わんだふるはうす、パティシエ・シマに行く

ポワソン・ダブリル

4月1日といえばエイプリルフールです。フランスではこの日を「ポワソン・ダブリル」(4月の魚)といい、魚をモチーフにしたパイやチョコレートが食べられるそうです。2009年4月1日、フランスの行事菓子を大切にし、その伝統文化を伝えるパティシエ 島田進さんのお店「パティシエ・シマ」をワンダフルハウスが訪ね、日本では馴染みのないポワソン・ダブリルのお菓子を探してみました。

2009年4月1日

「桜が満開です!\(^○^)/」
「こんにちは! ポワソン・ダブリルはありますか?(^O^)/
テレビ局や大使館、豪邸が建ち並ぶ東京都千代田区麹町。舌の肥えた住民相手の、いい蕎麦屋や、いい菓子屋が点在する通りがあります。右手に「ラトリエ・ド・シマ」、その先に「パティシエ・シマ」があります。
「おおっ!?(^O^)\」
「タルトフレーズに桜の花が!(^O^)\」
「桜マカロンの生タイプ『桜マカフラ』とダックワーズ生地の『さくら』もありました!(^O^)\」「ワンダフルハウス様、ポワソン・ダブリルはラトリエの方にございます」
「こんにちは! ポワソン・ダブリルはありますか?(^O^)/
ラトリエ・ド・シマは、「Chocolaterie ショコラトリー」(チョコレート専門店)です。パティシエ・シマの「Salon de The サロン・ド・テ」(喫茶店)も兼ねているので、店内でケーキやお茶をいただけます。
「おっ、桜マカロンがありました(^O^)\」 「あそこに置いてあるお菓子は何でしょう?」
「苺のパイと…もう一つはサクランボのパイですね」
「これは珍しい!苺のガレット・デ・ロワです!(゚O゚)\「今日は4月1日です。ガレット・デ・ロワは1月のお菓子ですよ」
Bande aux cerises
バンド・オー・スリーズ
(特注品)
これも珍しい!チェリーの長方形ガレット・デ・ロワです!(゚O゚)\「それはバンド・オー・スリーズです」 
「ワンダフルハウスさん、私は苺のガレット・デ・ロワではありませんよ」「おおっ!?ガレット・デ・ロワに眼が!?(゚O゚)\
Tarte Poisson d'Avril aux Fraises
タルト・ポワッソン・ダブリル・オー・フレーズ
(特注品)
「私がポワソン・ダブリルです >・)))彡」「こ…これがポワソン・ダブリル!?(゚O゚:)\
「よく見たら、尾とヒレがあります(゚O゚)\
「苺は鱗を表していて…これは魚です!(゚O゚)\
「私のような魚の形のパイは『タルト・ポワッソン』とか『ポワッソン・フィユテ』と呼ばれています。1976年に来日したMOFパティシエ クロード・ボンテ氏が全国各地で講習会を行なって、日本に広まったお菓子なのです」「クロード・ボンテ氏といえば、ピエール・エルメ氏の前のフォションのシェフです!(゚O゚)\
1976年11月
第2回フランス菓子大講習会で作られた
Tarte Poisson aux Pommes
タルト・ポワッソン・オー・ポンム
講師 クロード・ボンテ氏
助手 アンドレ・ルコント氏
Tarte Poisson d'Avril aux Fraises
タルト・ポワッソン・ダブリル・オー・フレーズ
「これが日本におけるタルト・ポワッソンの原型と言ってもいいでしょう」「かなりリアルな形です!(゚O゚)\ 11月に作られたからリンゴを使ったのですね
1976年11月
第2回フランス菓子大講習会で作られた
Poisson Feuilletee
ポワッソン・フィーユテ
講師 クロード・ボンテ氏
助手 アンドレ・ルコント氏
1976年11月
第2回フランス菓子大講習会で作られた
Vol-au-Vent
ヴォローヴァン
講師 クロード・ボンテ氏
助手 アンドレ・ルコント氏
「中をくり抜いて蓋を付けたポワッソン・フィユテも作られました」「これは魚の形のヴォロヴァンです!(゚O゚)\
1976年11月
第2回フランス菓子大講習会で作られた
Poisson Feuilletee
