講演「ゴルフクラブの進化のお話」

 

主  催  玉川税務署 間税会

場  所  三軒茶屋 スカイキャロット

日  時  平成23年2月3日             

                             (講演概要を筆記したもので、講演内容のすべてでは有りません。 河野 善福 記)
            

講師紹介  竹林 隆光氏   ゴルフクラブ設計家   潟tォーティン顧問

東京・吉祥寺生まれ、野球少年だったが、大学進学後に父親から譲り受けた千葉カントリークラブの会員となってからゴルフにのめりこんだ。初めてのHDCPが「2」。卒業後、ゴルフの横尾製作所で仕事をしつつプロに混ざってトーナメントに出場。「1977年、日本オープンベストアマ」となった。この前後のベストアマは、76年藤木三郎、78年金子柱憲、79年羽川豊であった。氏は「29歳までに、自分でビジネスを興すことが目標だったので、プロになることは考えなかった」という。31歳時に潟tォーティンを群馬県・吉井町に設立、現在はダイワ精工の傘下にあり、世界的なゴルフクラブの設計の第一人者である。

 

「講演要旨」

ゴルフクラブは設計が非常に重要なのです。ゴルフクラブの設計家と言ってもなかなか判って貰えないのですが、私はクラブに求められるものは何か、と言うことをきちんと確立させねばならないと思っているのです。

私がゴルフを始めた時は野球少年でした。大学に入ったときは全日本学生ジュニア・HDCP5と言うことで入ったのですが、他の大学には1とか2の私より上手な人がいっぱい居たんです。1日8時間の練習を自分に課して、人よりも頑張ったのですが、よく考えてみると、私よりもうまい人が1日8時間遣れば、私は絶対追いつけないことに気がついたんです。

そこで考えまして、「ゴルフは道具を扱うスポーツなのだから、道具に詳しいほうがいいんだろうな」。という思いで、クラブのチューンナップを勉強しようと考えたのです。勉強と言っても今のように学ぶ場所が有るわけでは無いので、小金井カントリークラブのプロ室(プロが道具をチューンナップする部屋)に行って、見よう見真似でクラブのチューンナップ始めたのです。今は色々勉強する場があるのですが、あの頃にはレッスンする場が無くて、小金井のプロに「教えてください」と言ったら、「甘えるな」と叱られました。どうすればいいんだろうと思っていたら、プロに「俺が球を打つから、オマエはティーアップをしろ」と言われまして、延々とそれを遣らされたりしながらも、終わるとプロの話が聞けれるんです。とても楽しみだったのは、夕方お客さんが上がった後に、プロたちが自分たちの練習のためにコースに出るんです。そのときにプロたちが「おい竹林・行くぞ!」と言って、ティーバックを担がされて、小金井のインコースだけ廻るのです。アウトコースはクラブハウスの前で支配人が見ていますので廻らないのです。コースに出ても教えてくれる訳ではなくて、「竹林、にぎるぞ」と言われるんです。断れないので「にぎるんです」。当時、小金井のカレーは150円だったので、これを賭けましてね、プロにいじめられながら上達していきました。

ゴルフクラブを設計するときにどんなことをしたかと言うと、設計の勉強と同時に、ゴルフクラブがどんなものかを勉強しなければいけないんです。ゴルフクラブがどういう方向に向かっているかと言うことを、いろんなプロに聞く機会を周りの人に作っていただいて勉強したんです。

アーノルド・パーマーが日本に来たときに、突撃で話を聞いたこともあります。青木功には「バランスとか、フェースがどうとか」という話をしたときに、「ゴルフのクラブはよう、フイーリングなんだよ。オマエの言うことを聞いたらいくつスコアが縮まるんだ」と言われました。

オーストラリアのデビット・グラハムという、全米プロで2勝しているプロは、ジャックニクラスのクラブを企画して作ったことでも有名な人ですが、彼にも「どういう思いでクラブを作っているのですか」と聞きに行ったことがあります。

