『スウイートホーム』




『コットンフィールド』

あらすじ
トー山に住む、悪い魔法使い。そこへ娘だと名乗るレヤという少女が現われます。
ところが悪い魔法使いには身に覚えがありません。それもそのはず、レヤは悪い魔法使いが悪徳三昧で財産を蓄えているから、娘だと名乗って分け前をもらおうと企むただの詐欺師だったのです。
さすがに魔法使いを騙すことはできず、あっさり追い返されるレヤ。でも、トー山のふもとに住む村人達はあっさりだまされ、悪い魔法使いの娘だと信じて一生懸命接待します。
ところが、村人達がレヤをもてなすのは悪い魔法使いを恐れているからではありませんでした。実は、魔法で叶えて欲しいことがあったのです。
というのも、王様が隣の国の王様と戦争をするために、国中に綿を作れとお触れを出したのです。綿は火薬を作る材料になるのでした。綿を作れない村は、税金が3倍になるのですが、この村は湿気が多くて綿なんてできません。だから、魔法使いに頼んで綿を作って欲しい、と村人達はレヤに頼んだのです。
本当は魔法使いの娘だなんて嘘。でも、村人達に懇願されたレヤは、仕方なく再び悪い魔法使いのもとへ向かいます。
最初は、村人に綿が作れようが作れまいが俺には関係ない!との姿勢を貫いていた魔法使いですが、あまりにレヤが熱心なので、質問をしました。
「簡単に綿を作れというが、綿ができたらどなるのか分かっているのか?」
「そりゃ、綿が出来たら村の人が助かって喜ばれるんだよ。いい事じゃないか。」
レヤの答えを聞いた魔法使いは、一つだけ条件を出します。
「綿を作るにはドラゴンの香料が必要だ。お前がドラゴンの香料を取りに行くんだ。無事取ってこれたら村人の頼みを聞いていやる。私の娘と認めてやろう。」
レヤの脳裏には、自分に一生懸命懇願した村人達の姿が浮かびます。
ドラゴンは大人しいから危険がない、との魔法使いの言葉を聞いて、レヤは出発しました。
ところがドラゴンの元へ行くまでには危険が一杯。わけの分からない怪物に追い回されてしまいます。
実は魔法使いの狙いは、レヤを追い払うことでした。怪物に追い回されて逃げているうちに道に迷い、2度とここへは戻ってこない、と思ったのです。
それでも気になった魔法使いは、水晶でドラゴンの様子を覗います。大人しいはずのドラゴンは、なぜか気が立っている模様です。
やっとドラゴンの元へ辿りついたレヤですが、ドラゴンはいきなり火を吹いて襲ってきます。
逃げようとしますが、ドラゴンから逃げ切れるわけも無く、絶対絶命!と思った瞬間、魔法使いが現われて安全な原っぱに瞬間移動させてくれました。
ドラゴンは卵を抱いていたのです。普段は大人しくても、卵を守るために気が荒くなっていました。
そんな魔法使いの説明を聞き、レヤは
「恐かった・・・。」
とその場にうずくまって泣き出します。
魔法使いは、子供なの自分にすがって泣くことをしないレヤを、黙って眺めていました。
やがてレヤは、約束を守れなかったから魔法使いのもとから立ち去ろうとします。
「今まで誰かに頼られることなんてなかったから、村人に頼まれていい気分になってた。だから、綿で作った火薬で大砲を撃ったら、当たって死ぬ人がいることまで考えて見なかった。」
そう話し、自分は本当は詐欺師で、女遊びをしていそうな男の元へ娘だと名乗り出、手切れ金をせしめて生活してきたと告白します。
「魔法使いをカモろうなんてあたしがドジだったんだ。幸せな人しかサギなんかにはひっかからないってのに。助けてくれて礼を言うよ。タダで他人に何かしてもらったのははじめてだ。」
そう言って魔法使いの元を立ち去ったレヤは、その足で村人の元へ向かい、綿が作れないことを話します。
村人は、綿ができれば戦争が起こるのだと考えて、レヤを許してくれました。
ところが、村の湿地にあったワタスゲが、当然みんな綿に変ってしまいます。王様の兵隊は大喜びで綿を全部持って行ってしまいました。
そして、とうとう戦争が始まってしまいます。
が、綿で作った大砲を撃った途端、大砲が命中した場所も、大砲も、何もかもがワタスゲ野原に変ってしまいます。
戦場はワタスゲ野原に変り、結局戦争はできませんでした。
魔法使いの仕業です。
「少女趣味だなー。」
と呆れながらも礼を言うレヤに、魔法使いは、今まで出来ないことなんてなかった、でも、一番ほしい物は手に入らなかった、と話します。
「お前に騙されることでそれが手に入ると言うのなら、一つ試してみるさ。」
そう言って歩き出す魔法使いの後姿に、レヤは
「父ちゃん。」
と声をかけます。
「なんだ。」
と尋ねる魔法使い。
呆気に取られたレヤは、何度も
「父ちゃん」
と呼びかけます。その度に魔法使いは返事をしてくれるのでした。

お気に入りphrases


「綿か、やぼったいが・・・あたたかいな。」

魔法使いの台詞です。魔法使いの城に寝床を用意してやる、と言われて、レヤは、
「じゃあ布団は新しいのにしてくれる?新しい綿の一杯入った、体がうまりそうなやつ!」
というのですが、魔法使いから見れば、羽布団や絹のシーツは思いつかないのか・・・と呆れる対象です。
でもそのあと、上記の台詞が続きます。
どんなに恐くても、大人にすがりついて泣かないレヤ、寝床を用意してやると言われても、贅沢な生活は思いつかないレヤ。
それが魔法使いの気持ちを動かしたのでしょう。
それにしても、本当に多いです。血の繋がらない家族を大切にする話。
今まで一人で険しい山の頂上に住んでいた魔法使いは、「娘だ。」と名乗るレヤの嘘に騙されることで一番ほしいものを手に入れられる、と考えます。
一番欲しいものってなんなのか。遠藤作品には、これと似たようなテーマのものが多いのですが、そこから考えると、
家族=「ただいま」と言えば「おかえり」と言ってくれる人、寝るときに「おやすみ」と言ってくれる人、家に明りをつけてくれる人、帰る場所を提供してくれる人、といった感じでしょうか。
とりあえず、「そこにいてくれる人」っていうのが遠藤流家族なのかなぁと思ったりするのですが。



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