遠藤淑子『退引町お騒がせ界隈2』


『退引町お騒がせ界隈』とは、退引町に住む住人達の日常のどたばた劇を描いたもの。もともとは読みきりで書かれた数編の短編が好評だったので、改めて退引シリーズとして連載されたものです。登場人物のほとんどは『退引町1丁目15番地』で出てきていますが、主な人々として、
  • 中西一家(28歳父&27歳母&10歳一太、ホームランハイツ在住)
  • 森先生(売れない小説家)
  • 勇翔高校女子バレー部(いつも定員ぎりぎり。試合にも勝てない)
  • 若様(昔は名門だったため、未だに一定の年齢以上の町民から尊敬を集めている。現在は陶器で生計を立てています)
  • なぎさちゃん(美人のニューハーフ。よく女と間違えた下着ドロに下着を盗まれる。ホームランハイツ在住)
  • カンゾー(勇翔高校女子バレー部の一員、松浦の飼い犬。遠藤先生が実際に飼っていた犬がモデルになっている模様)です。

    『第12話』

    あらすじ

    今回の主人公は小学生の明子ちゃんと飼い犬ロク。
    友達のみなみちゃんの家へ泊まりにいっていた明子ちゃんのもとに、朝早くお兄ちゃんが迎えに来ました。ロクが死んだと言うのです。
    ロクは今年で14歳の老犬。昨日みなみちゃんの家へ行く時に声をかけても返事をしませんでした。だから、年を取ってそろそろ死ぬかもしれないと思ってはいたけど、「死」がぴんと来ない明子ちゃんは、現実にロクが死ぬなんて考えていなかったのです。急いで帰って横たわったロクに触れると、まだ温かさが残っていました。
    もともとロクは、お兄ちゃんが幼稚園帰りに拾ってきた犬です。明子ちゃんが生まれる前から家にいるのです。
    ロクが好きなのは食べ物を持っている人。だから食べ物を持ってこない郵便配達の人には良く吠えて、うるさいから吠えないように注意すると今度は泥棒が入っても吠えない、応用の聞かない犬でした。
    よく首輪を抜けて近所のゴミ箱を漁っていたこともあります。とても大人しい犬でしたが、1度だけ怒ったことがありました。明子ちゃんがロクにあげたパンをおもしろ半分に取り上げたときです。ロクに吠えられた明子ちゃんはびっくりしてロクを叩いてしまいました。あとからお兄ちゃん食べてる途中に取り上げたお前が悪い!と注意しましたが、飼主にほえる犬は吠えないようにしつけなきゃ!と反抗し、お前のはしつけじゃなくてただの八つ当たりだ、とさらに叱られてしまいました。
    反省した明子ちゃんが謝ろうとロクの元へ行くと、ロクは何事もなかったように嬉しそうに擦り寄ってきます。無邪気なロクを見て、明子ちゃんは自分が世界中で一番意地悪だと思い、ロクに謝ります。
    そんなたくさんの思い出と一緒に、明子ちゃんとお兄ちゃんはロクを裏の山に埋めました。
    「動物が死んだらかわいそうだから、もう飼わない」
    ロクのお墓の前で明子ちゃんは言いますが、お兄ちゃんは、
    かわいそうなのは動物じゃなくて自分だろう?でも、死んだらいっぱい泣いてあげないと動物がかわいそうだよ」
    と言います。お兄ちゃんの言葉にうなずく明子ちゃん。また行く当てのない動物がいたら家に来てもらおうね、でもロクのことも時々思い出してあげようね、と言いながら、二人は家路につきました。

    ひとことコメント
    動物を飼ったことのある人なら1度は考えたことのある動物の死。確かにかわいがってい動物に死なれると悲しいから、もう2度と飼わない!って言ってる人はよくいますが、結局また飼ってしまうんですよね。それはそうとお兄ちゃん、20歳にしてはできすぎた人格の持ち主だ・・・