ポワッソン・フィーユテ
講師 クロード・ボンテ氏
助手 アンドレ・ルコント氏
1976年11月
第2回フランス菓子大講習会で作られた
Bouchees
ブッシェ
講師 クロード・ボンテ氏
助手 アンドレ・ルコント氏
「ミニ・サイズのブッシェも作られました」 
1976年11月
第2回フランス菓子大講習会で作られた
Poisson Feuilletee
ポワッソン・フィーユテ
講師 クロード・ボンテ氏
助手 アンドレ・ルコント氏
Feuillete des Mers du Japon
フィーユテ・デ・メール・デュ・ジャポン
製作 アンドレ・ルコント氏
1982年
「ポワソン・フィユテの最高傑作はアンドレ・ルコント氏が1982年に作ったものだと言われています。これは白身の魚介類(ムール貝、帆立貝、海老、イカ、牡蠣、、蟹、魚のクネル、舌平目のフィレ)を詰めたものでした」「料理名に“デュ・ジャポン”が付いた…これは日本のフランス料理史に残る傑作です!(゚O゚)\ 
「私の横にあるのはバンド・オー・スリーズ。バンド・タルト・オー・スリーズとも言います。これほど長いものは箱にも入らないし、めったに見れない貴重なお菓子ですよ」
1976年11月
第2回フランス菓子大講習会で作られた
Bande Tarte aux Poires
バンド・タルト・オー・ポワール
講師 クロード・ボンテ氏
助手 アンドレ・ルコント氏
1976年11月
第2回フランス菓子大講習会で作られた
Bande Tarte aux Pommes
バンド・タルト・オー・ポンム

講師 クロード・ボンテ氏
助手 アンドレ・ルコント氏
「バンド・タルトもクロード・ボンテ氏が日本に広めました」「おおっ?これは?(゚O゚)\
Bande aux Pommes
バンド・オー・ポンム
525円
(ブラッスリー・ルコント)
「実はこれと同じものを先週(2009年3月)ブラッスリー・ルコントで食べたのです」(バンド・オー・ポンムは、リンゴの季節だけの商品です)
「3月になって、シェフがダニエル・パケ氏に代わってから作り始めたようです。バンド・オー・ポンムは美味でしたよ(^Q^)」
「ところでワンダフルハウスさん、店の中を見回してごらんなさい」
「ん?(^-^)\」
「卵の形のチョコレート!?(゚O゚)\「それはパック(Paques)のための商品です。日本の本格的なパティスリーは、ホワイトデーが終わっても、桜とポワソン・ダブリルとパックのお菓子がかち合うので、結構忙しいのです」
「パック?(゚O゚)\「イエス・キリストの復活を祝う復活祭、英語だとイースター、フランス語だとパック(パーク)ということになります。ヨーロッパでは復活祭はクリスマスも超えるキリスト教の最重要行事とされています。多くの伝統的な教会が復活祭の40日ほど前から肉・卵・乳製品を節制する食事制限の期間を設けていて、復活祭の日にその禁が解かれ、肉料理や復活の象徴である卵を食べるのです。今年は4月12日がパックです。時季になると、ショコラティエ(チョコレート専門店)もパティスリー(菓子店)もブーランジュリー(パン店)も卵やニワトリやウサギのチョコレートを飾るのです」
D'ecrevisses en chocolat
デクルヴィッス・アン・ショコラ
1575円
「エクルヴィス(ザリガニ)のチョコレートもパックの日に食べるのですか?」「違います。エクルヴィスはポワソン・ダブリル、4月1日のお菓子です」
Poisson en Chocolat
ポワッソン・アン・ショコラ
2100円
「チョコレートの魚です!(^O^)\」「日本でポワソン・ダブリルというと、私のようにパイで魚を形どり、中に苺を並べたのをよく見かけますが、フランスでは、このようなチョコレートの魚の方が一般的です。4月1日は魚やザリガニや帆立貝の形をしたチョコレートに愛のメッセージを入れて愛する人に送るという習慣がフランスにはあるのです。時季になると、ショコラティエからパティスリー、ブーランジュリーまでチョコレートの魚介類が一斉に店頭に並びます
