京都大学大学院理学研究科(数学系)受験記
〜一次の奇蹟、二次の悪夢〜



8月7日
いよいよ第一志望の京大大学院の試験の日である。この日は基礎科目のみな
のだが、午後からの試験となったので試験開始3時間前に起床し、ゆっくり
と昼食をとる。しっかりといつものハチマキとトレカも準備しておいたので
あとは学校に向かうのみだったのだが、やはり本命のところであるというこ
ともあり、時間的にも少し余裕があったので気になった線形代数の「行列の
固有値・固有ベクトル」の部分を見直す。
そして、少し早めに家を出て、40分前には会場に到着。教室に入れるのは
30分前からということだったので入り口で少し足止めを喰らったのだが、
この時は今まで経験したことがないような神がかり的な集中力を持続してお
り、全く問題はなかった。実力的には圧倒的に不合格の確率が高かったので、
集中力でカバーするしかないという気持ちがあったからかもしれない。
いよいよ試験開始となり合図と共に問題用紙を開いた瞬間、奇蹟を目撃する
こととなった。何と@の問題は直前に見直していた行列の対角化の問題その
ままだったのである。これは間違いなく神が味方してくれている、と思い解
答していく。その他の問題も一筋縄ではいかないような難問がそろっていた
のだが、信じられないくらい快調に解けていく。問題がやや易化したことに
も助けられたが、自分が意識していないのに本能的にペンが進むという不思
議な感覚を覚えたのは初めての経験だった。
そして、4時間の長丁場の試験もアッという間に終了。これはひょっとした
らひょっとするかも、と思い期待を胸に明日の試験で必要となる和英辞典を
買いに行くこととなった。

8月8日
この日は午前から試験があるということで朝6時に起床。と言っても緊張と
気持ちの高まりから夜2時に眠りについたにもかかわらず、5時には目が覚
めてしまった。ゆっくりと朝食をとり学校へと向かう。
この日は専門と英語の試験だったのだが、正直なところ前日の出来を考えて
かなりリラックスしていた。京大大学院の場合、基礎科目の出来で80%く
らい決まってしまうので、あとの科目はもうがむしゃらに解いていくだけ、
と決め込んでいた。
そして専門科目の試験開始となったのだが、こちらは基礎科目と打って変わ
ってやや難化していた。とりあえず一問を完答しようと頑張ってはみるもの
の、幾何の問題を選択しすぎたのが少し失敗であった。ルベーグ積分論をし
っかりやっておけばもっと簡単な問題が選択できていたのに、と後から気づ
くことになるのだが、この時は当初から決めていたように代数1題、幾何2
題を選択した。
何とか頑張って答案の形にまとめたところで試験終了。続いての英語の試験
まで1時間半の休憩があったので昼食をとり、生物系の事務室前の談話室で
しばらく休憩をとる。
最後の英語の試験の時には全力を振り絞り、全てをここに賭けて挑んだ。前
日に購入した和英辞典と今まで使い込んだ英和事典が大活躍してくれたおか
げで、最後までは辿り着かなかったものの9割方完璧に解くことが出来た。
20世紀最大かつ最高の奇蹟実現まで、完全に片方の手を架けている所まで
行ったと思った。

8月10日
前日の一次試験合格者発表に自分の名前があったことをしっかりと確認して、
この日は二次の面接に挑むこととなった。6人で1時間の面接ということだ
ったので一人10分くらいだろうと予想し、安心して会場へと乗り込んだ。
というのも、京大大学院の面接は記述試験の出来が良いと事務的な質問をす
るのみで終わるのである。これなら大丈夫と思っていたところに大きな落と
し穴があった、と気づくのは試験終了後であった。
面接会場の控え室に一番乗りで入り、しばらくすると続々と他のメンバーが
集まってきた。全員幾何専攻ということで顔なじみであり、しばらくは記述
試験の問題を全員でチェックしあっていた。
そしていよいよ面接開始となった。自分は2番目だったので、1番目の子が
5分程度で帰ってくるのを見て安心して面接会場に入った。だが、安心した
のも束の間、ここで完全に地獄まで突き落とされることとなってしまった。
まず、面接官の先生が「最初に事務的な質問をし、それから記述試験の問題
の質問をします。」と言ったからである。まさか記述試験の問題の質問は無
いだろうとタカをくくっていたので、急に恐ろしいまでの緊張が襲いかかっ
てきた。全く採点には関係ない事務的な質問も噛みまくってしまうし、その
後の問題に関する質問に関してはもうボロボロであった。自分が合っている
と思っていた基礎Eの問題だったので、記述試験の時と同じような解答をす
ると、ハウスドルフ性のところで大きな勘違いをしており、間違いに気づい
てあたふたしているところにさらに吉田先生から「問題が解けない時にはく
やしいと思うようにならないと研究者としてやっていけるわけないだろ!」
と、きついお叱りの言葉を受けてしまう。この一言で逆に冷静さを取り戻し、
続いて質問された基礎Fの問題では「記述試験の時と同じ解答でやります。」
と前置きした上で同じ解答を説明すると、こちらは完璧に合っていることが
判明。ここで何故合っている問題をあえて質問するのか先生たちの間で少し
話し合いになり、いろいろ資料などを調べた結果、とんでもない一言を聞く
ことになった。先ほどお叱りになった吉田先生が「君のFの解答は0点だと
思っていたけど、どうやら採点ミスだったらしい」と言ったのである。
冗談じゃない!。こっちは必死でやっているのに採点ミスなんかで落とされ
てたまるか!。と言い返してやりたいくらいの気持ちになったが、ここでブ
チ切れてしまっては全てが水の泡である。気を押さえて何とか持ち直したが、
再びEの問題が解けなかったことを他の先生方に散々突っ込まれる。へとへ
とになり面接終えて時計を見ると、自分は30分くらい面接されていたので
ある。しかも自分より後の子たちはみんな5分程度で面接を終えて帰ってく
る。完全に自分が面接で落とされるターゲットにされていた、とここで気づ
いたのだが当然後の祭りである。控え室に戻った後2時間くらいはその場か
ら動けなかった。