    『第13話』

    あらすじ

    退引町に新しくやってきたお巡りさん、江藤巡査は静岡出身のせいかとてもサッカー好き。少年サッカーチームを作ってコーチを務めるほどです。当然サッカー好きの一太もチームに入って一生懸命練習しています。
    そんな江藤に恋の予感。実は毎日決まった時間に練習場を通りかかり、少しだけ練習を見ていく女の人が気になるのです。
    ある日彼女が江藤に手を振りました。おおっ!と喜ぶ江藤。が、実は手を振っていたのは一太に対して。彼女は中西母なのでした。が、あまりに若いのでまさか母親だと思わず、江藤は彼女を一太のお姉さんだと早とちりしまいます。
    かっこいいところを中西母に見せようと張り切る江藤。けれど張り切りすぎてついていく子供達は大変です。
    母ちゃんが来ると監督が張り切って大変だから、買い物帰りにあの道を通るのやめてくれ、と訴える一太。が、ぱったり来なくなった中西母に会いたくて、江藤は練習試合を計画します。試合となれば父兄は見に来るはずだから。
    でも、まだチームを組んだばかり。散々な結果で終わってしまいかっこ悪いところを見せてしまった江藤は今度こそ勝つんだ!と燃えます。やってられない、とばかりに練習を抜け出した一太と友達の川上。アイスを食べているところを江藤に見つかって逃げようとしますが、運悪く不良高校生にぶつかってしまい、絡まれます。
    助けようとする江藤。が、それより先に通りかかった中西母が「うちの子になにすんのよ!」と高校生を倒してしまいます。
    既婚、子持ち、しかも見た目とはうらはらに暴れん坊な中西母・・・江藤巡査、失恋です。というわけで、江藤巡査の行き場のない情熱は子供達に向けられ、練習はさらに過酷さを増すのでした。

