金子功のいいものみつけた (’79−’81年版)

アンアン1979年5月21日号(219号)−1981年8月11/21日号(296号)

アンアンがテンデイズ・マガジン化された1979年5月21日号(219号)から始まり、週刊化される前の1981年8月11/21(296号)まで、毎号連載された。主役となる服は、東京の古着屋、パリの蚤の市などで金子さんが見つけたもの。それにピンクハウスの服を合わせている。モデルは全て立川ユリさん。ワンダフルハウスは78作全部持っています。

金子功のいいものみつけた
撮影・久米正美 ヘア&メーク・松村真佐子 モデル・立川ユリ
作品
番号
発行月日 号数 タイトル アイテム
(店名)
金子さんのミニ・コメント
1979年
05・21 219 ラッセルのTシャツを重ねて着る Tシャツ(アスレチック・イン) Tシャツには着こなしなんていう言葉は通用しない。あまりにも完璧なデザインで、これに何かを加えることもばかばかしい。白か、ごく普通の色の、いちばんシンプルなTシャツ。これが最高。
06・01 220 アンチックのアロハ+トレパン アロハシャツ(サンタモニカ)、パンツ(アスレチック・イン) アンチックのドレスなどを売っている店で、古いアロハシャツを見つけた。古着と呼ぶほどきたなくはないけれど、高級なアンチックとまでは言えない。その中途半端さが妙に魅力的に見えるのだ。
06・11 221 釣用のパーカと女っぽいワンピースの組合せが魅力的 コート(スポーツトレイン)、ワンピース(ピンクハウス) 男の”ヘビーデューティー”を男らしいヤツが着てサマになるのは当然だ。が、きまりすぎて面白くもなんともない。男だけに任せておくには、もったいないようなデザインが沢山ある。油を引いた釣師用のコートなどがその代表格かもしれない。
06・21 222 アンチックな服にはまねしたくても絶対にできないよさがある ワンピース(イエスタディ・ギヴ) 少し布地が疲れていたり、Vのあきが深すぎたり、新しい服を選ぶ感覚で見れば困るところもある。でも、古い服のよさはそんなことを超えてしまう美しさだ。どうしてこんなにもきれいなものが作れたのか。服、人形、ガラス、いろいろな古いいいものに出あったときの感激が好きだ。
07・01 223 横浜中華街の2,900円のブラウスを大人っぽく着る ブラウス(西芳) 港の昼下り、公園の夕暮れ、どこか恋愛映画の一シーンを思わせる場所……に似合うというわけでもないのだけれど。安いからといって、ラフに着てはつまらない、優しく大切に着こなしたい。手でひとつひとつ刺しゅうした、昔ながらのブラウス。
07・11 224 マルセイユの水夫のシャツは絶対に海で着てほしい ボートネックのボーダーシャツ(アウトポスト) またもや男ものになってしまったけれど、夏に着る服の中でこのシャツを忘れることはできない。着こなしとか組合せ(コーディネーション)とかに頭を使う余地もなく、ただ海でさえ着れば楽しい。みごとな縞の幅が、腹立たしいほど魅力的だ。
07・21 225 レオタードと白い木綿の巻きスカート レオタード(チャコット)、スカート(ピンクハウス) レオタードはバレエや体操のたちが着る稽古着。しかし、それだけに使わせておくには惜しい、いいセンスを持っていると思う。じゅうぶんにクラシックで、驚くほど現代的なかたち。あくまでも機能的にできている、にもかかわらずシックだったり、女らしかったりするのが面白い。
08.01 226 おじさんが昔はいてた麻ズボンをちょんぎった感じの半パンツ 半パンツ(サンタモニカ) このズボンはそれ自体むしろやぼったいしろものである。が、新鮮で生き生きとしたセンスを感じさせもする。多分着るひとのこなし方……というよりも、楽しみ方次第で、生きてくるデザインだ。大切なことは、のびやかな気持で心からおしゃれを楽しむ、そういう気持なのではないか。
08・11 227 上から下まで全部男物でまとめました シャツ、トレーナー、靴(シップス)、パンツ(サンタモニカ) もめんの白のダボダボズボン、ベルトももちろん男もの。女は肌を出してシャツを着るのが粋だけれど、男みたいに下に丸首シャツ。靴も男ものと同じ作りでオーダーしたもの、アメリカ製。男の楽しみを奪ってやろう!