結果
定員:約32人
志願者数:90人
一次試験合格者:31人
二次試験合格者:24人
判定:一次合格、二次不合格


問題講評
基礎
@:行列が対角化可能であるための必要十分条件を考える問題。この場合は
3X3行列なので「固有空間の直和の総次元が3次元になる」という必要十
分条件を用いる。
A:いかにも解析の問題らしく証明するには細かい議論が必要だが、x=0
の近傍ではsin(x)〜xとなることをうまく利用すると解答のアウトラ
インは見えてくる。
B:易問。dimV1=B(x,y)の各行ベクトルの中の一次独立なもの
の個数、dimV2=B(x,y)の各列ベクトルの中の一次独立なものの
個数、ということを言えばよい。
C:閉区間[0,1]をεを十分小として[0,1−ε]、[1−ε,1]
と分割して積分する。ε→0としてやると問題の積分はf(1)に収束する。
この際、f(x)が連続であるということに言及しないと方針は合っていて
も点数はもらえないと考えた方がよい。
D:(1)は易問。条件より落ち着いて考えると分かる。(2)も(1)と
同様に考える。準同型写像であるという条件からZ(n)の標準基底がどこ
に写るかを考えればよい。(ここで言う標準基底とは1≦i≦nとして、
(0,・・0,1,0,・・0)の形の基底のこと)
E:S(2n+1)からCP(n)への写像を考えるとコンパクト性はうま
く言えるが、ハウスドルフ性は少し難しくなる。逆に、C(n+1)に同値
関係を入れてCP(n)を構成するとハウスドルフ性は言えるが、コンパク
ト性は難かしくなる。この2つの位相の入れ方が同じであることを言えば両
方成立することが分かる。
F:全平面で正則であることが容易に分かるのでリウヴィルの定理を用いれ
ばすぐに分かる。また、定義域が平面トーラスなので最大値原理を用いても
解ける。
専門
A:対称行列Sは対角化可能であることを用いる。いろいろな形の行列を条
件式tgSg=Sに掛け合わせていって、全ての条件をみたすのはスカラー
行列しかないということを言う。この問題だけはひたすら計算するより他に
ない。
B:(1)は問題文中の言葉より正しいことはすぐに分かる。証明は正則な
埋め込みの条件を考えればそれほど難しくはない。(2)は一見正しいよう
にも見えるがこれは間違いである。いろいろな反例はあるが、Nを一次元ト
ーラスS1として反例を作るのが簡単である。x、y∈Nとして、xとyの
間に臨界値が存在するケースを考えると、曲線C(t)は必ず臨界値を通る
ことになる。
C:(1)は写像の引き戻しによってコホモロジー間の写像がどう定義され
るかというホモロジー論の基本問題である。落ち着いて計算間違いしないよ
うにすれば問題ない。(2)は問題の商空間がかなりややこしいので、これ
がどのような形になるのか考えるよりも、同値関係を入れたときにどうコホ
モロジーが変わるのかを考えた方がよい。S(n+1)とRP(n)、S(
2)とS1XS1等を例にして考えていく。

英語
京大の学部入試を経験している人はあれより少し難しいレベルの英作文と英
文和訳が出題されると思えばよい。ただ、ネタは専攻分野に絡んだ話(数学
の話題)となる。辞書持ち込み可なので、分からない語は調べれば誰でも大
意は掴めるはずである。

面接
記述試験の出来が良い人は10分弱の事務的な質問で終わる。この出来が良
くないと30分〜45分の長い面接となり、基礎科目の問題を質問されるこ
とになる。自分が解けなかった問題、専攻しようと思っている分野の問題を
しっかりと見直しておいた方がよい。なお、1時間で2人〜6人の面接をす
ることになるが、時間が全員に等分されるとは限らない。


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