フランス菓子 Maison Wenikoの四季

2011年2月
St.Valentin サン・ヴァロンタン

子供の頃に見たデヴィッド・ニーヴン主演の古ーい映画でのこと。彼はお金持ちの紳士。自室に妙齢の女性がやって来ると、サイドテーブルの宝石箱を取り上げ、女性に勧めます。その中は艶やかな輝きを持ったチョコレートたち。男性には葉巻を勧める代わりに、女性にはチョコレートをというわけ。一瞬の場面でしたが、宝石箱に入れられるほどのチョコレートのことは、あれこれ想像して憧れ続けてきました。そして実際にそのチョコレートに会えたのです。東京ミッドタウンのフレンチ・レストラン「cuisine francaise JJ」の丸くて一口大、回りにはチョコレートがかかっているだけのそっけない外見。でも、ちょっぴりかじって驚きました。まるでウィスキー・ボンボンのよう。濃厚な香りと、うっすら舌をくすぐるお酒の香りには陶然となりました。宝石箱に入れたくなるのは当然というような凝った大人の味がしたのです。そんなチョコレートに想いを馳せていた2011年2月14日、東京ミッドタウンから水戸フランス菓子 Maison Weniko」にやって来たフランス菓子職人「紅子(Weniko)さんからチョコレートの手ほどきを受けることになったのです。

2009年2月14日

わんだふるはうす、cuisine francaise JJに行く

2年前の2009年2月14日、ワンダフルハウスは東京ミッドタウンのガーデンテラス2Fにあるフレンチ・レストラン『cuisine francaise JJ (キュイジーヌ・フランセーズ・ジェイジェイ)』を訪れました。
時を重ねるごとにフランス料理のスタイルは変化してきましたが、cuisine francaise JJでは、1970年代初頭の日本に本当のフランス料理がやって来た頃の味を堪能することができます。
ジョエル・ブリュアンさんは1948年リヨン生まれ。10代でフランス料理コンクールの最優秀賞を受賞。ポール・ボキューズに入り、20歳でスーシェフに。24歳の時に来日してポール・ボキューズの支店としてできた「東京レンガ屋」銀座店の料理長に就任。1980年青山にレストラン・ジョエルをオープン。1999年、フランス料理アカデミー日本支部の初代会長アンドレ・ルコント氏の後を継いでフランス料理アカデミー日本支部の2代目会長に就任。
「私は死んだらルコントと同じ墓に眠ることになっています」と語るジョエル・ブリュアン氏。プロ野球の監督が2〜3年で代わるのに比べ、フランス料理アカデミー日本支部の会長は1970年の創立から41年間で1回代わっただけなのですから、これは凄いことです。
「おおっ!? 高木さん、この匂いは? 〜(゚Q゚)\」「ぺリゴール産フレッシュ黒トリュフです」
フレッシュ・トリュフが近くに来るや、その芳香が辺りを圧倒します。香りとか匂いというレベルではありません。生きているトリュフはガスを発散し続けるので、JJの個室は、さながらトリュフのガス室状態となっていたのでした。
「神秘的で悩ましい匂いです!〜(~Q~)」
“黒いダイヤモンド”と呼ばれる高貴な塊「トリュフ」はキノコの一種。柏やハシバミの根に寄生し、土の中に育ちます。12月から2月末までが旬。高価で収穫量が極端に少ないゆえにグルメ垂涎の的となり、フランスを代表する贅沢品になりました。しかし、その生育過程はミステリーに包まれています。
「ほぅ、これがトリュフですか(^-^)\」
良いトリュフかどうかを見極める方法は3つ。まず香りを嗅ぎ、それから大きさを見て、最後にしげしげとトリュフの肌合いをチェックするのです。

