遠藤淑子
『エヴァンジェリン姫シリーズ1』収録「大騒ぎのウェディングマーチ」
あらすじ
ヨーロッパの小さい国エッシェンシュタイン公国へ観光旅行にやってきたアイルランドの大学生オーソンは、ただ道を歩いていただけなのにやけに人に囲まれます。
そう、そこは三日前から政府公認人さらい道。というわけで、さらわれて城まで連れてこられるのです。
城で怒り狂うオーソンの前に現れたのはエヴァンジェリン姫(以後エヴァ姫)。
体の弱い国王にかわってこの国の政治を取りし切ってます。とはいえ多分20才そこそこ?年齢分かりません・・・。
エヴァ姫は、オーソンをさらった理由を説明し始めます。
エッシェンシュタイン公国はものすごい貧乏国。しかも王制反対派は城門に爆弾を仕掛けたりしています。
困った挙句エヴァ姫が思いついたのは政略結婚。金持ち国のマクシミリアン王子と結婚すれば援助してもらえるし、腐っても王族。一代イベントとして宣伝すれば観光客がたくさん訪れて外貨を稼げると考えたのです。
が、王子は結婚2週間前に崖から落ちて死体も上がりません。
すでに宣伝して観光客もやってきており、国民だって外貨を稼ごうと張り切っているのに中止にはできないため、オーソンがお婿さん候補としてさらわれてきたのでした。
呆れたオーソンはスキ(って言っていいのかどうか・・・)をついて逃げ出しますが、エヴァ姫も負けてはいません。
逃げたオーソンを追ってきたものの、追いついた途端王制反対派に襲われ、一度入ったら二度と出られない森(!)に逃げ込みました。
帰巣本能に頼って森から出ようとするエヴァ姫とオーソンですが、二人は人間・・・帰巣本能はないみたいです。
それでもやっとの思いで森の中の一軒家を見つけたのは良いのですが、現われたのは崖から落ちたはずのマクシミリアン王子。が、驚く間もなくエヴァ姫とオーソンは王制反対派のリーダー、クライストに捕らえられてしまいます。なんとこの家、王制反対派のアジトだったのです。エヴァ姫ってば飛んで火に入る夏の虫・・・。
それにしたってどうしてマクシミリアン王子が自分の国の王制反対派と一緒にいるんだろう?と考えていると、当のマクシミリアンの側近の男が二人を助けにやってきます。待ち合わせていたマクシミリアンともども逃げようとする4人。
逃げながら、エヴァ姫はマクシミリアン王子にことのいきさつを尋ねます。
実はマクシミリアン王子には心に決めた人がいたのです。が、王子なんて好きな人との結婚を望めない運命。しかもエヴァ姫との結婚話が持ちあがってしまい、いっそ愛する人と駆け落ちを・・・と思いつめたマクシミリアン王子に、王制反対派の大臣が協力を申し出ます。
で、その大臣とクライストもつながっていて、マクシミリアン王子は事故で死んだふりをしてクライストのアジトに世話になっていた、というわけなのでした。
話を聞きながら森の中を逃げようとする4人。しかし森には熊さんがいます。熊さんから逃げてもクライストがいます。はい、捕まったので振り出し(クライストのアジト)に戻りま〜す。
ところでどうしてクライストは王制に反対しているのか。なぜなら王家はエッシェンシュタイン公国に外国資本が入ってくるのを拒み、都市化にも消極的、だからいつまでも貧乏国。国が豊かになるには王家が邪魔なのです。
でも、だからって城の門に爆弾を仕掛けるのがエヴァ姫には気に入りません。城門を爆破したって経済は豊かにならず、門番が怪我をするだけなのですから。
とはいえ、今のエヴァ姫は囚われの身。オーソンを人質に取られ、A国との軍事同盟を考え直す書類にサインするよう迫られます。(軍事同盟とはいってもA国の基地の食堂用敷地をちょっと貸してくれ、ってものですが。)
