黒岳からトムラウシ山へ

 

素晴らしい好天に恵まれた縦走の後遺症は?

1998年 713日〜17

 

4度目のトムラウシ山縦走。今回は23日コースを45日かけてゆっくり歩く「大雪山漫遊の旅」と洒落てみた。好天に恵まれ続けた山旅は、大雪山屈指の絶景を満喫する幸せ一杯の山旅であった。

 

 

初日は体を慣らしながら黒岳へ

 

713日(月) AM 805 中央バス・札幌ターミナルから旭川行きの高速バスに乗る。昨夜の参議院選挙開票、今朝のワールドカップ決勝の試合を見続けたせいでかなりの寝不足。バスに揺られながらうつらうつらしているうちに旭川ターミナル到着。駅前にある道北バスターミナルまで歩き、AM1045の層雲峡行きの路線バスに乗る。結構な数の乗客のせいでザックを足元に置かなければならず、身体をひねって座席に座る。この窮屈な姿勢は層雲峡まで続いた。

 

 

image002 ロープウェイ山頂駅から見る黒岳。

 

ロープウェイ・ハウスのレストランで昼食にハヤシライス(600円)を食べる。胃袋に落ち着く間もなくPM1:00のロープウェイに乗る。雲ひとつ無い空、層雲峡を挟んだ向こうにはニセイカウシュッペ山や平山がくっきりと見える。景観をゆっくりと楽しむ間もないわずかな時間で山頂駅に着く。駅の展望台から頭上に浮かぶ黒岳山頂をカメラに収め、水飲み場の蛇口から水筒に水を詰めてからリフト乗り場へ向かう。どこかの男子高校の修学旅行なのか、やけに黒い制服姿が目に入る。リフト下の枯れ落ちた高山植物を見ながらリフトで上がると7合目。ここまでは歩かずに来られるため、観光客と登山者が入り雑じっている。監視小屋で入山届けに名前を書き込み、用意してあった登山届を提出する。

 

PM 145 6日間分の食料とテントを背負って縦走開始。多くの観光客や登山者とすれ違いながら一歩一歩ゆっくりと登る。今年はまだ本格的な山登りをしていないせいか身体がまだ慣れていない。1日目は準備運動と思って、なるべくゆっくりとペースを意識しながら登る。今日の行程は黒岳石室までだから、時間はいくらかかっても構わない。愛知から来たという30代の男性と抜きつ抜かれつしながら一服ごとに会話を交わす。話によると利尻岳を登ってきた帰りだという。マネキ岩が見えるあたりに来ると、斜面に咲く様々な高山植物が目に入るようになる。

 

PM 325 黒岳山頂。たっぷりと汗をかいたシャツにほのかな風が心地好い。ザックを下ろし、長袖のシャツを出して着込む。黒岳沢を覗き込むと、切れ落ちた断崖から強い風が吹き上げてくる。黒岳石室側から帰路につく登山者も入り雑じって、山頂はいつまでたっても喧騒の中だ。右手からお鉢平を取り囲むように、桂月岳、陵雲岳、北鎮岳、旭岳、北海岳、白雲岳、烏帽子岳、見慣れた風景だがいつ来ても新たな感激がある。

 

PM 410 写真を撮ってから黒岳山頂を後にして黒岳石室へ向かう。途中、陵雲岳の雪渓でスキーを楽しんでいるグループが目に入る。ポン黒岳を下ると左右に大きな雪渓がある。そこで高山植物をビデオに収めていた60代の男性に話しかけると、天候の良くなったのは今日からで、昨日までは一週間雨が続いていたとのこと。ずっと下で待ち続けた甲斐があったと話してくれた。それにしても一週間待ち続ける時間的、金銭的余裕があるとは羨ましい限りだ。

 

 

image004 黒岳テント場にて。背景は陵雲岳と北鎮岳(千鳥の雪渓が見えます)。

 

