現在でこそパティシエ・ブームなどと言われ、日本のフランス菓子界は隆盛を誇っていますが、その本格的な発展の歴史はまだ半世紀に満ちません。1964年の東京オリンピックに合わせて開業したホテルオークラに総製菓長としてフランスから招聘を受けたアンドレ・ルコント氏は1968年、東京・六本木にフランス菓子専門店「A.ルコント」をオープンさせます。これが日本に正統的なフランス菓子を普及させる大きな第一歩となりました。後に「フランス料理アカデミー日本支部」を設立するなど、フランス菓子のみならずフランス料理の発展にも大きな貢献をした偉大なシェフが開いたこの店をワンダフルハウスが訪れました。創業当時からのスペシャリテであるガトー・フランボワーズを紹介いたします。
「六本木ヒルズの向かいに強烈な光を放っている店がありますよ?(゚O゚)\」 |
現在のCBONビルの1階、あの白く光っているあたりにルコント六本木店がありました。 |
2006年 | 1974年 |
「おおっ!? どうやら1970年代にタイムスリップしてしまったようです(゚O゚)\ それでは、店に入ってみましょう。 |
1973年 | |
「こんにちは!おっ、ガトー・フランボワーズは150円ですか(^O^)\」 | |
1968年に六本木に店をオープンして、東京のフランス菓子をパリと同じレベルにまで引き上げてしまったアンドレ・ルコント氏の登場です。時代を感じさせる冷蔵ショーケースの上に並んでいるのはブリオッシュ(60円)、チョコレート・クロワッサン(60円)などのパン。ショーケース内上段左からガトー・フランボワーズ(150円)、モンブラン(130円)、チョコエクレア、モカエクレア。下段左からスワン(120円)、ミラベルのタルトレット、シュクセ。 |
1972年 | |
1972年のノンノのケーキ特集「ケーキのお見合い写真デス」。ルコントのガトー・フランボワーズは確かに150円でした。 |
1973年 | |
1973年アンアンのお菓子屋さん特集。アンアンおすすめのケーキとしてフランボワーズが紹介されています。黒柳徹子さんが買っていた土日にしか作らなかったプティフールの写真も。シュクセ、マスコット、(ミラベルの)フランなど現在では廃番になってしまったケーキを数多く見ることができます。 | |
左の写真、右下隅に経堂にあった伝説の洋菓子店「銀ダル」が載っています。 |
「フランボワーズは現在もあるのでしょうか?(゚O゚)\」 |
ガトー・フランボワーズ | |
プティガトー 525円 |
アントルメ 5040円 |
「ありました!(^O^)\ “木苺のバタークリーム、当店のスペシャリテ”と書いてあります」 | |
この写真は少し前のもので、現在は値上がりしています。 |
ガトー・フランボワーズ カット 630円 |
ガトー・フランボワーズ フランボワーズ・ソース付き (特注品) |
「カットしたものもありますね(^-^)\」 | ワンダフルハウスはアントルメを買いました。 |
「うおーっ!綺麗です!(゚O゚)\」 |
フランボワーズ・ソース (特注品) |
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今回は、前田秀幸シェフ特製のフランボワーズ・ソースを追加でオーダーしました。 |
青山にレストランを持つミシュラン3つ星シェフ ピエール・ガニェール氏が来日してルコント青山店を訪れた際に「パリにもジュネーブにもここまで完成度の高いフランボワーズは既にもう存在しない」と言わしめたルコントのガトー・フランボワーズ… |
ガトー・フランボワーズ (アントルメ) 5040円 |
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「このケーキは、1970年代にヌーヴェル・パティスリーの流行によって世界中から絶滅してしまったパータ・ジェノワーズとクレーム・オ・ブールの構造を持つ超古典的なケーキの生き残りなのです!(゚O゚)\」 |
「う…美しい…まるで鏡です!(゚O゚)\」 |
上に塗ってあるのは、フランボワーズのジャム。 |
「ピンクの地肌が見えました!(゚O゚)\ これがフランボワーズ風味のクレーム・オ・ブール(バタークリーム)です」 |
サイドにはケーキクラムをまぶしつけてあります。 |
フランボワーズが均等に8個乗っているということは、これは8カットですね。 |
ガトー・フランボワーズ (プティ・ガトー) 525円 |
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このお菓子が発売された1968年当時の日本では、フランボワーズ(木苺、ラズベリー)はまだまだ馴染みが薄く、味を知ってる日本人は少なかったのでした。 |
非常に高価な素材でしたが、日本人に味を紹介するという意味で利潤は考えずに発売したものです。 |
「小さいからケーキクラムも細かいですね(^-^)\」 |
「それでは断面を見てみましょう」 |
シャルロット・オー・フランボワーズ (パティシエ・シマ) 特注品 |
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このタイプのケーキは、普通ムースとビスキュイの組み合わせなのですが… | |
