老化因子、身体検査、健康管理プログラム

老齢について、犬には定義づけがありませんが、ヒトでは世界保健機構(WHO)では、「中年」は45歳から59歳、「初老」は60歳から74歳、「老人」は78歳以上と定義しています。
私は、この定義を見て、「なーーんだ。まだ中年じゃないんだ!!」と、すっごくうれしかったです。(爆)
米国では、65歳から75歳までの人を「ヤングオールド」と呼び、75歳から85歳までを「ミドルオールド」、85歳以上を「オールド・オールド」と呼ばれていると、木村利人氏の「老−バイオエシックスと老い」の中にありました。

世界一の長寿猫は34歳、長寿犬は29歳という記録があります。(The New Guinness Book of Records 1995. Enfield,UK,Guinness Publishing,1994)
29歳です!!!我が家のくま子なんて、まだ1/3とちょっとしか生きていません。

きっと、これから、もっともっと犬の寿命もヒトの寿命も延びていくと思います。
木村利人氏の書かれていた、米国の老人達は、とっても明るく積極的で元気でした。
隠居なんてしていないのですもの。多くのボランティア活動の中心となり、若い世代との連携するグループを作り、とてもポジティブでした。
犬もヒトも、これからは、老齢パワーの時代だと思います。

老化に対し、正しい知識をもって適切なケアと予防をしてあげて、明るいご長寿を目指しましょう。

老化因子

遺伝
・小型犬は、大型犬より長生きする
・雑種は純粋種より長生きである

栄養
・肥満動物はそうでないものより寿命が短い
・高脂肪/低繊維食は、寿命を短くする。

環境
・屋外飼育動物は屋内飼育動物より寿命が短い
・田舎の動物は都会より長生きすると思われる
・去勢や避妊手術をした動物は、そうでないものより長生きする。

私が個人的に感じていることですが、流行の犬種ほど、若い時からの病気が多いように思います。
まだ2歳で、子宮蓄膿症になってしまったり、3歳で肥満細胞腫と闘っている子、4歳でリンパ腫でなくなってしまった子・・・・。我が家のサンクも、股関節形成不全という遺伝性の病気を抱えています。私の廻りの素敵な子達が苦しんだり、飼い主さんの悲しみを思うと、とても辛い気持ちでいっぱいです。
病気は、それぞれの疾病によって、複雑な要因があると思いますが、健全な繁殖をされていて、大切に育てられている子を選択していく、飼い主である私たちの意思と犬種への思いやりが大切な1歩だと思います。

また、統計的に雑種のほうが長生きとありますが、これも、例えばそれが、安易な繁殖同士でのラブとシェルティーの1代交配種だとすれば、どちらものリスクを背負った子となってしまい、同じ結果でしかありません。
今、1代交配種を弄び、間違った流行がありますが、どうか、純粋種の犬種育成の歴史とスタンダードを大切にし、リスクを学び、次世代に素晴らしい純粋種を残していけるよう、一人一人がモラルある飼い主であって欲しいと願っています。

避妊・去勢については、どうか、別項の西山先生の資料をご参考にしてください。

犬が老齢だと思われる年齢、あるいは老化と関係ある疾患に最も陥りやすい年齢

小型犬 (0〜10kg) 11.48±1.85年
中型犬 (11〜25kg) 10.90±1.56年
大型犬 (26〜45kg) 8.85±1.38年
超大型犬 (46kg以上) 7.96±1.94年

老齢疾患の発症年齢と、癌の発症年齢は、似たような数字が発表されています。
くま子の肥満細胞腫の発生年齢は、10.2歳でした。麻布大の腫瘍症例では、平均年齢は、9.00±3.33歳となっています。

大型犬と小型犬の寿命

小型犬のほうが大型犬より長生きする傾向があると言われていますが、それを裏付ける下記統計があります。

6種類の大型犬と7種類の小型犬について、10年間、長寿と病気について調べた研究では、小型犬と大型犬の寿命には統計的に有意差が認められ、小型犬の方が長生きでした。
10歳まで生きた大型犬は、2,171頭中282頭(13%)だけで、15歳以上まで生きたのは、わずかに2頭(0.1%)でした。
それに対し、小型犬は4,931頭中1,857頭(38%)が10歳以上まで長生きし、15歳まで生きたものも347頭(7%)いました。(DeebとWolf,1994)