PM 440 黒岳石室着。さっそく石室前のテント場へ行き、ザックから愛用の一人用テントを出す。二年ぶりの使用だ。先着者が良い場所を占有しているため、傾斜のかかった場所しか空いていない。止むを得ずその場所にテントを張る。試しにマットを敷いて寝てみるが、妙に身体の落ち着きが悪い。テントは大小合わせて6張り。大は雪渓でスキーをしていた学生のもので、2張りが一等地を占有していた。

 

 

 

 

 

image005 桂月岳山頂で盛り上がる学生さんたち。後ろは黒岳山頂。

 

PM 530 夕食前の腹減らしにと桂月岳に登る。一足前にスキーをしていた学生さんが団体で登っていて、缶ビール片手に気勢を上げていた。学生さんに頼まれて記念写真のシャッターを押してやる。学生さんたちが下りる直前、突然に黒岳沢からガスが舞い上がり、後方からの日光で自分たちの影が浮かび上がる「ブロッケン現象」が出現したため、またまた学生さんたちの気勢が上がった。

 

 

 

 

 

あーヒレ酒の匂いがする

 

PM 630 夕食。献立は山菜おこわと玉子スープ、アクセントとして瓶詰めの塩辛。味気ないかも知れないが、山ではいつもこんなもの。そう思って食べていると後ろから香ばしい匂いがプーンとしてくる。何かと思って振り向くと、若者2人が河豚のヒレを炙っていて、まさにこれから河豚のヒレ酒をやるところだった。残念だがこちらには日本酒を担ぎ上げるだけの体力的余裕は無い。ここは匂いだけ頂いておこう。夕食後テントに入り、ウィスキーの小瓶4分の1をカルパスを肴にちびちび舐める。ほろ酔い気分になったら後は寝るだけ。夜中に目が覚めたのでテントから顔を出すと頭上は満天の星空。都会では絶対見ることの出来ない星空。月光で周囲の山々がシルエットとして浮かび上がっている。この分では明日の好天は約束されたも同じと安心してまた寝る。

 

 

 

ゆっくりゆっくりと花を見ながら

 

714日(火) AM 530 愛知から来た男性に起こされる。今日は白雲岳方面に行くという。同じ方向なのでどこかで会うと思うが、元気でと挨拶された。今日の行程は白雲キャンプ場までなので時間的にかなりの余裕がある。私はもう少しゆっくりしてから出発するので、そちらも元気でと挨拶を返した。昨夜の満天の星空が約束したように雲ひとつ無い快晴。この分だとかなり暑くなりそうだ。AM615 朝食。ラーメンとコーヒー。洗顔、歯磨きの後テントを撤収。行動食や水筒を上にしてパッキング。

 

AM 730 黒岳石室出発。赤石川までの美ヶ原にはチングルマ、エゾノツガザクラ、エゾコザクラ等が咲き乱れている。前後に誰もいない貸切の一人旅。誠に気持ちが良いものだ。AM800 北海沢の雪渓前で小休止。ここから北海岳までは登りの連続。途中のベンチで休んでいると、後ろから追いついてきた札幌の婦人に話し掛けられ、おまけにトマトを頂くことになった。丁重にお礼を言ってからトマトを頬張ると、水気をたっぷりと含んだ果汁が喉を優しく撫でて胃に落ちていった。軽装備の婦人はすっくと立ち上がると足早に歩き始め、見る見るうちに私との差は開いていった。陽射しは段々と強くなり、顔面を容赦なく射し焦がす。一歩一歩大きく息をしながら北海岳への斜面を登る。札幌を出るときから心配していた右ひざの痛みは今のところ無いようだ。しかし用心するに越したことはない。先は長いのだから慎重に歩き続けなければならない。

 

image007 北海岳の登りから黒岳方向を振り返る。

 

AM 920 北海岳。雲ひとつ無い空の彼方にトムラウシ山や十勝連峰が望まれる。ベンチで休んでいると次々とシャッター押しを頼まれ、あっという間に4人の臨時カメラマンになってしまった。AM945 白雲岳へ向けて出発。北海平の広大なイワウメ畑にはもう花は無かった。今年は雪解けが例年になくかなり早いようだ。AM1020 白雲岳のすそ野で小休止。北海岳で会い、後から出発した青年が追い越していくので、何処まで行くのかと訊ねると「ヒサゴ沼」まで行くという。今朝、旭岳温泉を出たというからかなりのハードスケジュールだ。着くのは6時くらいの予定だという。景色や高山植物を楽しむ余裕が無いのではと余計な事を訊ねると、歩いているだけで良いんだと答えてくれた。そう、青年はそれでも良いんだと納得する。