    ひとことコメント
    江藤巡査の一人よがりのかっこつけがなかなか面白いです。


    『第14話』

    あらすじ
    中西母は、一太が赤ん坊の頃に使っていたおもちゃのオルゴールを取り出します。天井に吊るす赤ちゃん用のやつ。南奈のために出したのでした。でも、吊るして動かしてもすぐに止まってしまいます。電池が切れているのです。
    僕が買ってくる、と家を出た一太は喫茶店で中西父が女の人と居るのを目撃。一太に見られたことに気付いた中西父はあせって喫茶店から出てくると、今のは見なかったことにしてくれ、と小遣いを渡して一太に頼みます。当然中西母にも内緒です。一太はさらに、中西父が同じ女の人と一緒に高そうなマンションに入るところも見てしまいます。見られた中西父は一太のいいなりで、何かおかしいな、とは思いますがそこは子供。おかしいということはもっと高いものがねだれる!と喜びます。
    一太にそこまで頻繁に見られているということは、他の人にも見られているということです。中西父、間柴さんやなぎさちゃんにも見られていました。が、中西母はそれを聞いても慌てません。真田さんという女性がマンションのリフォームを依頼したことを知っているからです。だから仕事で彼女のマンションに通っているんだという説明に間柴さんやなぎさちゃんは納得しますが、一太は、だったらなんで自分に口止めするんだろうと疑問に思います。
    ある日一太と一緒に買物した帰り、中西母は骨董品屋を見つけます。中西母はアンティークが大好き。嬉しそうに品物を眺めていると、そこに真田さんが通りかかりました。真田さんは中西母にいいリフォームをしてもらったお礼をいいますが、中西母の心中は穏やかではありません。真田さんの家の改築はとっくの昔に終わったことが会話から分かったのです。不安がよぎった中西母。美人で品のいい真田さんに比べて自分は生活に疲れてきてるな〜と思い、ついつい高い化粧品を買ってしまいます。
    そんな今日は十五夜ススキにだんごを沿えて飾って見たり、浴衣に買ったばかりの化粧品を使ったりと、真田さんに会った中西母は気合を入れておしゃれをします。
    でも中西父はそんなことには気付かない。情緒もへったくれもなく、せっかく飾っただんごもとっとと食べてしまいます。
    夕食時、真田さんの仕事はもう終わったんじゃないの?と問い質す中西母。でも実は予算が余ったのでトランクルームの改造も引き受けています。会社を通していないので真田さんには口止め中。じゃあ内職?と尋ねると、なんと無料で引き受けたとのこと。なんでそこまでサービスするの?と聞こうとした中西母ですが、いきなり中西父に「高い化粧品使ってる割に効果がない」と言われ、かっとなってちゃぶ台をひっくり返してしまいます。
    「なんでぼーっとしているくせに妙なところだけ気がつくの!?」
    ・・・中西母、怒りが収まりません。
    怒る中西母の頭上ではおもちゃのオルゴールが鳴っています。そういえば、と思い出したのがこれを買ったときのこと。丁度一太を身ごもっていた中西母はマタニティブルーの真っ只中で、子供なんか生みたくない!と喚いていました。
    そんな中西母を気分転換にと散歩に連れ出す中西父。けれど、若い二人には話す言葉が出てきません。無言で歩く中西母の目に。骨董品屋が飛びこんできました。思わず中に入った二人。中西母は箱型のきれいなオルゴールに心を惹かれます。
    お店の人が気を遣って鳴らしてくれました。曲は『ブラームスの子守歌』17歳の少女が妊娠しているなんて思わない店員さんは、お嬢さんにはまだまだ縁がない曲ですけど、などと言いますが、中西母はこの曲がかなり気に入った様子。
    それを黙って見ていた中西父はそのオルゴールを買おうと言い出します。ほんの二、三千円だと思ったのです。でも実は28万円もするオルゴール。中西父に買える訳がありません。で、すごすごと骨董品屋を出た二人は、隣のおもちゃ屋で同じ曲を奏でる赤ちゃん用のオルゴールを買ったのでした。
    数日後、実家へ遊びに行こうとバスで移動途中に中西母は中西父が真田さんと楽しそうに歩いているのを目撃してしまいます。休日出勤だと言って出かけたくせにこれは何!?と怒り心頭のまま、中西父の帰りを待ちます。
    「大事な話がある」と言う中西母ですが、中西父はその前にこれを開けて欲しい、と小さな箱を渡します。開けて見ると、中から出てきたのはオルゴール。結婚10周年のお祝いです。
    実は中西父、真田さんの家でこれを見つけたのです。10年前、中西母が欲しがっていたものに似ていると思った中西父は、真田さんに事情を話し、無料でトランクルームの改造をする代わりにオルゴールを譲ってもらうことにしたのです。驚かせようと黙っていたけど、隠すのはかなり大変だったと話してくれます。
    この人はそういう人だった・・・
    オルゴールを見つめながら、中西母は改めて思います。いつもぼんやいしているくせに、妙な所にだけは気がつく人。分かっていたはずだったのに疑ってしまった自分。でも全部中西母のためだったのでした。
    分かってしまえば嬉しくて仕方ない中西母。その日は遅くまで何度も繰り返しオルゴールを聞いていました。

    ひとことコメント
    やはり中西父は、嘘はいけないけど黙っているのはいい、という主義の人のようです。ある意味徹底してるかも・・・う〜ん・・・^^;


