股関節形成不全の予防と治療方法について

友人の犬のCHDのことで、西山裕子先生にご相談したことを中心にしてご紹介させて頂きたいと思います。
その子は、ラブラドール牡、当時約1才でした。
私達は、ペンヒップの検査の結果、手術を薦められて、決断できずに悩んでおりました。
西山先生のアドバイスはとても参考になりましたし、考えるきっかけを与えて頂きました。

私たちは、
予防手術
全置換手術
体重制限や運動方法やサプルメントなどで、保護とケアをすること。
この3つのどれを選択するかに悩んでいました。
お返事を中心にして書いていきます。

◆  CHDの手術について 

CHDの手術は、人工関節を入れる手術の他にもいくつかあります。

1。大腿骨頭を傾ける手術ー股関節部分の頭の骨の角度を調節し、不安定にゆるんだ関節部分を安定させるもの。(予防的手術)

2。骨盤の部分切開術ー足ではなく、ソケットにあたる骨盤の手術。(予防的手術)
骨盤を3ケ所切り、股関節の部分の角度を変えるもの。
股関節部分により深くソケットがかぶるようになり、安定した股関節ができる。

3。恥骨筋切除術ー足の付け根の筋肉と靱帯をとり除く手術。(緩和敵手術)
関節があまりひっぱられなくなり、痛みが緩和される。

4。大腿骨頭除去手術ー大腿骨の頭をそっくりとり除く手術。(救済的手術)
関節炎の痛みがなくなる。

5。人工股関節の埋め込み手術。(再建的手術)
大腿骨頭をとり除き、新しい人工関節を変わりに埋め込む。

この中で、1と2の手術は、予防的手術とされています。
CHDの症状が表れる前にします。

3、4、5は通常CHDの症状が表れた後、治療として行います。
またこのうち、4と5は体の一部をとり除くことから、米国では、最後の手段、選択として行われているそうです。

それぞれの手術は、年齢、体重、症状、など、様々な要因で決められていきます。
値段も様々、またそれぞれ利点と欠点があるそうです。

予防手術について 

アメリカでも未だに大く意見が別れていて、結論も出ていない段階だそうです。
OFAやペンヒップで診断したCHDと、臨床症状が必ずしも一致しないことが大きな理由だそうです。

CHDは遺伝的な要因の他にも、発育の仕方、その犬の住む環境や運動の程度などが影響しています。
CHDの遺伝子を持っていながらCHDの症状がでないようにする、なるべく軽くすむようにするにはどうしたらよいか、様々な研究がされていますが、本当のところはよくわかっていないそうです。
確かにレントゲンやペンヒップで形成不全が確認された場合、その多くは早かれ遅かれ症状が出ますが、どれだけ痛みがひどいかというのも、必ずしも形成不全の度合いに比例していません。
レントゲンでそれほどひどくない子でも、非常に痛む場合もあり、その逆もありますよね。
それゆえ、予防的手術は意味がないという声があるそうです。

ただ、だからと言って必ずしも予防手術が無意味ということではなくて、2の手術は大掛かりで大変だけど、症状(関節炎や痛み)がない、若いうちにこの手術をすると、股関節はとてもしっかりとして、将来症状が出る可能性を大きく下げるそうです。
ただ、可能性としては、手術をしなくても、晩年はそれほど痛まないで問題ないかもしれないこともあることです。

米国では、4と5は最期の手段としての手術と認識されているそうです。
CHDの痛みも、薬ではどうしようもなくなった段階で行うのが普通だそうです。

合併症、人口骨頭の寿命、ルーズイングについて 

大きな手術なので合併症のことや、人口骨頭の寿命や、ルーズイングが起きないかどうかもお聞きしました。

人工関節にも寿命があるそうです。
材質は年々よくなってきているそうですし、手術方法でも変わってくるそうですが、やはり寿命があるそうです。

ルーズィングや術後については、その犬によるとのお返事でした。
術後のルーズィングの一般的な要因として、技術的な部分と感染症が大きく、外科医の経験で非常に左右される手術なのだそうです。(「増加する関節疾患へのアプローチ」Hamish R.Denny MA.,Vet MB.,PhD,.DSAO.,FRCVS 永岡勝好 CAP2000JANUARY)
術後の患者の管理も大きく影響を受けるそうです。
レントゲンで様子をみながら、運動量を決めるのが普通だそうです。
基本として、関節にあまり苦しい負担をかけるべきではないが、関節のまわりの筋肉はなるべくあったほうがいい、ということ。
水泳でパドリングをするのは理想的な運動だと聞きました。
ジャンプなど過激なのはよくないそうです。