 

赤岳沢源頭にはチングルマやエゾノツガザクラが群生し、今が盛りと咲き誇っていた。白雲分岐に行く途中、大型カメラと三脚を肩に担いだ愛知の男性と出会う。話を聞くと白雲岳には行かず、赤岳の方に行ってきたのだという。談笑の後、互いの健闘を交わして別れる。AM1100 白雲分岐。ここからは高根ヶ原やトムラウシ山の他に、石狩連山やニペソツ山が一望できる。ザックを下ろし、カメラ、水筒、軽食だけを持って白雲岳山頂を目指す。途中、広大なグランドと化した噴火口には、雪解け時期の1週間程、ハート形をした幻の池が出現するという。テレビで放映されて以来、すっかり有名になったようだ。白雲岳山頂直下にもチングルマを始めとして、様々な高山植物が咲き誇っていた。

 

白雲岳山頂で日向ぼっこ・夜は満天の星空に酔う

 

image009 白雲岳山頂から旭岳を眺める。

 

AM 1130 白雲岳。座り心地の良い岩を見つけ、トムラウシ山や旭岳を交互に眺めながらカロリーメイトの昼食を取る。ナキウサギの姿が見えないかと双眼鏡で探すが見当たらない。数年前に至近距離で見た経験があるのだが、今回はシマリスの姿しか目に入ってこない。登山靴を脱いで仰向けに寝転ぶと強い陽射しが顔を焦がす。日向ぼっこにも飽きてきたのでPM 035 写真撮影をしてから下山する。中高年のグループで賑わう白雲分岐にPM 100着。シナノキンバイの咲く水場を抜けて白雲岳避難小屋に着いたのがPM 130

 

 

 

 

image010 白雲避難小屋下のテント場にて。

 

ちょうど高根ヶ原の上をうっすらと刷くように雲が流れ始めた。小屋下のテント場にはもうかなりのテントが張られていて、最終的には23張りにも膨れ上がった。ぽっかりと空いた中央部分にテントを張り、その中にザックを投げ込む。夕食までの時間を持て余すように小屋の周りをぶらぶらし、形の良い岩を見つけて日向ぼっこを決め込む。そんな繰り返しにも飽きてきて、水場下に行って身体の汗を拭き、シャツを洗う。PM 500 太陽はまだ高く明るいが夕食にする。五目おこわとキムチ・スープ。楽な行程だったせいかあまり食欲が湧かない。右ひざに痛みといえない程度の違和感を覚える。テントの中で牛缶を肴にしてウィスキーをちびちび舐める。山陰になっているせいかラジオの受信状態が悪く、ほとんど聞き取ることが出来ない。やはり短波ラジオにしなければと思う。文庫本を持って来ていないので、ただシュラフの中でごろごろと時間をやり過ごす。そのうちに寝付いてしまったのか9時近くにフライシートのばたつきで目が覚める。外に出て石をフライシートのすそに乗せてばたつきを押さえる。白雲岳の岩壁がテント場に覆い被さるように浮かび上がり、その上には満天の星が輝いている。凄いとしか言いようのない星の数。これこそテント泊の醍醐味だ。

 

 

 

快晴の高根ヶ原・遥か前方にトムラウシ山が

 

715日(水) AM 430 起床。今日も快晴。朝の風は冷たいので長袖シャツの上にフリースを着込む。水場に行って洗顔と歯磨き。日焼けで火照った顔に雪解けの冷水は気持ち良い。AM 500 朝食。雲ひとつ無い空の彼方にトムラウシ山。それを見ながらカレーライスとコーヒー。半分ほどになったテント場でゆっくりとテントを撤収し、今日の行程を思い描きながらパッキング。予定では忠別岳避難小屋までの予定だが、後々のことを考えればヒサゴ沼まで行った方が楽。天候も良いし、時間を持て余してぶらぶらするのにも飽きがきているところだ。迷わずに予定変更を決定。この安易さが単独行の良いところだ。