    『第15話』

    あらすじ

    最近退引町には放火が多い。で、アパートを焼け出された小原康さんがホームランハイツに入居します。が、この小原さん、ちょっと変。アパートの住人を紹介されて間柴さんが刑事だと聞くとちょっとぴくりとします。(『ハネムーンは西海岸へ』を呼んでたら正体丸分かりだけど・・・っていうじゃ、正体ゆーほど大層な正体でもないし・・・)
    今夜も放火が起こります。が、野次馬達の中に小原がいないことを不審に思う一太。なのに放火現場の写真をお巡りさんに見せてもらうと野次馬の中に映っています。
    翌日、トイレに起きた一太が何気なく窓を見ると丁度小原さんが帰宅するところ。そしてその直後、やっぱり火事が起きるのです。小原さんに対する不信感は募ります。
    そんなある日、学校が帰りの一太は小原さんが他人の家を覗いているところを目撃。何してるのかと聞くと猫を探してるのだとにっこり笑って説明され、小原がいい人なのか悪人なのか分からなくなる一太。
    もし小原さんが覗いていた家が火事になったら彼が放火魔だと考えた一太は落ちつかなくなり、夜中に見回りに出ました。
    何か物音がすると思って近づくと、そこには小原さんが言っていた通りの猫が。猫を追いかけていると、再び火事が起こるのです。
    かけつけた小原さんと通りかかった間柴さんが慌てて消しますが、一太は小原さんが放火魔だと確信し、間柴さんに告げます。
    が、実は小原さんは探偵事務所に勤める下っ端探偵。飼主に依頼されて猫を探しているのですが、どういうわけか追っている猫が出現する場所が火事になるのだと小原さんは言い出しました。
    第16話に続く・・・


    『第16話』

    あらすじ

    猫の出現現場が火事になると突拍子もないことを言い始めた小原さん。当然間柴さんも一太も相手にしません。けれど学校帰りにたずね猫の張り紙を見た一太は、飼主の所へ行って本当に小原さんが探偵社の人で、依頼されて猫を探しているだけだと知ります。
    疑いは晴れたものの、やっぱり納得できない一太は、小原さんが夜中に家を出たのを知ってあとをつけます。
    小原さんは、放火魔が猫の行く先々に火をつけているのが気になっていました。そこで次にそこが行きそうな空き地を予想すると、はらっぱの一軒家になります。行って見ると、確かに猫がいました。
    捕まえた、と喜んだのもつかの間。一太と小原さんは猫の飼主の隣に住む浪人生に捕まってしまいます。浪人したのを猫がうるさかったからだと逆恨みした浪人生が、猫を追いかけて焼き殺そうとしていたのです。
    ちょっとノイローゼ気味の浪人生は、一太や小原さんも一緒に焼き殺そうと火をつけて逃げてしまいます。小原さんは口で一太の縄をほどき、逃げて人を呼んで来ほしいと言いました。
    猫にくっついて狭い天井裏から逃げ出す一太。煙に巻かれそうになりながらも必至で逃げ出し、間柴さんに助けを求めます。
    おかげで無事、小原さんも助かり、浪人生は当然逮捕これにて一件落着。
    小原さんに「偉かったね」と言われて安心した一太はほっとして泣き出してしまいました。

    ひとことコメント
    間柴さんに続いて他のお話のキャラ小原さん登場。ちょっとびっくり。だって印象の薄いキャラだったから。もしや遠藤先生は気に入ってる?もしくは単に探偵役だからまあいいや、って感じで使ったのかなー?


    『第17話』

    あらすじ

    久々登場星ゆかり。もう忘れていました。
    しかし、今まで目立ちながら生きてきた星ゆかりにとって、ここまで目立たないのはかなりの屈辱。もとはといえばこんな地味なアパートがいけないんだわ!とお父さんに頼んでマンションを買ってもらうことにします。
    とはいえお父さんはアラスカ在住。星ゆかりはひとりで部屋を探しまわりますが、どこの不動産屋も高校生の彼女を相手にしてくれません。
    いらいらし始めた星ゆかりはお金ならいくらでも出すからと、ちょっと胡散臭そうな不動産屋に出向きます。
    その頃星ゆかりのペットシマウマチャッピーを預かっている若様は、星ゆかりが不動産屋をうろうろしていることを耳にします。
    なんだか怪しげな部屋を連れまわされる星ゆかり。けれど久しぶりに不動産屋にちやほやしてもらって何となくいい気分。ところがいざ契約になると、森先生と間柴さん(多分?)が乱入し、契約はご破算になってしまいました。
    怒る星ゆかり。そこへ現れた若様は、あの不動産屋はあまり評判がよくなくて、契約しかけた部屋も手抜き工事なのだと話します。
    そうは言われてもこの町では地味で、なんだか自分は必要ないんじゃないかと感じてしまう星ゆかり。若様は、
    「いつか自分を必要としてくれる人は現れるし、それはこの町に住んでるかもしれないよ。それに役に立ちそうにない歯車の一つだって、必要だから作られている」
    と話してくれます。
    若様の言葉に引越しを思いとどまる星ゆかり。ただし、歯車の一つなんて嫌です。きっと飛び出すはとになってみせる!と決意を新たにする星ゆかりでした。

