わんだふるはうす、メゾン・ポール・ボキューズに行く
PART3

レジオン・ド・ヌール勲章…それはナポレオン1世が制定し、各界の功労者に贈られるフランス最高の勲章です。1975年、フランス料理を世界各国――日本、アメリカ、オーストラリア、ドイツ、イギリス、スイス、ベルギー、スペイン、ポルトガル、カナダ、スウェーデン、ノルウェー、ロシア、イスラエル、トルコetc――に広く紹介した功により、フランスの料理人として初めて「レジオン・ド・ヌール勲章シュヴァリエ Chevalier de Legion d'honneur」を受勲したポール・ボキューズ氏。レセプションとして開催されたエリゼ宮での午餐会では、1970年代を代表するグラン・シェフたち――ポール・ボキューズ氏、ジャン・トロワグロ&ピエール・トロワグロ兄弟、ミッシェル・ゲラール氏、ロジェ・ヴェルジェ氏らの”究極の一皿”によってメニューが構成され、ヴァレリー・ジスカール・デスタン(Valery Giscard d'Estaing)大統領夫妻に捧げられました。1975年2月15日にエリゼ宮で行なわれた伝説の午餐会を、東京・代官山のメゾン・ポール・ボキューズを舞台に再現いたします。

ここに1枚の写真があります。撮影されたのは1977年1月、当時ポール・ボキューズと提携していた銀座のレストラン「レンガ屋」店内にて。エルメスのネクタイをしめ、流暢なフランス語で「ちょっとキザですが…」とシェフに語りかけている常連客は、当時の人気番組「ニュースセンター9時」メインキャスターだった磯村尚徳(ひさのり)氏。鴨の煮込みに赤ワインをかけているフランス人シェフは、レンガ屋の料理長ジョエル・ブリュアン氏。この3ヶ月後、ポール・ボキューズ氏の来日を記念しての招待晩餐会がレンガ屋にて開催されました。食後、磯村氏とボキューズ氏はワイン片手に対峙します。それは、’70年代最高の知識人がフランス料理の真髄に迫った瞬間でした。
1974年、テレビニュースの歴史に大きな足跡を残した「ニュースセンター9時」(NHK総合)が始まりました。初代キャスターは、磯村尚徳氏。「NC9」は、自分の言葉で「語りかけるテレビニュース」を目指すと同時に、現場の映像と音声をできるだけそのまま伝える「現場主義」と、長嶋茂雄氏の引退試合後、すぐ番組に招くなど、ニュースの当事者を登場させる「当事者主義」を標榜しました。またスポーツ、天気、生活情報などを重視する編成方針は視聴者から圧倒的な支持を得ました。
磯村尚徳氏は、1929(昭和4)年、東京都生まれ。祖父は陸軍大将 磯村年。父は陸軍中将 磯村武亮。妻は東京大学名誉教授 鈴木竹雄氏の長女。鈴木家は味の素KK創業者一族。学習院初等科に入学するも、陸軍の駐在武官だった父の勤務先の関係で、小学時代の大半をトルコ・フランスで過ごす。学習院大学政経学部卒業後の1953年にNHKに入局。当時NHKではフランス語の使い手が必要だったため、たった一人だけ東京報道局に配属。以後インドシナ特派員、ヨーロッパ総局パリ支局特派員を経て、1966年よりアメリカ・ワシントン支局特派員兼支局長。帰国後1970年に外信部長に昇格。1974年4月からスタートしたニュースセンター9時の初代キャスターを担当。1977年よりヨーロッパ総局長、1984年に報道局長に就任。1991年NHKを退職。1995年パリ日本文化会館館長就任、2005年3月まで務める。NHKの松平定知アナウンサーは甥にあたる
「ワンダフルハウス様、こちらのお席にどうぞ」
「おおっ! あれは!?(^O^)\」
「薔薇です! 綺麗です!\(^○^)/」
フランス共和国大統領ヴァレリー・ジスカール・デスタン氏夫妻は、フランスの最優秀料理人たちを招いて豪華なレセプションを開かれ、その素晴らしい「dejeuner デジュネ」(ランチ=午餐会)で夫妻のために作られたトリュフのスープをお召し上がりになった。その席上、大統領はポール・ボキューズ氏にフランス料理の大使という名目でレジオン・ド・ヌール勲章シュバリエを授与された。1975年2月25日(火曜日)のことである。
磯村氏「いつぞやエリゼ宮で大午餐会の指揮をとられたことがありましたね?
ボキューズ氏「一昨年(1975年)の2月のことです。私はジスカール・デスタン大統領からレジオン・ドヌール勲章を授かりました。この栄誉は私個人に与えられたものではなく、フランス料理界全体が授かったものだと思います。そこでエリゼ宮で”dejeuner デジュネ”(ランチ=午餐会)を催し、大統領と一緒にテーブルについて、料理や観光客の話をしたんです。我々料理人は18名いました
Soupe aux truffes noires V.G.E. plat cree pour l'Elysee en 1975
1975年にエリゼ宮にてV.G.Eに捧げたトリュフのスープ
9000円
「V.G.E」は、時の大統領「Valery Giscard d'Estaing ヴァレリー・ジスカール・デスタン」の頭文字。1975年にエリゼ宮で催された午餐会にはV.G.Eの姿があり、そしてキッチンで腕を揮うボキューズ氏の姿がありました。その刹那、歴史に残るこの一皿は世に生まれ出たのです。
磯村氏「ジスカール・デスタン大統領は食通ですか?
ボキューズ氏「かなりの食通ですね。しかも健啖家。でも、あの人も50歳ですから、やはりスタイルには気をつけているようです。いつまでもスマートでいるためには、食事に気をつけなくてはね」
磯村氏「美味しいものの山に囲まれたフランス人がダイエットするのは、さぞツラいことでしょうね(笑)。エリゼ宮の午餐会は、どんなメニューだったんですか?
ボキューズ氏「トリュフのスープ、鮭、そして鴨ですね。鴨にはフォアグラを付け合わせました。これはみんなで相談して決めたメニューなんです」
続く

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