ピーコート

スペルはPea Coat。Pea Jacketとも呼ばれる。原語はオランダ語で、Peaとは粗ラシャ生地のこと。海で働く男たちの衣服を各国の海軍が採用したことから世界中に広まったコートだ。大きめの襟は、暴風時に立てることで周囲の人の声を聞き取りやすくするためのものだった。また、風向きに応じて左右どちらからでも留められる前立て、手を暖めるために縦に切ったポケットなど実用的なディテールの魅力は数知れない。

ワンダフルハウス私物
10 KC−2 ¥54,000
(カールヘルム1987年冬物)
ホットドッグプレス1987年12月25日号(No.182)
HALF−COAT CATALOG ’87−’88 WINTER
右の赤と同じ物。黒なので、学生風にはならず、シックな大人のピーコートという感じだ。下にニットを合わせてカジュアルに、ジャケットやスーツのアウターとしてフォーマルにも使える。ボタンも両側に合わせられるので、男女兼用で着用可能。ウール100%、ベーシックなデザインなので、カールヘルムの歴代のピーコートの中では、最もピーコートらしきものである。 見慣れたピーコートもこの色だったら新鮮。

ピーコートについては、1979年から1981年までananに連載された「金子功のいいものみつけた」の47回目(アンアン1980年9月21日号)「ピーコート」で、金子さんが触れているので、それを紹介しよう。

まだ寒くはないのだが、気分的にコートを着たくなる季節――。
このはやる心にぴたりとくるのがピーコートなのだ。
実際には暑いだろうし重い、始末に困る面もある。
それでも、早くこのコートを着る、心意気というより意地かもしれない。

”おしゃれ”ということの中には楽しい、嬉しいなどと単純に片づけられない思いが含まれてもいる。自分に似合う服を、自分で想定したイメージに着こなして、気分も体も快く……というだけがおしゃれではないのである。
ときには苦しくても無理にウエストを締めつけたり、寒いのを我慢して薄着で街を歩いたり。他人からは愚かだと思われるかもしれない苦しみを、密かに耐えてこそ完成される、そんなしゃれ方もあると思う。
むろん、着やすさ、動きやすさ、快適さなどは、別の意味でおしゃれの基本だ。が、その基本よりもっと大切な、そしてもっと楽しさも深い、心意気とでも言うべき要素。もっとあり体に言うなら、”へそ曲がり”かもしれない、または”意地”かもしれない。自分の意志をあくまでも貫く、そんな気構えのしゃれ方があると思うのだ。

ピーコート。「シンデレラ・リバティー」でジェームズ・カーンが着ていた。この映画に限らず水兵たちが必ず着ている。船乗り、漁師のジャケットでもある。Pea Jacketの語源はオランダ語だと聞いたような気もするが、よくは知らない。とにかく、海の男どもが着る、保温性に富んだ厚地の上衣。
昔、多分”進駐軍”の放出だろう、アメ横に沢山売っていた。ダッフルコートと同じくらいに、完成された、非常にいいデザインだと思う。
それに機能的なのだろう。寒風吹荒れる船の甲板や、雪混じりの雨が降る港の舗道。肩幅広く胸の厚い男が、このコートを着て飄然と立っていたりする。いや、嵐を前にして猛然と立ち働くのかもしれない。

NEW!

しかし、――陸(おか)で、とくに女がこれを着る場合。重い、暑い。極寒の季節なら暑くはないが、それでも重く、肩がこるほどだ。
が、たとえば秋の曇り空の日に、今年最後の海に行く。そんな時にはどうしても着たくなる。長く着続けられ、男から男へ伝え受け継がれてきたデザインの良さなのか、海という連想からくるむしろセンチメンタリズムか。
なぜこんなにもピーコートが好きなのか、説明はつかない。ただ、寒くもないうちから寒い時の格好をしてみたい、そんな気持ちにこのコートはじつによく合うのである。
写真のパンツはこれも水兵用。茄子紺の、ガバッとした肌ざわりが心地良い木綿。これも海への憧れに通じる好みかもしれないが……。しかし、大好きなパンツのひとつである。
ピーコートも水兵パンツも、とても安く売っている。その安さも非常に嬉しい。

ピーコート¥19,800(SHIPS)パンツ¥3,200(バックドロップ)商品は1980年に売られていた物です。
ピーコートについてもっと詳しく知りたい方はこちら(男の「装い」一科事典)

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