 

image011 高根ヶ原の先には忠別岳、最奥にトムラウシ山。

 

AM 650 出発。小屋から下ってハイマツの中の細い道を抜けるともうそこは高根ヶ原。歩く正面の最奥に、寝そべる牛のような姿のトムラウシ山が鎮座している。AM 715 薄い敷石をばら撒いたようなスレート平。振り返ると白雲岳が大きい。道の両側にはコマクサ、他にも様々な高山植物が現れて、まるで生きた植物図鑑のようだ。左前方には朝日を後ろから浴びた石狩連山やニペソツ山がくっきりとしたシルエットを見せている。この長い溶岩台地の上を歩くのは至上の喜びである。以前に雨とガスの中、雪渓に隠れた登山道を探しながら迷わぬよう迷わぬようにと歩いた苦い記憶がよみがえり、その記憶が今日の喜びを増幅させている。

 

AM 750 三笠新道分岐。この辺りからホソバウルップソウが目に入りだす。しかし紫色の小さな花は枯れ落ちて、先端部にわずかの花を残したのが数本あるだけだった。高原沼上部まで来るとコマクサが群生していて、まるでピンクの刺繍を施したようだ。どこが頂上だか分からない平が岳への緩い登りはササ原に付けられた細い道。雨が降ったらたちどころにぬかるむような頼りない道だ。この道の両側にはガードレールのようにチングルマが群生している。背丈までのハイマツを抜けると道は下りとなる。AM 845 途中の大岩に座って小休止。緩やかに流れる風が気持ち良い。湿地に敷かれた新しい木道を通ってAM 9301833mのピークに着く。目の前には忠別岳が大きく立ちはだかっている。

 

image012 前方下には忠別沼、その先には忠別岳の断崖が見える。

 

ゆっくり下ってすぐに忠別沼。ここにも新しい木道が敷かれていて、沼を見ながら快適に歩くことが出来る。以前、くるぶしまでぬかって歩いたのが嘘のように思える。沼からのだらだらとした斜面を小石につまづきながら登る。あまりペンキの目印も無く、ガスの時には道から外れる危険性がありそうだ。

AM 1030 やっと忠別岳山頂。頂上にはヒサゴ沼まで行くという女性2人が休んでいた。断崖の上から忠別沢を見下ろすと、今にも足元が崩れ落ちそうに感じて背筋に悪寒が走った。女性たちが発った後、1人でゆっくりと軽食を取りながら休憩する。忠別沢を隔てて化雲岳、その向こうにトムラウシ山が見える。ここまで来るとその姿は大きく、そして明確になってくる。

 

 

image014 忠別岳の登りから後ろを振り返れば旭岳や白雲岳などの「大雪山」が一望できる。

 

AM 1100 忠別岳出発。ハイマツの中を五色岳とのコルまで一気に下りる。膝に痛みを感じると同時に、段々と強くなる陽射しのせいで額がヒリヒリと痛む。左下方には忠別岳避難小屋の三角屋根が小さく見える。以前は赤く塗られた目立つ屋根だったが、今は塗り替えたのか錆びたのか分からないが、赤黒っぽい目立たぬ屋根になっている。

 

AM 1150 忠別岳避難小屋分岐。五色岳の登り口で小休止を取った後、山頂まで続くハイマツのトンネルの中を、顔やザックに当たる枝に行く手を遮られながら一気に登り切る。

 

 

トムラウシ山を見ながらお花畑を歩く

 

image016 五色岳の登りから忠別岳を振り返る。

 

