カールを求めて日高・幌尻岳へ 2000年 7月14日〜16日 緊張の徒渉も慣れれば楽しい 14日 晴れ 札幌(AM8:30)〜穂別〜林道終点・車止め(AM11:50) 車止め出発(PM12:10)〜取水ダム(PM1:40)〜幌尻岳山荘(PM3:40) |
アプローチの林道は長い。国道237号から車止めゲートまで約40kmもある。ウンザリするほどの林道走行が楽しめる。 車止めには15台の車が所狭しと並んでいた。一番奥まった場所に何とか駐車してから出発の準備をする。先に来ていた4人グループは昼食の最中だった。ポストに登山届けを書き入れてから出発。明るい林道から谷底を右に見下ろしながらテクテクと歩く。結構な暑さなのだろう見る見るうちに汗が噴出してくる。 |
林道終点にある取水ダム。ここまで1時間半の歩きが意外と辛い。 真新しい橋を渡って左手の河原が広くなりだすと取水ダムは近い。川の対岸には50メートルは優に越えると思われる一条の滝がある。水量はさほでもないが、観光地なら「白糸」とか「羽衣」なんて言う安直な名前を付け、おまけに「滝見台」なんかも作って観光客を集めてしまうんだろうか。 |
徒渉開始地点。思ったより水量は多くないが、流れは速く油断はできない。 取水ダムから渡渉開始地点までは川の左を巻いて歩く。案外とストレスのたまる歩き難い道だ。いよいよ渡渉開始、用意してきた運動靴に履き替える。川の水量は予想していた程度で最初は膝くらいまでで楽勝、しかし次に股間辺りまでくると流れも急なことから結構緊張を強いられる。 |
渡渉を始めて間もなく四の沢出合いの滝が見える。 山荘までは20回近くの渡渉を数えただろうか。用意してきた運動靴はテニス用の底が扁平の物だったから水の中の石の上では良く滑り、行きと帰り都合2回のコケを楽しんでしまった。次はケチらずに渓流シューズを用意したいものだ。渡渉にも慣れて水の中が楽しくなってきた頃、突然山荘に行き着く。 |
「幌尻岳山荘」。こんな山奥にどうしてこんな立派な山荘が! こんな山奥にしては結構な作りで、とても避難小屋とは呼べない程のグレードの高さだ。山荘横の河原で乾いた服に着替えてから入り口にある宿泊日誌に名前を記入し、2泊分の料金2000円を料金箱に入れる。2階に寝床を確保してから表に出て、ベンチで昼食兼夕食の用意をする。 隣に陣取ったメガネのおじさんがラーメンに餅を入れたものを食べながら、「何で餅は傷むのか」と話し掛けてくるので、「カビ易いからでは」と答えると、「残念でした。答えは早く食べないからです」。「では何故早く食べなければいけないのか」と言うので、「早く食べなければ傷むからでは」と答えると、「餅餅噛めよ、亀さんよ♪」と歌いながら「のろまだと言われるから」と答えた。自分自身で可笑しかったのか大声で笑ったが、ベンチの周りは白けきった空気が漂った。こんな所で親父ギャグを飛ばすなよと言いたかったが、大人の私はじっと我慢をしました。こんな話を聞いていると、真面目一辺倒で生きてきた私の人生(?)の歯車が狂いそうだ。それにしてもキュウリの好きなおじさんで、漬物にモロキュウと立て続けに食べていた。もしや河童の生まれ変わりではないかと本気で思ったくらいだった。 山荘裏手に見える1881峰は山荘への下降路がくっきりと見え、背後に広がる青空がより一層の高度感を見せてくれた。明日もこの天気が続くようにと願いながら、持ち込んだ「VSOP」の小瓶を開けてチビリチビリ舐めた。6時を過ぎる頃には山荘もほぼ満室になり、早々と寝付く人も出てきたので自分もシュラフに入り、明日の行程を考えることにした。夜も更けると辺り一帯は真っ暗闇となり、横を流れる川の音が雨音のようにも聞こえてくるようだった。 |
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流れるガスの中から巨大な幌尻岳が浮かび上がる 15日 曇り 幌尻岳山荘(AM5:25)〜命の水(AM7:10)〜幌尻岳山頂(AM9:10) 幌尻岳山頂(AM10:35)〜命の水(PM12:40)〜幌尻岳山荘(PM 1:45) エゾカンゾウの咲く尾根道。おぉ!幻想的だ。 まわりがごそごそしだしたので目が覚める。すると突然、どこかで目覚まし時計が鳴り出した。時計を見るとまだ午前3時だ。オイオイと思いながらも、今日中に山を下りる人は今からでも山頂へ行かないと、夜の林道を車で走る羽目になるのかと納得する。こちらはもう1泊の予定なので急ぐことはない。五目ご飯、トムヤンクン、ホット紅茶で腹ごしらえをしてからおもむろに出発する。 最初から針葉樹林の中を急登するが、身体がまだ目覚めていないのかふしぶしが悲鳴を上げる。何でこんな辛い事をやっているんだと自問自答しながら、何とか時間を稼ぐ。私の山旅では毎度お馴染みのパターンである。突然傾斜も緩み、ダケカンバの生い茂る尾根に出る。登山道の脇にはエゾカンドウが今を盛りと咲き乱れている。ガイドブックでは戸蔦別岳が見えると書いていたが、ガスの為にその姿を望むことは出来ない。 |