中空アイアンを造った時、アーニーエルスに打ってもらいたくて、アメリカのトーナメント会場に行ったのですが、まず、会場にクラブを持っては入れないんです。それで、「ゴルフダイジェスト」にお願いして、雑誌の企画と言うことで関係者の了解を取って入り込みました。アーニーエルスはテーラーメイドと契約をしていまして、周りにはスポンサー関係者がたくさん付いていて傍に近寄れないんです。まずキャデーにコンタクトすることにして、キャデーと仲の良いカメラマンに頼んで、アーニーエルスに説明をして、練習場で打ってもらいました。エルスは感触が良いと言ってくれたので、嬉しくて写真を撮らせてもらいました。そのクラブをキャノンオープンで使ってもらったら調子がよくって、翌々週の全英オープンでも使ってくれて優勝しました。私にとっては思い出深い出来事です。

タイガーウッズにも打ってもらったことがあります。タイガーからアーニーエルスが使ってすごくいいというので、クラブを打たして欲しいと言ってきたのです。うちのスタッフがトーナメント会場に持っていくという話をしましたら、とても契約に忠実な方で「僕は人が見ているところでは、ナイキのクラブしか打てないから、フロリダの自宅に送ってくれ」と言われたんです。自宅に送って、2ヶ月くらい経ってからクラブが送り返されてきて、「僕の望むのは低い弾道で玉が伸びて行くやつ」「だけどもこのクラブはやさしくて玉がすっと上がるので、僕の望んでいるクラブとは違う」というコメント付で返ってきました。クラブを試打していただいて、コメントつきで帰ってきたのは初めてで、あの方は真面目な人だなと思いました。

ゴルフのクラブを設計する上でとても重要なことがあって、うまい方が「このクラブはフイーリングがいいよ」と言ってくれるクラブを作るのが、いいクラブの設計者なのです。だけども我々の遣ることはフイーリングと言う物を定量化して、設計できるようにしようと言うことで、ゴルファーの言葉を定量化する作業をしています。たとえば「玉離れが早い」とよく言われるんです。ボールを打ったときにボールがフエースに付いて百分の何秒かで離れて飛んで行くのですが、「玉離れが早い」というと、「じゃあ、くっついている時間が短いんだな」とすべての人が思います。ですが、実際に測定してみるとまったく同じ時間なんですよ。でも「違うと感じるところに意味があるんだ」とエンジニアと一緒に考えて行くんです。

「ヘッドが走る」とよく言います。とても良く判るのですが、なぜ、ヘッドが走るのかと言うことが判ってなかったし、判ろうともしなかったのです。それを「シャフトのトルクのことなんだ」と調べて、それを技術者に伝えて行くのが我々の仕事なのです。当然職人たちも交えて話すのですが、彼らは「もうちょっと」とよく言う。もうちょっとは何度なのか?・・0.1度なのか1度なのか、そう言うことを数字で伝える。そんなことをして設計をしています。

こう言うことをやったので、今はコンピューターで遣っています。設計と言うことは金型を作ると言うことだけではなくて、性能を記録しているのです。コンピューターをきちんと扱える会社からは性能の悪いクラブは出てこない時代になりました。

松山英樹君は今20歳ですが18歳のとき、アジア・アマチュア選手権で優勝して、日本人として始めてアマチュアでマスターズに出場します。伊藤誠道君は15歳です。太平洋マスターズは世界中のプロが出たがる大会ですが、彼は去年のこの大会で10位に入っています。卓球ですと愛ちゃんとか、スケートですと真央ちゃんや、村上佳菜子ちゃんとか出てきました。すごいなと思うのですが、彼女たちは4歳とかから始めているのです。ゴルフで15歳とかが大人に混じって10位に入ると言うことはすごいことだと思います。10位の賞金は確か320何万円かなんです。新卒者の1年分の給料になりますが、一週間で稼ぐんです。ちなみに石川遼君は去年の賞金獲得額が1億4千何百万円ですね。さらにスポンサー契約など入れるとすごい金額になります。

石川遼君は、今ヨネックスと契約をしています。何処と契約するかと注目されていたのですが、なぜヨネックスになったかと言うと、彼が「子供の頃に、ヨネックスからクラブを支給してもらって、そのクラブで練習をしていました。ヨネックスに恩を返すために、ヨネックスと契約します」と言ったのです。良い話だと思います。このニュースが全国に流れて私もいい話だなと思っていましたが、その翌日から「家の息子がゴルフを遣っているんですがクラブを下さい」という電話が毎日架かってきました。「成績表でも付けて送ってくるならまだいいのですが、家の子が始めるから」と言うだけでクラブを下さいという親には、「自分で稼いで買って遣れよ」と言いたいのですが、「うちでは遣ってません」と言って断りました。一般の人は何処かのクラブを貰っていても、プロになるときには「契約金がいいからOOにします」と言う人が多いんですよね。

