あるケーキは、どんなもので組み立てられているのかというと、まずは、型の側面に2色のビスキュイ・ア・ラ・キュイエールを貼り付け、底にもココアのビスキュイを詰めます。カラメルのムースとココナッツのムースが重ねられて土台になります。そして、表面にはピストレでチョコレートを吹きつけて、ジュレを流し、チョコレートをリボン状にしたものを散らして出来上がり! ピストレとは、チョコレートにカカオバターを加えた柔らかいチョコレート液をケーキの表面に霧状に噴きつける機械で、スプレーガンのようなもの。こんな大変な作業を、パティシエは、いとも簡単に短時間で仕上げてしまうのです。パティシエは、ある意味マジシャンに近いかも…。2007年9月初旬の暑い日、ルコント時代からの顧客をはじめ、遠方から訪れるフランス菓子ファンを惹き付けてやまない島田進さんのお店「パティシエ・シマ」をワンダフルハウスが訪ね、ココナッツとカラメルのムースを重ねたシャルロット「ココ・カラメル」と、オーベルニュ地方にある山から名付けた、パンプルムースを使った夏向けの爽やかなお菓子「パルム・ローザ」を創っていただきました。
「こんにちは!(^O^)/ 予約していたケーキを受け取りに来ました」 |
「おおっ!(^O^)\ 今日はアントルメが2個ありますね」 |
これは珍しい! 今日はビジューのアントルメがあります。 |
ビジューのアントルメとシャルロット・オ・ポワールのアントルメもください! |
まず最初にビジューの登場です(^O^)/□ |
「ビジュー Bijoux」(472円)フランス語で「宝石」の意味を持つビジュー。宝石のように繊細で気品あるアントルメです。 |
表面全体に付着している白い粉は「ピストレ・ショコラ」といって、カカオバターとホワイトチョコレートを混ぜたものを全体に吹き付けてあります。おおっ!(^O^)\ 透明でキラキラ光る水滴のようなものが…まるで宝石のように綺麗です!\(^○^)/ |
ピストレがけした表面に水滴のように絞り出されたものは、「レディフルーツミラー」といって、加熱しないで使える無色透明のナパージュです。ナパージュはケーキに艶をつけたり、空気に触れて乾燥するのを防ぐために塗る素材。 |
フルーツも宝石のように美しいですね(^O^)\ |
カットして断面を見てみましょう。 |
中身はババロア・ショコラブラン。ホワイトチョコレートのムースです。島田シェフは、ミルクの美味しさが決め手になるホワイトチョコレートには、酪農王国スイスに絶体の信頼をおき、なめらかな口当たり(^Q^)のスイス・スシャール製を使用されてるそうです。 |
おっ! この断面はプチガトーと同じですね。 |
プチガトー | アントルメ |
底からビスキュイ・ダマンド↑プラリネ・フイヤンティーヌ↑ババロア・ショコラブラン↑フランボワーズのクリーゼリー↑ババロア・ショコラブラン↑ビスキュイ・ダマンド↑ババロア・ショコラブラン↑ピストレ・ショコラ。上に埋まっている赤い粒はフリーズドライのフランボワーズ。 |
続きましては、パティシエ・シマのスペシャリテの登場です(^O^)/□ |
「シャルロット・オ・ポワール Charlotte aux poires」(3780円)シャルロットという名前は婦人用の帽子と、イギリス国王ジョージ3世の妃シャルロットに由来します。日本に紹介されたのは1970年代半ばのことですが、フランスでは、18世紀末に天才菓子職人アントナン・カレームによって創造された古いお菓子で、当時はババロアの最も豪華な食べ方として、もてはやされました。 | |
セレブリティ・シェフの元祖「マリー=アントワーヌ(アントナン)・カレーム Marie-Antoine(Antonin)Careme」(1784〜1833)は、パリ生まれのシェフ・パティシエ。フランス革命直前の時代、財政難が引き起こした時代の混乱が、一人の放浪児を生み出します。場末の料理人に拾われたアントナンは、たちまち実力を発揮し、10代で政治家タレーランの料理人となり、世界の舞台に踊り出ます。その後は、莫大な報酬と共に、ナポレオン、ロスチャイルド家、ロシアのアレクサンドル皇帝、イギリスのジョージ皇太子など多くの権力者の下を渡り歩き、一方で執筆によって料理の真髄を広めました。現在イメージされるフランス菓子の味・形・美しさは彼によってもたらされたと言っても過言ではありません。このアントナン・カレームが考案した有名なお菓子がシャルロット・リュスで、ここで紹介するシャルロット・ポワールに進化しました。 |
粉砂糖をふったビスキュイ…帽子をかぶったような、あるいは白い花が咲いたような…とても美しいですね。 | |
「シャルロット」という名前は、婦人用の帽子に由来します。ビスキュイの形が縁に襞飾りの付いたシャルロットという帽子に似ているので、この名が付いたという説があります。 |
最後にリボンをつけて、帽子に見立てたデコレーションにするのが定番です。 |
