y−toku long interview
〜我進我道〜
脱獄者からのメッセージ



―――次に中学時代の話を中心に。小学校から中学校へ入学したときの心境
の変化は?

「まあ特に緊張とかは無かったけど、最初はちょっときつかったね。僕たち
の中学は4つの小学校から人が集まってくるから、当然知らない人のほうが
多いわけ。そこで重要になってくるのが第一印象なんやけど、ちょっとある
事があって入学直後に担任の先生にクラスの全生徒の前で一喝されてしまっ
てね。これでやっぱり自分のことを知らん人間には大きなマイナスイメージ
が植え付けられてしまったと思う。」

―――そこから挽回するには?

「挽回というほどでも(笑)。中学生やったら、別にOL同士の陰湿なイジ
メのようなことがあるわけでもないし。自然と時間が解決してくれた。」

―――ということは、それ以降の中学生活は順風満帆だった?

「それが波乱万丈でね(笑)。小学生の頃から腰痛を患っていて、そのピー
クが中学1年の時にやってきた。当時、野球部やったからそれによる負荷も
あったんやろうけど、ある日の朝、目覚めたらベッドから起き上がれへんく
らいになってもうて。大声で母親を呼んで起こしてもろたけど、とても一人
で歩けるような状況ではなかった。このままやと学生生活全体に影響を及ぼ
す、っていうことで文科系の理化部に転部した。まあ、ここで1度目の挫折
を経験したんやけど、この経験は本当に後々になっても生きてくる良い経験
やったと思う。ここに至るまでも紆余曲折あったし。」

―――紆余曲折って?

「中学校に入学して、最初クラブを決めるときに、僕はずっと野球部って決
めてたんやけど、周囲の友達から他のクラブに誘われてね。友達を裏切るわ
けにもいかんし・・・って思って悩んでいたんやけど、ある時、親に相談し
てみたわけ。『どうしたらええ?』って。そしたら親は完全に『野球部に入
れ!』の一点張り。多分、内申書のことを気にしていたんやと思う。文科系
のクラブよりも運動系のクラブの方がええやろ、って。友人には申し訳無い
と思いつつ入った野球部で体を壊して、本当に親を恨んだこともあった。ま
あ、でもここで思いきってクラブを変えたことは間違いではなかったし、人
生の第1番目のターニングポイントで良い道を選択できたと思う。」

―――クラブを変わったことで気持ちに変化はあった?

「一番は勉強面かな。自由な時間がけっこうできたけど、最初は特に何も考
えずブラブラしてた。そんな僕を見て母親が『お前、クラブ変わって何の特
技も無い人間になってしもたな』って言うたわけ。最初は腹も立ったけど、
よう考えてみたら結構的を得た指摘でね、これが。当時は成績も中途半端や
ったし、何か目立ってる部分とか人より秀でている部分も無かったから。で、
このままダラダラと転げ落ちていくのもマズイと思って。それから本腰を入
れて勉強に打ち込むようになったかな。母親の一言に対して『なにくそ、コ
ノヤロー!』って気持ちもあったし。」

―――どうやらこの男の不屈の闘志は中学生のときに形成されたようである。
通常なら非行に走り兼ねない出来事でもはね返して、エネルギーに変えて生
活しているのをごく当たり前のように感じさせるのがささやかながら凄い部
分である。
続いて、本腰を入れた勉強面について聞いてみた。

「まあそんなに才能も無いし、授業で1回聞いたことがすんなり頭に入るっ
てわけでもないから、勉強方法は工夫したかな。一つは自分なりのまとめノ
ートを作ること。これは今でもやっているけど、重要な部分を自分なりの言
葉でノートにまとめていって、それを繰り返し見て覚える、ってことをやっ
ていた。あとは努力と時間を惜しまないこと。人より一歩遅れた所からのス
タートやったから、当然周囲を上回る努力をして初めて追いつけるわけやし
ね。」

画像その3
―――そうやって自分を追い詰めていくことで実力を発揮していった?

「それもあるけど、結構周囲も時にはムチを打ってくれた部分もある。何人
かの先生は『お前ならもっとやれる』ってさらに自分の能力を引き出してく
れたし、何よりもクラブの顧問の先生かな。自分の能力の限界を引き出して
くれたのは。まあ、過大評価されすぎてた部分もあったけどね。」

―――変わった先のクラブでしごかれた?

「地味にね(笑)。表向きには活動自体は楽なクラブやったけど、裏ではけ
っこう、ね。別に体罰とかは無かったけど、ある時、研究発表を市に出展す
ることになって、『研究発表の動機を書け』って顧問の先生から言われて。
まあ適当に書いときゃ何とかなるかな、って思って自分が引き受けたら、原
稿用紙10枚渡されて、『これに書いてこい』だもん(笑)。夏休みの読書
感想文で5枚書くのも嫌な人間がこんなに書けるわけねーだろ、って。最初
はどないしよか、って思ってたけど、考えててもしゃーないって開き直って
がむしゃらに書いていたら1週間くらいで無事完成してね。時間はちょっと
かかったけど、少々のことならやればできる、っていう自信はこれでかなり
ついたと思う。」

―――やはり今のこの男の原点は中学生活の中にあるのだろう。話を聞いて
いると現在につながる部分が多く見られる。しかし、何故そんなにストイッ
クに勉強に打ち込めたのか、その点を尋ねてみた。

「それは夢があったから。多分この一言に尽きると思う。教師になりたいっ
ていうその気持ちだけ。やっぱり、幅広くいろいろな知識を身につけて、将
来それを教え子たちに正確に伝えたい、っていう気持ちが強かったから。ま
あ、そんなに勉強が好きってわけじゃなかったけどね。」

―――勉強が嫌になることは無かった?

「それは、しょっちゅう(笑)。特に中3の時はちょっと嫌になった時が多
かった。周囲が高校受験に向けて本格的に勉強を始めたから、自分も努力は
しているんやけど思うように成績が伸びなかった。でも不思議とそんなに悲
観はしてなかった。やっぱりコツコツと積み重ねてきたものがあったから、
普段どおりのことを続けていれば大丈夫やろ、っていう自信はあった。」

―――恋愛に関しては?

「うーん。これがまたあることをきっかけに踏み込めなくなってしまって・
・・。中2の時やったかな、別に何とも思ってない女の子のことが好きって
いう噂が流れて。これがまた友人の作り話で。当然否定したけど、周囲は完
全に信じきっているし、自分の予想以上に相手に迷惑かけてしもた、ってい
う気持ちはあった。別に僕は何も悪いことしてへんけど、何か罪悪感のよう
なものを感じずにはいられなかった。今でもこの噂を信じきっている同級生
に逢ったときにこの話が出るんやけど、っていうことは相手も同じことを今
でも言われている可能性があるしね。ほんまに申し訳無い気持ちでいっぱい。
それ以来、別に好きでもない女の子のことでこれくらい悩むんやったら、本
当の恋人と別れた後のダメージはこれよりもひどいんちゃうか?、とかいろ
いろ考えてもうて。恋愛には踏み切れなくなってしもたね。」

画像その4
―――トラウマにはならなかった?

「当時はそんなに重症ではなかった。だって、恋愛について深く考える世代
じゃなかったから。とりあえず楽しけりゃええか、って感じで過ごしてたし。
あと、中学生時代にTHE ALFEEとinfixっていう二つのグループ
に出逢うことが出来たから。本当にこの二つのグループの歌に込められたメ
ッセージには救われた。精神的支えやったね。まあ、この二つのグループに
ついて語ると話が長くなるし、本質的なところからどんどん離れていくから
やめときます(笑)。」


次へ