Tarte Poisson d'Avril aux Fraises
タルト・ポワッソン・ダブリル・オー・フレーズ
Tarte aux Fraises
タルト・オー・フレーズ
3675円
「左がフィユタージュ(パイ生地)、右がパート・シュクレ(ビスケット生地)。この2つはタルト台が違うだけで、ぶっちゃけた話、上は同じです」
「ガレット・デ・ロワと同じ折り込みパイ生地」
「苺の下にクレーム・パティシエール(カスタードクリーム)が見えました」
「圧巻なのは、この苺の並べ方なのです!(゚O゚)\
「苺をふんだんに並べた上に、ヘタ付きの苺を無造作に散らしてあります!(゚O゚)\
「苺の上に塗ってあるジャムはフランボワーズジャムですね?(゚O゚)\
苺には苺ジャムと連想しがちですが、酸味の強いフランボワーズジャムを使うことにより、よりアクセントのはっきりした味を作り出せるのです >・)))彡」
「バンドタルトの名前の由来は縦長の形からきています」
「バンドタルトは古典的なフランス菓子ですが、今や絶滅寸前といった感じなのです」
「下のチェリーはサワーチェリー、上の飾りはアメリカンチェリーですね」
「サワーチェリーは、パイ作りには欠かせないチェリーです。そのまま食べると酸っぱいのですが、甘いシロップで煮ると酸味がほどよく調和されて、とても美味しいお菓子が出来るのです」
「サワーチェリーのタルトといえば、葉山のフランス茶屋(パティスリー・ラ・マーレ・ド・チャヤ)のが有名です」
「こんにちは!(^O^)/」「これはこれはワンダフルハウス様…」
「今年もサワーチェリータルトを出しました」「これをください!(^O^)/」
「海を見ながらいただきましょう」
サワーチェリータルト
367円
(パティスリー・ラ・マーレ・ド・チャヤ)
「これはカテリーヌやブリジットと共に1972年のオープン当時から作られている名品中の名品ですね(^-^)\」
「クレーム・パティシエールの下にチョコレートが薄く敷いてあって、それがいいアクセントになっています(^Q^)」
「おおっ!? 島田シェフのバンド・スリーズも、チャヤのサワーチェリー・タルトに似ていますよ?(゚O゚)\
「サワーチェリーとカスタードクリームとチョコレート…チャヤのと全く同じです!(゚O゚)\
「ワンダフルハウスさん、葉山のチャヤの初期のお菓子は、1970年代にマキシム・ド・パリと並ぶ一流フランス料理店だった『レンガ屋』の製菓長 神成シェフが作り上げたのです。チャヤのサワーチェリータルトは、銀座と代官山にあった『レンガ屋』のワゴンデザートの中の1つでした」「1970年代の『レンガ屋』といえば、ジョエル・ブリュアン氏が料理長で、年に数回ポール・ボキューズ氏を招いて“ボキューズ週間”を開催した伝説のフレンチレストラン…」「1978年にマキシム・ド・パリ製菓長の座を辞して、ルコントの総製菓長に就任した島田シェフは、アンドレ・ルコント氏に頼まれて、飴細工を作ってボキューズ週間の初日に駆けつけていたのです。島田シェフは、神成シェフやラ・マーレ・ド・チャヤの料理長だった熊谷喜八シェフとも交流があり、1970〜80年代は度々葉山に出かけていたそうです」「レンガ屋のオーナー稲川慶子氏は、莫大な負債を抱えて表舞台から姿を消したため、現在ではその名を語られることはありませんが、日本のフランス料理界の発展に大きく寄与した女性であることは確かです。ミシュラン3つ星レストランと提携したり、日本のレストランで一番最初にハウスワインを作ったり、暖炉を輸入して客の目の前で暖炉で肉を焼いたり(現在のレストラン・パッションの場所がレンガ屋 代官山店でした)…時代を先取りし過ぎたのでした」
稲川慶子さんは1953年に慶應義塾大学文学部仏文科を卒業した戦後初めての女性。同年フランス留学し、コルドンブルーを卒業。1956年六本木今井町にフランス料理店「レンガ屋」を開店。1965年銀座に移転。1969年代官山にフランス料理店とフランス菓子店を開店。
