フランス菓子 Maison Wenikoの四季

2011年5月
タルト・モンモランシー

首都パリを抱えているイル・ド・フランス地方(Ile-de-France)は、周辺のオルレアネ地方やシャンパーニュ地方との特殊な関係からパリを守っていくという形で生まれた地方です。このコーナーではMaison WenikoWenikoシェフが作ったイル・ド・フランス地方のお菓子タルト・モンモランシーを紹介いたします。

2011年5月第4週

わんだふるはうす、梅雨入りの日にメゾン・ベニコへ行く

「フランスのイル・ド・フランス地方というのは、日本でいえば関東地方のようなものなのでしょう。つまり、茨城県水戸市の偕楽園も日本のイル・ド・フランス地方にある、と言えるのです」
3月11日に発生した東日本大震災の影響で閉園していた偕楽園が、 ゴールデンウィーク初日の4月29日(金)より部分的に開園されました。開園された部分というのは、写真のずっと向こうの区域で、常磐線から見える区域は、相変わらず立ち入りが制限されております。
「千波湖が見えた…ん?…雨は降っていませんが、空がどんよりしていますね?(゚-゚)\」

2011年5月21日のこの時間、前線と低気圧の影響で、西日本と東日本の広い範囲で雲が広がり、ところによって雨が降っていました。そしてこの瞬間、気象庁は「関東甲信と東海が梅雨入りしたとみられる」と発表しました。関東甲信と東海の梅雨入りは、いずれも平年より12日、去年より17日早くなっています。気象庁は毎年、秋までに各地の梅雨の時期を検証しますが、梅雨入りがこのまま確定しますと、気象庁が昭和26年に統計を取り始めてから、関東甲信では2番目に、東海も3番目に早い梅雨入りとなります。

