癌の予防と早期発見

死因のトップは、癌

1998年にマーク・モーリス基金が行った、一般のペットにおける大規模の調査によると、犬猫の死因のトップが癌で、犬の47%、猫の32%にのぼります。ゴールデンにおいては、56.6%にもなります。これは、ヒトよりずっと高い率です。

年齢

高齢になるにつれ、癌の発生のリスクが高くなります。
しかし、犬の癌は、若齢犬でも発生します。(骨肉腫、横紋筋肉腫など)若齢での癌は、進行も早い傾向があります。
特に、中〜高齢になったら、「がん年齢」であることを意識し、半年に1度以上の、血液検査、尿検査、エコー検査などの定期検査をしましょう。

犬種

腫瘍の種類や発生部位によって、好発犬種は異なります。米国での統計によると、癌での死亡率は、ゴールデンが56.6%でトップ。ボクサー51.1%、シェパード36.7%、ラブラドール30.9%、ロットワイラー28.2%の順でした。
安易な繁殖による犬種の乱れも、病気の発生に関係していると思われます。
ダックスは、本来リンパ腫の発生の少ない犬ですが、日本においてのみ、M・ダックスの消化器型リンパ腫は多発し、平均2.7歳という若齢で発生しています。
悪性組織球症というがんは、近年、ゴールデン、フラットに多発しています。
鼻腔内腫瘍は、シェルティなどの鼻がながい犬に多く、ラブには肥満細胞腫が多いですし、パグは多発性肥満細胞腫などのがんが多く見られます。
それぞれの犬種に多いがんを事前に調べ、入念にチェックし、早期発見に心がけましょう。

去勢・避妊

避妊・去勢は、犬猫共に、発生率の大変高い、幾つかのがんの大きな予防になります。

★雌犬

乳腺腫瘍、卵巣腫瘍(顆粒膜細胞腫、腺腫、線維腫、腺癌など)、膣腫瘍(平滑筋腫、線維腫など)、子宮腫瘍(腺癌、線維腫、平滑筋腫など)

乳腺腫瘍は、犬でもっとも発生頻度の高い腫瘍で、4歳齢以上の犬に多発します。
そのうち悪性の比率は50%です。またそのうち半数が多臓器への転移を起こします。
最初の発情前に避妊手術を行えば、乳腺腫瘍の発生率を1/200まで抑えることができます。
1回目の発情後では、1/12、2回目の発情後では1/4に発生率が低下します。

★雄犬

精巣腫瘍(セルトリ細胞腫、ライディヒ細胞腫、精上皮腫)、可移植性性器肉腫、肛門周囲腫

肛門周囲腺腫は、未去勢雄に多発します。
セルトリ細胞腫は、潜在的に悪性で、エストロジェンホルモンを分泌する細胞が精巣内で 異常増殖し、過剰のホルモンを生産することで犬に害を及ぼし、 血液を造る骨髄を抑制して、悪性貧血から死に至ることも少なくありません。
生後8〜10週齢までに陰嚢内に精巣が触知できない、潜在精巣の犬では精巣腫瘍になる確率が高く、セルトリ細胞腫では正常犬の23倍、精上皮腫では16倍になります。

★雌猫

卵巣腫瘍、子宮癌、乳腺腫瘍など
また、発情に関連して雄犬との交配などで、FIV(ネコエイズ)や FeLVに罹患する可能性が高くなり、FeLVに罹患したネコは、白血病、リンパ腫の発生率悪性度が高くなります。
乳腺腫瘍と避妊の関係は、6ヶ月齢前に避妊手術を受けた猫は未避妊の猫に比べて乳腺癌へ発展するリスクの91%の減少が見られ、1歳までに避妊手術を実施した猫は乳腺癌へ発展するリスクが86%減少しました。

★雄猫

セルトリ細胞腫、睾丸腫瘍、精巣上体腫瘍などの腫瘍
未去勢の雄猫は、他の猫との喧嘩や外傷、性行為により、FIV(ネコエイズ)や FeLVに罹患する可能性が高くなり、FeLVに罹患したネコは、白血病、リンパ腫の発生率悪性度が高くなります。

避妊・去勢をすることで予防できるがんがあること、そのことを、元気な若い、わんにゃんと暮らしていらっしゃる飼い主さんは、どの位、意識していらっしゃるのでしょうか。
がんの怖さを知り、予防できるがんがあるのなら、防いであげる配慮をされることは、大切と思います。

早期発見のために

下記のような症状は、要注意!!!

