ハリスツイード

HARRIS TWEED

数々の有名ブランドで使用されている、英国の高級生地「ハリスツィード」。スコットランドのアウター・ヘブリディーズ諸島のハリス地方で伝統ある職人たちが羊の新毛を手で紡いだ糸で手織ったものがハリスツイードと呼ばれています。お店でツイードのジャケットを見ていると、袖や裏地にHarris Tweedと書かれたタグをよく目にしますが、あれは織られた後に審査を受けて、合格した印というわけです。この合格品に付いている、英国王室からの使用が許可された、上に十字架をいただく宝珠こそ英国ハリス・ツイード協会の登録商標なのです。この協会は1909年に発足し、手織り工場を持つ600軒以上もの農家を管理しています。で、それぞれの農家は送られたデザイン見本と注文書に従って織るというわけです。伝統と格式を重んじたものだからこそ、人々に愛用され続けているのです。


ハリスツイードについては、1979年から1981年までananに連載された「金子功のいいものみつけた」の60回目(アンアン1981年2月11日号)「ハリスツイードのジャケット」で、金子さんが触れているので、それを紹介いたします。

これは正真正銘の男もの。男の服屋でスーツの上衣だけ買った。袖丈が少し長いほかは、女でも着られる形である。男仕立ての女ものジャケットが、もともとこういうスーツからとったデザインなのだから当然だ。男物の良さをまた認識。

女が男ものを着る、男っぽいものを着る。このことの魅力にもう長い間とりつかれているようだ。特にアウトドア用の服や作業衣、軍服などの良さを繰り返し思い知らされてきた。
女がそれを着て素敵だということは別として。ものそのものの良さ、デザインが完成されきって、もはやデザインを感じさせもしない、その”すごさ”に敬服してもいた。
というのは、一時期の「デザイン」が目立つ男の服に反発を感じ、デザイナー・ブランドの男ものを着たいなどとは夢にも思わなかった、その反動として軍服や漁師の服にひかれていたのだろうか。

久しぶりに「バーグマン」の服を見た。前から好きな店ではあったが、いまはとくにいいと思った。新鮮なのである。(注意・この「バーグマン」というブランド、現在は無くなってしまったようです。)
カシミアの入ったジャケット、フラノのスーツ、着たい服が何点もあった。生地といいデザインといい、オーソドックスそのもの。大きくも小さくもない衿や全体のシルエットのさりげなさ。10年でも着続けられそうな、”変哲のない”服だ。
グレー、紺、黒、少し派手な色ではワインカラー。色も、あくまでもオーソドックス正統派。

ある男性ファッション誌のインタビュアーに「おしゃれじゃないんですねぇ」と言われたことがあるけれど――まさにこれらの服は、おしゃれ男だぞ、という具合には見えない地味さが身上なのである。
デザイナーブランドの服も地味にはなってきたが、これほどに「デザインされない」正攻法の服はあまり見かけない。
とくに自由業では、ラフなジャケットやジャンパーで毎日暮らしてしまうが、時にはシャキッとネクタイをしてスーツを着るのも楽しいものだ。軽くて楽な羽毛服(ダウンパーカ)ばかり着ていては体がなまってしまう気もする。

以上の感想はすべて、女がこの服を着る場合にもあてはまるのだが、女にはパンツをそのままはやはり無理。ベストもやめて上衣だけ買うべきだろう。
このハリスツイードのジャケットはまさしく、男仕立てが好きという女性にうってつけだ。ちょっと大人っぽい女によく似合うと思う。

タイトスカートか、シンプルなパンツに合わせたい。袖は長ければ折ればいい。
男っぽいシャツや男のネクタイがぴったりするけれども、まるっきり男を演じるような着方は魅力的じゃない。絹っぽいブラウスにしてもいいし、胸の花やハンカチーフなどに「女」を匂わせるのもいい。
その笑顔も精神も、あくまでも女らしい……そんな人がこの男のジャケットを着こなしてこそ魅力的である。

ジャケット¥34000、シャツ¥11000、ネクタイ¥7800(BERGMAN)ジーパン¥5000(バックドロップ)靴¥24000(MOGA)商品・価格は全て1981年当時のものです。

