幾何学概論T(シンプレクティック幾何学)

・問題
複素二次元ベクトル空間Z=C×CにLie群S1が
exp(it)・(z1,z2)=(exp(it)・z1,exp(it)・z2)
で作用しているとする。(iは虚数単位)
Zをsymplectic manifoldと考え、
canonical symplectic form ωが与えられているとする
(1)ベクトル場Vを点z=(z1,z2)に対し
V(z)=d/dt|t=0 (exp(it)・z1,exp(it)・z2)
で定義する。z1=r1exp(iφ1)、z2=r2exp(iφ2)と極座標変換したとき
V=∂/∂φ1+∂/∂φ2となることを示せ。

(2)上で定義したベクトル場とωに対するmoment map μを求めよ
ただしμ(0,0)=0とする

(3)上で求めたmoment mapに対し0以外の実数は全て
そのmoment mapのregular valueとなることを示せ。
さらにsymplectic reductionμ(−1)/S1はどうなるかを表し
Z上のcanonical symplectic form ωに対し
symplectic reduction上にinduceされる
symplectic formを求めよ。


・解答
(1)z1=r1exp(iφ1)、z2=r2exp(iφ2)によって極座標で表すと
(exp(it)・z1,exp(it)・z2)
=(r1exp(i(t+φ1))・z1,r2exp(i(t+φ2))・z2)
となる。よって定義から
V(z)=d/dt|t=0 (exp(it)・z1,exp(it)・z2)
=d/dt|t=0 (r1exp(i(t+φ1))・z1,r2exp(i(t+φ2))・z2)
=∂/∂r1(dr1/dt)+∂/∂φ1(d(t+φ1)/dt)
+∂/∂r2(dr2/dt)+∂/∂φ2(d(t+φ2)/dt)|t=0(z)
=(∂/∂φ1+∂/∂φ2)(z)
よってV=∂/∂φ1+∂/∂φ2となる

(2)moment mapの定義より
μ:Z→g=Rは
(@)ivω=d<μ,V> for ∀X∈g
(A)μ(s・z)=μ(z) for ∀s∈S1、∀z∈Z
を満たさなくてはいけない。
((A)の条件はS1が可換であるからこう表せる)
(@)より、a、b、c、dを任意のfunctionsとして
ベクトル場W=a・∂/∂r1+b・∂/∂φ1+c・∂/∂r2+d・∂/∂φ2
を両辺に作用させる。
左辺=ivω(W)=ω(V,W)=−2a・r1−2c・r2
(微分形式とベクトル場の関係、定義に従い行列式を展開すれば分かる)
右辺=d<μ,V>(W)
=a・∂μ/∂r1+b・∂μ/∂φ1+c・∂μ/∂r2+d・∂μ/∂φ2
両辺を比較すると、任意のa、b、c、dについてこの両辺が等しいから、
∂μ/∂φ1=∂μ/∂φ2=0、∂μ/∂r1=−2・r1、∂μ/∂r2=−2・r2、
となる。この偏微分方程式を解いて
μ(z1,z2)=−(r1×r1+r2×r2)+c
=−(|z1|×|z1|+|z2|×|z2|)+c
(ここでcは定数項とする)
条件よりμ(0,0)=0であるからc=0
つまりμ(z1,z2)=−(|z1|×|z1|+|z2|×|z2|)
このμについて(A)の条件を検証する。
s=exp(iθ)とすると
μ(s・z)=−(|exp(iθ)・z1|×|exp(iθ)・z1|
+|exp(iθ)・z2|×|exp(iθ)・z2|)
=−(|exp(iθ)|×|exp(iθ)|・|z1|×|z1|
+|exp(iθ)|×|exp(iθ)|・|z2|×|z2|)
=−(|z1|×|z1|+|z2|×|z2|)
=μ(z)
よって(@)の条件より求めたmoment mapは確かに(A)の条件も満たす
つまりmoment mapはμ(z1,z2)=−(|z1|×|z1|+|z2|×|z2|)