PM 040 五色岳。沼の原方面から登ってきた登山者も多く、78人が足を休めていた。忠別岳で会った女性たちは五色ヶ原まで下りるかどうか迷っていたが、止めたらしくザックからコンロを出して昼食の用意をし始めた。中にはどう見ても70歳以上と思われる男性もいて、大丈夫かと余計な心配をしてしまった。30分ほど休んでからヒサゴ沼に向けて腰を上げる。もうキツイ登りは無い。ハイマツ帯を抜けてしばらく歩くと化雲のお花畑。雪渓を上部に残すだけで、エゾコザクラとミヤマキンバイが大群落を作っていた。

 

緩い斜面を登って化雲岳に着いたのがPM235。化雲のへそ(岩塔)に登ろうと攀じ登ったが、下りることが心配になって途中で断念する。目の前に大きく横たわるトムラウシ山の後ろからむくむくと雲がわいてきている。両手にストックを持ち、小さなザックを背負っただけのジョギング姿の若者が、登ってきたと思ったらすぐに下りていった。早登りにでも挑戦しているのだろうか。

 

 

20021214日に次のようなメールが管理人に届きました。なんとも驚きました。普通、健脚の人でも23日の難コースです。まさに超人的な体力の持ち主です。

 

あの時は、挨拶もしないで、すみませんでした。

十勝岳温泉〜富良野岳〜トムラウシ山〜旭岳〜旭岳温泉を、単独24時間耐久縦走に挑戦していたところです。

15000  十勝岳温泉を月明かりとヘッドライトを頼りにスタートし、2400分旭岳温泉まで無事縦走しました。

また、何処かの山でお会い出来る日を楽しみにしています。

小樽の悟空より

 

 

image017 カムイ・ミンタラ(神遊びの庭)から見るトムラウシ山。

 

PM 255 ヒサゴ沼へ向かう。ヒサゴの雪渓はまだ大きく残っていて、下部にはキバナシャクナゲがわずかに咲いていた。日焼けで火照った顔を冷やすため、ビニール袋に雪を詰め込み手にぶら下げる。PM 345 ヒサゴ沼避難小屋。すぐに小屋前にテントを張り、中に入って横になり持って来た雪で顔を冷やす。あまりの気持ち良さにしばらくの間うとうとしながら冷やし続ける。PM 510 ヒサゴ沼の水面を見ながらラーメンの夕食。その後、牛缶と塩辛を肴にしてウィスキーを舐める。どこかのテレビ局だろうか、重いカメラ機材を担いだ4人が取材から帰ってきた。腹も落ち着き、気持ちの良くなってきたところでまたテントに入り顔を冷やす。PM 630 程よい疲れのせいか知らず知らずのうちに眠りについた。

 

 

あー絶景かな絶景かな!

 

716日(木) AM 500 起床。雲が少し出ているが晴れ。今日も暑くなりそうだ。雪渓下の水場まで行って洗顔と歯磨き。朝は雪解けが遅い分だけ水量が少ない。白雲のテント場にいた中年の外人さんが上半身裸になって身体を拭いていた。AM 530 朝食の用意。中華丼とフカヒレスープ。アルファー米のご飯が出来るまでの時間、対岸まで歩いて写真撮影。あまり食欲が無いのか中華丼を少し残す。テントの中を片付けてテントを撤収する。ここのテント場は黒土のせいで、雨が降っていなくてもグランドシートがかなり汚れる。白雲のテント場で開けたシートの穴は広がっていないようだ。

 

image018 雪渓上部からヒサゴ沼を見る。奥にはニペソツ山が見える。

 

AM 700 トウムラシ山目指して出発。短パンに履き替えたせいか足の上げ下げが軽い。沼の淵を通って雪渓にとりつく。以外と傾斜があるので転倒しないように一歩一歩慎重に登る。朝一番の雪渓登りは結構きつい。登り終えたころ左上部に小父さんと忠別岳の女性たちがいたので、そちらには登山道がないことを教える。それでも近道しようとしているのか、どんどん登って行った。AM 735 分岐。雲も段々と少なくなって青空が広がってくる。

 

 

 

 

 

image019 天沼。チングルマやエゾコザクラが咲き誇る自然の日本庭園。

 

