シ刷(シュアン)/しゃぶしゃぶする

 
 
 北京の街は、元の時代に首都になって以来、モンゴルや北方の民族はもちろん、さまざまな民族の影響が残る街とのこと。そんな北京の名物鍋料理は、「刷羊肉shuanyangrou(羊肉のしゃぶしゃぶ)」である。この料理は、もともと「清真菜(イスラム料理)」だという説もあり、そのせいか、「肉といえばブタ…」の中国でも、「しゃぶしゃぶといえば羊肉」なのである。

 羊肉には、赤身と霜降りがあり、炭火の入った煙突つきの鍋で、さっと湯にくぐらせて食べる。タレは、醤油・黒酢を中心に、辣椒油(ラー油)・花椒油(山椒の実入りの胡麻油)・蒜泥(すりおろしにんにく)の他、ネギ・しょうが・香菜・韮の花の塩づけなどの薬味と合わせる。芝麻醤(胡麻ペースト)のタレもおいしい。ちょっと驚くのは、香りの強い香草と、辛味の効いた薬味をたくさん使うこと。日本風のすっきりしたタレとは全く別のものだ。

 肉を食べた後は、酸菜(白菜の漬物)や、ホウレン草などの冬野菜、凍豆腐・粉条(春雨)か麺条(うどん)を入れて最後にスープも一緒に味わう。

 ところで、肉の脂身は「肥肉」、赤身は「痩肉」という。以前、日本語のできる中国人の友だちが「痩肉」を直訳したのか、日本語で「痩せた肉のほうが好きだ」と言い出した。「痩せてたら、肉、ないんじゃないの?」と大笑いになり、「痩せた肉」は、しばらく私たちの流行語になった。

〈浅山友貴〉