「よく見ると不気味です!(゚O゚:)\

確かにトリュフは不恰好。一見拳骨のようにゴツゴツして、表面は硬い粒状であるゆえに、何か不気味な感じさえします。
「ワタシヲ タベ カミヲ アガメヨ!」「ト…ト…トリュフがしゃべった!?(゚O゚)\」「ワンダフルハウスさん、今のはジョエルの悪戯ですよ」
19世紀の作家であり、ロッシーニとも親交のあったアレクサンドル・デュマの最晩年の著作「Grand dictionnaire de cuisine 大料理事典」(1873年刊)では、トリュフ・ア・ラ・サンドルから始まって、サラッド・ドゥ・トリュフ・ノワール・ア・ラ・リュスにいたるまで、10種のルセットについて書いています。そしてデュマは、ミステリアスなトリュフの秘密はトリュフ自身に訊ねてみないと分からないと、半分匙を投げながら、この不思議な食物の魅力について語っています。
「ワンダフルハウスさん、自分的にはジャガイモとトリュフの組み合わせが大好きで、どっちも土の中で出来る素材ですので、合わないわけがない、という組み合わせです。この組み合わせで思い出があるのは、ジョエルの友人のルコントさんの食べ方です」
「ポム・ヴァプール、スライスしてお皿いっぱい並べて持ってきて!」
「それから、トリュフ1個とスライサー、塩、オリーブオイル!」
「自分でやります」

「そして蒸かしたジャガイモを1〜1.5cmにスライスして、お皿いっぱいの熱々のジャガイモを持って行きました。そして塩を振り、オリーブオイルをかけて準備完了! 後はルコントさんが笑顔とともに、自分でトリュフをスライスしてお皿が真っ黒に!ほんと真っ黒!マジ真っ黒!その時の香りといったら最高でした。それが、自分の中では最高のトリュフの思い出。ルコントさんの思い出かな」「そ…それは凄い!(゚O゚)\ その料理を再現してください!(^O^)/」「ただし、金額は…凄かったですよ」
「ほぅ、これがトリュフ・スライサーですか(゚-゚)
「始まった!(゚O゚)\」
「こ…これは凄い!(゚O゚:)\」
「ストーップ! もうこの辺で勘弁してください! ¥〜\(゚O゚:)/〜¥」
Pommes de terre a la vapeur aux truffes fraiches
“Andre Lecomte”
ポム・ド・テール・ア・ラ・ヴァプール・オー・トリュッフ・フレーシュ
“アンドレ・ルコント”
生トリュフと茹でたジャガイモ アンドレ・ルコント風
特注品
「真っ黒です!(゚O゚)
アンドレ・ルコントさんのお皿は、皿の端までトリュフが飛び散り、皿全体が真っ黒になったそうですが、ワンダフルハウスは予算の都合上、ここまでにしておきました。
「ただの茹でたジャガイモの上に、たっぷりのぺリゴール産フレッシュ黒トリュフ…これが本物のフランス料理なのか!(゚O゚)\」
