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限定承認


財産相続の法律知識改訂新版

限定承認と相続放棄ってなんだろう

  亡くなった被相続人が、莫大な債務をかかえていた場合、相続人はその債務返済の義務を背負うことになってしまうのでしょうか。ご安心ください。こうした場合、相続人の意思に反して必ず債務返済の義務を負わせられるということはありません。債務返済の義務を継承しなくてもよくなる救済手段があり、それが限定承認相続放棄なのです。

   まず、相続財産の範囲内では債務の弁済をするが、それ以上個人財産をもってまで負債は負いませんと宣言することができます。このようにプラスの相続財産を限度とした有限責任の考え方によるものが「限定承認」の制度です(民法第922条)。

民法第922条:[限定承認の効果]
相続人は相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、承認をすることができる。

 また、相続人は自らの意思で相続を放棄して、債権も債務も一切相続しないことができます。これが「相続放棄」の制度です。

民法第938条:[放棄の方式]
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

 そしてそれ以外は、一般の相続である「単純承認」です(民法第920条)。特に限定承認とか相続放棄とかの意思表示をしない場合は、単純に相続を承認したものとみなされ、相続人は亡くなった被相続人の債権とともに債務も引継ぐことになります。こうした単純承認をする場合は、意志表示のための手続きは不要です。

民法第920条:[単純承認の効果]
相続人が単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

具体例で見てみましょう

 例えば、A夫さんが他界され、相続財産を調べてみたら、株式が1000万円あり、その一方5000万円の借金もあったとしましょう。借金が、唯一の資産である株式よりもずっと多額ですから、サア大変です。相続人は、何もしなければ単純承認となり、資産の株式とともに、負債の借金も引継ぎ、ネットで4000万円の負債超となってしまいます。ここで、限定承認をすれば、株式を1000万円相続し、借金はその範囲の1000万円のみを引継ぐことになります。相続放棄をすれば、債権も債務も一切引継ぎません。

   限定承認も相続放棄も、ネットの債権・債務はともに"0"と同じことになりますが、限定承認の場合は、株式を相続することに意味があります。この株式は将来値上がりするかもしれないし、配当の利益も期待できるでしょう。このように、将来さらなる価値をもたらす資産であるならば、手続きは複雑ですが、限定承認によりその資産を取得することは検討に値すると思われます。

-債権債務ネット
被相続人の債権・債務株式=1000万円借金=5000万円▲4000万円
単純承認=
債権債務を全面的に承継
株式=1000万借金=5000万円▲4000万円
限定承認
債権の範囲で債務を承継
株式=1000万借金=1000万円
相続放棄=
何も承継しない
なしなし

限定承認には申立ての期限があります

 このように、限定承認は、被相続人の債務の返済義務を相続人が負わずにすむことができる救済手段でありますが、これの適用を受けるためには、被相続人が死亡し自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月の熟慮期間内に家庭裁判所に申述をしなければならないと定められています。この点は相続放棄と同様です。

民法第924条:[限定承認の方式]
相続人が限定承認しようとするときは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、財産目録を調整してこれを家庭裁判所に提出し、限定承認する旨を申述しなければならない。

 相続放棄は一人の相続人が自分のみで行なうことができますが、限定承認は相続人が全員で行使しなければならないと定められています。一人でも異を唱えれば、限定承認とするができないので、相続人間の意志統一をする必要があります。

民法第923条:[共同相続人の限定承認]
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

限定承認の手続きは複雑です

 限定承認をするには、相続人全員が共同して、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に限定承認をする旨を「限定承認審判申立書」に記入して提出することになりますが、その際、「財産目録」を作成・添付する必要があります。この「財産目録」はには、資産・負債とも正確に記載する必要があり、故意に記載のない場合は単純承認したとみなされます(民法921条3項)ので、注意が必要です。

民法第924条:[限定承認の方式]
相続人が限定承認しようとするときは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、財産目録を調整してこれを家庭裁判所に提出し、限定承認する旨を申述しなければならない。