10 08・21 228 めったに使わないけどもってるだけで楽しいビクトリア時代のレースの衿 レースの衿(SOUL TRIP)  少し破れていたりしても、昔のレースの繊細な美しさといったら……大金を投じることも苦にならないし、ひとつの宝ものを所有した気分にひたれる。経済的に考えてみても、同じ値段のブラウスなり服なりを買うよりもトク、とも言える。いつまでも新鮮な幸福感と共に使い続けられるから。
11 09・01 229 夏の終りに着る海の男のセーター ウールのボーダーのセーター(スポーツトレイン) 夏が好き、海が好き。でも、毎年秋が来てしまう。朝夕に肌がひんやりしてくる夏の終り。セーターを着てしまうとほんとうに夏とお別れだ。だから、まだ頑張って海っぽい服を着る。ウールで暖かいけど夏の感じの男のセーター。
12 09・11 230 砂色を着る サファリ風のシャツ、パンツ、バッグ、ブーツ(アウトポスト) 砂の色、とひと口に言っても、影の部分や、濡れた砂やノルマンディーや鳥取や、さまざまな砂がある。サハラの砂はどんな色だろう。そんないろいろなベージュが集合。
13 09・21 231 戦争の服 アーミー風の上着、パンツ(アメリカ屋スポーツ) これは米軍の払い下げ品の中でも、もっともハードに戦争を感じさせる服だ。多分、射撃の練習をするのだろう、凄いような恐ささえ感じてしまう服だ。
14 10・01 232 カシミアのグレー 丸首のカシミアのセーター(リーゼント・ハウス) 秋が来て、セーターの楽しみがよみがえり、パリ風の粋なおしゃれに憧れる。全身を高価な品で飾らなくていい。いろいろ技巧を凝らさなくてもいい。1枚だけ、上等のカシミアのセーターがあれば…。
15 10・11 233 黒い革のジャンパー 黒のライダージャケット(バックドロップ) このジャンパーは絶対に黒でなければならない。ポマードをつけた、品のない男どもの着るジャンパーだけれども、女がGパンでその真似をして着たってこなせるものでもないだろう。いっそ女っぽい服にでも、平気ではおってしまえばいい。奇妙な調和がそこにある。
16 10・21 234 スコットランドの田舎のベストを2枚 ジャカードベスト、ツイードベスト(Boo’s Shop) 古着屋でスコットランドのベストを見つけた。雪の模様とチェックがあって、どっちも可愛くていい。迷いながら取っかえひっかえ見ているうちに、ふと2枚いちどに重ねてみた。妙にしっくりと合う。頭で考えに考えるのではなく、こんな偶然で面白い組合せを発見することも多いのだ。
17 11・01 235 栗崎昇の花とシャネル スーツ(シャネル) シャネル・スーツを着るのは大人の女だ。単に年齢だけの問題ではなく、シンプルな服をしゃれっ気で着こなしてしまう実力の女。粋などという言葉をほんものに理解しているような女――になるためにも、いつかシャネル・スーツを着よう、と憧れ続ける年月があっていい。
18 11・11 236 バーバリーのトレンチコート トレンチコート(丸善) レインコート、というよりあらゆるコートの中で決定版(きわめつき)。バーバリーのトレンチを持つか持たないか。大げさに言えば着始めた日から生活が変わる。つまり、もう一生手ばなすことができないし(丈夫だから何十年でももつのだ)、ほかのコートを買う場合も必ずこの1着を意識することになる。
19 11・21 237 白い木綿のアンチックレースを部屋で アンチックのねまき
(イエスタデイ・ギブ)
パリの蚤の市でよく見かけるような、古い木綿の白いねまき。切ってブラウスにしたり、ドレスとして着る人も多いし、この古いレースのこなし方には、ありとあらゆる研究がなされている。が、家で、ひとりのときも部屋着やねまきに、つまり本来の使い方をするのが実に贅沢でいい。
20 12・01 238 オイルの匂いのするセーター ピーターストームのオイルドセーター(アウトポスト) 羊から刈りとった羊毛が、どんなふうに精製され加工され毛糸になり、セーターに編み上がるのか。その技術には、興味もないしうといのだが、あまり念入りに精製していない毛糸に魅力を感じる。なぜあんな匂いなんだろう、妙にオイルくさい、みざらしの毛糸のセーターは。
21 12・11 239 トレーニングウエアはスポーツの服? ラッセルのトレーナー、トレーニング・パンツ(アスレチックイン) ジョギングが大流行で走る服装がすっかり変わった。ほかのスポーツもなかなか盛んらしく、とにかく最近スポーツウエアが豊富になってきた。とくにトレーナーやパーカはセーターがわりに街で着る人も多い。が、トレーニング・パンツのほうとなると――スポーツ以外の着方は難しい。
22 12・21 240 ビリー・ホリデーのように… ドレス(SOUL TRIP) いつの間にか顔みしりになってしまった古いもの屋で、黒のアンティックのイブニングを見た。ハンガーに吊るされた姿は”古着”と呼ぶのがふさわしい雰囲気なのだけれど、繊細(デリケイト)なレースの花などに触れているうちに、イメージは遠く拡がっていく。この服を着るような女……について。
1980年
23 01・01
01・11
合併号
241 お正月で 着物で 歌舞伎座 着物協力/浅野美津子 着物に馴れている人と、洋服で暮している人とでは、身のこなしも着付も何もかも、決定的にちがう。洋服人間には和服(キモノ)を着る力がないと思う。矛盾するのだけれど、しかしときには着物を着てほしい。とくに暮れから正月、そういう季節のような気がする。
24 01・21 242 銀狐の追っかけの女 銀狐ボア(中村毛皮赤坂店) 毛皮の衿巻が好き……などというのはおかしなことかもしれない。ちっとも新しくないし、金持夫人的で、おまけに暖かくさえもない。これはまさしく、下品の極み、でさえもあると思う。怖い、グロテスク、などと感じる人も多いにちがいない。それでいて、なんと上品な、粋な、かっこよさの極みであることか。つまり、下品と上品の混じり合った、危うい微妙なセンス。そこに心ひかれるわけである。