断るとオーソンが痛い目に遭う・・・なのにオーソンはエヴァ姫に「助けてください」とは言いません。言えばエヴァ姫が困るから・・・オーソンがそう答えるのを聞いたエヴァ姫は、書類にサインする・・・と見せかけて、隣にいたクライストの手にペンをぐさっ・・・あ、文字にするとなんか血なまぐさいですね。
それはともかくクライストが痛がっているスキに逃げ出したエヴァ姫とオーソン。アジトの中を逃げ回っているうちに大量の爆薬を発見します。
「また門をこわされたらかなわん。」と爆薬に火をつける姫・・・おいおい、君らも吹き飛ばされるぞ・・・と気づいた時にはもう遅くて、見事に城の中まで吹き飛ばされました。
どうやら王制反対派のアジトと城の中は地下通路で結ばれていたらしいのです。
「ふざけた話だ。」とエヴァ姫は言いますが、いや、まったく・・・・。
ついでに爆発した場所から温泉が発見されました。これで観光名所のエッシェンシュタイン公国に、新たな名所が加わって、ちょっとは貧乏から抜け出せるかな〜、めでたしめでたし・・・。
ではなく、死んだ振りをして駆け落ちまでしようとしたマクシミリアン王子のお相手は誰だったのでしょう・・・。側近の男でした。王子=男、側近=男・・・ま、いいか・・・・。
さて、オーソンも学生です。大学へ戻らなければなりません。
「また戻ってきますよ」そう言い残して去ったオーソン、それから1年が過ぎて・・・。
今日は温泉が沸いた1周年記念。エヴァ姫の仕事は今年採用の執務官の面接です。
めんどくさ〜い、と背を向けるエヴァ姫の元に面接をしにやってきたのはアルバート・オーソン。
エヴァ姫はにっこり笑ってひとこと、「合格」と伝えるのでした。
お気に入りphrases
この第1話、名言の宝庫です。だからここでひとつひとつ挙げているときりがありません。もったいないですが、泣く泣く3つに絞って見ました。
その1:「血税で養ってくれてるんだからな。幸せになってもらいたい。」
オーソンをさらってきてまで結婚しようとするエヴァ姫。呆れたオーソンは、「そんなにお国が大事?」と聞きます。その時の答えがこれ。
な、なんて名君なんだ・・・自分は国民に養われているんだという自覚。そんな国民が、貧乏国には滅多にない外貨を稼ぐチャンスだからと結婚式を待ち望んでいる。だから是が非でも結婚式はやらなければ・・・。
方向はちょっと間違っているかもしれませんが、でも、こういう人に、人の上に立ってもらいたいものです。王族に限らず、国民の税金で「養ってもらってる」って自覚のある人ばかりだったら、色んなことがもっともっとよくなるのでしょうが・・・現実は厳しいものです。
その2:「何の関係もない者まで巻き添えにする決意なぞ迷惑だ。お前達は自分の足もとに火をつけてさわいでるだけだ。それで理想がかなうものか。」
王制反対派達が仕掛けた爆弾で門番が怪我をした、と話した後に言ったエヴァ姫の言葉です。
そういえば最近テロリストの親玉クラスが逮捕されましたが、彼女は護送されながら、「闘うから!」って、集まった人々に言ってました。
闘う・・・闘いってなんでしょうね?飛行機を乗っ取るのが闘いなのか?大使館を乗っ取るのも闘いなのか?
で、なんの関係もない人々を殺して、その家族を悲しませても闘いなのか・・・それって一体何と闘ってるんでしょうね?
本当は闘ってるんじゃなくて、騒いでるだけ・小さい子供がおもちゃを買って欲しくてデパートで足をばたばたさせながら大声で泣いている・・・。
あんな風に、騒いで周りの人間に迷惑をかければ言うことをきいてもらえる、そう思っているのでしょうか?
