富良野西岳 1,331m
2014年7月15日 晴れ
登り・旧道・沢コース 下り・スキー場コース
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十勝岳や富良野岳など、十勝の山に登る時は滝川を経由して富良野の町を抜ける。その時、右手に見える富良野スキー場の左にそびえる高度感のある山が気になっていた。名前は「富良野西岳」。
その内に登ろうと考えていたが、いつも計画の枠から外れ、考え始めてから20年以上の時が過ぎてしまっていた。
登れる条件にありながら登っていない山は数え切れないほどあるが、気になり続けている山はそう多くはない。
その数少ない気になっていた山に、やっと登って来た。この「やっと」には時の長さとともに、登りの険しさも含まれている。
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GPSトラックログ
赤線=登り 青線=下り
コースタイム
登り・4時間
駐車場〜登山口 15分
登山口〜山頂 3時間45分(休憩・雨待機時間含む)
下り・3時間10分
山頂〜観天望気の峰 1時間55分(休憩時間含む)
観天望気の峰〜駐車場 1時間15分(休憩時間含む)
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不安定な天候ながら、かなり暑くなるという天気予報。あまり暑くならないでくれと思いながら、早朝に家を出て登山口のある新富良野プリンスホテル駐車場に向かった。経由した砂川や滝川の町は雨が上がったばかりなのか路面が濡れていた。
せっかく登るのだからと選んだのは難度の高い沢コース。沢の水が増えていないか気掛かりだったが、富良野の町には雨が降らなかったようだった。
新富良野プリンスホテル駐車場へ向かう道から富良野西岳(左)を見る。右はスキー場のゲレンデが広がる北の峰。左の富良野西岳はまるで寝そべっている牛の背中のよう。尻尾の方から登って背骨の上を歩き、頭に相当する左の頂上まで約4時間を予定している。
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ロープウェイ奥の駐車場に車を停め、身支度を整える。登山口へはロープウェイ乗り場の裏にある作業道を歩く。分岐の要所要所に案内標識があるので迷うことはない。
上空に青空が見えるが、西から流れる雲の動きが早い。このまま天気が持続してくれるのだろうかと一抹の不安が脳裏をよぎる。
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ロープウェイ乗り場にある大きな案内図。富良野西岳からスキー場全体が俯瞰され、登山道や散策路が記されている。
下山してから分かったことだが、沢コースにある金鉱跡を示す図の位置が違うようだ。
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案内標識に従いながらゲレンデの中の作業道を歩く。途中、作業に向かう小型トラックが追い抜いて行った。
心配していた天候は崩れる気配を見せないが、もう一つの心配だった気温の方はどんどん上昇しているようだ。翌日の天気予報を見ると、富良野地方は30度近くまで上がったという。暑かったはずだ。
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ゲレンデを外れ、林の中に続く作業道を歩く。ここにも何か所かの分岐があるが、案内標識に従えば間違いがない。木陰に入ると暑さは少し和らぐが、風がないので蒸し暑い。
右に見える「概念図」には正しい金鉱跡が記されていた。
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駐車場から15分ほどで入山届出ボックスのある登山口に着く。目の前には大きな砂防ダムが行く手を遮っている。
届出ノートを見ると、あまり入山者が多くないコースのようだ。この時期で1日に1人いるかいないかぐらい。水量の少なくなる秋口には少し多くなるのだろうか。下山はスキー場コースと記入してから歩き始める。
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入山届出ボックス横から砂防ダムに上がり、これを乗り越すと本当の登山道が現れる。ノートに先行者は記されていないし、後続者もいないようだ。どうやら一人だけの山歩きになりそうだ。
最初から誰かが登っているだろうと想定していないので、不安になることはないが、先行者がいると分かっている時は少し安堵するのも事実だ。
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ハッカ油と防虫スプレーで虫対策をしたのだが、そんなことにはお構いなしに虫が群がって来る。蚊取り線香も用意するのだったと後悔する。暑さにはマイナスだが、長袖のシャツを着たのは正解だったようだ。
こんな暑い日はザアザアと流れる水音を聞きながら歩くのは気持ちが良い。
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途中にある標識。この標識の左には幅の広い登山道と多くのピンクテープ。この標識がなければ当然そちらの方向に歩みを進める。でもそれは間違い。本当の登山道は右側に続いている。これは本当にありがたい標識だった。
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登山口から30分ほどで最初の渡渉地点に出る。沢コースは川を挟んで左右に縫うように付けられているため、上部の渡渉最終地点まで何度も渡渉を繰り返す。正確には分からないが、撮った写真を見ると大小合わせて20回前後は渡渉しているようだ。
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この沢の石は水苔の付きに関係なく、濡れているだけで滑る。滑らなそうに見える石でも靴を載せるとツルッと来る。靴を濡らさないようにと飛び石伝いに渡渉するのは危険この上ない。
