『ラッコはじめました』




「ラッコはじめました」

あらすじ

和久は高校生。いうtか「釣り人ランキングベスト20」に入りたいと夢見る叔父さんの釣堀でバイトしています。
ある日、和久がいつものようにバイトに出掛けると、釣堀の前には「ラッコはじめました」との張り紙が!
仕入れた魚の中に混じっていた、と言い張る叔父さんは、ラッコと和久を残して釣りに出掛けてしまいます。
しかしこのラッコ、商売ものの魚を食べ尽くし、隠し持った(?)石の武器で和久を殴り、ワシントン条約を盾に威張り散らすとんでもない奴。
たまりかねた和久は水族館に引き取るようにお願いしに行きますが、ラッコが釣堀にいるわけない、と相手にもされません。
そんなこんなでどたばたしている間にも、大量のエサが必要で、水温も調節していやらなければならないラッコは和久の前に数々の厄介ごとを持ち込みます。
たまりかねた和久はラッコを海に帰そうとしましたが、失敗続き。
その間にも、ラッコが近所の魚屋でエサを盗んだとかなんだとか、色々苦情はやってきます。
こうしてラッコとの戦いを繰り返していたある日、水族館の人々がやってきます。
彼らは釣堀にいるのが本当にラッコだと分かると、「ラッコを引き取る」と言いながらラッコを捕獲しようとします。
必死に抵抗するラッコ。和久は、こんなに嫌がっているんだから無理に捕獲しなくても・・・と言いますが、水族館の人は、「ずっとこおkにいるのはかわいそう」と答えます。
とはいえ、捕獲作戦空しくラッコは海に逃げてしまいました。波の彼方に消えるラッコ、見送る和久。
こうして、ラッコのいない平凡な日々が続いたある日、いつものように釣堀にバイトに行った和久の前に再びラッコが・・・。
和久とラッコの戦いの日々が再び始まりました。

お気に入りphrases


「あの動物は殖やそうとかこれはいなくてもいいなんて考えてんのはおれ達だけなのか。だから人間は嫌われてるのかなあ。」

波間に消えたラッコを見送る和久の言葉です。
この数日前、和久は「隣の養殖場も海岸の土地も海水も人のものなんだ!だからそこにあるものを盗むのは泥棒だ。」
とラッコに説教します。でも、ラッコに、
「海も(誰かのものなの)?」と聞かれ、言葉に詰まるのです。
先住権は人類ではなくもともとそこに住んでいた様々な動物達にある。
いや、そもそも「権利」なんて発想は人間にしかなくて、他の動物が生存する権利まで、人間が「自然の摂理」って言葉を借りて正当化してしまう・・・。
「自然の摂理」すら、人間が勝手に作った言葉であり、勝手に決めた理論です。
自由奔放なラッコは誰かの権利に縛られず、人が「おいしいから増やそう」と決めた魚を盗み食いし、魚を釣って遊ぶための釣堀の温度が体に合わないからとぐったりし、それでも釣堀に留まり続けます。
それは、人間が「ラッコに適している場所に住みべきだ」と考えていることに対する反論であって、
「人が決めたことが正しいとは限らない。人が見つけた法則が正しいとは限らない。」という、ごく当たり前のことを伝えているのだとも思います。
と、勝手に作者の意図を解釈しても申し訳無いので、やっぱり遠藤作品に流れる原則の一つから推測してみると、
「あなたのためよ。」
と、他人が勝手に人の幸せを決めることはできない、ということでしょうか。
たとえば本物の親より、母親の再婚相手の未成年と暮らすことを選ぶ「家族ごっこ2」とか、飼われる側の気持ちに主軸を置いた「寂しがり屋の彼女」とか(どちらもアップしてない・・・)本当の気持ちが分からなかったり届きにくかったりする動物や子供の気持ちを代弁しようとする「正論者」に対し、正論じゃ片付けられない答えもあることを淡々と伝えているようでもあります。
「人間がいなくなればお前達も安心して暮らせるのにって思ってんだろうな。」
ラッコに語りかける和久に、ラッコは、「べつに。」と答えます。
でもそれは、和久の耳には届いていないでしょう。
ラッコは人間がいなくなればいいとも、嫌いだとも思っていません。
でも、和久や叔父さんが好きだと言う素振も見せません。
何故釣堀に現われたのか、逃げ出したのに戻ってきたのかも分かっていません。
ただ戻ってきて、ただ住みつくだけ。
適した環境でもなく、充分なエサもない状態で和久に「売り物の魚を食うな〜!」と怒られても、ただ淡々と生きていくのです。
人間が何かを保護して「やっている」つもりでも、その何かは意外に環境に合わせて平然と生きていく・・・。
それは自然の強さと感心するほどのことでもなく、人間の無力さを卑下するものでもない。
ただ、人間も含めて生き物って言うのはそういうものなんだ、っていうお話でしょうか。


