カフェフラッペ

カフェフラッペは、好きですか?

18歳で、学生で、初めての大都会に興奮していた。
デザイン学校の図書室に、故郷(くに)では1〜2度しか見たこともないような、パリやNYのモード雑誌が無造作に積み上げてあったりするのが眩(まぶ)しかった。
ある日、Jardin des modesの中に、茶色の口紅の女がいた。肌も茶がかったメークをしていて、カシミアのごく普通の形のしかし飛びきり上等そうなセーターを着ている。
ベージュ(砂いろ”サンドベージュ”という色の名を初めて知ったのもこの時だ。)のスカートや、赤茶のセーターなど、すべてが茶色の雰囲気のページ。女は、ミルク珈琲のグラスを持っている。
細かく砕かれた氷とコーヒーと、そこに混じって行くミルクが描くマーブル模様と。女の手の、指の曲げ具合が粋だった。
それは、こんなにもシックな世界があるのだ、という衝撃的なページだった。服も、色調も、コーヒーも、ごく普通のありふれたものばかりなのに、という二重のショック。
以来、時代は幾度もめぐり流れ、それでもあのカフェフラッペの色や、赤毛女のような赤茶(ヘンナ)の色が忘れられなかった。
古ぼけたようなプリント模様にしっくりと似合う色。モダーンな高速都市で活発に動くのではなく、自分の巣にひっそりと、しかし確かな生活を送っている、そういう少女に似合う色だ。そしてこの色が似合う少女や大人の女が誰よりも好きである。

カフェフラッペ・ワンピース
ワンピース¥55,000、コサージュ各¥10,000(KANEKO ISAO)
アンアン1991年4月19日号(No.770)「金子功のいいものみつけた 第1回 カフェフラッペは好きですか?」より

百科事典に戻る