クロワッサン1985年3月25日号 No.177
ちょっとだけ、冒険してみようか。――金子功流色っぽさの出しかた

女の人の肉体をそのまま感じさせる洋服が、一般的には色っぽい服と呼ばれているようです。
金子さんの考える、色っぽい洋服は、ちょっと違います。
「インゲボルグの洋服は、普通の基準からいうと色っぽくない服でしょうね。肉体を見せるために開けたり、透けたりしている服に比べたら、インゲボルグの服は、からだを隠す服になると思うんです。そういう服を、キチンと着こなした上で、色っぽい。そういう着こなし方が出来れば最高ですね」
「洋服って、着る人によって変化するんですよ。着こなしかたによって、色っぽかったり、そうでなかったり、不思議ですね」
色っぽいと評判の女優さん、秋吉久美子さん、樋口可南子さん、大楠道代さん(現PH社長夫人)にご登場いただいて、着こなし方、色っぽさの誌上・大研究です。
「秋吉さんには童女と娼婦の二面性があるでしょう。はかなげな人がふっと妖しい魅力も感じさせてくれる。そういう色気があると思いますね。樋口可南子さんは、もっとクールな感じです。都会的でいかにも現代風ですね。大楠さんには、やっぱり大人の女の色気が感じられますね」
「冒険っていったって、いつもの白と黒です。モノトーンの洋服って、赤やターコイズ、ブルーなんかに比べたら、第一印象は地味でしょ。だけど白と黒を組みあわせて着ると、不思議と上品な派手さが出てくるんです」

金子功流色っぽさの出しかた
秋吉久美子さん…からだのラインにつかず離れずの、細みのニットのツーピース。歩いたり、すわったり。動いたとき着る女(ひと)を一番、色っぽく見せてくれる服。
・黒の半袖カーディガン、ニットのスカート、ウエスト・ラインに巻いたパールチェーンベルト…上下揃いで着こなして、ワンピース風に。スカートの前中心が、ボタンになっているので、1つ、2つ、ボタンをはずして、スリットの感じで着こなしては。
・黒のニットスーツ、フランス製のレース地を使ったブラウス、ウエスト・ラインに巻いた大判のレース・ストール、イヤリング、ネックレス(長・短)…ウエスト・ラインに、ブラウスと同じ素材のストールを無雑作に巻いて、ボリュームと華やかさを演出。
樋口可南子さん…フリルやリボンをたっぷりあしらったレースのブラウスで、可憐にセクシーに装う。
・黒のカーディガンタイプのスーツ、ネックラインにリボンが付いたレースのブラウス、ゴールドのチェーン・ベルト、イヤリング、くちなしの花のコサージュ。…スカートは、中心より左サイドで巻きスカート風に仕立ててあるので、歩いたり動いたりしたときに初めて色っぽく見えます。
・春らしい白のカーディガンタイプのスーツ、レースのブラウス、スーツと共布のストール、イヤリング、ネックレス、ねじりのネックレス、ベルト…白に黒をアクセントとしてあしらったカーディガンスーツは、アクセサリーやスカーフを使って思いきり華やかに着こなして。
大楠道代さん…プレーンな洋服もアクセサリーやスカーフの使い方で色っぽい服に変身。スカートの上に大判スカーフを巻いて、粋に色っぽく。
・ギンガムチェックのスーツ(レースのストール付き)、白いブラウス(水玉のネクタイ付き)、イヤリング、チェーンベルト、ネックレス、テーラード・スーツの衿につけたブローチ…テーラード・スーツのような固い感じの洋服もレースのストールをあしらうことで、優しい女らしい服に変えることができます。
・水玉のジャケットとスカート、ブラウス、イヤリング、黒のパンプス、レースのポケットチーフ、ジャケット・スカートと共布の水玉のストール…テーラードのスーツも、素材に柔らかい布を選べば、より女らしさを強調してくれる。
第1章…スリット入りのスカート 大胆なスリットじゃないんです。スカートのひだの続きがスリットになっているので、ただ、立っているときは本当におとなしい感じのスカート。ところが歩いたり、階段を登ったりすると、チラッチラッとスカートの中から足がのぞく。見えるか見えないか、そういう不安定さって、色っぽいですね。
第2章…レースのブラウス 薄ものの木綿のレース。それにフリルやリボンをつけて、少しくどいかなぁと思うくらい、甘さを出してみたんですよ。他の洋服は大人っぽくても、下に着るブラウスくらい、目いっぱい可愛くたっていいでしょう。可愛くてセクシー、そういうふうに装いたいですね。
第3章…大判のスカーフやストールを腰に巻く 首に巻いて、おしゃれっぽく装うのは、あたりまえでしょ。腰に巻いてみると、何でもないストンとした洋服に、動きが出てくるんですよ。斜めのラインが、腰からお尻にかけてできるでしょ。日本人って、西欧人に比べて体が平べったいから腰にストールを巻いても、そんなに大袈裟にはならないはず。逆に洋服のポイントになると思いますね。
いつもに比べて、三つほど冒険です。この着こなしには、やっぱりアクセサリーは欠かせませんね。ゴールドとパールを何連も、ジャラジャラいうくらい豪華につけてください。揺れる感覚って、すごくセクシーだから。それから靴は、パンプスがいいですね。少し高めの細いヒールの靴は、色っぽさの演出には、欠かせませんね、絶対。
冒険といったって、いつもよりほんの少し。だから誰にだって出来ると思うんです。色っぽい着こなしをしたら、まず鏡の前にたって見てください。その洋服が好きだと思ったら、絶対その気持ちって、動作やしぐさに出てくるはず。こうやって、服と着る人がなじんでくるんですね。

レースのブラウスを着て、タイトのスリット入りスカート。おまけに腰にストールを巻いて。最初は、腰のストールが気になって、いつもよりぎこちなくふるまってしまうかもしれない。鏡の前で、クルリと、ターンして自分の着こなしに自信がついたら、そのまま、街へ出てみませんか。季節だって色めき立つ春なのだから。
あっ、最後の仕上げメークも忘れずにね。素っぴん顔はこの着こなしには不似合です。厚化粧の必要はないけれど、どこか一箇所ポイントを置いて。鏡に向かって赤い口紅をキリリと引いて。これでキマリ、です。

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