テロリストだけじゃないでしょうけどね。自分の希望や夢、決意のためには誰かに迷惑をかけたり傷つけても平気とか、夢を実現するためには仕方ないとか・・・本当に迷惑です。
その3:
「もし人がもどりたくなったらちゃんと帰れる場所を残しておこうと思う。この国は思い出す風景そのままにむかえてくれる所だ。だからだからお前達だってもどってきていいんだぞ。」
王制反対派のクライストが逮捕され、護送されて行く時にエヴァ姫が言った言葉です。もっともその後に、「どうだ、慈悲深かろう。」と加えていますが^^;)
クライスト達が王制に反対した一番の理由は経済です。でも、外国資本を迎えたり近代化してはこの国の幸せが壊れるのではないか、それが姫のクライストに対する答えでした。
どんどん周囲が近代化する中で、ひとつくらい健康で平和な国があってもいい、貧乏でそれが実現するならそれでもいい、と迷いながらもエヴァ姫は決めています。
だから、いつかクライストが刑期を終えてこの国へ戻ってきた時には、この国は何も変わらないままクライストを受け入れる、エヴァ姫はそう伝えたかったのでしょう。
だからクライストも、連行されながらエヴァ姫に「ご多幸を!」と手を振るのです。
エヴァ姫シリーズ、ものすごくいいです。最初の方のお話は遠藤先生の初期の作品と言うこともあって絵に抵抗を感じる人がかなり多いかもしれませんが、読んでるうちに絵のことなんて忘れてしまいます。
ところで文章にすると結構話が深刻そうですが、本当はかなり笑えるお話です。ギャグなんかは文章にしてもあまり面白さが伝わらないので省いていますが、かなり笑えること請け合いです。
ついでに、ここに書いた以外にも色々とエピソードが入っているにもかかわらず、たったの30ページ程度・・・ものすごく話が詰まっていてテンポが良いということではないでしょうか?
とにかくこれから先もエヴァ姫の名言は絶えることがありません。かっこいい理想の君主(王女だけど)として、これからも活躍してくれることでしょう。
ところで、白泉社の単行本紹介なんかでエヴァ姫シリーズを「おとぼけプリンセスコメディ」って紹介してるのをよく見かけますが・・・ううむ・・・たしかにおとぼけなんだけど・・・ギャグマンガなんだけど・・・それだけじゃないのにな〜。とはいえ、真面目にコメントを書かれてるとそれはそれでちょっと寂しいかもしれないとも思います。
読者の気持ちは複雑だ。(こんなこと思うのは私だけ?)
『エヴァンジェリン姫シリーズ1』収録「王室スキャンダル騒動」
あらすじ
ある日突然、よその国のゴシップ誌にエヴァ姫のスキャンダル記事が載りました。
内容は、エヴァ姫が執務官のオーソンと恋に落ちているというもので、ご丁寧に二人が抱き合っている写真までついています。
怒り狂ってオーソンに問い質す執務室長(かわいそうに名前がない・・・ずーっとない・・・3巻までない・・・)ですが、エヴァ姫のどこから「ロイヤルラブ」なんて言葉が出て来るんですか、と逆に聞かれて納得してしまいます。
が、何はともあれ一国の王女のゴシップ記事が出てしまったのは事実。これは王室から抗議をしなければ・・・とエヴァ姫に訴える執務室長ですが、エヴァ姫はあっさりと、牛とけんかをしようとしたらオーソンに止められた場面を写真に取られたのだと話します。
オーソンがきてから牛と格闘もできなくなった、とぼやく姫(しかも次期女王)がどこにいる・・・。
これでゴシップ記事の件はなし崩し的に解決したかに見えましたが、この記事をきっかけに、執務室全体にとある陰謀がうごめき始めます。
いっそのこと、本当にエヴァ姫とオーソンを結婚させちゃえ!そしたらエヴァ姫のおもりはオーソンに押しつけられる!・・・ああ恐ろしい執務室の陰謀・・・。
が、もう一つ、エヴァ姫を結婚させたい理由があったのです。
エッシェンシュタイン公国との親交が深いハイデル王国が、王子のお后候補にエヴァ姫を挙げているらしいのです。が、エヴァ姫は面食い・・・顔の不自由な王子様では残念ながらお断りです。とはいえ簡単に断れないのが王族の辛いところ。それならいっそ、ハイデル王国から正式な申し込みがある前にエヴァ姫を結婚させちゃえ!って魂胆です。
自分抜きで怪しげな話が進んでいると知ったオーソンは抵抗しますが、執務室が一丸となってオーソンを押し切ります。
