浅草

浅草の観音様があるからそこへ行く。おさい銭を投げてお参りする。行き帰りのお祭りのような町並みが好き。

豆かん、薮そば、七味とうがらし、せんべい……浅草には、うれしくなってしまうものが山ほどある。三社祭、ほおずき市、羽子板市……浅草には、楽しくなってしまうことがいっぱいある。
東京に住んでもう三十年(1988年当時)、浅草の顔に会いたくなると、ちょっとの暇を見つけて出かけていく。コトコトと電車に乗って、お昼は「並木」の薮そば。”雷門”と書かれた大きなちょうちんの下がった門をくぐって、仲見世を通る。気のきいたご祝儀袋を売っている「文扇堂」、揚げまんじゅうのおいしい「金龍山」、江戸民芸品や観光土産品がところ狭しと並んだ「ミノリヤ」「わらびや」「平尾商店」「ヒラノヤ」の辺りは、いかにも浅草らしくておもしろい。「ツルヤ」の鼈甲(べっこう)やさんごの店、江戸趣味小玩具の「助六」などをひやかしてから、浅草寺(せんそうじ)の観音様にお参りをする。そして、裏手の言問い(こととい)通りを一本奥に入った「梅むら」で豆かんを注文して一休みするのがお定まりのコース。
帰り道は新仲見世通りの「入山せんべい」に寄って、毎度のことながら長々続く行列の後ろにつき、辛抱強く順番を待つ。店の横でおせんべいを焼くのを眺めているのも飽きない楽しみ。そうそう、「ふじ屋」に寄って、新作の日本手ぬぐいも眺めたい。ふじ屋といえば、ここで豆絞りの手ぬぐいをどっさり買って洋服を作ったことがあったっけ。
僕が最初に浅草を知ったのは、仕事を始めて間もないころ、ファッションの撮影を浅草でしようということになり(これは、ananの1970年10月20日号「ここは東京の浅草です。」のこと)、まず僕がロケハン(撮影場所の下見)に行くことになった。浅草に着いてはみたが、いったいどこに何があるやらキョロキョロするばかり、泣きたい気持ちで一軒のげた屋さんに入り、撮影場所に格好の「駒形どぜう」を教えてもらった。”どぜう”と書いた大きな紺ののれんを見たときのうれしさは今でも忘れられない。
浅草には、日本の江戸のよさがびっしり詰まっていて、懐かしいようなロマンの香りが漂っている。日本の古いものが大好きな僕は、何回行っても飽きない。京都と並んで好きな所だ。だからROXなどの新しいビル街や、きらびやかな花やしき界隈は好きになれない。浅草という語感にふさわしい風情をいつまでも漂わせていてほしいなあ。

店のデータ(「ふじ屋」「駒形どぜう」の営業時間・値段は1995年当時のものです)
入山せんべい 台東区浅草1−13−4 03(3844)1376 木曜定休 
ふじ屋 台東区浅草2−2−15 03(3841)2283 木曜定休 10:00〜19:00 てぬぐいは¥1,200〜1,300中心。額縁(¥7,000)に入れてインテリアにも。
駒形どぜう 台東区駒形1−7−12 03(3842)4001 無休    11:00〜21:00 どぜう鍋¥1,400、柳川¥1,300、どぜう汁¥300

・浅草の観音様で知られる東京で最も古いお寺、浅草寺を中心ににぎわう浅草。江戸時代は寺町として発展、大正から昭和にかけては浅草オペラや軽演劇を生み出した六区街などが有名。今でも四季を通じて江戸情緒豊かな祭りや縁日が催され、庶民的な雰囲気で親しまれている。
・東武伊勢崎線と地下鉄銀座線、都営浅草線の浅草駅から徒歩2〜3分、雷門通りに面して建つ雷門は、浅草寺の総門。門の左右に雷神、風神の像がある。雷門から宝蔵門(浅草寺山門)に続く参道を仲見世通りと呼び、両側には民芸品、玩具、小間物、七味とうがらし、せんべいなどを扱う小店がびっしりと並んでいる。江戸時代に創業したという店も多い。
・興味深い催しは5月第3日曜を最終日とする3日間の三社祭、7月9、10日のほおずき市、12月17、18、19日の羽子板市など。

装苑1988年5月号「いいもの見つける小さな旅」より
「ふじ屋」「駒形どぜう」のデータは、アンアン1995年1月13日号(No.953)「ここが東京のお江戸ゾーン、行きたい店カ・タ・ロ・グ。」より


NEW!
アンアン1970年10月20日号(No.15)
「ここは東京の浅草です。」
金子功のワンピース絵本「ワンピースで、浅草で。」(1984年)
金子功のプリント絵本「浅草模様」(1987年)
画面中央から左側がワンピース絵本で、右側がプリント絵本
ファッションディレクター=金子功 モデル=立川ユリ カメラ=立木義浩 ヘア=松村真佐子 エッセイ=大橋歩
着物(十日町つむぎ、古代つむぎ、黄八丈)の衣裳協力は小田急百貨店。紀の国や美容室が着付けを担当した。金子さんは撮影場所に浅草寺、六地蔵石灯篭(現在は金網越しにしか観ることは出来ないが、’70年当時は金網が無い)、駒形どぜう、入山せんべいを選んでいる。
’70年の撮影の経験が、’80年代の絵本の撮影に役立ったようである。金子さんは撮影場所に浅草寺、雷門(ワンピース絵本・プリント絵本)仲見世(ワンピース絵本)、駒形どぜう(プリント絵本)を選んでいる。ふじ屋のてぬぐいも使われている。

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