(3)前問よりμ(z1,z2)=−(|z1|×|z1|+|z2|×|z2|)
極座標z1=r1exp(iφ1)、z2=r2exp(iφ2)で考えると
dμ(r1,φ1,r2,φ2)=(−2r1,0,−2r2,0)
よってcritical pointはr1=r2=0、つまりz1=z2=0
critical valueはμ(0,0)=0
つまり0以外の実数は全てμのregular valueとなる
μ(−1)={(z1,z2)| |z1|×|z1|+|z2|×|z2|=1}=S3
symplectic reductionμ(−1)/S1は
μ(−1)に(z1,z2)〜(y1,y2)
⇔(z1,z2)=(exp(iθ)・y1,exp(iθ)・y2)(∃exp(iθ)∈S1)
によって同値関係を入れたtopological spaceである。
すなわち、symplectic reductionμ(−1)/S1は
1次元射影空間P1(C)となる
次に、μ(−1)/S1上にinduceされるsymplectic formを求める。
     i
μ(−1)→Z
  p↓
μ(−1)/S1=P1(C)
Z上に定義されているω=2(r1dr1∧dφ1+r2dr2∧dφ2)をiで引き戻すと
μ(−1)={(r1,φ1,r2,φ2)| r1・r1+r2・r2=1}より
μ(−1)上では2r1dr1+2r2dr2=0
よってr2≠0とするとdr2=−r1・dr1/r2
つまりωのiによる引き戻しは
2(r1dr1∧dφ1−r1dr1∧dφ2)=2r1dr1∧(dφ1−dφ2)となる
一方、p:μ(−1)→μ(−1)/S1=P1(C)は
(z1,z2)|→[z1:z2]であるから
μ(−1)/S1=P1(C)上にz2≠0つまりr2≠0として局所座標を入れる。
このときz1/z2=r1・exp(i(φ1−φ2))/r2より
r=r1/r2、φ=φ1−φ2として
μ(−1)/S1上に局所座標(r,φ)を入れることができる。
これを用いて、μ(−1)/S1上の2−formはa・dr∧dφと表すことが出来る。
(ここで、aは任意のfunctionとする)
よってa・dr∧dφをpで引き戻すと
ad(r1/r2)∧(dφ1−dφ2)
=a(dr1/r2−r1・dr2/r2・r2)∧(dφ1−dφ2)
μ(−1)上ではdr2=−r1・dr1/r2であったから
与式=a(dr1/r2+r1・dr1/r2・r2・r2)∧(dφ1−dφ2)
=a・dr1/(1−r1・r1)3/2∧(dφ1−dφ2)
となる。(3/2は「2分の3乗」の意味)
a・dr∧dφをpで引き戻した微分形式とωをiで引き戻した微分形式が等しくなることから
それぞれのfunctionの部分を比較して
2r1=a/(1−r1・r1)3/2
よってa=2r1/(1−r1・r1)3/2
ここでr=r1/r2であったから
a=2r/((1+r・r)・(1+r・r))となる
つまりμ(−1)/S1上に定義されるreduced symplectic formは
2r・dr∧dφ/((1+r・r)・(1+r・r))となる
これは複素射影空間に存在するFubini−Study formに他ならない
同様にμ(−1)/S1上でz1≠0つまりr1≠0として局所座標を入れて考えると
r’=r2/r1=1/r、φ’=φ2−φ1=−φとして
μ(−1)/S1上に局所座標を入れて計算して
μ(−1)/S1上に定義されるreduced symplectic formは
2r’・dr’∧dφ’/((1+r’・r’)・(1+r’・r’))となる
r’=1/r、φ’=−φであるから、二つの座標近傍の共通部分では
2r’・dr’∧dφ’/((1+r’・r’)・(1+r’・r’))
=2r・dr∧dφ/((1+r・r)・(1+r・r))となることが容易に確かめられる。
つまりこの二つは同じ微分形式を定義している。
まとめると、μ(−1)/S1上に定義されるreduced symplectic formは
r2≠0のとき:2r・dr∧dφ/((1+r・r)・(1+r・r))
(r=r1/r2、φ=φ1−φ2)
r1≠0のとき:2r’・dr’∧dφ’/((1+r’・r’)・(1+r’・r’))
(r’=r2/r1、φ’=φ2−φ1)
となり、これはFubini−Study formである。
もっと単純に、μ(−1)/S1=P1(C)=S2=C∪{∞}とみなして
座標z=x+iy(x=r・cosφ、y=r・sinφ)を入れて考えると
r・r=x・x+y・y、dx∧dy=r・dr∧dφより
reduced symplectic formは
2・dx∧dy/((1+x・x+y・y)・(1+x・x+y・y))
と表すことも出来る。


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