カシミヤ

カシミヤの呼称はインドの北部高山地帯カシミール地方原産のカシミア山羊(やぎ)に由来する。現在はチベット・中央アジア・中国(内蒙古)の寒冷山岳地帯に分布しているが、近年の異常気象の影響で減産の一途をたどっている。カシミヤ山羊は厳しい気候条件を生き抜くために、外側の太い「刺毛」と内側の細く繊細な「産毛」が共生している。夏を迎える準備として毎年春の終わりに脱毛期を迎えるのだが、この時に櫛のようなもので産毛を梳き取りる。これがカシミヤの原料になるのだ。暖かく、ヌメリ感のある原毛は、細く繊細で毛の直径は15ミクロン。1頭当たりの、採毛量は250グラムと少なく、カシミヤのコート地を1着分作るのに、30頭ものカシミヤの毛が必要とされている。同じようにカシミヤと呼んでも、ブラウン・グレー・ホワイトの3色があり、原毛段階で厳密に区分されているが、一番値段の高いのはどんな色にも染めることができるホワイトカシミヤである。


カシミヤについては、1979年から1981年までananに連載された「金子功のいいものみつけた」の14回目(アンアン1979年10月1日号)「カシミアのグレー」で、金子さんが触れているので、それを紹介しよう。

秋が来て、セーターの楽しみがよみがえり、パリ風の粋なおしゃれに憧れる。全身を高価な品で飾らなくていい。いろいろ技巧を凝らさなくてもいい。1枚だけ、上等のカシミアのセーターがあれば…。

イギリス製の、上等なカシミア。「スコッチハウス」に代表されるような格のある銘柄(ブランド)がやっぱりいいのだろう。が、ある程度の上等品ならどれでもいい。
とにかく丸首の、何の変哲もないセーター。カシミアはその肌ざわりと着心地において、断然他を引き離す実力を持っている。着て気持がいいということが第一の魅力で、だから複雑なデザインや模様など必要ない。
そして色はグレー。少なくとも最初の1枚は、ごく”ありきたり”のグレーがいい。駱駝色(キャメル)や赤や紺、いい色のカシミアは沢山あるけれど、まず第一にグレーだ。
プレーンな形で、なんでもない色で……カシミアのよさだけを着る。”ありきたり”のグレーは、つまらない装いにもなる色だ。しかし、そういうグレーこそ、しゃれ方の腕の見せどころ。質のいいセーターだったりするとそのよさが引立つ色なのだ。

なんでもないタイト・スカートに黒のハイヒール。あるいはプリーツのスカートで、上にカーディガンを組ませてもいい。
パリの女のように、平凡なくせにとても粋な、ああいう着こなしをしてほしい。
パリの女はなぜおしゃれが上手なのだろう。たとえばカシミアの高価なセーターをグッチのバッグにセリーヌのベルト、といった着方、これは野暮。ギャバジンのプリーツスカートでバッグは今風(これが書かれたのは1979年)の大きな袋型だったりする……つまり金持風でない着方、が粋だと思う。
型や枠にはまっていない着方で楽しむ。セーターに真珠、みたいな合わせ方も思いきり自由に。持っているだけ真珠を全部よじってつけてしまったら、とても楽しい気分だった。
いいカシミアのセーターを1枚。ここから生まれる精神のゆとりも貴重だ。偉い人に会う、みんなが豪華な服を着ている席に行く、相手はセンスのいい女だ、といったもろもろの場合にも――特別のドレスなど着ないで、このカシミア。何にでも対抗できるような安心感もある。
シルクのブラウスを下に着て、また時には木綿で無造作に。寒い季節にはジャケットとの組合せも楽しい。
けれども、秋一番に着たいのは、カーディガンもジャケットもなしの丸首セーター。なぜかこの季節はとくに、シルクのブラウスで着ていたい。

カシミアのセーター¥29,000(リーゼントハウスで1979年に売られていた物)シルクのブラウス¥29,000(ピンクハウス1979年秋冬物)モデルはユリさん。タイトスカートと黒のハイヒールはブランド不明。おそらくピンクハウスのものであろう。リーゼントハウスにちなんだのかどうか知らないが、ユリさんが髪型をリーゼントでキメている。意外にも宝塚の男役も真っ青になるほど似合ってるのである。

ワンダフルハウス私物
青山のエミスフェールで1994年に49,000円で購入したスコットランド製のカシミヤ100%Vネックセーター。金子さんが「いいものみつけた」で勧めてるのはこの色だ。霜降りグレーというか、チャコールグレーっぽい色。カシミヤのニットというと、ジェーン・バーキンを真っ先に思い浮かべる。素肌にカシミヤのセーターというイメージが強いが、実は父親の遺品のボロボロになったランニングを下に着ているのだ。彼女が最も愛用しているのは、ブルーとグリーンがミックスになった色だが、このグレーもよく着ている。ダーク・ボガートと共演した「ダディ・ノスタルジー」では、グレーのVネックとカーディガンをステンカラーコートなどと組合せて着ていた。
NEW!
ワンダフルハウス私物
1 KK−4
1985年秋物。カールヘルム設立当初に発売された商品でカーディガンとVネックがあった。「金子功のブラウス絵本」で見れるが、金子さんは、これのVネックを買った。水色ベースに白&赤&黄&ピンクという色の組合せがパリっぽくて、やはりエミスフェ―ルの影響を受けているようである。この5色にライトグレーを加えた全部で6色展開だった。カシミヤ100%でカーディガンは69000円。Vネックは65000円。ジャケットやコートより高かった。
ライトグレー ピンク
黄色
縄編みカーディガン¥48,000 柄も編み方も違う2枚のカーディガンを組ませると、お洒落っぽさの相乗効果を生んでくれる。この場合インのボタンはしっかり留めて柄を見せよう。 ツルツルで光沢のあるナイロンブルゾン¥34,000、スタンドカラーシャツ¥17,000、パンツ¥13,800 男なら誰でも出会う”ピンクの壁”。思い切って一度乗り越えれば、ピンクが大好きになる。 シャツ¥17,000、ネクタイ¥8,000、パンツ¥13,800(全てカールヘルム1985年秋冬物)この写真だけ金子さんのコーディネート。「金子功のブラウス絵本」でもこの黄色と赤のセーターを肩にはおっている。

参考資料
白・グレー…「ノンノ特別編集 メンズノンノ」1985年10月10日発行
ピンク・黄…アンアン1985年8月30日号「男の服を作ることが、こんなに面白いとは思わなかった。」

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