25 02・01 243 ダッフル・コートの記憶 ダッフルコート(銀座メンズ・ウエアー) かれこれ20年の昔、学生だった頃。コートがなくて、母にお金を送るように頼んだ。そして買ったのがMen’s Wear店(銀座みゆき通り)のダッフル・コート。それから現在(いま)までに、どれだけ多くのいいデザインを知ったか。新しいもの、古いもの、いいコートを沢山見た。だが、それらの中でこのコートは、いぜんとして高い位置を占めている。漁師の着る完全な実用着が原型であり、長く使い伝えられたデザインであり、と理由はさまざま。しかしそれにもまして、20年前の若者が、いいものを的確に見、そして着た、ということに涙が出るほどだ。
26 02・11 244 昔ながらの紺のブレザー 紺のブレザー(ビームス) ブレザー・コートとは本来、スポーツの前後などに着る、男のジャケットである。英国の貴族的スポーツマンまたはアメリカのアイビー・リーガーたちが完成させたファッションだと思う。女が着る服としては確固たる位置も用途もないままに、なぜか広く普及してしまったけれど……。
27 02・21 245 中国スタイルの綿入上衣(キルティング・ジャケット) ジャケット(大中) この手のキルティングふう上衣は、いったいいつ頃からあったのだろう。縁どり(トリミング)といい、ボタンといい、アクセントとして実にきいている。ふと思ったのだが、これはシャネル・スーツによく似ている。キルティングで、トリミングがあって、衿なしで、ボタンがポイントで。シャネル・スーツも洋服にしてはあまり立体的ではない。とくに衿なしのところなど、考えれば考えるほどよく似ているのだ。
28 03・01 246 ゴールドは美しい イミテーション・ゴールドのアクセサリー(ドン・エモーリスコレクション西麻布サロン) ゴールドをむしろ下品に使って、それを下品に感じさせない。黒のTシャツと黒のパンツが、なんとなく粋に見える。こういうおしゃれができるようになったら本格と言える。高価なものをラフに普段に、ラフな装いで上品な場所に。ちょっぴり反逆精神のあるおしゃれが楽しい。
29 03・11 247 ’50年代風のパンツ パンツ(Boo’s Shop)  パンツは細身。しかしいまのパリ風の細さとは違う、どことなく野暮で古くさい細さ。マンボ・ズボンという呼名があった。マンボというダンスが流行った。マンボより’50年代的なのはジルバ。’50年代風に着るということは、シンプルに明るい色を組合せるということでもあると思う。
30 03・21 248 香港の絹、白い部屋着 部屋着(九龍 中芸有限公司) 白い絹を身にまとい、ティファニーの鏡に自分の顔を映してみる。そんな時間を持つことができる女になりたい、と憧れる。女が美しくなるためには、何よりも”憧れ”が大切かもしれない。白い絹が似合う女に憧れる小娘は、やがてほんとうに、そういう大人の女に育っていくだろう。
31 04・01 249 洗いざらした赤 ジャケット(サンタモニカ) なんの変哲もない男もののジャケットなのだけれど、古いということで独特の味を持っている。この味の影響力は、考えてみるほどに不思議な気さえしてしまう。古い服を合わせることで、新しい服もまた、色や雰囲気を変えてしまうのだから。洗いざらした色と、くたびれた質感の魅力だ。
32 04・11 250 黄色いゴム引レインコート レインコート(プレッピー) 風が吹いたって飛ばされない。もちろん雨なら、揃いの帽子をかぶって傘などささない。が、天気の日に、ガバッとはおって街を歩くのが粋だ。男でも女でも、これは似合う。ただしさりげなく洗練された感覚の持主であるのなら。しゃれた流行のコートを買うより、この1枚が魅力的だ。
33 04・21 251 男どもの労働着(しごとぎ) カバーオール(バックドロップ) 洗いざらしたブルーのツナギ。アメリカではカバーオールというのだそうだ。上から下まで1着になっていてダボダボの、男の仕事着。ツナギ――カバーオールのよさというのは、何と言おうと修理工ふうがいちばんいい。デザインされていないよさ、あるいはデザインをとことこんまで機能で追いつめて残った形、だろうか。これを着てチャーミングな女がいるとすれば、かなりのしゃれ上手かよほどの個性派だ。いずれにしても、これほど面白いものなのにあまりかえりみられない、そのことを残念に思うのである。
34 05・01 252 パールの衿、シンプルなブラウス ブラウス、パールの衿(フルハムロード) アンチック屋で、びっしりとパールのついた衿を見つけた。こんな衿をひとつ持っていたら、セーターにでもブラウスにでもワンピースにでも、じつにさまざまな使い方が可能で、これぞ着る楽しみの極めつけというものだろう。いちばんしっくりと落ちつくコーディネーションは、オーソドックスなスーツや、同じくアンチックのブラウスであったりするのである。衿と一緒に探し出した古いブラウスに、この衿はじつによくマッチした。
35 05・11 253 トレーナーを2枚 トレーナー(OUT POST) ある日、いま街にはんらんしているものに比べて、少し渋い色のトレーナーを発見したのである。このトレーナーは、女らしいスカートに合わせて着るのにも具合がいい。汗くささを拒否し、むしろ香水を匂わせるようなトレーナーの着方があるとすれば、色の選び方も必然的に渋く傾いていくはずだ。あれこれ色を迷いながら、いっそ2枚いちどに着てみたら、という発想も自然に湧いた。セーターとカーディガンの組合せ的な、つまりくしゃっと柔らかい女らしさもあるような、そんな調子に(2枚目は腰に)巻きつける着方。
36 05・21 254 テニスの白いセーター チルデン・セーター(プレッピー) たっぷりとあきをとったVネックの白いセーター。首と袖と腰にストライプの入った、おなじみのあれである。チルデンという選手が最初に着た(あるいは愛用した)のでこの名があるらしい。このセーターは、軽薄なテニスブームとは関係なく、いろいろな場面で着るといいのではないかと思われる。もちろん、遊び着として活用するのが最高である。真夏の海岸、春の都会、一年中これを着るにふさわしい場面はある。もっとフリーに、いろいろなものと組合せる。釣の長靴にLeeの帽子、なんていう合わせ方をしても、このセーターのよさは断固かわらず、むしろ生きてくるのである。