先ほどはリボンで隠れていた「ビスキュイ・ア・ラ・キュイエール biscuit a la cuillere」が姿を現しました。卵を攪拌する時に、卵白と卵黄に分けて泡立てて混ぜる方法の生地です。「bis」はラテン語で「二度」、「cuit」はフランス語で「焼く」、「cuillere」は「スプーン」という意味。昔、まだ絞り袋が無かった時代には、生地をスプーンですくって焼いていたことから、「スプーンで作るビスキュイ」と名づけられたそうです。 | カットして、いただきましょう。パティシエ・シマでは8等分にカットしていますが、WONDERFUL HOUSEでは大きめの6等分にカット。1.5倍の大盛シャルロットの誕生です。 |
一番初めにシャルロットと名づけたのは、イギリスのジョージ3世(1738〜1820)に仕えていたシェフといわれています。バターでトーストしたパンで周りに壁を作り、その中にりんごのコンポートを詰めたデザートでした。同じ頃、フランスにはアントナン・カレームがいました。すでに1805年にボルドーのケーキ職人であるロルサが紙を三角に丸めて細い線をしぼり出すのを考え出していたといわれていますが、今のような布製の絞り袋に口金をつけたスタイルを考案したのがカレームです。ジョージ3世は1811年から精神異常となり、長男で後のジョージ4世になる摂政皇太子にカレームは仕えていて、その頃イギリスでシャルロットを知ったのだろうと推測できます。そして、新たに考案した絞り袋で、ビスキュイ・ア・ラ・キュイエールと言われている生地をさらに細くしぼり出して、周りのパンに変え、中にはババロワを入れたのです。そして、彼が仕えていたロシア皇帝アレキサンドル1世にちなみ、「シャルロット・ア・ラ・リュス Charlotte a la Russe」(リュスはロシア)と名づけたのです。 |
中身は洋梨のババロワです!(^Q^)\ |
洋梨とビスキュイだけのシンプルな構造です。ビスキュイは底と蓋、側面、真ん中にも使われています。 |
洋梨は、フランス・ガスコーニュ地方のシロップ煮缶詰を使い、ババロワには洋梨のオー・ド・ヴィー「ウィリアムポワール」を効かせています。ドイツで果実の宝庫といわれている、シュヴァルツヴァルトのタンネン社で生産する、ウィリアム種の洋梨を蒸留したフルーツブランデーです。ソフトな味と洋梨のデリケートな香りが特徴。ヨーロッパではキルシュワッサーと並んで、カクテルや洋菓子造りに欠かせないパートナーです。「オー・ド・ヴィー eau de vie」とは、フランス語で「命の水」という意味で、果実を発酵もしくは浸漬させたものを蒸留したフルーツのブランデーを意味します。 |
ビスキュイと洋梨のババロワだけのシンプルな構造です。 |
洋梨の果肉がタップリ。このまま食べてもさっぱりとした口当たりで美味。ババロアとビスキュイ生地の食感がとてもいいケーキです(^Q^) |
フランボワーズ・ソースをお皿に敷いてみましょう。 |
アントナン・カレームの時代以降、シャルロットは王侯貴族の食卓や高級レストランや高級ホテルのデザートとして愛用されましたが、街の菓子店で売られるようになったのはフランスでもそう古い話ではありません。なぜなら保存のきかないババロアやムース、クリーム等に不可欠な冷蔵設備が1960年代にはまだ整っていなかったからです。 |
1970年代に入り、冷蔵機能つきのショーケースが街のお菓子屋さんに導入されるにつれ、シャルロットのような高級ホテル&高級レストランの独占的デザートが、我々庶民の口にも(^Q^) これはフランス菓子界で革命的な出来事でした。シャルロットは、お菓子の大衆化の出発点になった記念碑的な一品なのです。パティシエ・シマのシャルロット・ポワールは、こちらで買えます。 |
そして、いよいよ島田シェフの創作アントルメの登場です(^O^)/□ |
「ココ・カラメル Coco caramel」(特注品)ココナッツとカラメルのムースを重ねたシャルロットです。 |
おおっ!?(^O^)\ | 表面に付いたサラサラの粉状になったチョコレートは何でしょう? |
このサラサラの粉状になったチョコレートは、ピストレでチョコレートを吹きつけたものです。ピストレとは、チョコレートにカカオバターを加えた柔らかいチョコレート液をケーキの表面に霧状に噴きつける機械で、電動スプレーガンのようなもの。 |
再びおおっ!(^O^)\ |
綺麗です!\(^○^)/ |
このクルクル巻かれたリボン状のチョコレートは、このようにして作ります。 | |
セロハンにチョコレートを流して、それをギザギザの櫛で型をつけて固めて、両端をマグネットクリップで止めて、クルクルに巻いて天板に止め、そのまま冷やし固めると… このように綺麗なリボン状のチョコレートになります。 |
ココナッツのムースが降り積もった雪のように見えます。側面には、プレーンとココアの2色のビスキュイ・ア・ラ・キュイエールが。 |
それでは、カットして断面を見てみましょう。 |
ココナッツムースとキャラメルムース層の間にも2色のビスキュイを発見しました(^O^)\ |
液状のココナッツ・ミルク(缶詰)は、意外に難しい素材だそうです。ココナッツ・ミルク自体の風味がとても濃厚なので、その特質を的確につかんで合わせる素材を考えなくてはなりません。カラメルとの相性は非常に良いそうです。 |
底からビスキュイ↑カラメルのムース↑ビスキュイ↑ココナッツのムース↑ピストレ・ショコラ↑ナパージュ |
口に入れるとカラメルの香ばしさと、その後にココナツの香りが…(^Q^) 美味しさの二重構造です。 |