CD 「〜ファド〜 魂のうたが聴こえる」 収録曲解説


 このCDに収録された13曲の内、11曲がポルトガルのファドであり、さらに9曲はファドの女王アマリア・ロドリゲス(AMALIA RODRIGUES − 1920年7月23日〜1999年10月6日)の持ち歌である。しかもすべて日本語で歌い、ファドのエッセンスと日本的情念の世界を融合させ昇華させた意欲作である。日本語でファドの世界をかくも深く歌いこむことのできる歌手は香川有美をおいて他にいない。
  暗いはしけ    BARCO NEGRO
      − Caco Velho , Piratini / Mourao-D.J.Ferreira / 日本語詞 岩谷時子

 アマリア・ロドリゲスの名とファドというジャンルの存在を世界中に広めた記念碑的な作品である。
 1954年に公開されたフランス映画「過去を持つ愛情」(原題"Les Amants Du Tage"「テージョ川の恋人たち」、 フランソワーズ・アルヌール、ダニエル・ジェラン主演 )にアマリアは出演し、ファド・ハウスの場面で「暗いはしけ」を歌った。裏切った妻を殺してしまった男と、英国貴族の夫を殺した女。リスボンで出会い愛し合った主人公2人の悲しい恋の宿命を暗示する。
 「暗いはしけ」というのは実は誤訳で、原題は "Barco Negro"、すなわち「黒い小舟」であり、暗い波間に消えた漁師である夫、その愛する人の面影を追い求める妻の心を歌っている。
 また、日本でファドというとこの曲をまず思い浮かべる人が圧倒的に多いが、元来は奴隷制時代を題材にしたブラジル生まれの曲で、「黒い母」(カコ・ヴェーリョ、ピラティーニの合作)というのが原曲の題名である。ドゥルス・ポンテスが原曲の歌詞で歌っている。
 映画のために詩人のモーラン=D.J.フェレイラが新たに作詞してアマリアが歌い、世界的なヒットとなった。
  私の中のファド   TRAGO FADOS NOS SENTIDOS
      − Jose Fontes Rocha / Amalia Rodrigues / 日本語詞 アン・あんどう

 
  マリア・リスボア   MARIA LISBOA
      − Alain Oulman / Mourao-D.J.Ferreira / 日本語詞 アン・あんどう

 
  仲間たちのファド   A MINHA TERRA E VIANA
      −  / 日本語詞 アン・あんどう

 
  リスボン・太陽の街   LISBOA CIDADE SOL
      − E. Olimpio / A. Carralho / 日本語詞 アン・あんどう

 
 
  難船   NAUFRAGIO
      − Alain Oulman / C. Meireles / 日本語詞 アン・あんどう

  どんな声で   COM QUE VOZ
      −  / 日本語詞 アン・あんどう

 
  砂地獄   SUNAJIGOKU
      − 阿木燿子作詞・宇崎竜堂作曲

 
  懐かしのリスボン   LISBOA ANTIGA
      − J. Galhardo / R. Portela / 日本語詞 アン・あんどう

 
  コインブラ   COIMBRA
      − J. Galhardo / R. Ferrao / 日本語詞 アン・あんどう

 ファド(fado)には、リスボン・ファドとコインブラ・ファドがある。リスボンの下町に生まれ哀愁漂うリスボン・ファドに対し、コインブラ・ファドは、コインブラ大学の黒マントを着た男子学生が歌ってきたもので、主にセレナード風の女性への愛と思慕がテーマとなっている。
 この曲はコインブラ・ファドの代表曲で、「ポルトガルの四月」というタイトルでシャンソンとしてもヒットした。
  ヴィアナへ行こう   HAVEMOS DE IR A VIANA
      − Alain Oulman / Pedro Homem de Mello / 日本語詞 アン・あんどう

 
  海〜孤独   SOLIDAO
      − Ferrer Trindade / Frederico de Brito / Mourao-D.J.Ferreira / 日本語詞 アン・あんどう

 「暗いはしけ」と共にフランス映画「過去を持つ愛情」の中でアマリア・ロドリゲスによって歌われ、ファドを代表する曲の一つとなっている。アマリアは「孤独」というタイトルの歌詞で歌っているが、それ以前に「海の歌」というタイトルの歌詞が付けられていた。若手のドゥルス・ポンテスは新しいアレンジで「海の歌」として歌い蘇らせた。
  お・や・す・み   O・YA・SU・MI
      − 中島 梓作詞・作曲

 長年の親友である作家・評論家の中島 梓(=栗本 薫)が香川有美のために書き下ろした。
 「酔い疲れた明け方 もぐりこむベッドにおまえのぬくもり 泣き疲れ眠った涙の跡がほほにのこってる...」と、仕事を持ち女として自立する母が幼な子を思う心情を歌っている。ピアノ伴奏は中島 梓本人である。1981年、中島 梓作品のブルースとロックのコンサートの時に、初演された。
 唄・香川有美、ピアノ・中島 梓のコンビによる演奏は、現在も都内のライヴ・ハウスで定期的に行われている。