 この「限定承認審判申立書」には、申述人や被相続人の本籍・住所、自己が相続人になったことを知った年月日、限定承認をする主旨と申し立ての実情などを記入します。

 その後は、相続人が一人の場合はその者が、相続人が複数の場合は相続人の中から家庭裁判所が選任した相続財産管理人が、相続財産の管理と清算をすることになります。その管理者は、その固有の財産におけるのと同一の注意をもって財産の管理を継続しなければなりません。

民法第936条:[共同相続財産の管理人]
相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 管理人は、相続人のために、これに代わつて、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。
3 第九百二十六条乃至前条の規定は、管理人にこれを準用する。但し、第九百二十七条第一項に定める公告をする期間は、管理人の選任があつた後十日以内とする。

民法第926条:[限定承認後の相続財産の管理]
限定承認者は、その固有財産におけると同一の注意を以て、相続財産の管理を継続しなければならない。

 さらに、限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、一切の相続権者および受遺者に対し、限定承認をしたこと、および、一定の期間内に請求の申し出をするようにとの公告をしなければなりません。この公告の期限は2ヶ月を下回ることはできません。限定承認者は、この公告期間の満了前には、相続債権者及び受遺者にに対しての弁済を拒むことができます。

民法第927条:[相続債権者・受遺者に対する公告および催告]
限定承認者は、限定承認をした後五日以内に、一切の相続債権者及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。但し、その期間は、二箇月を下ることができない。
2 第七十九条第二項及び第三項の規定は、前項の場合にこれを準用する。

 そして、この公告期間が満了すると、限定承認者は、その期間内に申し出た債権者その他わかった債権者に対し、各々の債権額の割合に応じて、相続財産の中から弁済をすることになります。これの弁済にあたって、相続債務の方が相続債権よりも多い場合は、優先権のある債権者に優先権の限度で支払い、残りの財産を各々の債権額の割合に応じて分配して支払うことになります。

民法第929条:[配当弁済]
第九百二十七条第一項の期間が満了した後は、限定承認者は、相続財産を以て、その期間内に申し出た債権者その他知れた債権者に、各々その債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。但し、優先権を有する債権者の権利を害することができない。

 これらの支払のために、相続財産を換価する必要がある場合は、原則として競売によらなければなりません。

民法第932条:[相続財産の換価]
前三条の規定に従つて弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付しなければならない。但し、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。


限定承認は所得税の対象になります

 限定承認をすると、税法的には、被相続人が相続人に相続・遺贈財産を譲渡したものとみなされ、被相続人に譲渡所得に係わる所得税が課税されますので、相続人がその申告を代行する準確定申告により納付することが必要になってきます。準確定申告には期限があり、相続人が相続の開始を知ってから4ヶ月以内とされています。時間的に余裕がないので、注意が必要です。また、ここで支払う所得税は、相続税の申告の際には債務控除の対象になります。

所得税法第59条:[贈与等の場合の譲渡所得等の特例]
次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
一  贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)



財産相続の法律知識改訂新版
限定承認についてのよくあるご相談・ご質問
 

Q1資産と借金のどちらが多いか不明の時は、限定承認または相続放棄のどちらを選択するべきですか?

 具体的には、私の父親が死亡しました。趣味の書画骨董の収集に興じ、その買付け資金に充てたものとみられる約3,800万円の大借金があることが分かりました。遺産は、自宅のほか、書画骨董の類と少々の銀行預金です。書画骨董の評価がややこしく、親の資産と借金のどちらが多いのかわかりません。借金の返済を引継ぐことは勘弁してもらいたと思っています。申立ての期限が近づいてきているのですが、こうした場合は、限定承認と相続の放棄のどちらを選択するのがいいでしょうか?