    ひとことコメント
    ぼ〜っとしてる若様の割りには大活躍でした。でも、説得の論理がいまいち分かりません。『山あらしのジレンマ』でも、隆太郎がアメリカへ行かない理由を、「変わろうとするよりこのまま頑張った方がいいかもしれないから」と言ってるのですが、変わったほうがいいことある可能性だって平等にあるもんね。隆太郎はそれでも家族や友達が日本に居るから分かるのですが、星ゆかりは来たばっかりだからいなくなっても別に・・・あ、そういう風に「私なんていなくなっても別に・・・」って後ろむきな考えで出て行こうとしたのがいけなかったのかな?


    『第18話』
    あらすじ
    中西母がテレビ番組の懸賞でロンドン、ペアで7日間の旅を当てました。が、興奮した中西母は階段から落ちて足を骨折。ロンドンには行けません。
    中西父も、1週間も仕事を休むのはちょっと難しそう。とりあえず一太が行くことになりましたが、誰と行くかは決まっていません。
    この話は町内中に伝わり、ロンドンへ行きたい皆様のチケット争奪戦が始まりました。ロンドンへ行きたいがためにみんな一太に贈り物やら袖の下。さらに噂に尾ひれがついて、一太は留学することになったり名前がチャールズになったり・・・。
    ちょっとうんざりし始めた学校帰り、一台の車が一太の元へやってきます。
    出てきたおじさんは、中西父が工事現場で怪我をしたと言い、慌てた一太は車に乗り込みますが、連れて行かれたのは人気のない倉庫。いつの間にか中西一家は一億円当たって世界1周旅行をする!というところまで話に尾ひれがついており、間に受けた誘拐犯に誘拐されたのです。
    誤解だと説明する一太ですが、誘拐犯は会社が倒産しそうだから頼むから貸してくれ、と頭を下げます。気の毒だけど助けられないなーと思っているところへ、町の人たちが集団で助けに現れます。
    いつの間にか誘拐犯を捕まえた人間がロンドンへ行けるということになっており、一太が「かわいそうな人だから許してやって」と言ってもみんなでよってたかって誘拐犯を吊るし上げにかかります。
    町の人の浅ましい姿に腹を立てた一太は、思わず「おれはロンドンなんか行かないから、みんな勝手にどこでもいけばいい!」と怒鳴ります。
    そこへ現れた中西父。緊迫感のかけらもなく「じゃあ俺が行くー。休み取れたんだー。誰か一緒に行こうよー。」
    が、ぼ〜っとしている中西父。一緒に行けば忘れ物をしたり時間を間違えたり、きっとひどい目に遭うに決まっています。というわけで潮が引いたようにみんなそそくさと辞退。結局一太が中西父と一緒にロンドンへ行くことに決まりました。

    ひとことコメント
    小・中学生の時ってこういう場面ありました。みんなで一人を吊るし上げて、それを正義だって思うの。それとかイベントでプレゼントが出るって聞いたらみんな血眼になって、喧嘩したりしてね。冷静になってみると別にものすごく欲しいものじゃないし、そんな程度で熱くなって喧嘩するなんてばかばかしい、って思うんだけど・・・。流されちゃうんだろうな〜人間って。