37 06・01 255 気らくに着る白のTシャツ Tシャツ(ビームス) プレーンでシンプルな、要するに下着そのものという白のTシャツ。これをほとんど乱暴なほどに着る。Tシャツの着こなしの”原点”も、行きつくところもこれに尽きると思う。チェックシャツの上に白いTシャツを重ねて着る、なんていう着方は意外に面白いし便利でもある。これはおしゃれ着よ、という感じのTシャツおよびそういうあらたまった着方は野暮の極である。らくに、雑に、荒っぽく、ヘンに着る。どうでもいいのだ、というさりげなさで着る。白のTシャツは、そんな着方のトレーニングのテーマとしても最高だ。この白のTシャツを自由自在に楽しめる人なら、ほかのどんな服にも自分らしい楽しみ方を発見・発明するだろう。
38 06・11 256 花のプリント模様 ワンピース(サンタモニカ) 女の服と切っても切れない深い縁を持っている布地。それはプリントで、とくに花模様だ。男っぽいデザインや、クールでそっけない色調を着ることもいま風で楽しいけれど、昔ながらの花模様の楽しさは、いまなぜかひじょうに新鮮。こんなワンピースをときどき魅力的に着る女でいてほしい。
39 06・21 257 着ふるされたデニムの上下 ジャケット(バックドロップ) いまはジーンズの上下を女らしく着ることが新鮮で、デニムのよさをもうひとつ発見するような思いがある。可愛いめのブラウス、花。ベルトとスカーフと靴は赤。たとえばこの組合せも、あるいはまた、パールのネックレスやデシンのワンピースでも、……何に合わせてもジーンズのよさが厳然と主役だ。長い年月、男たちに着続けられてきたデザインの完成度は高く、つけ加えるべきものも取り去るべきものもない。このジーンズの上下を組合わされたほかのものが、主役にぴたりと添わされてしまう。老練な名優のような存在である。
40 07・01 258 古めかしいポロシャツ ポロシャツ(サンタモニカ) このポロシャツは野暮ったいと言っていいほどのしろものである。濃い青に、衿と袖口の黄色――古めかしい色彩感覚。とくにこのブルーの、なんとツマラナイ色であることか! しかし、古めかしくて野暮でツマラナイ色や形が、なぜかドキドキするほど楽しいのである。胸にマークもついてない、どこの製品(もの)ともわからない平凡なシャツ。しかし、この色といい形といい、デザイナーの”作品”にはない別のよさがある。深く考えて作ったり、凝って着たりすることが、ときにはばかばかしく思える。すべて無造作がいい。とくに夏は、そういう季節だ。
41 07・11 259 絹のアロハの粋な着こなし方 アロハ(サンタモニカ) 古着のシルクのアロハを見つけた。値段はかなり高い(¥25,000)。このアロハを何に合わせるか。柄が派手で南国調遊びふうではあっても、さすがに材質の女らしさは厳然とある。たとえGパンやショートパンツに着たとしても、絹のてれんとした感じはやはり女っぽいだろう。麻のスーツと一緒に着てみる。スポーティーに(遊びっぽく)着るのではなく、「ちゃんとした格好」として扱うのである。麻の風合いと絹、この素材的つながりがかなりいい。全体として非常に都会的。汗や潮風の匂いより、オーデコロンの雰囲気の着方だ。こういう素材を遊びっぽく着る粋な感覚。これは最高の贅沢であり最高のおしゃれだと思う。街でも海でもいいのだが、遊びの服でしかも大人っぽく女らしい、という着方が粋だ。
42 07・21 260 フィオルッチのジムショーツ ジムショーツ(フィオルッチ) ピチピチに若さを誇示するようなショートパンツは、ややもすると下品に見える。水着姿が必ずしも美しくばかりは見えないように。着心地、気分、ともにゆったりとした、大きめのジムショーツ。こういうもののほうが、若いことの魅力が素直に出て可愛らしい。
43 08・01 261 ウエスタン調のショービジネスの黒白の服 ウエスタン・シャツ、パンツ(Bill’s) 原宿のウエスタン屋で黒に白フリンジの服を見つけたとたん、ベティ・ハットン(映画「アニーよ銃をとれ」主演女優)を思い出したのである。アメリカっぽく気ばらない、楽しい服。野暮ったくあけっぴろげな感じの女で着ればいい。ケンタッキーかオクラホマ、詳しくは知らないが、要するに田舎ねぇちゃん。そう、元気で朗らか……というイメージなのだ。この服は黒に白という、もっともシックで洗練された配色であるにもかかわらず、シックとはほど遠い朗らかさ。それにしても、アメリカン・スタイルというやつは大した迫力を持っている。どうこなしても洗練されない、これはやはり貴重な魅力だと思う。
44 08・11
08・21
合併号
262 猟師(ハンター)たちのジャケット ハンティング・ジャケット(アウトポスト) 猟をする男たちが着るジャケット。機能的につくられた完璧なデザイン……なのだが、そのじつ機能とは遊びの精神から生まれてくるのだとも考えさせられる。なんでもないワンピースにもいいし、パンツにも、何にでも着て女も楽しむべきだと思う。
45 09・01 263 懐かしいセーター 丸首のシェトランド・セーター(マドモアゼル・ノンノン) セーターならシェトランド。なんでもない形の、色もごく普通の。つまりオーソドックスなともいえるし、シェトランド島の田舎くささを残す、とも思える平凡なセーター。シェトランドの着心地よさは、質のいい羊毛の肌ざわり。だがそのことに加えて、”匂い”もある。自然の匂い――なんだかくさーい、と思うけれどそのくささが懐かしいような。見知らぬ土地の匂いなのに。自然の色と風合い。そして匂いも、大切にして着たい。シェトランド・ウールのセーターはそういう気持にさせられる。
