手元供養

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日経トレンディネット−2013年9月3日(火)配信
樹林墓地、ロッカー式納骨堂・・・進化した”終活”の最新事情

日経トレンディ
日経トレンディネット
2013年9月号
8月3日発売
定価550円(税込)

 エンディングビジネスが乱世に突入している。2012年の人口動態統計では、死亡者数が過去最多を記録し、日本の死亡者数は40年まで増えていく見通しだ。昨年の「流行語大賞」トップ10には「終活」がノミネートされ、イオンが各店舗で開催した終活セミナーには年間約2万人が参加するなど、人々の終活への関心も高まる一方だ。

 旅行大手のクラブツーリズムも、昨年に終活講座を開講し、都内の納骨堂見学ツアーも実施。今年9月からは、規模を拡大して開講する。さらに、インターネットプロバイダーのニフティは6月に“終活サイト”をオープンし、葬儀や墓、遺品整理などの業者と連携。資料請求や見積もり依頼などのサービスを提供するなど、終活には、業界の内外からも熱視線が注がれている。

 終活の根幹をなすのは、生前に葬儀や墓などの準備をしておくこと。葬儀は、異業種の参入が相次ぎ競争が激化する一方、「“供養産業”といわれる墓、葬 儀、仏具のなかで最も成熟していなかったのが墓。だがここ数年、多様化が明確になってきたと感じる」と言う業界関係者もいる。変化を続ける墓の最新事情を探った。




人気の埋葬法は”自然志向”

 「○○家之墓」という継承を前提とした代々の墓は、家制度の崩壊や少子化で維持が難しくなっている。「次の世代が守ってくれる保証がない、家族単位の大きな墓石を立てる魅力を感じなくなっている」と、東洋大学ライフデザイン学部教授・井上治代氏は指摘する。

 これらの事情を背景に注目されるのが、後継ぎを必要としない樹木葬墓地だ。残された人に迷惑をかけたくない、死後は自然に返りたいと考える人の増加からも人気を集めている。墓石の代わりに樹木を墓標とするもので、自然葬とも呼ばれる。樹木の下にそのまま遺骨を埋めるケース、骨つぼや専用の袋に入れて納めるケースもある。

 都立の小平霊園で募集した、ネムノキなどの落葉樹の下に共同埋蔵施設を設けた「樹林墓地」は、昨年の募集で約16倍の人気に。「500の募集に対して、応募が8169。そのうち生前申し込みが7067もあった」(小平霊園)。7月に募集した今年度も高倍率が予想されており、各地の市町村などから視察が相次いでいるという。公営墓地のみならず、民営墓地、寺院墓地にも樹木葬墓地という選択肢は増えている。

樹木葬墓地
 墓石の代わりに樹木をシンボルにした埋葬方法で、99年に岩手県の寺院が誕生させたのが最初だ。死後は自然に返りたいと考える人などに受け入れられている。墓石がいらないぶん、墓を購入するのに比べると、費用は圧倒的に安く済む。樹木の下に個別に埋葬する方法、共同で埋葬する方法、埋葬した付近に名前を刻んだプレートを設置し、周辺に樹木を植える方法など、多様なケースがある。継承者がいなくても購入できる。
 
小平霊園樹林墓地は12年に完成。墓地内にコブシなどが植えられ、献花は手前の献花台でする。 27基の埋蔵施設のうち、どこに遺骨が埋まっているかはわかる。
   
この穴を下りた先の埋蔵施設に遺骨を安置する。 墓地の断面図(イメージ)


海洋散骨は「立ち会わず業者に委託」が主流

 もう一つ、自然志向に人気なのは海洋散骨だ。海洋散骨を手がけるブルーオーシャンセレモニーの村田ますみ氏は、「開業した7年前は、葬儀社から相手にされなかったが、今では多数の相談が寄せられる」と言う。同社が開催する散骨体験会には、葬祭業者の他、僧侶や牧師など宗教者も参加する。

 散骨で最もポピュラーなのが「散骨には立ち会わず業者に委託する」ケースだ。この7月には、「低価格・追加料金不要」をうたった葬儀プランの提供で、葬祭業界を席巻したユニクエスト・オンラインが海洋散骨を代行するプランを販売開始。一律5万5000円というサービスが、海洋散骨の新たな需要を掘り起こすかもしれない。

海洋散骨
 近年、じわじわと人気が高まっている埋葬法。「船をチャーターして散骨」、「複数の家族が合同で乗船して散骨」、「散骨には立ち会わず業者に委託する」の3つのケースがあるが、業者に委託するケースが圧倒的に多いという。90年代に法務省から「節度を持って行うならば遺骨遺棄罪には当たらない」という見解が 出されてから、一般に行われ始めた。遺骨の一部を手元に残し、手元供養をすることが遺族には推奨されている。
 
   
葬祭業界を席巻したユニクエスト・オンラインが海洋散骨専用サイトを開設。     ブルーオーシャンセレモニーの散骨体験会では、喪主役が海へ高々と花を投げた。
       
   
粉末化した遺骨が水溶性の紙に包まれている。     散骨地点の緯度や経度と日時を記した散骨証明書が発行される。
       
   
船内でのセレモニーの様子     20人程度までは小型船を使う。


メカ満載!自動搬送式の大規模納骨堂

 「生花を買い、線香を携え、おけに水をくんで墓参り」・・・こんな一般的な墓参りスタイルを一変させる墓が注目を集めている。ここ数年、都心で増えている自動搬送式の大規模な納骨堂だ。

 多くは、継承を前提としない一代限りの永代供養墓で、一般的には寺院の敷地内に建てられている。しかし建物の外観は、およそ墓地にも寺院にも見えない。寺院の敷地に建つといっても、納骨の際に宗旨・宗派は問われないことが多い。