「ほぅ、今日はサクランボのタルトがあるのか(^-^)\
Bretzel
ブレッツェル
参考商品
「おおっ!? こんな所に結び目の形をした硬そうなパンが置いてある?(゚O゚)\」「ワンダフルハウス様、そちらはアルザス菓子の中でも特異なものの一つであり、ビールのつまみとして最高の味のものと言われているブレッツェルでございます」
「おっ、パックの子羊にしてメゾン・ベニコの羊の執事アニョー・パスカル氏じゃありませんか(^-^)\」「私やWeRoさんの故郷であるアルザス第一の都市ストラスブルグ(Strasbourg)の南方60kmにある街コルマー(Colmar)は中世からビールが栄えていて、つまみとして必ず出てくるのがブレッツェルでございます。私は本場アルザスの子羊として、果たしてブレッツェルを菓子の部類へ素直に入れて良いのか疑問を持っておりますが、残念ながらどのフランス辞典を見ましても、Patisserie部に属しているのでございます。それらの辞典には『結び目の形をした硬い菓子』と概説されています。当然オリジナルはドイツなのですが、19世紀にアルザスからフランス中心部に導かれています。『ブレッツェルはフランス中にビアホールが栄え始めた19世紀頃からビールのつまみとして作られた』とされているのでございます」「アニョー・パスカル執事のおっしゃる通り、ブレッツェルは一概に菓子として扱うことはできませんよ」
「おっ、メゾン・フェルベールの庭で育ち、Wenikoシェフが帰国する時、洋服にくっ付いて来たコクシネール氏じゃありませんか(^-^)\」「ヨーロッパの多くの歴史家たちは、Bretzelの菓名の『編む』という語に、特別のインスピレーションを働かせたり、オリジナルな点に非常に興味を持って考証しています」
「もう一つ、Patisserie l'Alsacienneで忘れてならないのは、Le Kougelhoptです。アルザスの菓子を端的に指すものとして、Le Kougelhoptを挙げる人も相当いるに違いありません」
kouglof
クグロフ
参考商品
「アルザス中、どこの菓子店にも必ずこれがあり、遠くパリにまで入っていることは、強く旅行者に印象づけられます」「これも参考商品で売り物ではないのですね(゚-゚)\」
「メゾン・ベニコでは、なぜクグロフを売っていないのですか?(^-^)/」「当メゾンには、クーグロフ型がこれ一つしかございませんので量産できないのでございます」
左 ブリオッシュ・ア・テット
右 ブリオッシュ・ムスリーヌ
クーグロフ・トラディショナル
オーボンヴュータン
「オーボンヴュータンではクグロフを売っていました。ところで、クグロフを一言で言うと?(゚-゚)\」「ワンダフルハウス様、アカデミー・ガストロノミ辞典には『大きいブリオッシュ』とあります」
ブリオッシュ・ア・テット
オーボンヴュータン
「パン屋のようにふわっと軽く焼いたものではありません。バターが効いてて甘くて重い…これが菓子屋のブリオッシュなのです!(゚O゚)\」
ブリオッシュ・ムスリーヌ
オーボンヴュータン
「砂糖やバターを多めにしたリッチな味わいです!(^Q^)」
クーグロフ・トラディショナル
1200円
オーボンヴュータン
「このLe Kougelhoptは、パリでは有名な18世紀の料理人アントナン・カレームが広めたことになっています。カレームは友人であるオーストリア大使から伝授されたと言われています。しかし、それより以前、すでにポーランドのスタニスラ王が導き入れ、フランス人は既に食しており、特にこの発酵した菓子に魅せられていた、と伝えられています」
クーグロフ・トラディショナル
オーボンヴュータン
「ヨーロッパの中心地とオリエントにのみ作られるビール酵母によって、ふっくらした、香りの良い生地が生み出せるのでしょう」
クーグロフ・トラディショナル ブリオッシュ・ア・テット
オーボンヴュータン
「生地の素材感が同じです! アカデミー・ガストロノミ辞典に書かれている通り、クグロフとはレーズンが入った大きなブリオッシュです!(゚O゚)\」
Baba au kirsch
ババ・オ・キルシュ
1500円
オーボンヴュータン
「KougelhoptもBabaと一緒で、商業ベースに乗った品物に違いありません」
Baba au kirsch
ババ・オ・キルシュ
オーボンヴュータン
「ビール工場の他に食品工場も多い街コルマー(Colmar)は、フルーツも豊富にあり、多くのフルーツ缶詰、お酒ではオー・ド・ヴィー(Eau de Vie)というフルーツ・ブランデーを製造しています。キルシュ(kirsch)という黒サクランボの透明な蒸留酒オー・ド・ヴィー・スリーズは特に有名です」
クーグロフの型
オーボンヴュータン
河田勝彦氏 私物
「ワンダフルハウス様、アカデミー・ガストロノミ辞典では、『クグロフに使用する型は、すり鉢型の土器』とされています」
お菓子の型
オーボンヴュータン
河田勝彦氏 私物
「面白いことに、生地は全く別ですが、ボルドー地方でも同じ型を使用しており、Cannelleと称する古い菓子が残っているのですが、御存知でございますでしょうか?」
カヌレ・ド・ジロンド
オーボンヴュータン
「カヌレもオーボンヴュータンで食べたことがあります。表面は真っ黒で固く、食べるとガリッとしました。中は蜂の巣みたいになっていて、モチモチした食感で、ラム酒が効いてて美味でしたよ(^Q^)」
ピノ・ブラン キュヴェ レゼルヴ 2008
「忘れてならないのは、Kougelhoptを一番美味く食べるには、アルザスの白ワインと一緒に食するということです」
「先ほど、アニョー・パスカル執事は、『ブレッツェルはアルザス菓子の中でも特異なものの一つである』とおっしゃいましたが、特異なアルザス菓子というのは、まだ他にあるのですか?」「もう一つ、Patisserie l'Alsacienneで忘れてならないのは、Beraweckaです。アルザスの菓子を端的に指すものとして、Beraweckaを挙げる人も相当いるに違いありません」
クーグロフ・トラディショナル
1200円
オーボンヴュータン
パン・デピス・トラディショナル
2800円
オーボンヴュータン
「べラヴェッカといえば…オーボンヴュータンにはトラディショナル・シリーズというお菓子が3種類あって…」
「べラヴェッカ・トラディショナルは、デモーニッシュな菓子が並ぶオーボンヴュータンの店内でも、一際デモーニッシュな姿で佇んでいたのです(゚-゚)\」
ベラヴェッカ・トラディショナル
2500円
オーボンヴュータン
「ところで、ベラヴェッカを一言で言うと?(゚-゚)\」「ワンダフルハウス様、フルーツのショーソンでございます。昔、ノエルから1月中旬にかけての時期にだけ食されていたお菓子でございます」
ベラヴェッカ・トラディショナル
オーボンヴュータン
シュトーレン
パティシエ・シマ
「ベラヴェッカは、ドイツのクリスマスのお菓子シュトーレンに似ている!(゚-゚)\」「アルザスは地理的にはライン川が東に流れ、その川向こうはドイツとスイスになります。したがって、これらの国の影響は多大で、特に数度の大戦で、一時的にもドイツ領になっており、現在でもアルザス人はドイツ語をしゃべるほどです」「なるほど…子供の頃読んだ『最後の授業』という本を思い出しました(゚-゚)\」
ベラヴェッカ・トラディショナル
オーボンヴュータン
「こ…これは凄い! 洋梨、杏、イチジク、プラム、レーズン、アーモンド、くるみ…などでできたアルザスのリッチフルーツケーキです!(゚O゚)\」
ベラヴェッカ・トラディショナル
オーボンヴュータン
シュトーレン
パティシエ・シマ
「中も凄い! ほとんどドライフルーツで、生地はつなぎ程度にしか使われていません! 菓子としての特異度はシュトーレンを遥かに凌いでいます!(゚O゚)\」
「ワンダフルハウス様、たった今、WenikoシェフのTarte l'Alsacienneが出来上がりましたが、いかがでしょうか?」
Tarte l'Alsacienne
タルト・ラルザシエンヌ
「これがタルト・ラルザシエンヌですって!?(゚O゚)\」
Tarte l'Alsacienne
タルト・ラルザシエンヌ
メゾン・ベニコ オーボンヴュータン
「私にとってのタルト・ラルザシエンヌは、オーボンヴュータンのものや、Wenikoシェフが1月に作ったもの…つまり、リンゴと白ワインを使ったフランっぽい仕立てのタルトをイメージするのですが…(゚-゚)\」
Tarte l'Alsacienne
タルト・ラルザシエンヌ
「ワンダフルハウス様、既に述べました通り、アルザスはフルーツの盛んな地方だけに、タルトが非常に多く、リンゴも苺もフランボワーズもミルティユも…総称してTarte l'Alsacienneと呼ばれているのでございます」
Tarte l'Alsacienne
タルト・ラルザシエンヌ
1月 5月
「Tarte l'Alsacienneはセークル型にパートをひき、生のフルーツを入れて卵、生クリーム、生のフルーツを入れて焼き上げています」
「こちらはフロマージュ・ブランとマスカルポーネと生クリームを合わせたクリームでございます」「おおっ!? まるでソフトクリームのようです!(゚O゚)\」
フロマージュリー・フェルミエ 愛宕店
「そもそもフロマージュ・ブランやマスカルポーネとは、どのようなチーズなのでしょうか?」
フロマージュリー・フェルミエ
「おお!ここにありました!(^O^)\」
フロマージュ・ブラン
フェルミエ商品名 フロマージュ・フレ
500g 1208円
「フロマージュ・ブランは凝固したミルクから乳清を取り除いただけのシンプルなチ―ズです。滑らかな食感で、軽い酸味とミルクのやさしいコクが広がります(^Q^)」
マスカルポーネ・チーニョ
200g 1208円
「ティラミスの材料となるチーズとして有名なマスカルポーネは、自然な甘みと滑らかな口当たりを持ち、まるで生クリームのようなチーズです(^Q^)」
タルト・ラルザシエンヌ
「ところでタルトについて、アカデミー・ガストロノミ辞典では簡単に『平らで、円いもの』と述べられていますが、語源的にはたぶん『ねじれた(Tordue)からきていると言われ、簡単な円形であったわけです」
「そこに生のフルーツ、漬け込みフルーツ、コンフィチュール、クリーム、チーズクリームなどを乗せるので、特別なセークル型を使用し、型にパートを敷いて焼き上げたものを総称してタルトと呼ぶわけです」
「ワンダフルハウスさん、ヨーロッパを代表する古典的なタルトを挙げると、イングランドのTarte a l'Anglaise(タルト・ア・ラングレーズ。これは上下にパートを敷いて焼くタルトを指します。Apple's Tartとも言う)、ドイツのTarte l'Allemand(タルト・ラルマン。フランスのタルトに近いものですが、一般的にマーマレードを使って、上にもパートを使ってあるものが多く見られます)、オーストリアのTarte Autrichienne(タルト・オートリシエーヌまたの名をリンツェル・トルテ。これはLinzer Torteとも呼ばれる世界的にも有名なタルトで、シナモン入りパートにフランボワーズジャムを入れ、同じパートを上に交差上にしたタルトです)、イタリアのTarte Milanaise(タルト・ミラネーズ。砂糖、卵、バターを溶かした粉で作り、フェンネルの香りが必ず入り、またアプリコットジャムが中に入ったタルトです)」
「以上、ヨーロッパの代表的なタルトを並べましたが、Tarte l'Alsacienneは特に抜きん出た味を示しています」「何という興味深いお話でしょう! つまり、サッカーのEURO(欧州選手権)のように、ヨーロッパ各国を代表するタルトがあって、もしもタルトのEUROが存在するとすれば、アルザス地方のタルト・ラルザシエンヌはフランス代表としてEUROに出場できるわけですね。では、フランス国内予選の決勝戦でタルト・ラルザシエンヌに敗れた、フランス第二位のタルトは?」