46 09・11 264 ボーイスカウトの制服に心ひかれる理由(わけ) ボーイスカウトのシャツ(ヒットショップ) ボーイスカウトのシャツ。ちっちゃな腕白(わんぱく)が、この服で神妙に歩いていたりする姿は非常にかわいい。なぜか日本人には制服があまり似合わないし、あるいは、いいデザインの制服がないのだが、ボーイスカウトだけは日本の男の子でもかっこいい。少なくとも、彼が自分の服で遊んでいるときよりサマになっている。ボーイスカウトの服や水兵のセーラー服は、血なまぐさい戦場を思わせはしない。だから、女の子のセーラー服、女がボーイスカウトのシャツを着ること、などがすんなり魅力的に思えるのかもしれない。
47 09・21 265 ピーコート ピーコート(シップス) ピーコート。水兵たちが必ず着ている。船乗り、漁師のジャケットでもある。海の男どもが着る、保温性に富んだ厚地の上衣。しかし――陸(おか)で、とくに女がこれを着る場合。重い、暑い。極寒の季節なら暑くはないが、それでも重く、肩がこるほどだ。が、たとえば秋の曇り空の日に、今年最後の海に行く。そんなときにはどうしても着たくなる。長く着続けられ、男から男へ伝え受け継がれてきたデザインのよさなのか、海という連想からくるむしろセンチメンタリズムか。
48 10・01 266 乗馬用のパンツ パンツ(サンタモニカ) 正式の乗馬用のスーツ――びろうどの衿がついたりした上衣と、このパンツ――これは完璧なクラシック・デザインの最高傑作だと思う。乗馬ファッションの魅力を普通のおしゃれに取入れるなら――パンツとブーツだけ、というのが適当である。このパンツにだけはブーツがいい。それも、正式に乗馬用の。やはりパンツの形があまりにも完成されていて、そしてブーツを大前提としてデザインされたものだから、だろう。ほかの靴ではさまにならないような気がするのだ。
49 10・11 267 飛行士の革ジャンパー ファイター・ジャケット(バック・ドロップ) ファイタージャケット、と呼ばれているところをみると、戦闘機に乗る操縦士(パイロット)が着るものなのだろう。革のしなやかさ、その艶と色、まさに革ジャンパーの王者という風格がある。もしもこれを見つけたら、よほど無理をしてでも買うべきだ。
50 10・21 268 タキシード・シャツ シャツ(パリの蚤の市) 女のよそ行きと男のそれとでは、もしかすると格が違うのだ。女は正装をしても、たいていは社交か恋愛のためだが、男は命を張る勝負に行くかもしれないし、国を賭けての会談もある。通称タキシードシャツ。男の正装。これはシャツのエースである。
51 11・01 269 パリの労働着 オーバーオール(パリ・スキャンダル) 初めてパリに行ったとき、空港でこの服を見た。鮮やかな青のオーバーオールは、金髪のフランス男によく似合っていた。そのショッキングなほどの青の色が、いつまでも目の奥に焼きついて忘れられなかった。
52 11・11 270 スタジアム・ジャンパー ジャンパー(バックドロップ) アメリカン・ファッション・ベスト3のひとつだと思う。大リーガーに熱狂するヤンキ―魂がぷんぷん匂って、大統領の選挙応援に大騒ぎするアメリカ気質があふれて――。派手で健康的で、アメリカ万歳! の感じなのである。
53 11・21 271 昔の刺しゅうのシャツ シャツ(GOOD GIRL) 白い木綿のシャツのヨークに花の刺しゅうがある。ざくざくと手で刺した、田舎ふうの刺しゅう。糸も太くて、高級繊細な刺しゅうではない、そこがいい。この可憐な花で、シャツが生き生きとして見えるのだ。こんなシャツを見つけたら、むしょうにほしくなるのが女心なのではないか。または、そうであってほしい、と思う。
54 12・01 272 ブルージーンの上衣(ジャケット) カバーオール・ジャケット(バック・ドロップ) 数あるデニム製品と同じに、この上衣も手軽で機能的で着心地のよい便利な服だ。藍(インディゴ)のブルーが、着ているうちに褪(あ)せたいい色になってくることや、布の肌ざわりも柔らかくなってくる、こういうデニムの魅力はいまさら語るまでもない。シルクの赤い水玉のツーピース(PH)に、デニムの上衣をはおってみると、絹の赤が生き生きと感じられる。ほんの10年くらい前、Gパンでホテルやレストランに入ってはいけない、なんていう”規則”があった。絹とデニムが合うかどうか。デニムでパーティーに行っていいか。そんなルールは時代と共にどんどん変わって行く。が、ブルージーンの魅力のように、時代がどう変わっても生き残って行くものもあるのだ。
55 12・11 273 毛皮 猿の毛皮の短いボレロ(ソウル・トリップ) 毛皮を着る。これはファッションやおしゃれなどということが始まるずっと以前から人間がしてきたことだ。そして、毛皮の暖かさや、丈夫さ、長く使えるなどの利点は――人間の知恵を遙かに超える、神か大自然によって創られたもの。こうした”傑作”には、人間の小細工をなるべく加えないほうがいい。デザイン、というようなことをしないで、つまりいまでいうオーソドックス、そしてシンプルな形として着るべきだと思う。現代人としては、ドレスの上とはかぎらず、ラフなTシャツやGパンの上に着ても楽しいし、幾通りものしゃれた着方は考えつくだろう。黒いパンツにロックスターの顔のついたTシャツ……なんていう安っぽい服装にこの毛皮。そうするとTシャツの面白さが急にきわ立ったりして、毛皮には大した力があると思わされる。
56 12・21 274 ビーズのドレス ドレス(SOUL TRIP) 宝飾品(ビジュー)をつくるようにして仕立てられた服だ。びっしりと隙間(すきま)もないほどにビーズを縫いつけた仕立てに感嘆するし、ジョーゼットの薔薇色もいい。形は”サックドレス”風、ストンと大まかで、ダーツなどもとってない。ただ、ビーズの重みでまっすぐなラインがつくられる。女っぽい体の線が、ちょっとしたポーズで匂い立つ、そういう着こなし方をする服。女の服、または女そのものの極めつき。
1981年
57 01・01
01・11
合併号