    『第19話』
    あらすじ
    というわけで、中西父子、ロンドンへ旅立ちます。早速ガイドブックを機内に忘れたり入国審査官を怒らせたりの中西父。一太の前途は多難です。
    おまけにロンドン市内は空気が悪いのか、のどが痛くなる一太。そこで中西父は空気のよい郊外へストーンヘンジを見に行くことにします。そしてお約束通り道に迷ったまま日は暮れて・・・
    仕方なくホテルの置いてあったチョコレートをかじる中西父子。と、そこへ犬が襲い掛かってきます。チョコレート好きの犬だったのです。
    申し訳なく思った飼主の奥さんは、二人を自宅へ招待して、泊まるように言ってくれました。日本ですら高校生に間違えられる中西父は、イギリスでは中学生くらいに見えている模様です。かわいそうな兄弟だと思って親切にしてくれているようでした。
    奥さんのご主人は事故で入院中。家にはおじいさんと娘のエミリーがいましたが、二人とも日本人が来たと聞いて敵愾心を剥き出しにします。実はエミリーのお父さんは、観光客の日本人の慣れない運転の撒き添えを食って事故を起こしたらしいのです。
    翌朝、学校へ行くついでに中西父子を駅まで送るよう言われたエミリーが、その怒りをぶつけるのですが、英語が分からない一太達は呑気に「パードン?(意訳:なになにー?もっかいゆってー?)」と聞いてしまいます。カッとなったエミリーは突然走り出しますが、渡ろうとした橋が腐っていて、川に落ちそうになりました。エミリーを助け様とする一太と、その一太を助けようとする中西父。親子仲良く川に落ちてずぶ濡れに。
    自分のせいで二人がずぶぬれになったことを気にするエミリーですが、急かされて学校へ向かいます。
    そして、放課後家へ帰ってみると、まだ中西父子はいました。お母さんは、ずぶぬれだったから服を乾かすついでにもう一晩泊めてあげるんだといいます。自分のせいでずぶぬれになったんだ、と思ったら文句の言えないエミリー。中西父子は泊まる気満点でにこにこしています。

    ひとことコメント
    たしかに人が真面目に話してるのに「ごめん、も一回言って」なんて言われると腹立つかも。言葉は分からなくても雰囲気でやばそ〜とか分かれよ〜^^;


    『第20話』
    あらすじ
    引き続きエミリー宅にお世話になる中西父子。中西父はお礼代わりに屋根の修理をします。修理後大工道具をおじいさんに返しに行った一太は、おじいさんが作った椅子を見て感心。おじいさんは家具職人なのです。
    椅子を誉めると嬉しそうにするおじいさん。少しだけわだかまりが解けつつある様です。でも、エミリーとは打ち解けないまま、今日こそは帰る日です。
    お土産に奥さんからチョコクッキーをもらって駅へ向かう中西父子ですが、チョコ大好きの犬にやっぱり食べられてしまいます。犬を追いかけてきたエミリーと話していると、近所のおばさんが車で通りかかりました。エミリーの家の前にお医者さんの車が止まっていたけど、心臓の悪いおじいさんに何かあったんじゃないかと言うのです。
    真っ青になるエミリーを、おばさんは家まで送ってくれますが、一緒にいた中西父子を知り合いだと思って無理やり車に詰めこみます。
    お医者さんは近くに来たから立ち寄っただけでおじいさんは問題ないと分かりましたが、奥さんはせっかく来たんだから帰国日までいるよう勧めまて、返事もきかずにご主人のお見舞いに出かけてしまいました。
    中西父子を嫌うエミリーと、それを感じとっていらいらする一太は言葉が通じないのに大喧嘩。中西父は言い過ぎだと一太をたしなめますが、どうせ日本語だから何を言っても分からないという一太。分からなくてもエミリーを傷つけたことに変わりはないと言われて、謝ろうとエミリーの元へ戻ります。
    が、突然おじいさんが心臓発作。どうしていいかおろおろするエミリーを助けて、さすがはいざと言う時の中西父。薬を飲ませて救急車も呼んで、おじいさんはなんとか助かりました。
    そして帰国の日。エミリーとおじいさんが見送りに来てくれました。やっと素直になって謝り合う一太とエミリー。お互い何を言っているかは分からなかったけど、エミリーは笑って見送ってくれました。
    そして帰りの飛行機で・・・一太はお土産を買っていないことを思い出しました。
    ・・・というわけで、中西父子のロンドン土産は成田空港と印刷された包装紙に包まれたハワイ名物マカダミアナッツ・・・。