A1 「限定承認」の方が有利だと思います。

 普通に単純承認として相続すれば、亡くなった被相続人(父親)の資産、負債をそのまま引き継ぎますので3,800万円もの多額の借金の返済義務を背負い込むことになります。この借金の返済義務を回避する方法としては、「限定承認」と「相続放棄」という二つの方法があるのですが、そのどちらを選択するかが、ご相談の主旨ですね。

 「相続放棄」を選択する場合は、一切の資産・負債の相続を放棄することになりますので、3,800万円の借金の返済の義務は全くなくなりますが、資産の相続もできなくなります。仮に父親の書画骨董の鑑定の結果が1億円にも達し、これらの資産が借金よりも多く正味でプラス財産であることが判明することになったとしても、その資産も相続できなくなります。これは残念ですね。

 一方「限定承認」を選択すると、相続した資産を限度に借金返済の義務を負うことになります。したがって、書画骨董の価値が低く資産よりも借金が多い場合は、相続人は相続した資産の範囲内で借金を返済すればよいのです。この場合でも、最終的に取得できる財産は正味ゼロでネットの負債超は回避できます。一方、仮に書画骨董の価値が高く資産が借金よりも多額となる場合には、全ての借金を返済した後の残余財産を相続人は取得することができ、大きな遺産を手にすることができます。

 以上から、親の資産と借金のどちらが多いのかわからないという状態であれば、相続放棄よりも限定承認を選択した方が有利と思われます。

Q2申述期限の延長
父が他界し、資産と借金のどちらが多いかを調査しています。借金の方が多いとわかれば、限定承認か相続の放棄をするつもりなのですが、財産評価が複雑なため時間がかかりそうで、3か月の期限までには資産・負債の額を確定し財産目録を作ることは難しそうです。こうした場合、どうしたらいいでしょうか?

A2 期限の延長は可能です。
 限定承認および相続放棄は、被相続人が死亡し自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述をしなければならないと定められています。ただし家庭裁判所に申し立て認められれば、期限は延長されます。最初の期限が到来する前に、なるべく早めに家庭裁判所に打診することをお奨めします。

民法第915条:[承認・放棄の期間]
相続人は、自己のために相続の開始があつたことを知つた時から三箇月以内に、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。但し、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によつて、家庭裁判所において、これを伸長することができる。

Q3複数の相続人の申立て期限
5人の相続人で限定承認をしようと検討しています。相続人が限定承認しようとするときは、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所に限定承認する旨を申述しなければならない。」と規定されていることは承知しています。ただこの3か月の期限について、5人の相続人の内、早く知らせを受けた3人は10月3日が期限、遅く知らせを受けた2人は10月13日が期限となります。このように相続人間で期限が異なる場合は、何時が限定承認の申述の期限になるのでしょうか。

A3  こうした場合は、何人かいる相続人の全員の期限が満了しない限り、共同相続人全員で限定承認できると取り扱われています。但しこれは、民法に規定されているわけではなく、実務上の取扱い例に依るものなので、念のため事前に家庭裁判所に確認した方が安全だと思います。

Q4相続財産を売却した場合
亡くなった父親が大きな借金を抱えていたことに気づく前に、遺産の一つのワンルームマンションを他人に売却したのですが、このように遺産の一部を他人に売却すると、もう、限定承認も相続放棄も受けられなくなると聞きましたが、本当ですか?

A4  本当です。相続人が相続財産の全部または一部を処分した時は、自動的に単純承認したものとみなされ限定承認や相続放棄はできなくなります。これを法定単純承認と言います。但し判例では、相続人が自己のために相続の開始があったことを知らずに処分した場合は、この適用はないと言っています。
 さらに、相続人が限定承認または相続放棄をした後で、ひそかにこれを消費し又は悪意でこれを財産目録中に記載しなかったときも、相続人は単純承認をしたものとみなされますから、注意が必要です。 この場合、相続財産から返済できる額を超えても弁済するよう、債権者から請求されることになるでしょう。

民法第921条:[法定単純承認]
左に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
 一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。但し、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
 二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は放棄をしなかつたとき。
 三 相続人が、限定承認又は放棄をした後でも、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを財産目録中に記載しなかつたとき。但し、その相続人が放棄をしたことによつて相続人となつた者が承認をした後は、この限りでない。


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