消えた手荷物?

 

何とも不思議な出来事だった。まあ、事の顛末を聞いて欲しい。

 

00 2006年の夏、管理人とおばさんは「立山」を旅した。

富山空港までの直行便で千歳を飛び立ち、明るいうちに市内のホテルへ到着した。

夜はゆっくりと繁華街歩きを楽しみ、富山の名酒と肴を堪能した。新潟と並ぶ米どころ、さすがに旨い酒が揃っている。

 

翌日は電車の窓から後立山連峰を眺めながら「立山駅」に向かった。02そこからはケーブルカー、バスと乗り継いで、日本有数の山岳景観として有名な「立山」が見渡すことの出来る「室堂」へ。途中、バスの窓から雲間に見え隠れする「剣岳」を拝むことができた。

 

 「室堂ターミナル」の名物、立ち食い蕎麦で腹ごしらえをしてから散策に出掛けた。「みくりが池」「地獄谷」「雷鳥沢」を見ながら心行くまで雄大な景色を楽しんだ。

 

 

0103その後、電気バスに乗って立山トンネルを抜け、黒部ダム側にある「大観峰」から立山連峰や黒部ダムの景観を楽しみ、ロープウェイで黒部ダムまで下りた。映画「黒部の太陽」で有名なアーチ型ダム。アーチの上から放水されている下流を覗き込むと、凄まじい高度感で股間が縮み上がりそうだった。

 

 

消えた手荷物の話はどうなったって? まあ焦らずに話を最後まで聞いて欲しい。

 

04 黒部ダムからは電気バスに乗り、「針の木隋道(関電トンネル)」を通って「扇沢」に出た。長野側から立山を目指す際の登山口となる「扇沢」。奥深い山間部にあるためか、空は明るいのだが、バスターミナルの周辺は日が翳り始めていた。ここから路線バスに乗って宿泊ホテルのある「大町温泉郷」へ向かった。

夜はホテルの露天風呂でゆっくりと汗を流し、豪華な料理に舌鼓を打った。もちろんビールから日本酒へと飲み続け、いつ眠りについたかも思い出せないほど酔ったらしい(おばさん談)。

 

飲んでいる話ばかりで、消えた手荷物の話が出てこないって。まあまあ、話の佳境はこれからですよ。

 

 翌日は路線バスに乗ってJR「信濃大町駅」へ。ここから通学や通勤とおぼしき乗客と一緒に田園風景の中を走る。

今日の予定は名古屋に出て名古屋城見学。その後は名古屋空港から札幌に帰るだけ。名古屋への乗り継ぎ駅となる「松本駅」に降り立ったのは昼までにはたっぷりと時間がある11時前。おばさんと鳩首会談の結果、「松本城」見学をしようじゃないかということになった。その前に「みどりの窓口」で名古屋までの特急切符を買い、戻ってからすぐ乗車できるように気を利かせた。

 

少し歩くだけでも汗が吹き出てくるような真夏の陽射しである。出来るだけ身軽な格好で出掛けようと駅内のコインロッカーを探した。どこの駅でも同じように、邪魔にならないスペースにコインロッカーが設置してあった。5段ぐらいに積み重ねられたコインロッカーには小と大があった。二人分のザックや手荷物を入れるため大のロッカーを開け、財布以外の荷物を放り込んだ。扉を閉めて小銭を投入しようとしたところ小銭が足りないことに気が付いた。たかだか4百円の小銭を管理人もおばさんも持ち合わせていなかった。やむを得ずおばさんをコインロッカー前に待たせて、両替のため紙幣投入の出来る自動販売機を探した。駅入り口にあった自動販売機から日本茶ボトルを購入し、お釣りの小銭を握り締めておばさんのところへ戻った。4百円を投入し、鍵を引き抜いてポケットに入れた。

07 

駅を出ると小さな公園に山岳修行僧「播隆上人」の像が建っていた。「松本城」まで歩ける距離と思って歩き出したのだが、これが大きな判断の誤りだった。

 

 

えっと、この判断の誤りは消えた手荷物とは何ら関係ありません。ただただ暑かったという状況を表現するために大袈裟な文章となったのです。悪しからず。

 

 日陰を選んで歩いたのだが、「松本城」に着いた時にはたっぷりと汗をかいていた。天守閣が当時の姿そのまま残05っている城は珍しく、国宝に指定されているという。そうとあっては内部を見学しないことには気が治まらない。この暑いのに物好きな観光客が多いと見えて、城の中は長蛇の列となっていた。