「首都パリを抱えているIle-de-France(イル・ド・フランス地方)代表のTarte Montmorencyです」
Tarte Montmorency
タルト・モンモランシー
400円
「これがタルト・モンモランシーですか! ん?…中に入っているチェリーはアルザス産なのですね?(゚-゚)\」「MontmorencyはParisの北方約10kmの所にあります。3世紀ほど前にパリの果樹園として栄えましたが、さくらんぼの木は現在ではほとんどありません。その頃の果樹園のイメージが残ったのでしょうか、さくらんぼを使ったお菓子には、Tarte Montmorencyとか、Gateau Montmorencyというように、Montmorencyの地名を付けることが多くあります」
「ワンダフルハウス様、メレンゲを使ったフワッと軽い生地の中にアルザス産のキルシュ漬けグリオット・チェリーを散らして焼き上げました」
「フワッと軽いが、生地の素材感は力強い!(゚Q゚)\」「Ile-de-Franceの基礎となる味は、パリっ子の非常に卓越した料理感覚から生まれたもので、独特の閃きと精緻さを持っています。パリっ子の料理はIle-de-Franceの代表として、古くからの配合や作り方に工夫を加えて取り入れています。また、一方では、アルザシアンの私たちから見ると、非常に気の利いたせっかちな料理でもあります。たとえば、少し投げやりのようにも見えるソテーもの料理、サラダ、このTarte Montmorencyのようなフルーツ系菓子がかなりあるのです」

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