我 歌


2005年7月26日

空梅雨の空見て思ふ鞄より出すこともなき折りたたみ傘

梅雨ぐもり歌会に心満さるる料理の話も一層熱し

ほんわりと涼しさ口にする度に吾も融けゆくアイスクリーム

歓談の騒めきの中の挨拶とビールの泡がおなかに消える

海原の霧につつまれ舵取れど浪の間に間に日中の舟

満員の電車の中に押し込まれ慌ててふとも歌生まれたり


2005年8月13日
故郷の思ひを綴るエッセイの字も遠くなり花眼(ろうがん)進むや

独り行く長き旅路に様々の捨てる故郷拾う故郷

夏の夜電車に駆け込む小学生一口かじるカロリーメート

ほんとうの味わい知りて原作を噛むほど深くなってゆく味

半押しの間に蜂が飛んでゆく微笑む花にシャッターを切る

金風に撫でられ落ちし山紅葉古木の涙か歓喜の歌か

○×を着けては消して尚つける思ひのままに馬走らせる

難しき問題らしく見せかけて前へ進まぬ足踏みの妙


2005年9月9日

風と共に一直線消え去りて白き紙まだ電車追ひ来る


休みなきクーラーも又秋待たるはやく吹き来よ爽やかな風


ふんわりとオレンジ色の月昇る親子の熱き思ひ出もあり


金秋の風に優しく撫でられてコオロギの歌後楽の森


中庭を覆ふばかりの夜の霜月光に思ふ暖かき故郷


標本の蝶々の背に細き針閉じ込められた青空の夢

一服のお薄差し上げ淡々とあの頃のこと語り合いたし


今世難相陪 月華枕水夢難回 敬君茶一杯



2005-9-20

故郷の真澄の空に月清し心安らぐここも故郷

思念漲秋江 我心安処是家郷 月華豈異様


鈴虫のリーンリーンと伝わりし月の孤独に耳傾ける

曇っても晴れても月は昇りけり東瀛(にっぽん)の月神州(ちゅうごく)の月

十五夜や黄鶴楼で見上げれば名月一つ川面に一つ

驚嘆も賛美も聞かず粛々と夢語り合う二つの月は


形影が相伴いて長江の川面の上にも名月輝く

ふためきて弾き出されし電話カード行き場なくなる千言万語



10月24日
夜空から降り注ぎつつ故郷の庭に聞こえし月鈴子(げつれいし)の音

銀色の大地に立ちて見上げれば臼突く玉兎星屑こぼす

爽やかな小鳥の声に酔いしれて横見の隙にちらっと君を

大海の白き飛沫に聳え立つ波濤に聴つつ空の青さ見る

沈黙にさらされてゆく吾が心雲と語りて青き言葉で


ソフィア祭(文化の日・上智大学にて)
 11-9

 ソフィア祭おでん焼きそばソーセージ売店抜けて野点の茶席
 
 音高きジャズの調べの流れ来て野点の席の奥の深き庭
 
 振袖の紅に囲まれ席に着く今日はデビューの男子の点前
 
 ソフィア祭上智の庭で静寂の一時過ごす教え子のお茶
 
 教え子の説明を聞きて一服を緑沁み込む爽やかな秋
 
 爽やかな緑の香のする一服をしばし惑ふここビルの谷間



11月22日
暮るる秋夕日を追ひて吾の影長くなりつつ暗闇に消ゆ

過ぎし日の言葉を拾ひて焚火する炎の中で蘇る夢

「鴨おいで」舞ひ舞ふやよに乙女の手池水清し秋空高し

お月様と一杯を酌む古壷新酒もう一杯と勧められて干し

美しき嫦娥(つき)と杯傾けて宴はつづきいつ終わるやら

会ひたしと雲の後ろのお月様恋路に迷ひ出口や何処

昼食後落葉の庭に空を読むそよ風にまた一頁開けり



12-20

明月は東瀛に至れば山月に物の哀れや心侘び寂ぶ

明月来東瀛 寂寞長空伴我行 山影物哀情

学ぶ道上に上あるを忘れずにいつもまだまだ吾も初心者

年末の夕陽を追ひて吾の影長くなりけり暗闇に消ゆ

日常非日常 酸甜苦辣皆学堂 生涯須自強 勿忘我行故我在 笑迎春夏秋冬来