石狩岳山腹、ヒグマ発見に感動!
音更山山頂でしばらく展望を楽しんでから、シュナイダーコース分岐へ向かう。石狩岳を正面に、左にニペソツ山、その奥にウペペサンケ山を眺めながらの稜線漫歩。少し歩くと小さい赤テープが目印のガレ場に出る。ガスの時には迷い易い感じがする場所だ。途中の砂礫地にはコマクサが咲いていて、可憐な花びらが風に揺れている。
最低コルまではハイ松帯もあり、伸びたハイ松を手で漕ぐようにして進む。チングルマやコメバツガザクラのお花畑を過ぎるとシュナイダーコース分岐。一服したあと分岐標識の基部にザックを置き、水筒、カメラ、軽食などをナップザックに入れて肩にかける。
随分と身軽になった身体で石狩岳山頂へ向かう。急登が続く登山道だが、身軽なことと待望の石狩岳頂上が近いこともあって、音更山への登りとは比べ物にならないほど足が軽く前に出る。途中、左の斜面から這い上がるようにシナノキンバイ、エゾノハクサンイチゲ、チングルマのお花畑が続く。
今山行で一番の大群落。知らず知らずのうちに幸福感が湧いてくる。山頂近くになると段々暑くなり、風も収まっているので汗が滴り落ちる。登山道に露岩が現れ始めると、まもなく山頂。ひとかかえ程の露岩に山頂標識が一本。実にシンプルな山頂で好感を覚える。表大雪の山々にある立派な標識とは格段の差がある。しかし静かな名山にはこの方が似合う。
ついに念願の石狩岳山頂に立った。降った雨が東に流れると石狩川、西に流れると十勝川。まさに分水嶺と言われる山なみは想像した通りの美しさだ。川上岳、ニペの耳へと続く稜線の左にはニペソツ山とウペペサンケ山。その麓には糠平湖が輝いている。右を見ると手前に沼の原湿原を置いて、表大雪の山々が大パノラマを見せている。
川上岳、ニペの耳へと続く稜線を少し歩いて見たい誘惑にかられるが、思いとどまる。山頂の岩に腰掛けて軽食をとり、一息入れてから一時の眺望を思い切り堪能する。何しろ誰も居ないのだからこれに勝る贅沢はない。写真を撮って一段落していると、トムラウシ山の左奥に十勝連峰が見えるようになった。しばらくして最低コル方向を見るとシュナイダーコース分岐に2名の登山者の姿が見える。シュナイダーコースを登って疲れているのか、なかなか分岐から動こうとしない。いつまで居ても見飽きない眺望に名残惜しいが下山を開始する。
シュナイダーコース分岐に着くと、頂上から見た2名の登山者は中年の夫婦だった。二人とも腰に山刀を下げ、いかにも山歩きに慣れた格好をしていた。ハイ松の中の道に隠れるようにして石狩岳を見上げている夫婦に挨拶をしてから、頂上に行かないのですかと声を掛けると、男性は石狩岳の山腹を指差して「熊がいます」と返事をしてきた。指差す方向を見ると、確かに沢二つを隔てた山腹に、小熊2頭と親熊1頭が草を食んでいた。分岐標識に置いたザックから双眼鏡を取り出し、じっくり観察すると、親熊の頭は脱色が進んで金髪のようになっていた。まさか自然の中に生息するヒグマを見られるとは思ってもいなかった。昨夜は熊の恐怖におののいたが、今日は感動ものである。しかし、もし山頂に登る前に見たらどうしただろう。山腹の上には登山道があるから多分登頂は諦めただろうし、下山中に見たらそのまま冷静に下りて来られただろうか。あれこれ考えると幸運の石狩岳山頂だったのだと思った。
そのうちこちらの話し声が聞こえたのか、3頭は次々と茂みの中に消えていった。距離にして100メートル位離れていただろうか。これが沢一つしか離れていなかったら、震え上がって逃げ帰ったかも知れない。山腹につけられた獣道は随分上まで続いているから、登山道まで行くことがあるのだろうと思うと、背筋がブルッと震えた。
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