*病院で治療を受け、一般的な対症療法(抗生剤、消炎剤など)に反応しなかったり、一時的に回復しても再発したり、難治性のものは、要注意です。

*慢性的な体重減少

中高齢の動物で慢性的な体重減少が確認された場合、全身性疾患、特に悪性腫瘍の可能性が高いので、精密検査を受けましょう。
がんによる全身の不良な状態を「癌性悪液質」といいます。好物しか食べない、嗜眠、体重減少などが見られる場合、癌性悪液質のことがあります。

*以前から存在した腫瘤が急速な肥大
以前からあった腫瘍が、急速に大きくなった場合、肥満細胞腫などの悪性腫瘍である可能性があります。
以前に「脂肪腫」と診断を受けていても、再度の検査で脂肪組織内に肥満細胞腫がみつかるケースがあります。
針生検では、限られた情報しか得られないこと、また、腫瘍自体が、悪性に転じたことなどが考えられます。
「脂肪腫」と診断を受けたものであっても、全身のしこりが、どこにあって、どの程度の大きさで、いつ診断を受けたか。マップを作って、定期的に大きさや状態の変化を確認しましょう。
大きさの変化や、状態の変化があった場合は、1度検査を受けていても、すぐに、再度検査診断をして頂きましょう。

*大きさが変化する体表腫瘤・・・肥満細胞腫
肥満細胞腫は、「偉大なる詐欺師」と言われるほど、見た目での診断がつきにくく、また、炎症の程度によって大きさが変化したりします。

*胃腸障害を伴う、多飲・多尿、高カルシウム血症
リンパ腫、多発性骨髄腫、肛門嚢腺癌、甲状腺癌、胸腺腫、乳腺癌などは、随伴症候群として高カルシウム血症を引き起こす。

*再発性、難治性の膀胱炎、血尿

*中〜高齢に発生した慢性の嘔吐・下痢で、治療に対する反応の乏しいもの
対症療法での反応が乏しい、慢性的な胃腸障害には、消化器型リンパ腫、腺癌、肥満細胞腫、線維肉腫などのがんを考慮に入れた検査をしましょう。

*鼻からの出血、鼻汁
片側性鼻症状、再発する鼻出血、突然のいびき発症、鼻症状の犬に口蓋下垂などで、あてはまるものがあれば、要注意です。
一般の動物病院にて、抗生剤やステロイドで、様子を見るケースも多く、これらの薬で、一旦は症状が消失する場合が多く、飼い主も安心をもってしまいますが、その後再び再発をみます。
「片側性」
ウィルス性鼻炎に続発する細菌性鼻炎では、私達の風邪と同じように、両側から鼻汁が出たり鼻出血が起ります。
「片側性」の症状の場合、鼻腔内腫瘍に、十分注意を払う必要があります。
鼻汁、鼻出血がなく、いびきだけの症状の場合もあります。

*対症療法に反応が乏しい、跛行
レントゲン写真で問題を検出できず、カルプロフェンやメロキシカムなどの比較的鎮痛効果の高い薬剤に対して反応が乏しい場合、悪性腫瘍の可能性もあります。
初診でのX腺撮影では異常が見つからない場合で、数週間後には病変がはっきり確認できる場合もあります。

*不明熱
不明熱が悪性腫瘍によって引き起こされることがあります。
感染とは無関係で、腫瘍から放出されるサイトカインの起因であることが多い。
101頭の犬の不明熱を調べた結果、10頭に悪性腫瘍が認められたという研究があります。

*口腔内の潰瘍性病変
高齢猫の局所的口腔内潰瘍は、扁平上皮癌の可能性があります。

食欲不振、体重減少などの場合でも、口腔内の検査をして頂くこと

*猫(特に日光浴をしている白猫)の鼻鏡の変化
日光浴の好きな鼻の白い猫の、慢性痂皮は、扁平上皮癌の可能性があります。

*未去勢の雄犬の睾丸の肥大
高齢動物の精巣が左右非対称であつたり、形がいびつである場合、精巣腫瘍の可能性が高いです。

身体検査

*丁寧な身体検査によって、体表腫瘤の早期発見を心がける。
*体表リンパ節をすべて触れてチェックする。
*口腔内は、歯茎をめくって、最後の臼歯まで見ること、口の奥、のどのほうまでチェックすること。
悪性黒色腫・・・黒いとは限らない。3頭に1頭は無色性
*乳腺のしこりのチェックは、犬を横にして、一つ一つを丁寧に触れる。
1つでもしこりを発見したら、乳腺部分を剃毛して、全ての乳腺をより丁寧に触診
乳腺部分の腫瘍であっても、乳腺腫以外の肥満細胞腫などの悪性腫瘍であることも考えられるので、針生検をしてもらうこと
*甲状腺のチェック
*肛門周囲部の腫瘤もチェック

体表腫瘤に対してのこんな診断には要注意!!