「美女と怪獣」

あらすじ
裕(♀)の姉、円は、1年前ネパールへ登山に行ったまま行方不明になった恋人の天知さんを探すため、大学を休学してネパールへ向かいました。
探しに行って1ヶ月後、円から「天知さんが見つかった!」との連絡が。
「よかったね〜」と家族一同が帰ってきた円と天知さんを出迎えたところ、円が「天知さんよ♪」と紹介したのは毛むくじゃらのばけもの。写真で見る雪男そっくりの生き物です。
当然家族は大騒ぎしますが、円はこの生き物が天知さんだと言い張ります。なぜなら登山へ行く前に円があげたお守りを首にかけているから。
実はただの大きい猿だと判明しますが、家族は円が天知さんの死を受け入れられないのだと思い、しばらく好きにさせてやることにします。
とはいえ所詮は雪男もどきの大猿。天知さんは甘いものが苦手だったはずなのに、雪男は一口でぺろりとたいらげてしまいます。天知さんが円に初めてプレゼントしてくれたオルゴールも、興味なさそうに捨ててしまいます。どうやらどんどんつじつまが合わなくなっていく・・・誰よりも円が一番そのことを感じていました。
しかもただの怪獣なので、どんどんひどくなる夜鳴・・・というより雄たけび。
ずっと家に閉じ込めたままだったのも手伝って、怪獣もストレスをためている模様です。
いい加減ネパールに帰してあげれば?と裕はいいますが、円は怪獣に謝り始めます。
「許すって言って。気にしてないって言って。」
と怪獣に訴える円。それが怪獣に伝わるわけもなく、飼主(?)円が泣いてるのを見て怪獣もつられて泣き始めるだけです。
実は、天知さんがネパールへ行く前の日、二人は喧嘩していたのでした。
捨て台詞で「天知さんなんかもう帰ってこなくていい!」
と言ってしまった円は、天知さんが本当に行方不明になってしまったことでずっと悔やんでいたのです。ある日、裕のボーイフレンドの茂君は、怪獣に興味を持って毛を一本引っこ抜きます。ところがそれを生物部の先生に見せたところ、今まで見たことがない生き物だ!と大騒ぎになってしまいました。
このままでは怪獣が実験動物になってしまう!そう思った裕は再び円に、怪獣をネパールの雪山に帰すよう言います。
いくら怪獣を天知さんの身代わりにしても無理がある。代わりなんてどこにもいない、と訴える裕の言葉に、円は怪獣をもといた場所に帰す決意をします。
そしてネパールへやってきた裕と円と雪男(いきなりだよなあ^^;)
けれど、せっかく雪山に連れて行ってもすっかり円達との暮らしに慣れた雪男はなかなか二人から離れようとしません。
仕方なく、手近にあった木の枝や石を雪男に投げつける円。
そう叫びながら、石を投げつづけるのです。
最初は戸惑い顔だった雪男は、少しずつ怒り始めます。そして、両手を振り上げてとうとう円に襲いかかるかと思った直後、雪男は円を抱きしめ、一度も振り返らずに去ってしまいました。
それから数日後、日本に戻った円のもとに、大使館から電話が来ます。天知さんが見つかったと言うのです。
実は天知さん、1年前の登山事故で記憶を失い、ふもとの村で暮らしていたというのです。そこを訪れた日本人パーティが、天知さんが持っていたお守りから彼は日本人なのだと気付き、日本人に会ったことで天知さんの記憶も戻ったのでした。
だったら、雪男が持っていたお守りは何?という疑問が沸きますが、円はそれも自分があげたお守りだったと言いきります。
きっとあの雪男は神様だったんだ、と円は言うのです。
なにはともあれめでたしめでたし。裕と円は空港まで天知さんを迎えに行きます。
1年ぶりに日本に戻ってきた天知さんは、遠くの方から二人を見つけ、手を振ってくれるのでした。

お気に入りphrases

なかなか立ち去ろうとしない雪男に、円が石を投げながら言う台詞
「人間なんてこんなひどい事しかしないのよ。今度から人を見かけても絶対ついて行くんじゃないわよ。絶対信用しちゃだめなのよ!!」

もちろん石を投げたのは雪男を山に戻すため、この言葉も、もし誰かに発見されれば実験動物になりかねないから絶対に人に近づくんじゃない!といった意味が込められています。こういう裏の意図を持つ言葉ってなぜか好きなんだなぁ。

ところで、あらすじには入れなかったのですが、このお話の最初の1ページ目には、雪男が雪の中に埋もれていたお守りを拾う場面が描かれています。ということは、行方不明中の天知さんがずっとお守りを身につけていた可能性はなくなるのです。
ついでに、記憶が戻った天知さんは、代わりに記憶喪失だった1年間のことをよく覚えていません。多分麓の村で暮らしていたらしい、と随分曖昧に説明されています。
ということから、個人的には天知さんは本当は事故で死んだんじゃないのかな、などと思うのです。
天知さんの遺品であるお守りを拾った雪男は、天知さんの死を信じたくない円に日本に連れてこられ、そこであのお守りに込められていた想いを知るのです。
でも、ずっと自分を騙して生きていくことはできない。雪男の存在が世間にばれてもいけない(何故飛行機に乗れたんだ?という疑問は遠藤ワールドでは禁句^^;ついでに天知さんの本物の家族はどうしたんだ!?っていうのも禁句^^;)。
結局山へ戻ることになったものの、雪男は円の天知さんへの想いも充分に知ったし、自分に冷たい言葉と共に石を投げつける円の本当の気持ちも理解していたから、しばらく一緒に暮らした円たちへのちょっとしたお礼のつもりで天知さんを帰してくれたんじゃないかな、と思うのです。
あの雪男は本当は何だったのか、私は神様と言うより、ごく普通に「無垢な生き物」として描かれてるんじゃないかな、と思います。
動物にも色んな能力を持つものがたくさんいますが、きっと雪男には人を生き返らせる未知の能力が合って、それを自分でも自覚せずに使っただけのような気がするのです。
「このお守り、僕の世話をしてくれた円さんの大切な人のものだたんだ。じゃあきっと、このお守りが落ちてたとこにいるな。もし動けなくなってたら(=死んでたら:雪男に『死』の観念があるかどうか分からないからこういう表現にして見ました)動けるようにしてあげて(=生きかえらせて)、お守りも彼に返してあげよう。」
そんな気持ちだったんじゃないでしょうか。

作品リストへ戻る

ホームへ戻る