発(ファ)/もどす・ふくらむ

 長春から帰国された先生のお土産は、乾燥した木耳(きくらげ)だった。箱の中には切り餅のような塊。
 これが木耳?と思ったが、お湯に入れるとボールいっぱいに膨らみ、大きく肉厚でまさに耳の形だった。
 カチカチに乾燥させたものをお湯につけて、柔らかくすることを日本語では「もどす」、中国語では「発fa」。小麦粉にベーキングパウダーを入れて発酵させ、膨らませることも「発」。つまり「発」というのは、「元にもどす」というより、何倍にも膨らむイメージを表現している言葉のようだ。
 「発」すると、食材からすばらしい味があふれてくる。「発干貝(干貝柱をもどす)」「発海帯(昆布をもどす)」など、「発」すると、凝縮された複雑な味も解き放たれ、味も豊かにふくらんでゆく。そういえば、「発財」という言葉もある。これは、経済的に発展して豊かになることだ。
 その日、木耳のほかに、乾燥したユリの花も「発」しておいた。これは、中華食材のお店で簡単に入手できる。火を通すと、筍の先端のような繊細な触感がすばらしく、かすかな香気と、ちょっと干瓢みたいな風味がある。
 ユリの花、木耳、卵、ブタ肉を一緒に炒め、カキ油、醤油とゴマ油を垂らすと「木須肉」という料理のできあがり。「発」した食材には独特の風味が漂い、ほのかな甘味がある。中国の友だちは、よく麺にかけて愛食している。

〈浅山友貴〉