とにかく転んではいけないので、ストックを突きながら浅目の所に靴を入れて素早く渡ることにした。靴の防水性と長いスパッツが頼りだ。
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沢の上部を見上げると「北の峰」から派生する尾根の岩峰が見える。標高は1000mぐらいだろうか。登り続けていると岩壁は覆い被さるほど近くなって来る。
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沢の上部まで来ると、もう渡渉というよりも遡行と言った方がぴったりする状況になる。登山道も踏み跡だけになり、沢も狭まって来る。
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狭まった登山道の左脇に水の流れ出る青いパイプ。なるほど、これが「仙人の泉」か。泉と言うから小さな池を想像していたが、岩の割れ目から流れ落ちる湧き水が「仙人の泉」だった。
ここまで喉の渇きを潤していたスポドリは温くなっていたので、冷たい湧き水はありがたかった。思う存分冷たい水でお腹を満たすと、疲れ始めていた身体に生気が戻って来るようだった。
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仙人の泉から少し進むと左手に金鉱跡が見える。足元だけを見ながら進むと見逃してしまいそうな場所なので要注意。仙人の泉から15分くらい登った辺りだろうか。
硬い岩盤に掘られた坑道は意外と広い。大雨に遭ったら雨宿り出来そうなぐらいのスペースがある。
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最後の渡渉地点には標識が吊り下げられている。「←、西岳方向、2時間15分」と記され、その矢印の先に尾根に上がる急登が延びている。
登山口からここまで1時間50分。どうやら山頂までは4時間近い時間が必要なようだ。
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尾根に上がる急登は大きなジグザグになっていて、直登するような急斜面はないが、それなりの労力を強いられる。
後ろを振り向くと、沢を登っていた時に見上げるように迫っていた岩峰が横手に見えるようになり、しばらくすると下方に見えるようになっていた。疲れた身体には、ぐんぐんと高度を上げていることが分かるのは励みになる。
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登山道が少し明るくなった頃、見晴台に到着。見晴台と言っても何かある訳でもなく、登山道に標識があるだけ。
最終渡渉地点からここまで50分も掛かっていない。ここから山頂まで50分だとすると、最終渡渉地点の標識に書かれていた2時間15分を30分以上も短縮出来ることになる。そう思うと身体の回復力が増してくるようだが、そうは甘くなかった。
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見晴台から見える富良野の町。天気が良ければこの先に十勝連峰が見えるのだが、雲が多くて見ることが出来ない。
富良野から美瑛まで、ラベンダーが咲き誇るこの時期がいちばんの見頃。本州からの観光客も多い。
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長い急登も終わって尾根に出る。振り返ると北の峰から派生する尾根は目線よりも低い。富良野スキー場も見えるようになり、やっとこの山の難所を通過したと安堵する。
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尾根に上がって安堵したはずだったが、意外と尾根道は長く歩き難い。小さなアップダウンや切れ落ちた崖が行く手に待ち構えている。
もう少し風が吹いてくれたらと願うが、頬をなでるような微風しか吹かないから、蒸し暑さは収まらない。尾根と聞いただけで快適だと判断したのは早計だったようだ。
崖の前方に見える芦別岳は山頂部を雲の中に隠したままだ。それにしても上空を流れる雲の動きは早いのに、なぜ風は微風なのだろう。
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山頂と思った前コブから下って、ダケカンバの中を歩き、本当の山頂がもう少しの地点で突然の雨。バラバラと木の葉に落ちる雨音が強くなる中で急いでカッパを着ていると、地面に置いたザックにダニらしきものが這い上がって来る。
慌ててザックのダニを払い落としながら、身体にダニが入り込まないように、隙間を作らずにしっかりとカッパを着込む。当然、サウナスーツを着込んだようで蒸し暑さが倍になった。
雨脚が弱くなるまでダケカンバの下で10数分の待機。この長い休憩で少し気持ちの落ち着きを取り戻す。
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山頂まであと数歩。幸いに雨は通り過ごしたようで、空は明るさを取り戻しつつあるようだ。ここまで来ればもう一安心。ゆっくり確実に登れば良い。
突然の雨で雷が怖くなったのか、先ほどまで見えていた登山者2名は早々と下山したようだ。
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やっと辿り着いた富良野西岳山頂。駐車場から山頂まで4時間を費やした。
蒸し暑さ、群がる虫、滑る河石、息が切れる急登、長くて歩き難い尾根、突然の雨、何だか苦労の連続だったような山だったが、その分、充実感たっぷりの山頂だった。
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山頂から見る芦別岳は山頂が雲に覆われたまま。もの凄い速さで流れる雲がある一方で動かない雲もある。大気が非常に不安定だというのが素人でも分かる雲行だ。