チングルマやエゾコザクラに彩られた天沼(あまぬま)に着いたのがAM 825。居合わせた登山者がこの絶景を自分の庭にしてみたいと言っていたが、街では高山植物が育たないから無理な願いだろう。巨岩のごろごろするロックガーデンを過ぎると北沼へのきつい登りがある。近道をして先を歩いていた女性たちと山座指定をしたり、ナキウサギを探したりして、一服しながら登る。

 

 

 

 

山頂直下に広がる穏やかな風景に声も出ない

 

 

image021 北沼とトムラウシ山。

 

トムラウシ山頂を見上げる北沼にAM 1015着。あまりの素晴らしさに女性たちは声が出ないようだ。苦労して歩いてきた者たちだけが手に入れることが出来る天上の楽園だ。写真を撮り合ってから北沼を回り込むようにして山頂基部へ行く。山頂への道は何本もつくられていてどこから登ってもよいが、南沼のキャンプ地にザックを置いてから空身で登ろうと考えていたので、トムラウシ山のすそを巻いているオプタテシケ山方向の道を進む。トムラウシ山に登るはずの女性たちが後をついて来るので心配になり、ほぼ直登になる道を教える。

 

 

 

AM 11:05 南沼キャンプ地。雪渓からの雪解け水が小川となってキャンプ地の真ん中を流れ、テント場の周りは高山植物が咲き乱れている。見上げればトムラウシ山頂が頭上に聳えている。これ以上求めようがないロケーションの贅沢なキャンプ地だ。テントはまだ1張り。どこにでも張れるとなると意外と迷うものだ。それでも適当な場所を選んでテントを張り、中にザックを投げ込む。AM 11:20 フリースを着て、カメラを持ち山頂へ向かう。空身のためか足どりは軽い。爆裂火口跡を右手に見ながら左側山頂を目指す。AM 11:50 トムラウシ山頂。

 

 

image023 賑わうトムラウシ山・山頂。

 

岩の積み重なった狭い山頂は10人ほどの登山者で賑わいを見せていた。女性が多いためかとにかく話し声が絶えない。山頂直下で別れた女性たちもラーメンを作って昼食を取っている最中だった。4回目のトムラウシ山は今回の快晴で22敗。今回は思ったより残雪の少ないのが以外だった。20分展望を楽しんだ後、感激も中くらいのまま記念写真を撮って下山。

 

 

 

ハクサンイチゲの大群落はどこへ行ったのだ

 

PM 0:25 テント場着。PM 0:45 ザックの中にカメラ、水筒、行動食を入れて黄金ヶ原に向かう。勿論、ハクサンイチゲの大群落を見るためだ。南沼への下り口に見事なイワベンケイの大株があり、そこから見下ろす南沼の水面には雪渓が入り込み、鮮やかなコバルトブルーに輝いている。クゥワンナイ川源頭辺りまで来るが、黄金ヶ原に白いハクサンイチゲの絨毯は見当たらない。足元のハクサンイチゲを見ると、花は落ちて種子だけが残っている状態だ。双眼鏡で確認するが、まったく花は期待できないようだ。PM 1:30 これ以上先に行っても意味がないのでUターンする。帰りに南沼の水面まで下りて氷に乗る。手に雪を取って顔に当てると火照った顔がきりっとする。南沼からの急登を過ぎてテント場までの間、わずかに残ったハクサンイチゲの白い花を見ることが出来たのは小さな喜びだった。

 

PM 2:30 テント場着。しばらくの時間、雪解け水でタオルを濡らし顔を冷やす。もう顔はほとんど火傷状態に近くなっている。初日、2日目の日向ぼっこが効いたらしい。PM 5:00 ラーメンで夕食。今回の山行の反省点は食料計画がズサンだったこと。出発前日に無計画で買い揃えたため必要以上の量になり、ゆうに2日分は余ってしまった。特にラーメンは中身を確認しないで美味しそうなものを買ったのだが、これが全部生麺タイプ。いちいち麺だけ茹でるのは面倒なのでそのままスープを入れて食べることにしたのだが、やはりあんかけ状のどろどろしたラーメンになってしまった。PM 5:30 カルパスを肴にホットウィスキーと洒落込む。少しガスが湧いてきて肌寒くなる。薄暗くなるまでに10張りのテントが張られ、寂しかったテント場も活気を取り戻したようだ。新得方向に高い山が無く、ラジオの受信状態も良いので音楽を聴いて楽しむ。PM 6:30 朝食のための水を汲みにテントを出るとガスは晴れて明るさを取り戻していた。7時前に突然カミナリが鳴り響き、小雨がぱらついたがすぐに止んだ。暗黒の中に引き込まれていくような静寂の中で眠りにつく。