何処のスポーツの世界で聞いても、「子供はとってもいいけど親が反対だ」と必ず聞きます。自分の子供が遣ったら1億数千万円を必ず稼ぐと思っている親が多いんです。

クラブの何が進化したのかと言うことを話します。ゴルフのクラブと言うのはデザインだけで出来ていると思っている方も多いのですが、私たちは機能を進化させようと思って造っています。一番大きい進化はドライバーの進化です。ゴルフクラブのヘッドの慣性モーメントの方向性の進化です。

ヘッドの慣性モーメントというのは、ヘッドでジャストミートしたときには、ボールは真っ直ぐ飛んで行きますが、なかなかジャストミートはしません。ゴルフというスポーツはミスで組み立てられているからなのです。ボールがフェースの先端に当たったときは右に行き、手前に当たったときには左に行きます。ヘッドの慣性モーメントが大きいと言うことは、捻じられた量が小さいのでミスになりにくいと言うことなんです。ヘッドの種類によってどのくらい曲がり方に変化があるかと言うことなんですが、30年くらい前まではゴルフのヘッドは柿科の木(パーシモン)によって造られていました。木で造られていたからウッドと言うのですが、パーシモンはヘッドスピード40(平均的な人)のゴルファーが、20ミリ芯を外して打つと28メートル曲がります。今のクラブは同じようなミスショットをしても6メートルしか曲がりません。その位ヘッドは進化しています。ミスショットが出にくいようになっているのです。昔は林に飛び込んでいたボールが、今はナイスショットになるのです。

「最近練習しないけど大して曲がらない。俺って大したもんだな」と思っている人は、自分を誉めるのではなくて、道具を誉めて貰いたいと思います。

石川遼や若い人達が、良い成績を出せる理由の一つがここにあります。昔の選手はジャストミートする技術を求めるのですが、風が吹いているときに風に乗せるように、あるいは風と喧嘩させて曲がりを少なくするようにと、いろんな計算をするんです。今のクラブはその計算も殆どいらないように出来ているのです。昔の人は「だったら技の向上なんかいらないじゃないか」と言うのですが、私に言わせたら「負け惜しみ」と言いたいですね。古いゴルファーは風が身体に当たると、勝手に体が反応して低いボールを打ったりするんですね。それを遣らない若い人達が、すごくいい成績を残しているということになります。

ゴルフヘッドの慣性モーメントと飛距離は、ちゃんと同じミートをしたときにどのくらい飛距離が違うかと言うと、パーシモンでは28メートル短くなるのです。ですが、今のクラブですと6・7メートルの差しか出ません。ですから、ちょっとしたミスが全然ミスでない時代になりました。私たちが求めていたのは、ヘッドにボールが当たれば目的の場所に飛んで行く道具だったのです。競技の目的とは違うかも知れませんが、誰でもゴルフが楽しめるようにしたかったのです。2001年から2009年までは誰でも、クラブを買い換えるたびにうまくいったと思います。2008年以前に買った方はまだ買い換えたほうが良いと思います。現在は、これ以上慣性モーメントを大きくしても、もう差が出てこないところまで着ました。現在のクラブは、それ以上の進化の無いところまで着ているのです。一昨年がピークで昨年は少し下がりました。慣性モーメントを上げるということに副作用があるということが分かったので、ドライバーの進化はここに着てちょっとさがっています。これを言うとゴルフ協会の人は怒るのですが、プロでも買い替えの一番の理由は「飽きたから新しいのと買い換えたい」という理由なのです。