米国のセントバーナード協会が1993年、この犬種の寿命と病気を調べた統計では、平均寿命は6.5歳でした。
アイリッシュウルフハウンドでの同様な調査では、平均寿命は6.5歳でした。(Bernardi,1988)
17歳以上の犬を調べた研究では、小型犬と大型犬の比率は、12:1でした。(Goldston,1989)

老化の作用

老化の過程は、すべて進行性で不可逆的な変化です。
この変化は、疾患、ストレス、栄養不良、運動不足、遺伝、環境などの因子で助長されると言われています。
私たち、飼い主の知識が向上していくことや、獣医療の進歩などで、より健康を維持してあげることが可能になり、長寿にし、生活の質を向上していけることと思います。

代謝的作用
・代謝率の低下と運動量の低下が重なってカロリー必要量の30〜40%低下する。
・リンパ球の数は正常でも免疫力が低下する。
・貧食作用と化学走化性が漸減し、感染抵抗力が低下する。
・自己抗体と自己免疫性疾患が起こる

理学的作用
・体重に占める脂肪の割合が増加する
・皮膚は肥厚し、色素沈着過剰となり、弾力を失う
・肉球が角化過剰となり、爪がもろくなる。
・筋肉、骨、軟骨の量が低下し関節炎が起こる
・歯石により歯が抜け、歯肉の過形成が起こる
・歯肉炎から歯肉の退行と萎縮が起こる
・胃粘膜は萎縮し、繊維性となる
・肝細胞の数が低下し肝繊維症が起こる
・膵酵素の分泌が低下する
・肺は弾性が低下し、繊維症が起こり、肺分泌物は粘張となる。また予備能力が低下する
・発咳反射と呼気能力が低下する
・腎重量の低下、糸球体濾過量の低下、および尿細管の萎縮、尿失禁が頻繁に起こる
・前立腺肥大、睾丸萎縮、包皮の下垂が起こる
・卵巣は肥大し、乳腺は繊維嚢胞化や腫瘍化する
心拍出量が低下し、弁膜繊維症と心筋内冠状動脈硬化症が起こる
・骨髄は脂肪性で低形成となり、再生不良貧血が起こる
・神経系の細胞数が低下。老化により室内のしつけが守れない


老犬によくみられる疾患

糖尿病
前立腺疾患
肥満
心血管系疾患
関節の変性疾患
白内障
がん
歯科疾患
乾性角結膜炎
甲状腺機能低下症
尿石症
副腎皮質機能亢進症
貧血
尿失禁
肝障害
慢性腎疾患


老齢の犬猫に対する段階的健康診断

プログラム1 (見かけ上健康な患者用)

・病歴と身体検査、目と直腸の検査を含める
・血球血漿容積比(PCV)と総タンパク量
・血中尿素窒素(BUN)と血糖値
・尿検査
・栄養状態、歯、耳、爪、皮膚の手入れについての質問
・体重コントロール計画

プログラム2 (いくらか健康に問題がある患者用)

・病歴と身体検査、目と直腸の検査を含める
・血液検査と血液生化学検査
・尿検査
・栄養状態、歯、耳、爪、皮膚の手入れについての質問
・体重コントロール計画

プログラム3 (重大な健康問題がある患者用)

・病歴と身体検査、目と直腸の検査を含める
・血液検査と血液生化学検査
・尿検査
・心電図(ECG)と胸部X線検査、できれば心エコー検査
・栄養状態、歯、耳、爪、皮膚の手入れについての質問
・体重コントロール計画

補助診断検査

・心エコー検査
・腹部超音波検査
・甲状腺機能検査
・副腎機能検査
・血圧測定
・肝臓、膵臓、および小腸の機能検査

・老年動物の健康維持や管理の成功の為には、「できるだけ幼い時期からの検査により、個体の正常値の観察を続ける」ことです。年齢にかかわらず、異常値があれば追跡し必要な処置をしていくことが大切です。個体の検査値をみるときに、その個体の正常値を知っていることが必要になります。