    ちょっと長めのコメント
    言葉は通じなくても気持ちは伝わる・・・ということで。
    英語って、英語圏じゃない人との方が通じやすいです。だって自分は英語が苦手。だから一生懸命相手の言うことを聞き取ろうとする。それから相手も英語が苦手。だから伝わりやすいように丁寧な英語で話そうとする。お互いがそういう努力をして相手が何をいいたいのか、聞き取るのではなく感じ取ろうとするから伝わりやすくなるのでしょう。
    ところで遠藤ワールドの一貫したテーマの一つ、「山アラシのジレンマ」がここにも出てきます。エミリーとけんかした一太と中西父の会話です。
    中西父「動物はわけの分からないものが近づくと防御して、もっと近づくと攻撃するようできている(だからエミリーと一太も言葉がわからないもの同士攻撃し合ってしまう)」
    一太 「だったら近づかなきゃいい」
    中西父「でもそれだとさびしいんだよ」
    さびしいけれど、抱き合おうとして近づくと意志に反して傷つけ合ってしまう。でも、ちょっと立ちあがってお腹とお腹を合わせれば傷つけ遭わなくて済むってことで、少しだけ思いやりとか想像力を働かせるとか相手の立場を考えて見ればそれで済むかもしれないことは世の中たくさんあるんだろうな〜と思います。


    『第21話』
    あらすじ
    中西一家は4人家族。2DKではそろそろ手狭になってきました。
    「いつか俺がアルハンブラ宮殿みたいな家建ててあげるから」と大見得を切る中西父を一笑に付しながら実は嬉しい中西母。ゴミを捨てながら一太に「きっといつかアルハンブラ宮殿みたいな家を建ててくれるわ」と笑っています。
    そんな中西母子を柱の影からじーっと見る大家さん・・・怪しい・・・。
    学校へ行くと、先生に用事をいわれました。次の学校のことでみなみちゃんに話があるから呼んできて欲しいと言われたのです。
    次の学校?と疑問の一太。実は最近みなみちゃんと疎遠です。思春期ですから、一緒にいるのが恥ずかしいみたい。最近では「みなみちゃん」と呼ぶこともなくなって、苗字で呼ぶし、一緒に帰ることもなくなりました。
    次の日学校へ行くと、「転校するんだって・・・」「みなみちゃんが・・・」という会話をしていたクラスのみんなが、一太を見てぴたりと話をやめました。まさかみなみちゃんが転校?なのに自分には何も言ってくれなかった!と怒った一太ですが、怒っているのはみなみちゃんも同じ。一太が急によそよそしくなったのに腹を立てていたのです。
    当然けんかになる二人。落ちこむ一太に、中西父はみなみちゃんに謝るよう言います。
    「みなみちゃんの方が先に怒ったのになんで僕があやまるの?昔はあんな子じゃなかった。みなみちゃんは変わった」と言う一太ですが、
    「みなみちゃんは、変わったのは一太の方だって思ってるよ」
    と言われて謝る決意をします。
    「なんでも変わってしまうけど、けんかしても次の日には仲直りできることだけは変わらなきゃいい」とみなみちゃんに伝える一太。めでたく仲直りして、日曜にクラスメイトみんなでお別れ会があることを教えられます。
    みなみちゃんを見送るつもりでやってきた一太。しかし、黒板には「さようなら中西一太くん」の文字が・・・。
    みなみちゃんが先生に呼ばれた「学校」は「児童会の交流学校訪問」の略。
    一太の転校は、早とちりした大家さんがいい触らした結果。再び噂に尾ひれがついて、大変な事態に追いこまれました・・・。