 

 

静かな山頂で感動を新たに

 

image025 山頂から見る朝の十勝連峰。

 

717日(金) AM 2:00 目が覚める。昨日の行程が楽だったせいか熟睡できなかったようだ。うとうとしながらラジオを聴いて過ごす。AM 6:00 起床。今日も晴れ。フリースを着込んでトムラウシ山頂を目指す。途中、下りてくる人に展望の状態を聞くと、十勝連峰に少し雲が出ているだけだという。後ろを振り返って新得方向に目をやると、見事なまでの雲海が広がっている。AM 6:35 山頂。1人の男性が岩に座って双眼鏡を片手に地図を広げながら眺望を楽しんでいるだけで、昨日の喧騒が信じられないくらいの静けさだ。時間もあるので北沼を見下ろせる場所まで回り込んでみる。

 

 

 

image026 山頂から見下ろす朝の北沼。遥か遠くに旭岳。

 

北沼越しに化雲岳、忠別岳、旭岳。風の音も無く、まるで時間が止まったような風景だ。初めてトムラウシ山に立った時と同じ感動が甦ってくる。ここから南側を見ると爆裂火口が左右に割けているのが分かる。オプタテシケ山から見るトムラウシ山の双耳峰はこの裂け目が作り出している。また山頂に戻って一休みしていると、北沼方向から登ってきた青年が、旭岳から縦走してきて、今日天人峡へ下りると話してくれた。自分が初めてトムラウシ山に立った時と同じコースを歩いているらしい。AM 7:00 もうトムラウシ山に来ることも無いのかなと考えながら下山。

 

 

テントの前でお湯を沸かし、ゆっくりとレモンティーを飲む。至福の時間がゆっくりと過ぎて行く。AM 8:00 山菜おこわと玉子スープで朝食。その後ゆっくりとテントを撤収し、今日の長い下りが少しでも楽になるようにと慎重にパッキング。今日も短パンで行動、悪路対策にいつでもスパッツを取り出せるようにしておく。

AM 9:15 下山開始。空は快晴。今回は最後の最後まで好天が続いてくれた。これも普段の行いの所為なのだろうか。AM 9:50 奇岩が林立するトムラウシ公園の最下部で小休止。

 

 

image028 トムラウシ公園を過ぎた辺りから見るトムラウシ山。

 

晴天続きのせいで小川に流れる水の量も少なく、チングルマも心なしか元気が無いようだ。ここから岩石帯を登り返して後ろを振り返れば、目の前に大きなトムラウシ山が下部に雪渓を残しながら、圧倒的な姿で聳えている。AM 10:35 立ち並ぶケルンを過ぎて、前トムラウシ山から峰続きとなっている前トム平で小休止。急登を終えたばかりの登山者が、息も絶え絶えにして腰を下ろして水筒の水をがぶ飲みしている。登る人、下る人、合わせて10人ほどが一斉に休んでいる。ここから一気にコマドリ沢上部まで岩石帯の急斜面を下る。膝を痛めないようにと慎重に足元を確認しながら一歩一歩確実に下る。

 

 

 

長い下りにもうウンザリ・グッタリ

 

AM 11:10 雪渓の残るコマドリ沢上部。ちょうどトカチフウロが満開で群生していた。沢の水は少なく、靴の濡れる心配も無い。AM 11:30 、PM 0:002本の沢と合流する。PM 0:05 狭い河原で小休止。さすがに虫が多くなってきたので防虫スプレーを身体全体に噴射する。沢から離れ右尾根にトラバースするが、木の根が張り出ていて歩きにくい。それでも前回ぬかるみで下半身泥だらけになった事を思えば快適な方である。後ろから迫り来る登山者の熊避けカウベルの音に急き立てられ、ペースを上げてしまったせいか右ひざに鈍痛を覚える。この辺りからは樹林越しに前トムラウシ山、その背後にトムラウシ山を望むことが出来る。