アイアンはどれくらい進化したかと言うと、重心の高さと言うことはあるのですが、バリエーションが広がったと言うだけで、この10年間ほとんど進化していないのです。ですからアイアンの買い替えは慎重になって欲しいのです。アイアンで一番失敗が多く、一番気を付けなければいけないのは、「クラブが軽すぎる」ということです。クラブを買い換えて軽くなったから、それだけでクラブが良くなったと勘違いする人が多いんです。ドライバーは長いから振りにくいので軽くするんです。アイアンは重かったのが軽くなっただけでよくなったと勘違いをするんです。クラブはある程度重くないと良いスイングは出来ません。アイアンは短いので軽くしたって良くならないのです。還暦前後にちょっと軽いのに替えようかなと言って、替える人が居るかど失敗するからやめたほうが良いでしょう。アイアンを替えるなら、きちんと判る人に相談をして取り替えてください。

小・中学生の養成時に、昔は養成の歴史が無かったので二通りの養成を遣ったんです。一つは軽いクラブでスイングを覚えさせ、形が出来た後で本格的に教えたのです。もう一つは、ジュニアだからと言ってボールが軽いわけではないから、重いクラブできちんと当てさせる。それで打つからちゃんと球が飛ぶんだと言う理論で練習をさせたんです。いまは明らかな結論が出てきまして、先に形を覚えさせて、次のステップで体力の向上に合わせて、徐々に重いクラブあるいは長いクラブに替えているのです。子供の成長に合わせて親が靴を買い換えたのとまったく同じ考え方なんです。子供はちょっとづつ替えて行くことで、その道具に合わせていこうとする努力で上手になるのです。

女性ゴルファーは軽いクラブで形を覚えて、次に体力に合わせて、上達にあわせてやっているのでうまくいきます。女性でずっと軽いクラブで続ける人が居ますが、形を覚えるまでは軽いほうが良いのですけれども、スイングが固まったら、競技に出る方のように男性用のクラブを使った方がよいでしょう。ボールを曲がらないように、上手に飛ばすためには、体力に合わせた重いクラブほど良いので、重いもので練習することがとても大事です。どっちもうまく打てたら、クラブは絶対に重い方が良いのです。

還暦をすぎた人は今使っているクラブで頑張って、重くて振り切れないと言うときに軽くするというのが正しい方法だと思います。われわれの年代で体力に合わせてクラブを軽くすると、スイングが小さくなるので、一瞬飛ぶのですが後が飛ばなくなります。ここでこらえることが必要かと思います。

アイアンは軽いのか適正なのかを試す方法があります。アイアンのヘッドに鉛を3gか5gくらい貼って、グリップの下にも8gから10gくらい貼って下さい。それでうまくいったら、クラブが軽すぎたんだと言うことが判ります。

ゴルフはどうやって進化していくのかというと、順番があって、まず最初はボールが進化していきます。次にクラブが進化します。正しくは変化かもしれません。クラブが変ってくるとスイングが変ってきます。スイングが変ってくると、今まで打てなかったボールが又打てるようになって、またクラブが進化します。これの繰り返しです。

プロゴルファーがクラブを替えると言うことはすごく危険なことです。いま、自分が手にしている道具で、いかに上手に打てるかと言うのがゴルフのテーマです。一つのクラブでHDCP20まで行ったとして、道具を変えましたというとき、何を遣るかと言うと、新しいクラブにあわせて又練習するのですね、ある程度使いこなすと言うことが大切です。若い石川遼や伊藤誠道が頑張れる理由を聞くと、多くの人は「子供のときから遣っているから、年は若いけどゴルフ暦は永いんだよ」と言いますね。でも、我々の時代にも3歳・5歳からゴルフを遣っている子供は居ましたが、今のように大成しなかったでしょ。重い道具で練習を始めると、その癖が付いてしまって、直すにはとんでもない時間がかかるんです。クラブが重過ぎるからショットがうまくならない。体力が付いてからもう一回ゴルフのスイングを覚えようとする。高校生くらいになって体力が付いてくると、もう一回スイングを作り直さないといけない。そこから5年たったら、もう22・3歳になってしまう。選手として入り口に立てるのが23歳になる。それが昔のゴルフだったのです。

今のゴルフは、5歳から始めても5歳用のクラブがあり、徐々に重くしていって、10年たつとあのようになるのです。昔の23歳の選手と、今の15歳の選手は殆ど同じレベルにあります。