トリュフは極めて不思議な魅力を持ち、最も香り高く、確かな徳を備えている。まさに料理の「Diamant noir ディアマン・ノワール」(黒いダイヤモンド)である。シェフの口の中でトリュフは贅沢な感触、豪華さそのものを意味する。料理にとってトリュフは、裁縫にとっての刺繍に等しい。(レイモン・オリヴェ)
トリュフはぺリゴール料理の香り高き魂である。トリュフがフォアグラに対するは、真珠が宝石箱に対するがごとし。(キュルノンスキー)
冷たく表面が粒々にして、根も無しに生えてくる驚くべき黒トリュフは、神秘的に成長するので大地にとって無縁なもののように見える。(コレット)
私がこれを書いている現在(1825年)、トリュフの栄光は頂点に達しているといえよう。アントレがそれ自体どんなに美味しいものであったとしても、トリュフの味つけがなければ格好がつかない。“プロヴァンス風トリュフ”の話を聞くだけで生唾が出るのを感じない人がいるだろうか。(ブリア・サヴァラン)
(紀元前の)人々は学者たちにトリュフの正体を尋ねた。2000年の議論を経た後でも、学者たちは最初の日と同じように答える。「何もわからない…」。トリュフそのものに尋ねたらこう答えた。「私を食べ、そして神を崇めよ」。トリュフの歴史を書くことは、世界文明史を書くことを意味する。(アレクサンドル・デュマ)
トリュフが調味料に、美食家を恍惚境に導くための輪光のような働きをします……トリュフはキノコのモーツァルトです。(ロッシーニ)
「ワンダフルハウスさん、この中からお好きなものをお好きなだけお選びください」「おおっ!?シェフ・パティシエールの宮本亜希子さんが作ったミニャルディーズが登場しました!(^O^)\」
「全部ください!(^O^)/」
「マカロン・フランボワーズとノワゼット(ヘーゼル・ナッツ)…」
「マドレーヌ・ピスターシュ、ナッツのタルト、フランボワーズ・コンフィチュール入りボンボン・ショコラ…」
「ん?これは?(^-^)\」「カボチャの一口デザートです。上にピスタチオとショウガが乗っています」 「この緑色のムースは…ピスタチオか枝豆(ずんだ)ですか?(^-^)\」「そちらは、グリーンピースとホワイトチョコレートのムースです」
「おおっ!? これこそ子供の頃に見たデヴィッド・ニーヴン主演の映画に出てきた宝石箱に入っていたチョコレートです!(^O^)\」「ワンダフルハウスさん、そちらはトリュフです」「チョコレートなのにトリュフとは!?(゚O゚)\」「ボンボン・オー・ショコラ(一口サイズのチョコレート)で最も有名なトリュフは、土の中から現れたキノコのトリュフに似ていることから名付けられました」
トリュフが調味料に、美食家を恍惚境に導くための輪光のような働きをします……トリュフはキノコのモーツァルトです(ロッシーニ) 「コニャックが効いていて美味です!(^Q^)」
ガナッシュとクーベルチュールがトリュフに、美食家をデカダンスに導くための輪光のような働きをします……トリュフはボンボン・ショコラのマーラーです。(ワンダフルハウス)