・プログラム上にある、身体検査、尿検査、血液検査と血液生化学検査、心電図(ECG)等は、決して高額な検査ではありません。
胸部X線検査なども、一般の獣医師の元で、簡単にして頂くことができます。

・予防的検査は、必ずしも、獣医師から指示があるとは限りません。
見かけ上健康な子に、検査を強要することは、飼い主によっては、「必要のない出費」と考えられる方もいらっしゃるからです。
私たちは、積極的に、こちらから獣医師に検査を依頼し、若い時からのその子のデータを大切に残しておくべきだと思います。
獣医師に、自分がどういったスタンスであるのか。どういった治療や診察を希望しているのか、こちらからはっきりとアピールしていくことが大切だと思います。

・ただ、私たちは、依頼するにも、自分の犬に必要な検査がわからなかったりすると思います。
こういった資料などから得られる知識を求め、自分の犬の健康維持の為に活用し、その上で、獣医師にご相談されていく、積極性が求められていると思います。

老齢の犬猫に対する系統立てた身体検査

・腹部検診
・歯の検査
・耳および目の検査
・筋骨格系の評価
・直腸検査と前立腺の触診
・皮膚、被毛、および爪の検査
・胸部聴診

・年齢に関わらず、来院する度に、獣医師が、自分の犬をきちんと触診し、聴診し、歯や目、耳の視診をしてくださるかどうかは、大切な獣医師選びのポイントになります。
逆に、定期的に、身体検査の機会を設ける為に獣医師に診察を受けることは、飼い主の大切な役割です。

・また、毎日のケアの中で、自分自身が、犬の身体検査をしていくことも大切です。
幾つかの検査は、基本を学ぶことで、飼い主自身によってある程度の把握をすることができます。
毎日の素人なりの検査、定期的な獣医師による健康診断、この両方を怠らないようにしていきましょう。
下記書籍は、毎日の観察の上で、とても参考になっています。

「小動物看護のための内科学」 
杉村栄治、浅野妃美、浅野隆司 著 インターズー発行 6311円

「身体一般検査テクニックのすべて」
DENNIS M.McCURNIN,D.V.M.,M.S. ELLEN M.POFFENBARGER,D.V.M. 発行者 加藤 元 (社)日本動物病院福祉協会発行 15,000円

老齢の犬に対する予防健康管理プログラム

A
通常の身体検査を行い、体重を記録する

B
外科寄生虫と皮膚糸状菌を検査し、適切な治療を行う
1. ノミ、ダニ、および耳ダニ(耳疥癬)
2. 皮膚ダニ、特に犬毛包虫と疥癬
3. 糸状菌、特にMicrosporum spp. と Trichophyton mentagrophytes

C
糞便検査を行う(浮遊法検査)

D
フィラリア検査

E
体重に従ってフィラリア予防薬を調節

F
広範囲線虫駆虫薬にて駆虫する

G
混合ワクチン、狂犬病ワクチン接種

H
健康状態に応じて食餌を調節し、必要なら手入れ法も変更する

I
爪を切り、耳を掃除する

J
起こっている老化現象について話し合う

K
次の事項を網羅した教育用パンフレットを飼い主に渡す
1. ノミ、ダニ、および耳ダニの検査、予防、治療および駆除
2. 歯、皮膚、爪、および耳の手入れ
3. 手入れと栄養
4. 正常行動および異常行動の治療、扱い方
5. 運動とその意義

L
飼い主用の健康手帳への記帳

上記は、米国の資料によります。
日本でも、「教育用パンフレット」が広く普及して頂ければと、願っています。

老齢の犬の飼い主に対する教育

栄養
 ・タンパク、リン、およびナトリウムの摂取量制限
  カロリーを少なめに給与(肥満の犬に限る)

予防健康管理
 ・歯科
 ・健康診断の勧め
 ・追加ワクチン接種
 ・フィラリア検査
 ・糞便検査
 ・日常の手入れ

腫瘍学
 ・がんの早期発見
 ・内科や外科療法の考慮

運動
 ・運動の必要性
 ・運動と摂食行動の積極性

正常な老化現象
 ・老化の全身的な情報(視力や聴力の喪失、筋肉の張り、皮膚と被毛の変化)