プロは契約先が変ると道具が変ります。道具が変ると新しいスイングを覚えなければいけないんです。合うクラブと契約した選手と、会わないクラブと契約した選手は見るとすぐに判ります。あの選手はちょっと大変だなと思う選手と、あの選手はちょっといいんじゃないのと思う選手は、すぐにいい成績を残します。プロゴルファーがスランプに落ちるのは、クラブの契約先を替えて駄目になる人と、冬の間一生懸命トレーニングしたのに自分が駄目になって行く人が居るのです。道具と合わない人は、自分を変えないといけないのです。殆どのゴルファーは自分にぴったりのゴルフクラブがあると思っていますが、手にした道具をいかに上手に使いこなせるかと言うことです。自分にぴったりのクラブと言うのはないんです。使いこなせる努力をしなければならないのです。なぜかと言うと、自分が毎日・毎年変っているんです。今仮に自分にいいクラブがあったとしても、1ヵ月後には違う人間になっているのですからぴったりではないんです。その道具に何時までもぴったり合わせようとすると、危険なクラブになります。「自分で使いこなせるぞ」と言うクラブを探し求めることが大事になります。

高反発の使ってはいけないクラブがありましたが、普通のクラブに比べると間違いなく高反発クラブは飛ぶんです。今のクラブを高反発にしたらもっと飛びます。昔に比べてなぜ飛ぶかと言うと、クラブが長くなっているからです。昔は42・5インチで、今のクラブの標準は46インチなのです。ゴルフショップに行くと、ヘッドスピードや飛距離を計る測定器がおいてありますね、そこで計ると高反発のほうが間違いなく飛ぶんです。お客さんには「高反発で飛ばして、クラブを短く持って正確に飛ばしましょう。そうすると飛んで曲がらないクラブになります。」これは真っ赤なウソなのですが、ものすごく説得力があったのです。クラブは短いほうがミート率が高くて、優しいと思っている人が居ますが、実験をして見ますとまったくそんなことは無いんです。

クラブで優しいってことは何かと言いますと、3番アイアンより3番ウッド・5番ウッドのほうが優しいのです。3番アイアンは打てないけれど5番アイアンは打てる。5番アイアンよりも7番アイアンのほうが優しい。そのように考えるとクラブって短いほうが優しいと思うのですが、実際は違うのです。実はボールのスピン量がたくさんかかる道具ほど優しいのです。長い短いではないのです。バックスピンがたくさんかかるクラブがたまたま短いのです。ウッドに置き換えると、3番アイアンに相当するウッドは7番ウッドなんです。7番ウッドを難しいと言う人は殆ど居ません。ロフトが一緒なのに3番アイアンより7番ウッドのほうが優しいのは、長さよりも使い方でしょうね。3番アイアンよりも7番ウッドのほうが長いので、ヘッドスピードが上がるからでしょう。優しさを求める時に短いクラブは絶対持ってはいけません。打てない理由はミート率が悪いからではなくて、ヘッドスピードが低いからです。

私は陳清波さんに教わった練習方法で上達しました。陳清波さんがいう確実にうまくなる方法は、「練習はウエッジから始めてください。それが打てたら9番アイアンを打ってください。9番アイアンを打ってよくなったら8番アイアンを打ってください。8番を打って7番を打ち、6番を打ったら打てないと言う時。そこでどうするか、普通の方は打てないと、一生懸命に打てるようになろうと努力をします。陳清波さんの教えは6番を打つのは辞めなさい。そして7番を打ちなさい。そうするとさっき打てた7番さえ打てなくなっていることがあるんです。なぜかと言うと打てない6番をひっぱ叩いて変な癖がついている事があるんです。7番が打てなかったら8番を打ちなさい。」そう言う練習方法です。よく考えてみると、これは当たり前のことで、打てないのは、スイングが悪いから打てないんです。それを沢山打ってしまうのは、駄目なことの復讐を一生懸命遣っていることになるのです。練習場で3番ウッドを沢山打ってうまくいったといっても、翌日コースではうまくいかない。これは無理な学習をするから今まで打てていた道具も打てなくなるのです。「打てないクラブは絶対に打たない」という勇気も必要です。プロゴルファーの方でアイアンでもピンアップして練習する人が居ます。これもまた一つの練習方法なのです。打ちやすい条件・環境で打てば綺麗なスイングが身につくということです。

