ビバークも覚悟の小屋探し!
3日目
朝からガスと雨。なかなか出発の決断がつかない。ゆっくりとコーヒーを飲んでからおもむろに腰を上げた。はしごを下りてから装備を点検し、意を決して第一歩を踏み出した。小屋前のハイ松帯を下るとすぐに雪渓に出た。ガスで視界はかなり悪い。高根ヶ原は雲の通り道だと言う人もいる。雪渓で途切れ途切れになった道を探しながら慎重に進んだ。
高根ヶ原・高原温泉への分岐
スレート平にはケルンが数箇所あって道案内をしてくれた。ホソバウルップ草やキバナシャクナゲがガスの中から現れて、幻想的な世界を創り上げていた。一瞬、極楽浄土という言葉が脳裏をよぎった。高原温泉への道標には「熊に注意」と書かれていて、恐怖心を増幅させた。
道はほとんど川のようになっていて登山靴の中は水浸し。しばらく歩くと忠別沼が現れた。くるぶしまで埋まる道を外れ、小さな岩の上で休憩を取った。魔法瓶の熱いお茶が冷えた身体を温めた。ここから忠別岳まではゆるい登りが続くのだが、もう頂上と思うこと3、4回、だまされ続けてやっと山頂に着いた。
当然ながら展望はまったくない。もう身体の中は雨と汗でびしょびしょの状態、足の皮膚はもう白くうるけていた。
忠別沢に切れ落ちている断崖をのぞくと、吸い込まれるような落差の下方から、唸りを伴ってガスが吹き上げて来た。
何も見えない忠別岳山頂
身体もかなり冷えてきたので、忠別岳避難小屋へと腰を上げた。忠別岳からの下りは背丈をこえるハイ松の中を歩いた。おかげで身体の中は水浸し、小屋への分岐を左に折れて少し下ると雪渓に出た。ガスで視界も無く、踏み跡も無いので慎重に進んだ。雪渓は段々と斜度を増して沢筋に落ち込んでいて、これ以上進むのは危険と思われた。もう一度雪渓の始点に戻り、今度は右下方に歩いて見た。雪渓を下りきった辺りに細い道らしきものがあったので、それを辿って見た。すると突然、目の前に赤い三角屋根の避難小屋が現れた。ハイ松の中でのビバークも一瞬とはいえ考えただけに、安堵と同時に張りつめていた緊張感がほどけてしまった。
やっと見つけた忠別避難小屋
小屋にはもちろん誰もいなかった。すぐに下着を乾いたものに取り替えた。安心したせいか空腹感が湧いて来た。昼食兼夕食を作るためにコンロに燃料を補給して火を点けた。どうも具合が悪く、ノズル周りに火が回った。分解掃除をしてもう一度火を点けて見るがまったく同じ状態。もう一度燃料缶を見てみると、なんとアルコールと書いてあった。似たような缶だったので、ホワイトガソリンと間違えて買ってしまった。この大失敗にショックを受け、頭は呆然となった。しかしなんとかメタ燃料だけで食事を終えた。その後、2階にあった毛布を持ってきてその中にシュラフを入れ、身体を滑り込ませた。暗い気持ちで巨人・阪神戦を聞きながら明日は晴れてくれと願った。だが外の風音は段々と強くなっているようだった。
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