家庭で監視すべき変化
 ・家庭環境
 ・食餌と水の摂取量
 ・異常な排尿と排便
 ・体重の変化
 ・元気の程度
 ・異常な臭気
 ・皮膚の腫瘤、腫瘤塊、そして治癒しない古傷
 ・持続性の咳やくしゃみ
 ・嘔吐や下痢

死別
 ・必要なら最後の数週間の介護
 ・ペットの死後のお別れの話し合いと勇気づけ
 ・動物の死別後に他の動物を飼う気持ちになれるよう飼い主の心の整理

・自分の犬が肥満細胞腫になって、私は、今まで得ていた情報に、とても助けられました。
何も知らなかった頃は、毎日の丁寧な身体検査もしていませんでしたから、3mmという腫瘍の発見は不可能だったと思いますし、細胞診を依頼することもなかったと思います。
その後の拡大手術の必要や、グレードやステージによる進行度や予後について治療方針についての知識もなかったら、ただただパニックになり、自分の必要な情報を得ることも、治療法の選択をすることもできなかったと思います。

・自分の犬に必要な情報を積極的に吸収し、そこから得た知識を持った上で、毎日の細やかな観察をしていけることが、健康維持の大きな力になっていくのだと思います。

・タンパク質の制限の必要性については、疑問視されるようになってきています。
1〜2歳令のビーグル犬と12〜13歳令のビーグル犬での実験の結果では、老年の犬は若い犬より50%も多く蛋白を必要とし、少なくとも体重1kgあたり3.75gの蛋白を必要することを認めました。
餌の蛋白について、問題視されているのは腎不全についてです。食餌の蛋白過剰は蛋白代謝副産物を蓄積させ、腎臓を傷害し、腎不全の進行を助長することが示唆さています。
しかし、犬と猫の研究では、ごく多量の蛋白(エネルギーの38〜49%)を摂取した時にのみ、しかも既に腎不全が存在している時にのみ現れることが分かっています。
普通の蛋白量の餌(餌の34%またはエネルギーの31%まで)では、悪い影響はなく、さらに、蛋白量が多量だけでなく、低量の餌を与えるよりも、全般的な改善が認められました。
一方、健康な動物では、普通の蛋白量でカロリー不足では、著しい免疫機能低下が起こります。
したがって、もし、腎疾患の臨床的証拠があったり、他の蛋白制限が必要な疾患でなければ、低蛋白量の餌に変えることはないとしています。

老齢の犬に特異的な問題

体重・・・肥満
がん・・・存在の有無
口臭・・・口腔疾患
被毛の光沢喪失・・・皮膚の異常
行動の変化
関節炎・・・起居や歩行の異常
麻酔の危険度
視力や聴力の喪失
心雑音・・・心不全
尿量・・・腎不全
咳・・・慢性気管支疾患
尿や便の失禁



++−−参考資料−−++

「小動物の老齢病」 RICHARD T.GOLDSTON,DVM,MS,Diplomate ACVIM,Diplomate ABVP
JOHNNY D.HOSKINS,DVM,phD,Diplomate ACVIM 宮本賢治 監訳 ファームプレス 23000円

「獣医臨床シリーズ 1999年版 Vol.27/No.6 老齢医学」 JOHNNY D.HOSKINS,DVM,phD,GUEST EDITOR 監訳 鹿児島大学 阿久沢 正夫 学窓社 14000円
上記書籍内 
「1990年代後期の老年動物介護」JOHNNY D.HOSKINS,DVM,phD, and DENNIS M.McCurnin,DVM
「栄養管理」 DOTTIE LAFLAMME,DVM,phD

「食餌タンパク質と犬の腎臓」FOOD for THOUGHT 1998Vol.2 The Iams Company

「腎不全の管理」The North American Veterinary Conference フロリダ州オークランドからのプロシーディング 1998年1月14日 Iams Japan,Inc.

「バイオエシックス」にみる生・病・老・死 木村利人 http://www.lifence.ac.jp/goto/bai/baiindex.html

「腫瘍診断・治療のQ&A 臨床編・病理編」 麻布大学獣医学部付属動物病院腫瘍科担当 信田卓男 麻布大学獣医学部病理学第一講座 代田 欣二 ファームプレス 11000円