ムースはフランス語で泡という意味。その名の通りフワッとした口当たり。舌の上に乗せた途端とろけてしまいそうなお菓子です。生クリームをたっぷり使ってあるのでリッチな味わい。 |
「おおっ!?これは!?(゚O゚)\」 |
「ピンクの部分は、ムースではありません。フランボワーズ風味のバタークリームです!(゚O゚)\」 |
ガトー・フランボワーズ カット 630円 |
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1970年代にショック・フリーザー(急速冷凍機)が開発されると、フランスのルノートルなどの先端的なパティスリーが真っ先に機械を導入してケーキを変えていきました。いわゆるヌーベルパティスリーと言われるものです。効率的で大量生産ができ、労働時間も短縮されるとあって、瞬く間に普及していきました。例えば、何層にもなったムースを仕込む時には、最初に1層だけ流してショックフリーザーに入れ、−30℃まで一気に冷やし、固まったら次の層を流して…早く効率的に仕込めるようになったのです。瞬間的に固める事によって、素材の香りや味を逃がさないといった利点もあります。 |
「1970〜80年代にかけて、このようなバタークリーム主体の重いお菓子は世界中から淘汰されて、ムースと呼ばれる軽いものが生まれ、定着していったのです…うおーっ!ジャムがたれる!(゚O゚)\」 |
「シロップでビショビショの生地、濃厚なバタークリームで固めた昔のスタイル…これは21世紀に奇跡的に残存した世界最高のフランボワーズなのです!(゚O゚)\」 | |
上からたれているのはフランボワーズのコンフィチュール。 | |
ピンクの層はフランボワーズ風味のクレーム・オ・ブール。鍋に砂糖と水を入れて煮詰めてシロップを作り、溶きほぐした卵黄にシロップを加えてかき立て、冷めたらバターを加えて混ぜて、フランボワーズ・ピューレを合わせて混ぜたものです。 | |
紫の層は、フランボワーズ・ピューレとシロップとフランボワーズ・リキュールをたっぷり染み込ませたパータ・ジェノワーズ。 |
このケーキクラムの食感が、いいアクセントになるのです。 |
世界最高のフランボワーズにソースが注がれました。 | |
「ルコントさんの店の特徴は何ですか?(^-^)\」 アンドレ・ルコント氏「全てのものに関して確実にフランスの味を再現していることです」 「この店のケーキの価格は他店と比べて高いのですが、お客さんの反応はどうですか?」 「味に納得して買っていく人がほとんどなので、問題はありません」 「フランス菓子の世界で成功した理由は?」 「この職業に就いてから今まで、常に仕事に対して誠実でしたし、確実にやってきました。休む事もあまりしませんでした。とにかくまじめにやってきたのです」 |
「それで、階段を昇るようにトップまできたのですね?」 「そうです。少しづつ経歴を積み上げてきました。たまに進歩しない自分に焦りを感じたこともありましたが、すぐに取り戻しました。とにかく自分の進むべき道だと思いましたし、まだ使用人でしたから、真面目にそしてシェフを尊敬し、口応えもしませんでした」 |
「現在(ルコントさんがお元気だった1990年代初頭)のパティシエはどうですか?」 「言い返されることもあります。私はシェフが間違っていると思われることにも何も言いませんでした」 |
上のコンフィチュールがソースの役割を果たしているので、本当はソースは、いらないのです。 | |
「どのような視点から働く店を決めましたか?」 「店の質です。お金がたくさん貰えるからとかいった事ではなく、店の質を見極める事が大切です。つまり技術を学べる所かどうかです。でも私は、お金のために働く場所を変えたりする事はありませんでした。繰り返しますが、店の質をいつも考えていたのです。そして目的は、もちろん献身的に学ぶ事です」 |
プティガトーもアントルメと層の構成は同じです。 | |
「13歳の時から働き始め、苦労もあったのではないでしょうか?」 「大人達の中に混ざって働いたのですから、もちろんありました。大人達と同じように働いたのです。朝は6時から、終わるのは21時でした」 |
「世の中にこんなに美味いものがあったとは…(~Q~)」 | |
「辞めたいと思ったことはありませんでしたか?」 「ありました。3日のうち2日は順調で、1日は不満の繰り返しでした。お天気でいえば、2日晴天で1日は雨ということです」 |
「それでも仕事を続けた理由は何ですか?」 「父親がすでに死んでいましたので、早くから仕事に就いて生活のために働かなければならなかったからです。それにもし父親が生きていたら、やり始めたことを途中で辞めることを良く思わなかったでしょう。でも仕事は本当にきつかったです。18歳頃から徐々にスムーズにいくようになり、ガトーからグラスまで覚えました。給料が良くなり始めたのもこの頃からです」 |
どっしりと重く、強烈に味が濃い…(~Q~) 現在の軽いフランス菓子群では体験できない深い味わいです。 | |
「今までの経験で、職人にとって重要だと思うことは?」 「大切なのはいろんなことを学ぶことです。パン、菓子、料理。これらのことを学んでいなければ、素晴らしい職人とはいえないように思います。それと私はディプロムをたくさん持っていますが、資格を取るということも重要に思います」 |