*検査もしないで、
「様子を見ましょう」
「今後大きくなるようだったら、検査しましょう」
「脂肪腫だと思いますよ」
「ただのイボでしょう」

生検が大事!!!!

CBC

*貧血・・多くの悪性腫瘍
*赤血球増多症・・・リンパ腫、腎臓腫、鼻腔内線維肉腫など
*好中球増多症・・・リンパ腫他、多くの悪性腫瘍
*血小板減少症・・・リンパ腫、肥満細胞腫、血管肉腫、鼻腔内腫瘍など DICを注意しその鑑別が重要

血液化学検査

*高カルシウム血症・・リンパ腫、多発性骨髄腫、肛門嚢腺癌、甲状腺癌、胸腺癌、乳腺癌など
*血清アルカリフォスファターゼの上昇・・・肝腫瘍、骨腫瘍など
*低血糖・・・インスリノーマ、肝腫瘍、リンパ腫、血管肉腫、平滑筋肉腫、口腔内悪性黒色腫、多発性骨髄腫など

尿検査

*尿沈渣・・異型上皮細胞の出現は、膀胱内腫瘍の可能性を示唆
*タンパク尿・・・悪性腫瘍に関連して、アルブミンが漏れている可能性

画像診断

*胸部レントゲン
体腔内や鼻腔内の腫瘍の有無、腫瘍周囲の臓器の変化(骨融解など)、転移の有無、腫瘍発生に随伴する体腔内の変化などの所見を得ることができる。
造影検査をすることで、消化管や腎泌尿器などにおける腫瘍の局在や周囲組織の変化、臓器の部位、臓器の機能などの所見を得られる

・癌検診、癌の転移を疑う場合は、必ず、3方向から撮影すること
・原発性肺癌、胸腺腫・・・早期発見が重要な予後因子

*腹部超音波

胆嚢や膀胱などの液体に充満した気管内の腫瘍の有無、腫瘍の内部構造、腫瘍と周囲組織との境界の有無(腫瘍浸潤の程度など)、腫瘍内部ならびに周囲における血管の分布などの所見を得ることができる
・臓器の転移巣の検出・・・疑わしい病変は、針吸引

*内視鏡検査
消化管、気管、体腔などにおける腫瘍の有無、位置、大きさや周囲組織への影響などの所見、生検の実施ができる


生検(バイオプシー)

針生検(ニードルバイオプシー)、パンチ生検、切開生検、切除生検など
専門機関にだし、病理組織検査をすることによってがんのタイプや性質に関する情報を得る検査
です。

針生検(ニードルバイオプシー)
普通23Gの注射針をしこりに刺して、腫瘤の中の細胞を採取します。それを染色して顕微鏡で観察します。
針生検は、一瞬針を刺すだけですから、無麻酔ですし、犬に痛みもほとんど与えません。
病院によっては、専門の検査機関に出すため結果に時間がかかります。


ツル・カット生検・・・97%で十分な標本の採取が可能
重篤な合併症は、わずか1.2%
針吸引・・・・合併症は普通起こらない


CT検査

コンピューター断層撮影法
放射線で撮影した画像情報をコンピューターで処理し輪切り写真にしたものです。
ヘリカルCTでは3次元立体画像として見る事ができます。
鼻腔、脊髄内など骨に囲まれた体内における腫瘍組織の有無、臓器や血管の位置関係、浸潤程度、転移の有無などがわかる。


MRI検査

磁気共鳴画増診断
体を後世している分子の発生する信号をコンピューターで処理する装置。
特に脳や脊髄の検査に適し、脳内の血流などの診断も可能です。
ペースメーカーやステントや金属が入っている場合受けることができない。CTより検査に時間がかかります。

まとめ

もっとも大事なのは、丁寧な身体検査です。
体調の不良は、歳のせいとか、たまたまと見過ごさず、悪性腫瘍も考慮して注意することが大切です。


*** 参考資料 ***

・第一回日本獣医内科学アカデミー総会
「癌の初期診断のコツ」米国獣医内科学専門医(腫瘍学) 小林犬猫病院 小林哲也

・日本臨床獣医学フォーラム2005
「癌を確実に見つける診療-あなたは日頃癌を見落としていませんか? 米国獣医内科学専門医(腫瘍学) 小林哲也


・CLINIC NOTE インターズー 特集 腫瘍学1
腫瘍の基礎知識 嶋田照雄 大阪府立大学大学院

・CLINIC NOTE インターズー 特集 腫瘍学1
二次診療へまわすためには-いつ、どんな時?鼻腔内腫瘍症例を例に 藤田道郎 日本獣医畜産大学獣医学部

・ペットががんになった時 日本獣医畜産大学 鷲巣月美 編 三省堂