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限定承認 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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限定承認と相続放棄ってなんだろう | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
亡くなった被相続人が、莫大な債務をかかえていた場合、相続人はその債務返済の義務を背負うことになってしまうのでしょうか。ご安心ください。こうした場合、相続人の意思に反して必ず債務返済の義務を負わせられるということはありません。債務返済の義務を継承しなくてもよくなる救済手段があり、それが限定承認と相続放棄なのです。
まず、相続財産の範囲内では債務の弁済をするが、それ以上個人財産をもってまで負債は負いませんと宣言することができます。このようにプラスの相続財産を限度とした有限責任の考え方によるものが「限定承認」の制度です(民法第922条)。
また、相続人は自らの意思で相続を放棄して、債権も債務も一切相続しないことができます。これが「相続放棄」の制度です。
そしてそれ以外は、一般の相続である「単純承認」です(民法第920条)。特に限定承認とか相続放棄とかの意思表示をしない場合は、単純に相続を承認したものとみなされ、相続人は亡くなった被相続人の債権とともに債務も引継ぐことになります。こうした単純承認をする場合は、意志表示のための手続きは不要です。
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具体例で見てみましょう | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
例えば、A夫さんが他界され、相続財産を調べてみたら、株式が1000万円あり、その一方5000万円の借金もあったとしましょう。借金が、唯一の資産である株式よりもずっと多額ですから、サア大変です。相続人は、何もしなければ単純承認となり、資産の株式とともに、負債の借金も引継ぎ、ネットで4000万円の負債超となってしまいます。ここで、限定承認をすれば、株式を1000万円相続し、借金はその範囲の1000万円のみを引継ぐことになります。相続放棄をすれば、債権も債務も一切引継ぎません。 限定承認も相続放棄も、ネットの債権・債務はともに"0"と同じことになりますが、限定承認の場合は、株式を相続することに意味があります。この株式は将来値上がりするかもしれないし、配当の利益も期待できるでしょう。このように、将来さらなる価値をもたらす資産であるならば、手続きは複雑ですが、限定承認によりその資産を取得することは検討に値すると思われます。
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限定承認には申立ての期限があります | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
このように、限定承認は、被相続人の債務の返済義務を相続人が負わずにすむことができる救済手段でありますが、これの適用を受けるためには、被相続人が死亡し自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月の熟慮期間内に家庭裁判所に申述をしなければならないと定められています。この点は相続放棄と同様です。
相続放棄は一人の相続人が自分のみで行なうことができますが、限定承認は相続人が全員で行使しなければならないと定められています。一人でも異を唱えれば、限定承認とするができないので、相続人間の意志統一をする必要があります。
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限定承認の手続きは複雑です | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
限定承認をするには、相続人全員が共同して、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に限定承認をする旨を「限定承認審判申立書」に記入して提出することになりますが、その際、「財産目録」を作成・添付する必要があります。この「財産目録」はには、資産・負債とも正確に記載する必要があり、故意に記載のない場合は単純承認したとみなされます(民法921条3項)ので、注意が必要です。
この「限定承認審判申立書」には、申述人や被相続人の本籍・住所、自己が相続人になったことを知った年月日、限定承認をする主旨と申し立ての実情などを記入します。
その後は、相続人が一人の場合はその者が、相続人が複数の場合は相続人の中から家庭裁判所が選任した相続財産管理人が、相続財産の管理と清算をすることになります。その管理者は、その固有の財産におけるのと同一の注意をもって財産の管理を継続しなければなりません。
さらに、限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、一切の相続権者および受遺者に対し、限定承認をしたこと、および、一定の期間内に請求の申し出をするようにとの公告をしなければなりません。この公告の期限は2ヶ月を下回ることはできません。限定承認者は、この公告期間の満了前には、相続債権者及び受遺者にに対しての弁済を拒むことができます。
そして、この公告期間が満了すると、限定承認者は、その期間内に申し出た債権者その他わかった債権者に対し、各々の債権額の割合に応じて、相続財産の中から弁済をすることになります。これの弁済にあたって、相続債務の方が相続債権よりも多い場合は、優先権のある債権者に優先権の限度で支払い、残りの財産を各々の債権額の割合に応じて分配して支払うことになります。
これらの支払のために、相続財産を換価する必要がある場合は、原則として競売によらなければなりません。
普通に単純承認として相続すれば、亡くなった被相続人(父親)の資産、負債をそのまま引き継ぎますので3,800万円もの多額の借金の返済義務を背負い込むことになります。この借金の返済義務を回避する方法としては、「限定承認」と「相続放棄」という二つの方法があるのですが、そのどちらを選択するかが、ご相談の主旨ですね。
「相続放棄」を選択する場合は、一切の資産・負債の相続を放棄することになりますので、3,800万円の借金の返済の義務は全くなくなりますが、資産の相続もできなくなります。仮に父親の書画骨董の鑑定の結果が1億円にも達し、これらの資産が借金よりも多く正味でプラス財産であることが判明することになったとしても、その資産も相続できなくなります。これは残念ですね。
一方「限定承認」を選択すると、相続した資産を限度に借金返済の義務を負うことになります。したがって、書画骨董の価値が低く資産よりも借金が多い場合は、相続人は相続した資産の範囲内で借金を返済すればよいのです。この場合でも、最終的に取得できる財産は正味ゼロでネットの負債超は回避できます。一方、仮に書画骨董の価値が高く資産が借金よりも多額となる場合には、全ての借金を返済した後の残余財産を相続人は取得することができ、大きな遺産を手にすることができます。
以上から、親の資産と借金のどちらが多いのかわからないという状態であれば、相続放棄よりも限定承認を選択した方が有利と思われます。
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