なんてこった・・・と青ざめるオーソンの前に何も知らないエヴァ姫がやってきて、駆け落ちするからついて来い、と言い出します。
実はエヴァ姫、執務室の面々が勝手に誰かとの縁談を進めているらしい、との情報を聞きつけて怒って家出しようとしたのですが、オーソンを連れて行っては傍目にはデート。
一体どうすりゃいいんだ〜世捨て人にでもなろうかな〜とエヴァ姫はやけになったふりをしていますが、オーソンにさらに追い討ちをかけられます。
実は、よその国のゴシップ誌に写真を送ったのはエヴァ姫本人。ハイデル王国が諦めてくれるようにわざとスキャンダルを起こしたのでした。
オーソンにそれを指摘されて言葉に詰まったエヴァ姫ですが、そこに鹿が逃げてきます。
追ってきたのは銃を持った青年と猟犬です。青年は、鹿を撃つからエヴァ姫にどくよう言いますが、食べるわけでないなら鹿は見逃してやってくれ、とエヴァ姫は言います。
さて・・・ここでエヴァ姫の名言が・・・。
青年―ブランシュ伯爵―は、たとえ今ここでエヴァ姫がこの鹿を助けたとしても、世の中では何百頭もの鹿が狩られている、と言います。が、エヴァ姫、
「私がこの鹿を助ければ百頭死ぬところが九十九頭になる。それでいいじゃないか。」
と答えるのです。
いいなぁ・・・それでいいじゃないか・・・いい言葉だ・・・って浸るのはあとにして、先へ進みましょう。
ブランシュ伯爵とエヴァ姫が会話をしている最中、猟犬がオーソンに襲いかかります。
オーソンが谷に落ちて腕を怪我してしまい、おわびだからと滞在を勧めるブランシュ伯爵の言葉に従って、エヴァ姫とオーソンはブランシュ伯爵の邸にしばらく厄介になることにしました。
が、オーソンはブランシュ伯爵の主催するパーティに現われたある男の顔をどこかで見たような気がしてなりません。しかも、電話を借りようとしたら「電話はありません」と断られ、そのくせ装飾にまぎれて電話線があるのを発見・・・こりゃ怪しい。
そんなオーソンなんてどこ吹く風、ブランシュ伯爵はエヴァ姫にプロポーズします。どうやらエヴァ姫の変わった所がお好きな模様。
エヴァ姫も、顔が良くて金持ちのブランシュ伯爵にまんざらでもない様子です。だってブランシュ伯爵は顔がいい上にお金持ち。結婚すれば毎日デザートに高級網の目メロン(マスクメロンと言うらしい)が食べられるのです。
やきもきするオーソンですが、心配事はもうひとつ。どこかで見た気がした男、それはハイデル王国のスパイだったのです。
ブランシュ伯爵とスパイの間に何かある、と感じたオーソンは、まんまと伯爵の部屋から暗号表を盗み出すことに成功します。が、これを知ったエヴァ姫は、ハイデル王国の重要情報を掴めばエッシェンシュタイン公国が優位に立てるのではないかと考え、ブランシュ伯爵とスパイが密談しているのを盗み聞こうとします。
そんなにうまくいくわけないんですよね〜当然見つかって、逃げようとしたらオーソンが左肩を銃で撃たれてしまいます。
実はブランシュ伯爵はやばい情報を売ってる人。エヴァ姫にプロポーズしたのは、結婚でエッシェンシュタイン公国の実権をにぎり、国ぐるみで情報基地を作ろうとしたからなのでした。(お、なんか普通の王国っぽい真面目な(?)トラブルに巻き込まれてるぞ・・・)
銃をエヴァ姫に向けて、自分と同盟を結ぶよう迫るブランシュ伯爵ですが、エヴァ姫はきっぱり断ります。
だったらここでエヴァ姫を暗殺する、と銃で狙うブランシュ伯爵ですが、何を思ったか、エヴァ姫とオーソンを見逃してくれます。どっちみち重症のオーソンをかかえて山を降りることなんて出来ないからです。
なんとか危機は去ったものの、伯爵のいう通り、大怪我をしたオーソンを連れて山を降りるのは困難です。途中で出血多量で死んでしまうでしょう。
さすがに途方に暮れたエヴァ姫ですが、そこに2頭、馬が現われます。ブランシュ伯爵がおいていったのか、助けた鹿の恩返しなのか・・・とにかく二人は無事、城へ帰ることが出来たのです。
結婚話もなくなり、もとの平和な生活に戻ったオーソンとエヴァ姫。が、食堂には大量の網の目メロン(マスクメロンというらしい)が転がっています。
網の目メロンを食べたがっていたエヴァ姫のために、オーソンが買ってくれたのです。
嬉しさのあまり、オーソンの腕にだきつくエヴァ姫、今日もお城は平和です。