むせ返るような天守閣の中を、皆さん最上階目指してアリの行軍のように進んでいた。火縄銃など見ながら進んでいた頃は良かったのだが、最上階に上がった観光客の回転が悪いらしく、どうにもこうにもアリの行軍が進まなくなってしまった。こちらは帰りの時間が気になりだし、不本意ながら途中から引き返すことにした。

ごった返す城の中で引き返すことが事の外難儀で、やっと城の外に出たときは汗びっしょりとなっていた。それでも城の近くにある「名物・信州そば」の暖簾に目が眩み、そばを流し込むことを忘れなかったのは流石だった。

 

 くだらない話はもういい加減にして欲しいと、ご立腹のお方は退席ご自由ですよ。でも面白いのはここからなんですが・・・・・。

 

 タクシーで「松本駅」に着いたのは特急が発車する30分ほど前。何事にも慎重なおばさんは普段なら1時間前ぐらいには駅に着いているのだが、松本城の混雑と信州そばのおかげで30分ほどの時間しかなくなっていた。

すぐにザックや手荷物を放り込んだコインロッカーの前に行き、鍵を差し込んで扉を開けた。

 

あ”!!! ナイ! 何も無い!!

 

コインロッカーの中は虚しい様にからっぽだった。ヤラレタ!と思った。幸い、財布は手元にあるが、ザックの中には電車の特急券や航空券が入っている。二人ともパニック状態の中、駅の総合案内に駆け込んだ。係員は事の重大性を飲み込んだらしく、大急ぎでコインロッカー管理者を探し出してくれた。

 

どうやら地下3階に管理事務所があるらしく、その場所を身振り手振りで親切に教えてくれた。おばさんをコインロッカー前に残し、急いで階段を駆け下りた。事務所から出てきたのは同じ年代とおぼしきおじさんだった。特急の発車時間までもう10分を切っている。こちらは走って階段を駆け上がるのだが、当のおじさん、こちらの切羽詰った事情を知らないので、悠長な歩き姿で階段を登ってきた。

 

コインロッカー前まで来るとおばさんが口を金魚のようにパクパクさせている。なにやら「あった!あった!」と叫んでいるようであるが声になっていない。よほど興奮しているのだろう。そのおばさんが指差すコインロッカーの中には何とザックや手荷物が入っていた。こちらは先ほどまでからっぽだったコインロッカーの中にザックや手荷物が入っているので、まるで狐に抓まれたようだ。

 

すると管理人のおじさん、したり顔で「年に何回かあるんだよなあ、この間違いをする人が」と言うではないか。こちらは何が何だかさっぱり分からない。するとおばさんが「上のロッカーに入っていたの」と小さな声で教えてくれた。するとまたまた管理人のおじさん曰く「物を入れた後扉を閉めて、小銭を探しているうちに物を入れたロッカーから目を逸らし、違うロッカー(隣か上下)に小銭を入れて鍵を抜いてしまう(阿呆な)輩がいるんだよなあ」。でも良かったじゃないか!と思いっ切り肩を2発叩いてくれた。本当は「このあわてんぼうの馬鹿オヤジめ」と頭の3発でも殴りたかったに違いない。そうでなければあんなに力を入れて肩を叩くはずがないではないか。

管理人さんと総合案内の駅員さんに平身低頭で謝ってからホームに走った。

 

ギリギリで駆け込んだ特急列車の中には「あなたがチャンとコインロッカーの前に立っていないからだ」と愚痴る男と、「あら私の責任ですか?確認しないで鍵をかけたのは誰でしたっけ」と不貞腐れる女の姿があった。散々責任の擦り合いをした挙句、「でも荷物があって良かったなあ」の言葉を最後に、話は笑い話へと変わっていった。

 

06この後、地元のタクシー運転手も「こんなにクソ暑いのは初めてだがや」と嘆く酷暑の中、金のしゃちほこで有名な名古屋城を見学し帰路についた。

 

 

 

 

あまりにも馬鹿馬鹿しい失敗談なのでお蔵にしようと思っていたのですが、同じ失敗をするかもしれない皆様のために恥を忍んで公表しました。えっ!そんな失敗をするのはお前だけだって。

ロッカーのお話だけに、「老化」が原因でした。お後が宜しいようで。

 

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