275 昔ふうの男のチョッキ チョッキ(ビームス) なにげない、とか、ありふれたという形容がまさにふさわしい男もののチョッキ。華やかではないわりに、値段は安くない。質のよい毛糸で編まれた上等品なのだから。しかし、一枚これを持ったら、一生着ていられると思うのだ。
58 01・21 276 木綿のパジャマ パジャマ(文化屋雑貨店) 眠っているあいだのことは何もわからない、などというのは嘘である。無意識にもせよ、快適なベッドと気持のいい寝巻で眠っているときは、安らかで元気で幸せな時間を過ごしている。気持のいい白いパジャマで目覚める朝はとても素敵な朝だ。
59 02・01 277 イタリーのジャンパー ジャンパー(BALL SHOP) 男っぽく、機能的で、丈夫そのもの。そういうジャンパーとは正反対に、ややナヨナヨとした柔らかい革ジャンパー。軟派的イタリー男の感覚がいい。皮のなめしや染めの技術が高いからこそできる製品である。
60 02・11 278 ハリスツイードのジャケット ヘリンボーン・ジャケット(BERGMAN) これは正真正銘の男もの。男の服屋でスーツの上衣だけ買った。袖丈が少し長いほかは、女でも着られるかたちである。男仕立ての女ものジャケットが、もともとこういうスーツからとったデザインなのだから当然だ。男もののよさをまた認識。
61 02・21 279 ベージュのスイングトップ スイングトップ(ビームス) アイビーの学生が着たり、大人の男が気軽に着たりするスイングトップ。動きやすくスポーティー、実用的でもあり楽なふだん着でもある。このジャンパーの最大の魅力はもめんの生地そのもの、”色”なのではないだろうか。バーバリーのレインコートやトレンチコートの色。どこにでもよくあるベージュ色。これは男が着るものの中で最高の色だと思う。この色にはほかの色も合わせやすい。いい色のそばにはどんな色が来ても似合ってしまうものなのかもしれない。そして考えてみると、男が着てもっとも男らしい色であるバーバリーの色は、女が着ればもっとも女らしく見えるのだ。白に近いベージュのコートを白に黒の花柄のワンピースに着てみると――男が着るのと同じにさりげなくはおって、しかしそこにはまぎれもない”女”が存在してしまう。ワンピースがTシャツとGパンであっても、やはり同じことだろう。男のジャケットを無造作に着ても女らしい魅力が匂うようなのがいい。まるで銘柄(ブランド)が歩いているという感じに有名高級服で身を固めた女には、あまりその人の女らしさを感じることが少ない。何をどう着てもまずその人の雰囲気を感じさせる、それがほんとうのおしゃれだし、”いい服”なのだと思う。
62 03・01 280 ヨットパーカのフード パーカ(プレッピー) パーカにかぎらず、ダッフルコートも天鵞絨(びろうど)のケープも、すべてフードはかぶらないでいるほうがかっこいい――と思い込んでいた。事実そうだ。が、ある日ふと、そのパーカのフードをすっぽりと頭にかぶってみた。フードをかぶるとプロレスラーか中世の城塞の番兵みたいになる――という先入観念の誤りを知った。理由はないが、可愛く魅力的に見えた。ブリティッシュ・グリーンのパーカに紺のスポーツ・カーディガン。男のスポーティーものを組合せたよさと、深い海の色のような配色のせいだけではない。フードをかぶるという本来の着方が新鮮なのだ。
63 03・11 281 古い赤い上衣(ブレザー) ジャケット(カサブランカ) 誰でも、ちょっとやくざな雰囲気に憧れを持つことはあると思う。古いブレザーの赤い色にそんな気分を感じたら、そういう雰囲気を連想させる組合せをしてみればいい。連想を集めるだけで、なんとなくそんなふうに、なる。やくざな男のネクタイと、やくざ姐御の口紅とスカートが、うまく一つに融け合ったりする。男もの、女ものということは関係なく、一つの雰囲気が生まれてくるものだ。
64 03・21 282 柔らかい兵隊コート 軍用コート(東倫) 男もの、とくに軍用の作業衣や屋外着となれば、どれでも、と言っていいほど大好きだけれども、この柔らかな木綿のコートにはあらためて驚かされた。これを見つけた日の夜は、似合いそうな服のデザインがいくつも浮かんで困るほどだった。いずれにしても、活力に満ちた、気迫のある女に着てほしい。たとえばキャンディス・バーゲンとかシャーロット・ランプリングのような……。肩を張って、こわいような目つきをしてもサマになる、そんな女が着ると魅力的だ。女らしい服の上にばっとはおるにしても、やはり迫力のある女がいいし、それが上手にきまっていれば最高のおしゃれだ。
65 04・01 283 野球のユニフォーム ベースボールシャツ(GENJI) もともと野球そのものは好きではないが、ただユニフォームは気になるのだ。白でストンとした袖で、下のシャツの袖が見えるヤツとか、なんでもないストライプの……つまりオーソドックスなスタイルがいい。多分、それらはアメリカから日本に野球が入ってきた頃の型そのままなのではないか。クラシックなアメリカン・スタイルの原型をとどめているのだろう、と思う。写真のユニフォームはアメリカの少年野球(リトル・リーグ)の服らしい。少年用なので女の子にちょうどいいサイズ。着やすくもあるので、つい着て歩きたくなるかもしれない。その場合、くれぐれも”小細工”をしないで着ること。つまり、ドレッシーな女の服に合わせたりしないで。あくまでも、Tシャツやトレーナー、ズックの靴、Gパン……少年ぽくスポーティーなものしかこの服には合わないのだ。アメリカ的、野球少年的、というセンスは、じつは女にも魅力的な要素だと思う。
66 04・11 284 赤い水玉の服 ワンピース(GOOD GIRL) 舞台衣裳だったらしい、と店の人は言っていた。大きな赤い水玉で、服のサイズはかなり小さめ。多分、子供が着た衣裳なのかもしれない。大げさすぎるほどのギャザーと、やけに派手な水玉のワンピースは、昔の名子役たちを想わせる。普通では考えられない、人形やつくりものの世界にこそ似合う服。華やかなりしハリウッドやブロードウェイの少女スターの匂いが漂う。