「そして、このバンド・スリーズは1970年代にマキシム・ド・パリの製菓長だった島田シェフが作ったマキシム・ド・パリのワゴンデザートの1つだったのです」「1970年代のマキシム・ド・パリ…レストランというより上流社会や有名文化人の社交場だった頃のワゴンデザート…そんな凄いものだったとは!(゚O゚)\
「フランスの有名な美食家ブリア・サヴァランの妹は99歳11ヶ月でその生涯を終えようとする直前、ベッドで食事をとりながら、女中にこう命じたといわれています。『デザートを早く持っておいで…私はもうすぐ死にそうな気がするんだよ』」「マジですか!?(゚O゚)\フランス人にとってデザートがどんなに大切なものとして考えられているか、このエピソードが如実に物語っている…そんな感じのする言葉ですね」
「また、オードブル→スープ→メインディッシュ→サラダと続くフランス料理のコースをドラマにたとえて、デザートはそのドラマのクライマックスであり、そのドラマ(料理)がハッピーエンドに終わるか、アンハッピーに終わるかはデザート次第であると言ったフランス人シェフの話にも、なるほどと思わせられるものがあります」
こんなにも、デザートはフランス人の考える料理の中で大切な部分を占めているのです。では、デザートには、いったいどんなものがあるでしょうか。イギリスでは食事に出される甘味からコーヒーまでを含めてデザートといいます。フランスでは甘味のあるものをアントルメといい、その後に出されるものをデセールと呼んでいます」
Selection de fromages de saison
フランス産 季節のチーズ
1500円〜
(メゾン・ポール・ボキューズ)
「人によっては甘味を省略してチーズを食べる人もいるようです」「チーズがデザートだなんて…(゚O゚)\「ワンダフルハウスさん、16〜17世紀にフランス王室がヨーロッパ各国から王妃を迎えた時、同行した菓子職人がデザート用のアントルメを開発するまでは、チーズが食後のデザートの主流だったのです」
いずれにしても、デザートは一連のコース料理の締めくくり役で、思う存分満喫した味覚の余韻を楽しむための重要な役目を持っているようです
「特にアントルメ(デザート菓子)は、それを選ぶことも、作ることも、料理の味を決定する大切な要素となっているので、あり合わせのもので作るというようなものではありません。例えば、フランスの家庭では、食事の招待を受けた時、日本人のように相手に無断でケーキをお土産に持ち込むことはタブーなのです。なぜなら、その家庭でせっかく心を込めて作り上げた晩餐のメニューを台無しにしてしまうことを恐れるからなのです。アントルメは、ティータイムのお菓子とは違うのです
下から、フィユタージュ↑クレーム・ダマンド↑クレーム・パティシエール↑苺↑フランボワーズのコンフィチュール
「お茶菓子が、甘く、ボリュームのあるお菓子であるのに対して、アントルメは甘味を抑え、軽くさっぱりした風味が特徴です。日持ちがしない生菓子やフルーツを使ったものが多いのも、デザートが料理の引き立て役であることを十分計算した効果的なアイディアなのです
「芳醇なリキュールの香り、あっさりと口に広がる甘み…お茶菓子とは一味違ったフランス料理のアントルメの美味しさは、一度でも味わってしまったら忘れることはできません(^Q^)」
「フランス人は食事に細心の注意を払います。食事は空腹を満たすだけのものではなく、音楽を聴くように、心から楽しむものだという考え方を持っているからなのです
「チェリーのリキュールをたっぷりと効かしてあります。1970年代のマキシム・ド・パリやレンガ屋のデザートの味わいです(^Q^)」「リキュールをたっぷり使った大人の味、アントルメを少しずつ口に運びながら、ゆったりとくつろぐ食後…フランス人のこんな余裕のあるデザートの楽しみ方を、ほんのちょっぴりマネしたい、そんな気持ちになりませんか? >・)))彡
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