    『第22話』(最終話)
    あらすじ
    いつの間にかマイホームを建てて引っ越すことになってしまった中西一家。誤解を解こうと必死ですが、誰も聞く耳もちません。そうこうしている間にも住宅ローンの案内やら引越し祝いの品々が届けられる始末。一体どうすりゃいいんだろう!と途方に暮れていましたが、中西夫妻が一計を案じます。
    次のような芝居をするのです。
    いつもの朝、中西父&中西母がけんかをしています。しかしけんかならいつもしているので誰も注目してくれません。そこでいつもやられっぱなしの中西父が、中西母を殴って見ましょう。そんな天変地異、みんな集まってきてくれます。あとからどんな仕返しをされるか恐れおののく中西父ですが、中西母は乗り気です。
    で、人が集まったところで一太が転校は嫌だと言って家でしてしまったと発表。だったら引越しはやめようと話は決まって一件落着。
    途中まではうまくいきました。手に手を取り合って「引越しはやめよう!」と誓い合う中西夫妻に一同は拍手。ところが、家出しておばあちゃんの元へ行ったはずの一太がまだ到着していないとのこと。おりしもテレビでは、一太が乗るはずだった電車が事故にあったと報じられています。
    慌てて部屋を飛び出す中西夫妻。そして、ロンドン旅行が当たって浮かれた中西母が落っこちた階段から転げ落ちる中西父。が、一応なんともなかったようなので駅へ急ぎましょう。
    実は一太は、乗る電車を間違えて反対方向行きの列車に乗っていたのです。一太が無事だったとほっとした途端動けなくなる中西父。実は階段から落ちて肋骨にヒビが入っていたのでした。以来魔の階段は、「中西階段」と呼ばれることになります。
    それはともかく、無事引越しをしなくて済んだ中西一家。でもいつかは本当に家を建てて出て行く日が来るんだろうね、と言う一太に、中西父は引っ越してもきっと退引町に住んでるよ、と答えます。

    ちょっと長めのコメント
    最終回にしてはちょっと物足りないエピソードかなぁとも思いましたが、22回もやってたら仕方ないのかも。ネタがなかったのか、最後のほうはロンドンネタだけで計3回引っ張ったし。お話自体はよかったですが。おまけにロンドンに取材にいったはずだから、そりゃあ1回じゃあもったいなすぎるか・・・。
    あらすじには書きませんでしたが、中西一家が引っ越すと聞いて、なぎさちゃんもお店を持って独立すると言い出し、間柴さんは栄転で出て行くかもしれないと言い出し、星ゆかりもNYの両親の元へ行くと言い出します。結局中西一家の引越し取り消しでほかの引越し話も取りやめになりますが、その事に関して、なぎさちゃんがお別れを言われるくらいなら先にお別れを言いたかったからだと話します。
    結局みんな元通りでめでたしめでたしですが、この回のテーマって、「変わりゆくもの」だったとも思います。成長して変わっていく一太とみなみちゃんの関係に象徴されるように、いつまでも同じ、というわけにはいきません。いつかはホームランハイツをみんな出て行く(=それぞれの人生に合わせて自分も周囲もどんどん変わっていく)けど、やっぱり退引町に住んでいる(=変わって欲しくない根本のものは決して変わらない)ということを言いたいのかも。変わることも変わらないことも肯定的に受け止めて、どちらも人間にとっての真実なんだから・・・って。深読みし過ぎかな。

    ところで全22作品中、気に入った作品ベスト3!
    1位:第14話(オルゴール)
    中西母の心理が一番詳しいのってこれかな。そういえばよく出てくるし印象も強い割りに中心になってる話ってないような・・・。
    2位:第12話(ロクの物語)
    これは普段の退引シリーズとはちょっと毛色が違う気がする作品。淡々とロクと明子ちゃんの思い出が語られているのが良いです。
    3位:第9話(幼児返り)
    おせっかいなおばちゃんはやだな〜ってところに共感したので・・・というのもあるけど、感動する部分と笑える部分がなかなかバランスいいように思うし、生まれたての赤ちゃんの説明が結構リアルで面白い。

    以上で2巻も終了〜


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