67 04・21 285 セーラー服 セーラーの上着(サンタモニカ) 考えてみるまでもなく、セーラー服は海軍の制服だ。後ろに四角くたれた衿は、海で何か用途があるのだろうか。デザインとしては、普通では考えられないほど突飛でもある。そして非常に可愛らしい、いいデザインだ。写真のセーラー服は本ものの水兵の制服。かっちりと四角い衿とその大きさも気持がいい。クラシックな感じの絹っぽいスカートで。ショートパンツで少年っぽく着るのももちろんいい。が、女らしいスカートで着るほうが粋な気がした。セーラー服を着たことのない女のほうが少ないのではないか、と思うくらい、これは女が馴れ親しんでいる服。だけれども、おしゃれとしての着方は、かえって難しいのかもしれない。セーラー服をほんとうに着こなせれば、第一級のおしゃれ女だ。
68 05・01 286 白いレースの胴衣(ブラウス) ブラウス(SOUL TRIP) これほど緻密で繊細で大胆な美しさの前には、ただただ感服し脱帽するばかりだ。いま、世界中のどこの洋服屋でも、こんなに美しいレースは売っていないし、誰も新しくつくることはできないだろう。もうどこにもない、だからこそなおさら大切に思える、古い宝石のような服である。さりげなく街を歩く、などという装いではなく、豪華な夜会や格式の高い場所に、傲然(ごうぜん)と顔を上げて進み入る。けれども単に豪華なことを愛するのではなく、ほんとうの美しさとか最上の芸術とかだけを好み、苦悩に満ちてはいても安っぽくない恋愛や、真剣で超一流の遊びや仕事をする……要するに本格的な人間のおしゃれに使われる服。所有してしまったら、おしゃれの技術や感覚より何より、人間そのものを高める努力が必要なのだろう。
69 05・11 287 ラグビーのシャツ ラグビージャージー(finn) 衿と前立てのところだけに白い木綿布がついた厚手のニット。あの太いストライプもいいのだけれど無地がまたいい。男のスポーツ服、とくにラグビーのシャツなどには、男くささや汗の感覚がつきまとうけれども――清潔なままで着てみることも素敵だと思う。男の持つあるいは少年の持つ、清潔で生硬な雰囲気を強調する。とくにこういうシャツを女が着ると――泥のイメージは消え去って、あらためてこんなにもきれいな服だったかと感嘆させられる。衿にレースのついたプリントのジャージーのワンピース、、ちょっと古くさい田舎の雰囲気がある服。そして青いラガーシャツ。合わせてみると、両方ともが本来持っていたのと別の新鮮な顔を見せてくれた。長い間見なれてきた二つの服が、不思議に新しく美しいのだ。
70 05・21 288 赤のオーバーオール オーバーオール(サンタモニカ) オーバーオール、労働着。飛行場の作業員や機械工場の男たちが着る服。最近、”つなぎ”で街を歩いている姿が目について、そのどれもがなかなか上手な着こなしだ、と感心させられている。女の子が、男の仕事着を着て可愛らしく、または女っぽく見える、この理由は不可解だけれども、とにかくなぜか魅力的である。女は、男ものをスポーティーに着るときにも、どこかに女っぽさが匂っていなければ。そして男の労働着などは、どう隠しても女であることが却ってあらわになってしまう。だから魅力的に見えるのだろうか。スカーフやハイヒールの靴や、女らしい小物を使うほうがいい。”男”以外の何ものでもない服を女そのものという感じに着る、なぜかそれは面白く楽しい……。
71 06・01 289 ヨットの黄色い服 パーカ(finn) またまた男の服でスポーツの服で海の実用着。雨や風や波飛沫(なみしぶき)から完璧に守ってくれるであろうゴムの防水服である。海の男ではなく、都会の(とくに日本で)女がこれを着る場合――冬は冷たく寒く、夏は非常に暑い。初夏にこれを着て、いち早く海の気分にひたりたいのだが、実際は梅雨期の高湿度の中で息も絶えだえになってしまう。こういう服に心ひかれるのは、「ヨットの服だから」とか「本式の釣のコートだから」、「漁師が使う本ものの鞄だから」という理由によるのだろうか。シャネルだから、カルチエだから、伊万里だから――「いい」と思う理由の中には「誰が見ても文句なく格の高い本もので、長年そういわれ続けてきた」といったことも大いにある。愚かで軽薄な権威志向だなどという向きもあるのだろうけれど、シャネルだから好き、と思う気持をおさえることは難しい。我々のように、ヨットを持てもしない人間が、この服にこよなく憧れる。けれど、おしゃれということには、つねにこの憧れがつきまとうのではないか。憧れて手に入れたヨットの服で汗まみれになる、といった失敗もまた、おしゃれの感覚を磨く大切な修練なのかもしれない。
72 06・11 290 ”縮み”のインドスカート スカート(ハリウッドランチマーケット) 多分、インド製だろう。薄い薄いクレープのような布の木綿のスカート。楊柳(ようりゅう)と呼ばれる生地と同じ具合に”縮み”の織り。「ハリウッドランチマーケット」という店には、いい意味での”安もの”(売っている値段は必ずしも安くないにしても)がいろいろあって、人気の店であることもうなずけるし、いつも気になっていた店だ。こんな風な民族衣装っぽい服は、一時期とても流行(はや)ったけれど、最近はあまり見かけない。ananの創刊のころ、民族調の服をジプシーのように着て、華やかなディスコに踊りに行くような人種もいた。それがおしゃれの先端人間だったりした。しかし、民族衣装的な服への愛着は、誰でもが感じると思う。”土の匂い”とか、”郷愁”といったことなのか……なんだか安心な気持になれる服。それでいて、何かに対して”血が騒ぐ”ような感じもする。真っ赤な夕焼けとか、広大な草原とか、砂漠を走る馬とか何に対してか分からないけれども。どこの国の服にしても、「懐かしい」匂いと色がある。だから、ときどきは、こんな服を着てみたくなる。透けるのでスカートは2枚重ねて。昔流行ったジプシー風のショールを合わせてみる。ちょっと古風なフリルのブラウス……。