2011年2月14日

わんだふるはうす、Maison Wenikoに行く

あれから2年が経ち、cuisine francaise JJのシェフ・パティシエール宮本亜希子さんは、Weniko(ヴェニコ、ベニコ、紅子)と名前を変えて、六本木から水戸へやって来て『フランス菓子 Maison Weniko』をオープンしました。
「あっ! マカロン・オー・ショコラをチョコレートの液体の中にドボンと落とした!(゚O゚)
「あれを冷やして固めたものが…
「これなのです。マカロン・オー・ショコラがチョコレートでコーティングされて、さらにショコラ風味が濃厚に。これはダブル・チョコレート・マカロンというそうです」
「何だ!?これは!?(゚O゚)\」
「複雑なショコラの地層を食べている感じがします(^Q^)」
「チョコレートと生クリーム、バター、お酒かコンフィチュールを混ぜたガナッシュ(チョコレートクリーム)に溶かしたチョコレートを周りにかけるんだったら大丈夫。ほら、cuisine francaise JJで食べたようなトリュフならできますよ」「それでは、紅子シェフにトリュフ作りを見せていただきましょう\(^○^)/」
ブラックチョコレートのガナッシュ+グランマニエ ミルクチョコレートのガナッシュ+柚子のコンフィチュール
1 まず最初にガナッシュを作ります。これは前日の夜に作って一晩寝かせたものです。クーベルチュールチョコレートをボウルに入れ、お湯の中にボウルごと浸けて湯煎にして溶かします。生クリームを煮立てバターを加えます。バターが溶けたら、溶かしたクーベルチュールチョコレートと混ぜ合わせます。
2 泡立て器でよくかき混ぜます。寒すぎるとチョコレートが固まることもあるので、時々湯煎にかけながら混ぜます。風味をつけるために洋酒やコンフィチュールを加え、湯煎から外します。
3 よくかき混ぜます。混ぜるうちに温度が下がり、チョコレートがクリームくらいの固さになります。これを丸い口金を付けた絞り出し袋に入れ、パラフィン紙の上に親指の大きさに絞り出して丸めます。涼しい場所に置いて固めます。
4 上がけ用の溶かしチョコレートを作ります。クーベルチュールチョコレートを湯煎で溶かし、カカオバターを加え混ぜます。艶を出すために4分の3位をバットに流して冷やし固めます。残り4分の1は湯煎のまま溶かした状態にしておきます。バットのチョコレートが固まったら残り4分の1へ再び戻して溶かします。これで出来上がりですが、溶けた状態の温度は32〜35℃が良く、温度が変わらないように湯煎の温度を絶えず調節します。
5 丸めたガナッシュを上がけ用チョコレートに浸し、網でツノを立てて仕上げます。ツノ模様のトリュフは、適度にチョコ液が固まった頃、目の細かい網の上をフォークで横、縦方向に2回、転がして形を作ります。
「おおっ?てんとう虫?(゚O゚)\」
「てんとう虫の型にチョコレートを流し入れていますよ? これは転写シートです!(゚O゚)\」
トリュフ(ゆず)
1050円(6個入)
1個だけフランスで幸せを運ぶといわれているコクシネール(てんとう虫)を付けて完成しました。
「ワンダフルハウスは生まれて初めて出来立てのトリュフを食べる機会に恵まれました…どれどれ、お味は?(^-^)つ。」
「おーっ!被膜用のチョコが信じられないほど薄くて軟らかく、ガナッシュのフレッシュ感が凄い!(゚Q゚)…これは握り立ての寿司をカウンターで食べる感覚と同じです!(^Q^)」
「柚子の風味が凄い! これぞフェルベール式トリュフです!(゚Q゚)」
トリュフ(グランマニエ)
1050円(6個入)
「グランマニエのトリュフは真っ黒くて、見るからにビターな感じがしますね(^-^)つ。」
「ビターチョコのコーティングがとても薄く、ビターで軟らかいガナッシュがトロッと溶けます。ガナッシュの滑らかさは想像以上です」
「アルコールも主張しすぎず、オレンジの香りがふわっと…上品な味わいです!(^Q^)」
「出来立てのトリュフが店頭に並べられるやいなや、あっという間に売れていきます。メゾン・ベニコのお客さんはチョコレートの鮮度について敏感なようです。洋服もいいものを着ている人が多いですね」
「スーパーやコンビニで売っている大手メーカーの工場製チョコレートしか食べたことのない日本人は、ボンボン・オ・ショコラの鮮度について、全く無頓着ですが、本当の意味での賞味期限はガナシュ系で製造日から1週間、ナッツ系で2週間といえるでしょう」
「ただし、この違いは本当に鮮度の良いボンボン・オ・ショコラを食べたことがある人にしかわからない世界ですが…」

「ん?(^-^)\」
「今度は何を作っているのですか?(^O^)/」
「マンディアンです」「マンディアン?(^-^)\」
「ワンダフルハウスさん、これはプラリネ・ショコラです」
「こうやって絞り袋に入れて、丸く絞って、上にドライフルーツやナッツを飾ります」
Mendiant au chocolat
マンディアン・オ・ショコラ
525円 5個入
マンディアンとは“施しを受ける”という意味で、托鉢しながら修行する4つの托鉢修道会(ドミニコ、フランシスコ、カルメル、アウグスチノ)の服装の色(白、灰、 茶、濃紫)を模して、アーモンド、ヘーゼルナッツ、干しイチジク、レーズンを取り合わせたものです。メゾン・ベニコのマンディアンはイチジク、杏、クランベリー、ヘーゼルナッツが乗っています。
続く

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