岩間からほとばしる「命の水」 程なく進むと「命の水」に行き着く。ザックを置いて水場まで下り、岩間からほとばしる冷水を手ですくって飲む。冷たく甘い身体に優しい水だ。見る見るうちにズボンの裾が濡れてきたので早々に切り上げる。露岩とハイマツの急登を上り切るといよいよ「北カール」と「幌尻岳」が一望できる筈のカール尾根に出る。残念ながらガスの為にそのどちらも見ることが出来ない。時々太陽が顔を出すが、ガスが切れることはないようだ。尾根の上を結構な風が通り抜けていくので肌寒く、雨具を着ることにする。ハイマツの尾根を過ぎる頃、早発ちしていた人たちが下りてきた。全員が口々に「寒くて寒くて」と言いながら、何も見えなかったことを嘆いた。 山頂までは想像していた以上のお花畑が展開し、エゾノツガザクラ、ハクサンイチゲ、チングルマ、トカチフウロ等の高山植物が大群落を作っていた。お花畑の中に続く緩い傾斜道を登って行くと新冠川コースとの分岐に着く。ここから山頂までは岩の道をひと登りだ。 |
ついに山名標識のある山頂に着くが、北カールから吹き上げる風とガスで立ち止まってもいられず、風下に下ってハイマツの陰で風を避ける。誰もいない山頂でガスの切れるのを待っていると、途中で追い抜いた4人パーティが登ってきた。互いに写真を撮りあってからまた一休みする。4人のうち3人はこれから戸蔦別岳をまわってから山荘に帰るという。私の予定もここから「七つ沼カール」を見てから戸蔦別岳をまわり、山荘へ下りる行程だった。そのつもりで徒渉の準備もしてきたのだが、あまりの風の強さとガスの為にこのまま戻ろうと決心を固めたばかりだった。 3人が去ってから程なくして急にガスが切れ始め、雄大な北カールが一瞬顔を見せた。遠くを見ると10人程のパーティが山頂目指して登って来るところだった。賑やかになった山頂で風を避けながら軽食を取ってから、七つ沼カールと戸蔦別岳に後ろ髪を引かれる思いで山頂を後にした。 |
姿を現した幌尻岳・スケールが大きすぎるぅ〜 北カールとハクサンイチゲの群落 |
カール尾根の中ほどまで来ると空も明るくなり、ガスも切れて大きくえぐられた北カールと、その背後を大きく取り囲むように広がる幌尻岳が姿を現し、スケールの大きな山岳風景をプレゼントしてくれた。また円錐形の戸蔦別岳が一瞬だがその姿を見せてくれ、ほとんど諦めていた展望を楽しませてくれた。また登るときには気が付かなかったが、お花畑はカールの底まで続く大花園であることが分かり、特にハクサンイチゲの大群落が目を引いた。思わぬ展望に感激し、しばらくカール尾根に座って至福の時を楽しんだ。 |
カール尾根を下るパーティ 10人程のパーティと抜きつ抜かれつしながら「命の水」へ、そして登りで苦しんだ急登を一気に下って山荘に戻った。夕方に戻った3人の話を聞くと、戸蔦別岳まではガスがかかったり切れたりの状態で、戸蔦別岳山頂は高山植物が綺麗だった。また山荘までの徒渉は膝くらいまでで、最後に腰までの所が一箇所あったと話してくれた。寝るまでに時間を持て余しながら、昨日残した「VSOP」の小瓶をチビリチビリやり、こんな大自然の中で贅沢な時間を堪能出来る幸せを噛みしめた。 |
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再チャレンジを胸に山荘を後にする 16日 曇り 幌尻岳山荘(AM5:30)〜取水ダム(AM7:15)〜車止め(AM8:30) 今日も早発ちする人のゴソゴソガサガサで目が覚める。山荘の中はヘッドランプの光線が忙しく交差し、とてもゆっくり寝ていれる状態ではないが、何しろ昨日は6時に寝付いてしまったので寝不足という心配はない。やがて2階に誰も居なくなったので、ゆっくりと朝食を取る。その後河原へ行って歯を磨き、顔を洗ってから山荘へ戻り、ザックの荷をまとめる。 よく滑る運動靴を履いて2日間お世話になった山荘を後にする。やはり朝の水は冷たいが、水量は来た時よりも少なくなっているようだった。山荘での会話の中で、大雨の後の増水で何日も山荘に停滞を余儀なくされたという話があった。容易に想像出来る話だったと思うのは、結構緊張して徒渉した今回の状況は、水量も少なく恵まれている方だと聞かされていたからだった。多分、腰以上の徒渉になれば流れの強さからいっても単独では危険過ぎるのだろう。こういった停滞を余儀なくされた時、年休などで山に入った人などはどうするのだろうか。まさか山頂まで登って新冠川コースから下りたりするのだろうか。 徒渉が終わっても運動靴のまま林道を歩いていると、下から上がってくる登山者4組に必ずと言って良いほど川の水量について聞かれた。みんな気になるのは徒渉のことなのかと妙に納得してしまった。 今回の山行で楽しみにしていた「雲上の楽園・七つ沼カール」を見られなかった事や、戸蔦別岳にも登れなかった事で消化不良の山登りになってしまったが、その分またチャレンジしたい気持ちがふつふつと湧いてくる山旅になった。 |
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