y−toku long interview
〜我進我道〜
脱獄者からのメッセージ



―――大学時代のことは「大学生活日記」にも あるので、極力重ならないよ
うに聞いていこうと思います。まず、入学当初は一人暮しを始めて、何か変
化はありましたか?

「まあ何もかもが新しい体験やったから、それはそれで新鮮で面白かったけ
ど、やっぱりうかうか出来ないっていうのが一番強かったかな。勉強面で特
にそれは感じた。やっぱり有名校から大学に入ってきた人間は、大学で勉強
するようなことをすでにある程度学んできているわけやしね。こういった人
間に追いつかなくては単位も取れないし、卒業もできないと考えると、入学
当初から必死にならざるを得なかった。」

画像その7
―――何か対策はしたの?

「自分に課したのはギャンブル禁止と恋愛禁止の二つ。ギャンブル禁止は余
計なところで運を使わないため。恋愛禁止は勉強に専念するため。要領の良
い人間じゃないから、そんなに多くのことを一度には出来へんしね。」

―――厳しいとは思わなかった?

「自分の選んだ道やからしょうがないって割り切ってたけど、周囲からの評
価には納得がいかなかった。やっぱり恋愛とか女性関係だけで優劣つけられ
ると納得いかへん。こっちは犠牲を払ってでも学生の本分である勉強に打ち
込んでいたわけやから。その人の闘っている土俵での結果で評価してもらわ
ないとね。プロ野球の選手をゴルフの成績で評価する人なんていないでしょ。
モーツァルトのクラシックCDとモーニング娘。のCDを売上枚数で比較し
ても意味が無いわけやし。」

―――うまい例えを交えながら話すのもこの男の特長である。本当に分かり
やすく、なるほどと思わせる事例を挙げながら話すのである。
さらに恋愛のことについて聞いてみた。

「周囲の雑音を消そうと思って、パッと考えついたのが架空の恋人を造りあ
げること。親からもたまに恋愛のことをいろいろ言われたから、親を安心さ
せるためにも架空の恋人を造りあげた。でも、評価されるべきところできち
んと評価されていたら、全くこんなことする必要なんか無いんやけどね。」

―――恋愛の話をされるのは嫌やった?

「極力、話を合わせるため嫌な顔をせんように心がけてたけど、あんまり好
きではなかった。それに、努力している部分をちゃんと見てくれっていう気
持ちもあったし。自分たちの世代は汗や苦労っていうものを嫌う人間が多い
からね。苦労人の美学は今の時代に、この世代には受け入れてもらえへんの
かなあって悩んだし苦しんだ。」

―――こう話していると、言い方は悪いがこの男は古臭いタイプの人間だと
いうのがよく分かる。「男気」、「人情」、そういったものが話の節々から
感じ取れるのである。話はさらに続く。

「でも、自分に華が無いことにここで気づいたのは、ある意味良かったと思
う。変に自分に過剰な自信を持ち過ぎないというか、普段決めない人間が決
めようとしてもロクなことにならないというかね。教育実習で担当クラスの
女子生徒全員から無視されても冷静に対応できたのも、この認識があったか
らやと思う。」

画像その8
―――その教育実習についてですが、やっぱりショックは大きかった?

「もちろんショックはあった。でも、一番最初に恨んだのは自分の顔。もう
ちょっと格好良く産まれてくることが出来ていれば違った結果になっていた
かもしれない、って。生徒に対する嫌悪感はそれに比べるとあまり無かった。
確かにこれが一因で実習の評価は低く、事実上教師になれないことが決定的
になってしまったし、教師になる資格は自分にあるのだろうか?、とも考え
た。追い打ちをかけるように、たまたまこのことをFM三重の某番組の掲示
板に書いたら、教育実習のシステムを知らない人からはかなり批判を受けた。
けど、大学で教育実習の事後報告の際には、グッと気持ちを押さえて、実習
の良かった部分だけを話すことに努めた。やっぱり、母校と後輩に悪いレッ
テルを貼るわけにはいかんしね。」

―――その教育実習の後、大学院入試でさらに地獄を見ましたが?

「ゼミではかなり高次元なものへ取り組んでいたんやけど、やっぱり他人と
比べて結果はなかなか残せなかった。結局、大学入学当初に感じた差は埋ま
らず、ツケがここにきて一気に返ってきた、っていう感じ。当然、教官たち
から目に付く学生じゃなかった。能力の無さを痛感したね。それでも意地の
部分で負けたくなかったし、努力を怠っていたわけじゃなかったから、道は
切り開けると確信していた。でも、今振り返るとこのあたりに『人生何とか
なる』っていう甘えがあったのかもしれない。
まあ自分に非があった部分は認めるけど、大学院入試の面接で採点ミスがあ
ったことは納得がいかない。教官たちは間違いを棚に上げておいて、結局不
合格っていうのはちょっとね。秋山仁先生の言葉を借りると、『努力は報わ
れず、正義は滅びる』のかって思った。」

画像その9
―――その状況でそのまま崩れていかなかった理由は?

「小さい頃からの夢だった教師にはなれなくなり、大学院入試は不合格。挙
げ句の果てに教育実習のおかげで女性恐怖症・対人恐怖症は一層ひどいもの
になった。まさしく、お先真っ暗の状態。今まではある程度人生のレールを
予測できていたけど、進学もできない、就職もできない、何をやればいいの
か分からない、っていう状況に陥って、まず考えたのは何か一つ胸を張れる
結果を残そうっていうこと。僕の場合はたまたま数学検定1級っていう資格
を選んだけど、別に他の資格でも良かったし、資格以外の何かでも構わなか
った。とにかく、大学4年間でこれを成し遂げたんだ!、っていう証が欲し
かった。これがあるのと無いのとでは気の持ち方も違うしね。
でも、本当にイチかバチかの挑戦やった。地獄のどん底で、無の状態から何
か一つを掴もうとするわけやから。車だって動き出してしまえばある程度惰
性で走るけど、動き出すときが一番エネルギーを消費するわけやし。この時
の頑張りで、ほんのちょっとだけ自分のことが好きになれた気がした。」

―――この男の求道心には脱帽するばかりである。大学をただ何となく卒業
し、何となく職に就く人間が大勢いる中で、常に自分を崖っぷちに追い込み、
目標を定めて道を切り開く姿勢は決して容易に真似できるものではないはず
である。
最後に、今までとは全く話が異なるが、個人的にホームページのコラムにつ
いて聞いてみた。

「コラムを書くときには深く考えて書かないことにしている(笑)。別にプ
ロじゃないんやからね。思いついたことをサッとメモして、そのメモを文章
の形にまとめていく。そのほうが本音が出てくるしね。考え込んでしまうと、
どうしても作った部分が自然に出てしまうから。」


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