑」の中で、エーファ・マリア・クレーマー氏は、「犬だけでなく人間にも牙をむく怪物に仕立て上げられた」犬と書き、ブルース・フォーグル氏は、「ヒステリーといえば、この犬種の名前が浮かぶ」と書かれ、「悪いのは、動物だけでなく、人間までも攻撃する闘犬用のピット・ブルをつくり続ける飼い主」だとしています。誠文堂新光社の「犬の百科」の中では、「闘争本能に磨きをかけられた、流血のスポーツが育てた」犬と書いています。

先日のセミナーの中で、スー・スタンバーグ氏が、自分のシェルターの5頭の内4頭が、ピット・ブルと言われていたこと、シスコのシェルターSPCAで、他の犬種と比べ、ピット・ブルの安楽死の頭数が多いこと、シェルターで里親希望者の為に、ピット・ブルに対する飼い方のパンフレットを作っていること・・・そんな幾つかは、ピット・ブルが安易に飼える犬ではないことを物語っているように思います。

・闘争本能を強める改良と、闘犬を否定した改良のいたちごっこ

 ブルドッグを温順にしていくヒトがいて、それより闘犬としてふさわしい、スタッフフォードシャー・ブルテリアを作り上げるヒトがいる。
そして、それよりも、もっと闘争本能が強い、「アメリカン・ピット・ブル」が生まれて、それもまた、アメリカン・スタッフォードシャー・テリアとして、改良を試みる。
このいたちごっこは、いつまで続くのでしょうか。
そして、闘争心の強い犬になればなるほど、その改良に無理は生じないのでしょうか。

スタッフォードシャー・ブルテリアは、「世界の犬種図鑑」の中で、「頑丈な顎と無尽蔵な闘争意欲を備えた機敏で逞しい犬」と書き、「人間に対しては友好的で忠誠心がある。」でも、「犬との喧嘩が飯より好き。死んでも後へは引かない」と書かれ、「犬種大図鑑」では、「ジキル博士とハイド氏のような二重人格の犬」「家族だけでなく見知らぬ人にも愛情を示す」けれど、「ひとたび他の犬や動物を目にすると、正反対の性格になる」「相手を殺したい欲望を抑えきれなくなると、一転して凶暴性を示す」と書かれています。アメリカン・スタッフォードシャー・テリアも、同じ様な記述です。

長い年月をかけて、ヒトは、より穏やかな犬に改良していくのでしょうか。

矛盾する改良を双方でし続け、法律も強化され、またその反動がありを繰り返されて行くのでしょう。
こんな、無意味ないたちごっこに、永遠に犬達は、付き合わされて行くのでしょう。

何だか、こんないたちごっこは、犬だけではなくて、人間社会そのものの様な気がしてしまうのは、私だけでしょうか。
そのいたちごっこは、どこに進んでいくのでしょうか。

そして、何の罪もない、ピット・ブルは、闘犬として、ヒトの為に凶器として改良され、存在する限り、戦わされ賭博に使われ、又、各地で多くのヒトに対する事故を引き起こしてしまうのでしょうか。
だからといって、個体差を無視し、暖かい愛情の中で育った穏やかな子も、全てピット・ブルという名前の元にひとくくりにされて、差別的な目を向けられるのも違うと思います。

ピットブル・・・。その誕生もそして生存することも悲劇な犬。
ただただ、色々なことを考えさせられしまいます。


参考資料

・米国西海岸ペット動物実体レポート 社団法人日本愛玩動物協会 「この犬をどうする!ピットブルと米国社会」高田進
・愛犬ジャーナル2000.4 「犬に魅せられた人びと120」 大宮巨摩男
・愛犬ジャーナル2000.8 「犬に魅せられた人びと124」 大宮巨摩男
・アニマル・ホスピタル デビッド・グラント著 竹田とし恵訳  平凡社 
・世界の犬種図鑑 エーファ・マリア・クレーマー著 誠文堂新光社
・犬の大百科  アン・ロジャーズー=クラーク&アンドルー・H・ブレイス編
・犬種大図鑑 ブルース・フォーグル著 ペットライフ社
・セミナー 「シェルターワークと社会復帰に向けての評価とトレーニング」講師スー・スタンバーグ氏