 遺骨を納めた納骨箱は、普段は収蔵庫で保管・管理されている。参拝者が専用のICカードをかざしたり、タッチパネルを操作したりすれば、納骨箱が礼拝堂・礼拝室の参拝ブースまで自動的に運ばれてくる仕組みだ。

 収蔵庫には数千の納骨箱を収納できるため、単価を下げることができ、都心に墓を建てることに比べれば手頃な値段。休憩室やセレモニーホールなども併設するため、墓参りから法要まで同じ場所で行うこともできる。

納骨堂
 立地条件が良い所が多く、大半が屋内にあるので草むしりなど墓を手入れする必要がない。天候に左右されずに参拝できるのも魅力だ。寺院の敷地内に作られるのが一般的で、墓を購入するよりもかなり安く済む。区画単位での購入が主で「1人用」、「2人用」、「家族用」など遺骨を入れる人数によって値段も異なる。ロッカー式、仏壇式、新しいスタイルの自動搬送式などさまざまなタイプがあり、三十三回忌で合祀する、数十年ごとに更新料を取るなど、収蔵期間もそれぞれ異なる。
 
両国陵苑の礼拝堂。
内壁には大理石を使用し、落ち着いた雰囲気。
すりガラスで区切られた参拝スペース。
   
敷地内には無縁になった骨を合祀する、大徳院合祀墓が立つ。
   
骨つぼが3つ入る納骨箱。普段は収蔵庫にあるが、自動的に参拝スペースに運ばれてくる(イメージ画)。
 


手ぶらで行ける”快適な室内での墓参り”

 今年2月にオープンした「大徳院両国陵苑」(東京都墨田区)は、現在までに約1700件の購入があり、うち6割が生前購入だ。子に負担をかけたくない、と考える人が大半だという。

 「檀家になることなく、大徳院による永代供養が付き、跡継ぎがいなくても無縁にならず、管理費を払い続けていれば合葬もしない。従来型の家墓と永代供養墓のいいとこ取りが人気の要因」(両国陵苑を運営するニチリョク)。

 実際に足を運んでみると、その利便性の高さには舌を巻く。掃除や草取りをする必要はなく、生花はすでに生けられている。セットされた焼香台で焼香し、手を合わせて故人をしのぶだけでよいのだ。少々物足りなさを感じるが、天候に左右されず、冷暖房完備、365日参拝できるのも魅力だ。

自動搬送式納骨堂の墓参りの手順
手ぶらで行ける快適な室内での墓参り
大徳院両国陵苑は駅から徒歩5分。
外観は普通のビルのようだが中には本堂や礼拝堂がある。
2階の礼拝堂には、12の参拝スペースが並ぶ。
ブースのように区切られた状態だ。
ICカードをかざすと、「受け付けました。
しばらくお待ちください」という音声が流れる。
扉が開き始める。
カードをかざしてから約50秒後には、収蔵庫から遺骨を収納する厨子が登場する。
焼香台で焼香をする。
線香を上げることはできない。
生花は備えてあり、掃除をする必要もない。
お参りが終わったら、終了のボタンを押す。
扉が閉じ始め、厨子が再び収蔵庫内に移動する。
   
休憩室も備わる−ホテルのロビーのような休憩室があり、全館バリアフリーだった。


ロッカー式、棚式、仏壇式・・・室内納骨堂にさまざまなタイプ

 自動搬送式納骨堂は、新しいスタイルゆえ「供養は長く続いていくもの。故障したりしないか、維持管理については不安もある」(葬儀相談員の市川愛氏)という声もあるが、都心に住む人にとっては強力な選択肢の一つになるだろう。参拝スペースも、ブースで区切られていたり、個室での参拝が可能などそれぞれに特色がある。

 室内の納骨堂には、自動搬送式以外にも、個別の収蔵庫が並ぶロッカーのようなもの、棚に骨つぼがずらっと並ぶ棚型のもの、位牌と遺骨を別々に納めるスペースがある仏壇式のものなど、複数のタイプがある。

納骨堂にはさまざまなタイプがある
ロッカー式
扉の付いたロッカーのような収蔵庫の中に納骨する。最上段や最下段など、不便な位置は値段が安くなることもある。骨つぼだけを置く場合と、位牌や花などを置くことができる場合がある。
   
仏壇式
納骨する場所に参拝壇がしつらえられている。位牌と遺骨を別々に納めるスペースがあり、本尊、燭台などを置くところもある。ロッカー式より中身が充実している印象だ。
 
和室で正座して墓参りができる
「和室で墓参り」ができるのが、関西初の自動搬送式室内墓苑である雲龍院「龍華堂」(京都市)の特別参拝室だ。1区画128万円(年間費1万3000円)と一般の納骨堂と比べると値は張る。


都心では墓を近くに移す「改装」ニーズも

 また、都心の納骨堂には「改葬」のニーズもある。代々の墓が地方にあっても、都心に住んでいると頻繁に墓参りをするのは難しい。「手続きが必要にはなるが、例え立派な墓だったとしても年に1回しか行けないよりは、墓を近くに移して気軽に参拝できるほうを選ぶ人もいる」(新宿区の東福院)。

 墓や埋葬の選択肢は複数あるが、自分の一存で決めてしまうと起こるトラブルもある。全日本墓園協会主任研究員の横田睦氏は、「墓は故人のものであると同時に、残された供養する側のものでもある。一人で勝手に決めるのではなく、墓に関わっていく人と一緒に見て、相談して決めるべき」と話す。

 

写真提供/四谷 寶珠山 東福院
写真提供/いせや、メモリアルアートの大野屋、NPO法人日本エンディングセンター