カールヘルムのハリスツイードジャケット

ワンダフルハウス私物
1 KJ−2 ¥48000
(カールヘルム1985年秋物)
金子さんのことですから、もちろん、カールヘルムを設立した当初からハリスツイードのジャケットを発表していました。上記の「金子功のいいものみつけた」から4年半後の1985年8月26日、これはカールヘルム青山店がオープンした時に店に並んでいたジャケットです。カールヘルム最初のハリスツイードジャケットは、シングル3つボタン段返り、センターベントの極々シンプルなものでした。この作品以降、エンブレムを付ける、ボタンを革のくるみボタンにする、スエードのエルボーパッチを付けるなどデザインを進化させながら、秋冬になると毎年ハリスツイードのジャケットを発表していたのです。 ケンピと呼ばれる白髪のような毛が入った重量感のある素朴で粗い手触りが特徴です。最高級ピュアウールなので末永く着用出来ます。19世紀半ばから栄えたハリスツイードは、1960年代にピークを迎えましたが、’70年代以降には生産が大幅にダウン。現在もなお生産されていますが、機能的で軽く、肌触りの良い生地が主流の今では、かつてのような重みのあるハリスツイードの生地は生産されなくなってしまいました。
このハリスツイードジャケットを着た男たち
カールヘルムの初広告「男の服を作ることが、こんなに面白いとは思わなかった」(アンアン1985年8月30日号)より。歴史のある立教大学池袋キャンパスに金子さんがコーディネートしたハリスツイードジャケット+タータンチェック on タータンチェックが、よく似合っています。うるさくなりがちなチェックONチェックですが、無地の同系色ジャケットで全体を引き締め、タイや靴もチェックの中に使われている色を振り分けると、まず失敗がありません。ジャケットは左よりグレー・ピンク・黒。シャツ¥13500、パンツ¥20000、蝶タイ¥12000コンビの靴¥31000(カールヘルム1985年秋冬物) ポパイ1985年8月10日号「ポパイの恋愛作戦」より。左の写真の真ん中のジャケットと同じ物です。こちらも金子さんのコーディネートですが、手に持った花束に合わせて、正統派のスタイリングにしてあります。白いシャツにピンクのカシミヤカーディガン、チェックのネクタイにチェックのパンツ。最後に花束から花を1輪ちぎり、胸ポケットに挿して、スタイリングは完成します。どちらかというと女性の方が似合いそうな優しい色使いです。シャツ¥11000、カーディガン¥69000、ネクタイ¥8000、パンツ¥20000(カールヘルム1985年秋冬物) ノンノ特別編集 メンズノンノ(1985年10月10日発行)「女の子ブランドの男ものに 今、注目!」より。中和された微妙な派手色を男っぽく着こなしているのは、モデル時代の風間トオルさん。カールヘルムの服のクオリティーの高さは、その素材の良さひとつにも表れています。派手な色ほど安っぽくならないように上質な素材が使われているのです。ジャケットはハリスツィ―ド。Vネックアーガイルニットはカシミヤ。パンツはグレーフランネル。本物素材の着心地の良さは、フィッティングしてみるとよく分ります。軽くてしなやかで、着ていてほんとにラクなのです!セーター(青、黄)¥65000、シャツ¥17000、パンツ¥18000、ネクタイ¥8500(カールヘルム1985年秋冬物)

ワンダフルハウス私物
2 KJ−1 ¥58000
(カールヘルム1985年冬物)
これは上のグレーのジャケットが発売されてから2〜3ヶ月後に発売された商品で、同一の生地が使われています。エンブレムが付き、フラップポケットからパッチポケットに、センターベントからノーベントにデザインが変更されています。
このハリスツイードジャケットを着た男たち
当時のメンズクラブ専属モデルの竹内哲さん。カールヘルム青山店にて。サザビーに特注したディスプレイ台がお洒落です。引き出しの中には、タイやベルトなどの小物が収納されていました。シャツ¥16000、ジーンズ¥13800、ネクタイ¥7500、キルトシューズ¥37000(メンズクラブ1985年12月号) 白黒なのが残念ですが、左と同じグレー。奥田瑛二さんの私物です。横浜・瑞穂埠頭にて。アンアン1986年4月11日号「イメージの私と本当の私」より。「イメージの私」では白いジャケットやスーツを着ての登場でしたが、「本当の私」ではカールヘルムの黒やグレーの服が多いことを告白しています。 30代の旧友が久しぶりに再会し、古き良き時代を懐かしんでいるというイメージで、男同士のデュエット「クラシック」を歌っていた頃の奥田さんと谷村新司さん。仕掛けたのは、かつて「忘れていいの」を小川知子さんとデュエット、ヒットさせた実績のある谷村さん。「今度は、男性でしかも歌手でない人と”ドラマ”を歌ってみようという企画でスタートし、「自分達の世代がカラオケで歌えるような歌」をつくった。それじゃ、誰がいいか?ということで「僕と同年代で、いま人気絶頂の奥田さんにお願いしました」上は1986年12月17日フジテレビ「夜のヒットスタジオデラックス」より。下はザテレビジョンより。

ワンダフルハウス私物
5 KJ−4 価格不明
(カールヘルム1986年秋物)
ミニ・エンブレム使いが大胆なヘリンボーンのハリスツイードジャケット。左右対称に4個も配置して、ピークト・ラペルのダブルジャケットを可愛く仕上げています。 こうなるとどこか新鮮な感じです。

ワンダフルハウス私物
9 KJ−13 ¥62000
(カールヘルム1987年秋物)
メンズクラブ1987年10月号
「英国の伝統に学ぶ」
(スコットランドロケ)
メンズノンノ1987年9月号
「ショーの写真で勉強する」
ダブル仕立てですが、ツイードを軽快に使っていて、実にカジュアルに着れるジャケットです。ボタンはゴルフをモチーフにしたシルバーのメタル。元々は中の写真のようにエンブレムが2個付いていて、これと同じジャケットを、1987年からよみうりテレビ系で放映されていた「鶴瓶・上岡パペポTV」で上岡龍太郎さんが着ていました。右はショーの写真ですが、同素材で帽子とシングルジャケットもあったようです。2枚とも金子さんのコーディネーションで、茶系統でまとめるのがおすすめのようです。茶はグレーや紺に比べて色調に幅があるので、色を重ねるのに無理がなく美しく仕上がりやすいのです。濃い色を要所に効かせて、全体をスッキリと引き締めているのがポイント。それに、素材の違うものを重ね合わせているのがミソ。ツイードのジャケット、メルトンのダッフル、シルクのタイ、コットンのシャツとパンツ。このさり気ない量感が大人っぽさの理由です。

ハリスツイードについてもっと詳しく知りたい方はこちら(男の「装い」一科事典)
ビンテージ ハリスツイードについて知りたい方はこちら
(ロンドンと原宿に店舗があるVintage Clothingのお店「OLD HAT」のHP)

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