 

 

image030 カムイ天上付近から見るトムラウシ山。

 

きつい登りを終えた尾根最上部から少し下った所にあるカムイ天上に着いたのがPM 1:10。ここで小休止。ここから道の刈り分けは広くなるが、歩き難さに大差は無い。PM 1:55 駐車場への分岐点。トムラウシ温泉まではあと4km。ここから車で下りられたらどんなに楽かと思うが、無い物ねだりは出来ない相談だ。静かなアカエゾマツの林の中を淡々と下る。途中途中に思い掛けない急斜面が現れる。右ひざをかばって歩いたせいか右ひざの内側に痛みが走る。あともう少しの我慢と言い続けながら歩いていると、突然林道との合流点に出る。ここからは10分もかからない。足取りが自然と軽くなる。

 

 

 

やっと着いたぞトムラウシ温泉

 

PM 3:15 右下に川が見え、車も見えてくるともうトムラウシ温泉側の登山口。目の前にはアルペン風の東大雪荘がどっしりと建っている。玄関前の泥落し場であまり汚れていない靴を洗い、ついでに顔も洗ってからフロントへ行く。今回は大広間ながら予約をしてあったので安心だった。さっそく寝床を確保してからザックを下ろし、着替えを持って浴場へ行く。伸びきったひげを剃り落としてさっぱりした積もりだったが、日焼けのせいで大変な痛みに襲われることになってしまった。露天風呂でも日焼けした両腕、両足に刺激が襲い、それでも水風呂と交互に入りながら何とか溜まりきった汚れをキレイサッパリ落すことが出来た。風呂上りに缶ビールを1本ぐびっと飲み干す。さすがに久し振りのビールは美味い。家に無事到着の電話を入れて安心させてから食堂へ行く。

 

夕食はサホロサーモンの刺身と山菜料理を中心に献立してある。下山時、前後して歩いていた単独行の男性と山談議をしながらジョッキー2杯を飲む。売店から新得そばとそば粉のお土産を買ってから大広間に戻ると、隣の寝床には70歳のおじいちゃんがいた。昨日、日帰りでトムラウシ山に登ってきたとの話に驚いていると、なんと今回は羅臼、斜里、阿寒、利尻に登ってきたという。来年は十勝、幌尻、羊蹄山に登る予定だという。新潟で農家をしているという小柄なおじいちゃんのバイタリティには自然と頭が下がってしまった。小樽からフェリーで帰るというので、帰りは札幌まで同行することになった。夜中2時ごろ、向い側から強烈なイビキが聞こえてきて目が覚める。周りを窺うと何人かが目を覚まさせられたようで、しきりに寝返りをうっていた。

 

 

晴天続きの縦走は日焼けにご注意を!

 

718日(土) AM 6:00 寝床から這い出て朝風呂に向かう。相変わらず日焼けのあとが痛むが、それでもさっぱりとする。朝食はバイキング形式、野菜を多めにしっかりと食べる。食後のコーヒーを飲んでから源泉辺りを散歩。山間を流れる朝の冷気で身体が引き締まる。

AM 9:00 新得行きのバスに乗る。ほぼ満席となったバスは曙橋まで砂利道を走り、後は舗装道路を新得駅まで快適に走った。新得停車の「特急とかち」を待つ間、薬局から日焼けローションを買って患部に塗る。大分痛みが和らいだようだ。AM 11:00 新得駅発。PM 1:16 札幌駅着。都会には山と違った暑苦しさが漂い、今朝まで居た山の風景が懐かしく思い起こされる。ここまで同行した新潟のおじいちゃんに「気をつけて」と別れの挨拶をしてから北口を出ると、外には日焼けで変わり果てた姿を笑う妻と息子の顔があった。

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