術後感染、ゆるみ、くたびれ、不適当な関節のかみあい、骨盤の痛みなど、合併症の危険があるそうです。
もし失敗したら、すでに大腿骨頭はなくなっているので、悪くても元の関節がいい、と後悔してもどうしようもなりません。

術後感染については、股関節という密閉された場所での手術ですから、ものすごく気をつけなくてはなりません。
骨や軟骨に細菌が感染すると、感染の排除は非常に困難になるそうです。関節軟骨表面は無細胞性で細菌の増殖に対して抵抗がなく、骨の微細な管くうに細菌が入り込み、長期間感染が持続してしまうそうです。(「関節外科における無菌手術」 山下和人、泉澤康晴、小谷忠生 SURGEON1より)

アメリカでは、大掛かりな手術室があり、そこは他よりも高圧にして雑菌が入らないようにし、手術の前日は完全に手術室の出入りを禁止し、フィルターでオペ室の空気を洗浄巡回します。その手術室は無菌を保つために、通常の手術室とは別の、特別なものです。犬はもちろん、2週間前から抗生物質を服用し、ノミなんかもちろん、皮膚や耳の感染も事前に完全に治療してから臨みます。歯石もきれいにしてからです。ですから、犬も飼い主も数カ月前から準備し、完全に無菌状態に近い状態でのぞむそうです。

人工関節が寿命になったり、合併症を起こした場合、もう方法はないので、安楽死というのが一般的なのだそうです。
ですから、米国では、最終の手段として手術を考えられているのだそうです。

予防手術の時期について 

予防手術については、日本の手持ちの資料に、

・3点骨盤骨切術、転子間骨切術は、若年齢(9ヶ月未満)の子に対して、予防的に行われる手術で、

・骨格形成が終了した犬(10ヶ月〜12ヶ月以上)で、DJD(変形性関節症)を伴った病気の進行した段階では、

*緩和的あるいは救済的
・恥骨筋手術
・大腿骨頭切除による関節形成術
*再建的手術
・股関節全置換術

を行う。(PROVET1998臨時増刊号 股関節異形成 原 康)

という記述があったのですが、これについて、お聞きしたところ、

基本的には間違いではないそうです。でも、その犬や人によって変わってくるそうで、最近アメリカでは、3点骨盤手術は一歳以上の子でもやる外科専門医が増えてきているそうです。

 予防と治療についてのまとめ 

一般論として、まとめて下さったことを、最後にご紹介します。

CHDのアプローチとして、アメリカで一般的なのは、

1.まずCHDの両親を持つ犬、CHDの家系の犬は絶対に買わない。
OFAでエクセレントとランクされた親犬しか考慮しない。
(例えレントゲンでエクレセントでも、もちろん、CHDになる可能性はあるということを理解する)。

2.スロー発育曲線にするよう心がける。
Large Breed dog food を食べさせる。

3.適度な運動、得に関節の上部の筋肉がつくように心がける。

4.興味があれば、予防手術をする。(上記の手術1か2)

5.体重コントロール。太り過ぎに注意。

6.症状が軽くでてきたら、グルコサミン等を試す。脂肪酸サプルメントも効果的。

7.この段階では、特に股関節の柔軟体操、軽い定期的な運動、特に朝の運動が奨励される。

8.冬は暖かく保つ。屋外犬は夜だけでも室内で寝るように。

9.痛みが出てきたら、内科療法開始。(抗炎症薬)。
ステロイド、非ステロイド、アスピリン系、非ピリン系など各種。
ステロイドはなるべく慢性に使わないようにする。

10. いよいよひどくなってきたら、各種痛み止めも併用する。

11. 手術(上記3、4、5)をオプションとして考慮する。

というのが、一般的なのだそうです。

日本の資料にも、

人工骨頭の術前の評価として、「動物が無症状の場合は、実施を強要するべきではない。」(SURGEON1股関節全置換術)と、書かれていましたし、

MVM 1994.9の「犬の股関節形成不全(2)」の中で、種子島貢司先生は、

・「治療にあたる上で犬の股関節形成不全を持つ多くの犬が痛みによる臨床症例を示さない」こと、
・症状を示す場合も、「一般にはわずかであったり間歇的」であること、
・「強い痛みが長期間続くことはあまり多くないこと」

を書かれていて、股関節形成不全と診断された76%が重い症状を認めないとあります。
そして、この76%に対しては、いかにコントロールするかであり、中〜重い症状である24%に対して、どうしていくかということで、内科療法、外科療法が述べられていました。



  この資料は、最初に書きました通り、西山裕子先生に、ご指導頂いたことを中心に書かれています。