お気に入りphrases
やっぱりこれしかないでしょう・・・
「私がこの鹿を助ければ百頭死ぬところが九十九頭になる。それでいいじゃないか。」
名言です。これは、あらゆることに応用がきくように思います。
何か目標があって、でもそれになかなか到達できない人・・・そんな人に対して、
「でも、少なくとも一歩は近づいたでしょ?それでいいんじゃない?」
と言ってるような気がします。
この話を読んで思い出したのは、小学生低学年くらいの時に読んだ詩です。
作者はおろか、題名とか、詳しい内容も忘れたのですが、とにかく「小さな勇気がほしい」というものでした。
小さな勇気とは、たとえば朝、「あと5分・・・」といわずにさっと起きる勇気。明日の用意を、「朝しよう」と思わず、前の夜にできる勇気。あと1回ゲームをやりたくても、そこでやめる勇気、そういうものです。
一つ一つは些細なことだけど、それをこなすことによって大きな勇気を持つ人間になれる、そんな内容だったと思います。
エヴァ姫は、100頭の鹿のうち、1頭しか助けられなくても「それでいいじゃないか」と言える人です。
大事なのは「それでいい」と言い切るのではなく、「それでいいんじゃないか?」って語りかけています。柔らかいです。
多分、100の目標を持っていた人が1とか10とか30とか、程度の差こそあれ、低い達成率しか残せなかったとき、ものすごく自分を責めるでしょう。人によっては99.9999.....でも、100%ではないことで自分を責めたりします。
でも、達成率が問題なのではなく目標に対して何か行動を起こしたことを評価する・・・そこで、1%しかできなかったんだから意味が無い、と思ってやめてしまえば何も出来なくなります。
「どうせ世界中の狩りをやめさせることはできない」と思って鹿が狩られるのを「仕方ない」で済ませてしまえば、そこで終わりです。
「少しだけ進んだ」「1頭だけ助けらた。」だから、たとえ少しでも、進むことはできた。それでいいんじゃないか?
これを積み重ねれば、時間はかかっても目標は達成できるはずです。「継続は力なり」ってことわざがありますが、これと軌を一にするものだとも思います。
小さな達成を「それでいいんじゃないか」と人にも自分にも言えることが、優しさや余裕につながります。
そして、そういった小さな勇気の積み重ねが大きな勇気に、知らない間に変わっています。
そうはいっても小さな勇気だって持とうと思うと大変なんですけどね^^;
できることからはじめよう、たとえ小さなことでも、その小ささに落ち込むのではなく、一歩でも半歩でも進めたことに意味がある、
そんなメッセージが込められている気がします。
ところで、エヴァ姫とオーソンに馬を送ったのは、ブランシェ伯爵なのか恩返しをしたかった鹿なのか・・・
どう考えてもブランシェ伯爵でしょうけど・・・これは、他の物語にも共通しますが、エヴァ姫は敵にすら一目置かれる正真正銘の君主です。
だから自国の王制反対派ですら、自分の方針は変えなくてもエヴァ姫に「ご多幸を」という言葉を残したのだし、後に、ほかの国の元王子が、王制復古クーデター失敗後、エヴァ姫のもとに身を寄せるのです。
100頭のうち、1頭しか救えなくても「それでいいじゃないか」といえる一国の王女。銃を向けられても、撃たれたオーソンを自分の背後に匿う王女。いくら貧乏でも、スパイに利用されて国が豊かになるのはきっぱりと断る王女。
ブランシェ伯爵は、自分の仕事の観点から見れば敵であるエヴァ姫を、何か大きなものを背負った人間としては認めたのだと思います。だから馬を送った。
エヴァ姫も、ブランシェ伯爵のそういう心の機微が分かったから、複雑なブランシェ伯爵の気持ちを察して、「助けた鹿が伯爵の姿を借りて恩返しをしてくれた」と解釈したのでしょう。
考えて見れば、鹿もブランシェ伯爵もエヴァ姫に助けられたのかもしれません。
鹿は直接命を助けられ、ブランシェ伯爵は、油断のならない諜報活動の中でひととき、敵であっても認められるほどの人間に出会って安らぐことができた。
明日からはまた敵でも・・・それでいいじゃないか。
そんな感じで、「それでいいじゃないか」一色でこのお話を終えようと思います。
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