長い尾根歩きで、あれほど吹かなかった風が、山頂では結構の強さに変わった。お蔭でカッパは着たままでも過ごし易く、虫も寄って来ない。
三角点の横に腰を下ろして、軽い昼食をとる。時刻もちょうどお昼時、苺ジャムクリームを挟んだサンドウイッチが美味しい。
30分間の山頂だったが、とうとう芦別岳の山頂を見ることは出来なかった。
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登って来た尾根方向を見る。下から見るのとは違って、意外と痩せている尾根だというのが分かる。
雨が通り過ぎたせいだろうか、少しづつ青空が広がっているようだ。
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帰りはスキー場コースを辿る。コースの下り口になる南側から山頂を振り返ると、大きな岩峰の上に山頂があるというのが分かる。
山頂から少し下ったこの辺りは小さなお花畑になっていて、ヨツバシオガマ、タカネバラ、トカチフウロなど数種の高山植物が咲いていた。
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お花畑の東斜面は急斜面になっていて、エゾカンゾウが群落になって斜面を黄色く染めていた。
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登って来た旧道・沢コースに比べて、スキー場コースの登山道は快適この上ない。通り雨のせいで、少し滑り易くなっているが、それさえ気を付ければ鼻歌も出て来そう。
登山道脇にはシナノキンバイも咲き、楽しさに彩を添えてくれる。
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下る途中、大きなコブを持つダケカンバに遭遇する。遠くから見ると幹に出来た単なる大きなコブだが、近くに寄って見上げると、何だか違うものに見えてしまって、思わずクスリと笑ってしまった。
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快適な登山道を下りながら、登った沢コース方向を見る。あの急斜面を登ったのかとため息が出る。
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もう少し進んで、急斜面から尾根、そして山頂までの全景を見る。数時間前に歩いたばかりなのに、もう数日経ったような錯覚を覚える。これって健忘症の前兆?
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北の峰の最高地点を通過すると、目の前にスキー場が広がる。下りはゲレンデを歩く予定だが、天候も良くなり、時間もあるので「観天望気の峰」(左奥)まで行って見ることにした。
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ロープウェイ山頂駅への分岐を直進して進むと、小さなやぐらが組まれた「観天望気の峰」に着く。2畳ほどの広さのやぐらは木陰になっていて、なお且つ風の通りも良い。
蒸れた登山靴を脱いで腰を下ろすと、これまで溜まった疲れがどっと出て来るようだった。
しばらくまったりしていると、島根県から来たという中年夫婦の観光客が登って来た。明日は中富良野でモーターパラグライダーを楽しむのだと嬉々としていた。定年記念旅行なのだろうか。素晴らしい北海道を満喫してもらいたいものだ。
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やぐらから富良野西岳をズームアップ。ここからだと山頂と思ってしまった前コブが良く分かる。
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やぐらから富良野の町を俯瞰する。登る時に見晴台から見えなかった十勝連峰の全貌が見えるようになった。
残念ながらその左奥に見えるはずのトムラウシ山や大雪山は見えないが、これだけの眺望があれば十分満足出来る。あ〜、北海道だなあ!
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分岐から下るとすぐにロープウェイ山頂駅。駅に近づくと係員さんが出て来て、「もうすぐ発車しますよ〜」と声を掛けてくれたが、両腕を前後に動かして歩く素振りを見せると、納得してまた奥に姿を消した。
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下りはゲレンデにに付けられている作業道やマウンテンバイクのダウンヒルコースに沿って歩いた。途中、ダウンヒルコースを整備する係員と談笑。どうやら自転車競技の盛んな欧米では、冬のスキー以上に夏のマウンテンバイクのダウンヒルが流行っているらしい。
岩礫が混じるゲレンデのコースをフルスピードで下って、転倒したら血だらけになることは間違いない。バイクのモトクロスのように完全装備で乗るのだろうか。
使用するマウンテンバイクは下のロープウェイ駅に展示してあった。タイヤが太く、普通の自転車には見られないサスペンションが付いていた。
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固い地面で足の甲が痛くなってきた頃、ロープウェイ乗り場に到着。芝生の上は気持ち良く歩き易い。
新富良野プリンスホテルの日帰り入浴は、年金生活者に少し高過ぎるので、岩見沢の銭湯まで我慢する。登山後の入浴は汗を洗い流す程度なので、1540円は勿体ない。
今度は涼しい時にロープウェイを利用して、楽ちん富良野西岳も良いかなと考えている。
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