73 06・21 291 ダンガリーのシャツ シャツ(スーパーボール) このシャツの魅力とGパンのそれとはまさしくイコールだ。男ものの中でもとくに男っぽい。まっさらのときから汗の匂いがするような……。Gパンと同じように、着れば着るほどよさが出てくる。古くなってヨレヨレのやつなど、たまらなくいい。女がこのシャツを着るときにも、この男くささを殺してしまわないほうがいい。都会的に着るより、田舎っぽく、アウトドア的な雰囲気に着たい。昔の西部劇の女は、こんなシャツにばさばさと広いフレアスカートをひるがえし、馬に乗ったり男どもをどなりつけたりしていたと思う。野暮ったい感じのフレアスカートが、そんな雰囲気を漂わせる。けっしてシルクのスカートではなく、きゃしゃな靴でもなく、大まかな着方が似合うのだ。
74 07・01 292 夏の黒い服 ワンピース(サンタモニカ) 黒は最高の”色”だと思う。白よりも、もっといい。黒を上手に着る人が本格のおしゃれだ、などと言われているけれど、黒は着る人を選ばない。誰でもを安心させてくれる。髪も目も黒い日本人に黒は合わない、なんて思わずに、黒を着てほしい。
75 07・11 293 ジョギング・パンツ2枚 ジョギング・パンツ(ハリウッドランチマーケット) スポーツの服は原型そのものがいい。シンプルで野暮くさいくらいの形がいちばん粋だと思う。ランニングなどに着るパンツも、脇にトリミングやスリットをあしらったやつなんかより、単なるストンとしたパンツが魅力的。この写真のパンツ(赤の上にライトグレー)はとくにシンプルだ。まるで、おむつをしている赤ん坊にはかせるパンツと同じ形ではないか。2枚重ねると少しもこもこして、なおさら赤ん坊のお尻を思わせる。――シンプルがいいということと、2枚重ねて別色を見せたりして着ることは、あるいは矛盾しているかもしれないが――この2枚重ねが気に入っている。一体、こんなにシンプルなパンツとTシャツで、どこがおしゃれなのかとも考えてしまう。色っぽくもない、洗練されているというわけでもない――けれどしゃれているし、セクシーでさえある。多分、本来女は何を着てもセクシーだし、可愛らしい存在なのだろう。真っ白な、下着みたいなTシャツと、赤ん坊のようなパンツを身につけたとき、そういう女の魅力が見えてきて新鮮に感じる。脚を出すことの快さも、技巧や手管(てくだ)をつかわない、シンプルな魅力の見せ方が快いのかもしれない。生まれたままの裸がセクシーで可愛らしければ、その女は最高のおしゃれをしても魅力的なはず。シンプルが似合わない女は多分裸も可愛くない……。
76 07・21 294 インドの銀の腕輪 ブレスレット(グランピエ) NEW!昔、インドに行った。信じられないほど細く痩せた男や女たちの、彫りの深い顔と肌の色の美しさに感激した。その容姿に、強烈な原色のサリーや、派手にいくつもいくつもつけているアクセサリーがみごとに似合っていた。細い両腕に、少なくとも5本ずつ腕輪をして、鹿のような足首にも足輪(アンクレット)をつけている。イヤリングも必ず。人によっては鼻飾りも……。ジプシーやインド人は、自分の財産をすべて身につけて歩くのだそうで、理由は家がないからかもしれないが、結果としては素敵な使い方だ。腕輪にしてもジプシーのペチコートの重ねばきにしても、貧しさが魅力的なファッションを発明している。日本人のフラットな顔と小さくて太め(インドに比べて)の体型で、なおかつ、こうした装飾品(アクセサリー)をこなすには――。工夫やアイデアは何もないと思う。ただ、好きで好きで、どうしてもこれをつけたい、インド人のようにいっぱいつけて歩きたい、という”気持”だけで押すしかないのだ。顔立ちの強烈さは持合わせていなくとも、気迫の強さはある人にはあるものだ。少し年を経た大人ならなおさらだし、若くても突っ張った女なら。似合わなくても好きだから着る、この精神がいい。
77 08・01 295 タオル地の黒いガウン ガウン(BIGI) NEW!若い頃おしゃれということの手本が外国映画だけだった世代にとって、ガウンというものはとりわけ憧れを誘われるひとつだった。フランスやアメリカのファッション雑誌を見られるようになってからも――ガウンの女がときにセクシーに、ときにゴージャスに笑いかけてくる、その姿にかぎりなく憧れたものなのだ。あるいは着る人によるのだろうけれども、タオルのガウンは女をもっともセクシーに見せる衣服かもしれない。男っぽかったり、やせっぽちで年もとっていたり、それでも女の可愛らしさをあふれさせている――往年の名女優キャサリン・へプバーンのような――そういう魅力で着るのが最高だ。セクシーそのものというのではない女が、色っぽく魅力的に見える瞬間があると思う。こんなガウンを着たときがそうだ。ごく普通のタオル地で、気持のよい洗いたてで、よく乾いている。そういうガウンがいい。
78 08・11
08・21
合併号
296 夏の終りのベスト 釣りのベスト(アウトポスト) NEW!まだ暑いのだけれども、気分的にはもう夏が過ぎてしまったと感じるような頃。たとえばウールのセーターや革のジャンパーなどが懐かしい。暑くても、着てしまおうか、と衝動的に考えたりする。そんな夕方に、このベストを着てほしい。ポケットがあまりにも沢山ついていて、まるでキルティングのベストのような量感(ボリューム)がある。羽毛(ダウン)のジャケットと似た雰囲気だ。これは、見方によってはひじょうに馬鹿馬鹿しいおしゃれだともいえる。ヨーロッパでは、夏も革のジャンパーを着ているし(実際夜は寒いので必要なことでもあるらしい)、あのカッコよさはどうしてもマネしたい。――高温多湿の日本に住んで、そんなマネはナンセンスもはなはだしい! というのは正論であって、じつはこの浅はかなマネ精神こそ、おしゃれに不可欠なものなのだ。他人より早く、シーズンより先に…という精神も浅はかで軽薄で、おまけに暑い思いや寒い思いを我慢しなければならない馬鹿らしさもついて回る。けれど、何かを我慢して、無理に着るという、そういう気持や人間がとても好きだ。その無理が、大人のいいおしゃれへの道だったり、センスを磨き上げる最良の方法のような気がする。 

戻る