これって、学校の勉強と似ていませんか。急に解けない問題に当たると、その問題に幾ら取り組んでも解けないけれど、易しい問題に戻って解いていくと、突然のように前の問題が解けちゃうということがあるのです。ある人が公文式の塾とまったく同じ考え方だと教えてくれました。出来ないことを遣るのがゴルフの歓びなのですが、100発に1発に賭けてやるとゴルフが段々ヘタになっていきます。我慢するのも勇気の内かなと思います。

ゴルフ業界の現状は、これは一昨年のデータですが、クラブヘッドの製造本数は、全世界で約6,000万本作られています。そのうちの96%が中国製なのです。残りがタイ・ベトナムと言うことになります。ゴルフだけでなく製造業では当たり前のことです。当社も何年か前に国産のゴルフクラブを作ろうとしたことがあります。ゴルフクラブは地場産業で姫路・新潟が有名なのですが、もうどこも作っていないのです。そこそこ作っている会社もあるのですが、実際には量的に作れないのです。なぜ作れないかと言うと、設備が老朽化しているし、今更設備を入れても採算に合う仕事は取れない。もう一つは、3K的な仕事なので働き手が居ない。という答えが返ってきます。

国産のクラブを使っていると思っている人に、いいことではなく、私も腹が立っているのですが、食品の産地表示と同じで、ヘッドは日本では造られていないのです。ヘッドは96%が中国ですが、最終加工地が日本だったら、国産になるのです。たとえば韓国にゴルフクラブを売ろうとすると、Made in Japanでないと売れないのです。中国でヘッドを作って、中国でシャフトを作って、中国でグリップを作って日本で組み立てれば、Made in Japanとなるのです。全部中国で作って組み立てて、グリップだけ日本で取り付けてもMade in Japanなのです。当社で部品ごとに中国製ですというパンフレットを作ったところ、業界の団体からクレームが付いて、Made in Japanと表示するようにとお叱りを受けました。中国の大手3社にはそれぞれ1万人以上の人が働いています。ヨネックスもブリジストンも、96%ですから世界中の殆どのクラブメーカーは中国で作らせていると言うことになります。ただし、ラインはある程度決まっていて、キャロウエーのラインでブリジストンのヘッドを作ると言うことはありません。

日本には大小20社くらいのクラブメーカーがあるのですが、日本で国内に工場を持っている会社は2社しかありません。2社も稼動しているかどうか怪しい状態です。日本できちんと設計をするという作業が最後に残されています。今当社は社内で設計をして、金型を造る加工データを作ります。加工データに基づいて、国内で金型を作って、それを中国に送っていましたが、最近は中国が金型の加工技術まで良くなってきました。いまはデータが出来ますとそれを中国に送って、中国で金型を作って、その金型を我々は承認をして製品を作らす。そういうことになっています。大手の皆さんは自分のところでコンピューターを使って設計をして作らせています。ところが、小さいところなどは、当社が作って、社名だけのOEMで作っている会社もあります。春と秋に中国の方がサンプルヘッドを山ほど抱えてきて、自分のロゴを入れてもらうだけの会社もあります。こう言う形が益々増えてくるのかと思います。中国製品に最近問題がありタイとかベトナムにシフトしているのが現状です。

ゴルフクラブの完成品をどのくらい売っているかと言うと、全生産量の半分はアメリカで販売しています。日本もかなりのゴルフ大国で16%が売られています。残りの33%がヨーロッパ・オーストラリア・カナダ・中国・韓国・タイ・インドネシア・マレーシアなどで販売されています。最近は韓国がすごい勢いで販売数量を伸ばしており8%くらい販売しています。人口からみたら、大変な数ですね。

昔の中国は専門工場が無くて、我々も苦労したのですが、今は大規模な専門工場でよい製品が作られています。チタン製品が始めて作られたのは15年前くらいになりますが、始めに作られたときは大きさ200CCです。今のクラブは450くらいですから半分以下の大きさですが、それが中々うまくいかず、最初に300CCを越えるヘッドを作ろうとしたときには、三菱造船の協力を得て造ったのですがうまくいかず、韓国の兵器工場で作ってもらおうとしたのです。ここは兵器の生産が優先するので納期がいつになるか判らないと言われ、アメリカのカリフォルニアとか、シカゴに行っても駄目で、最後に行ったのがロシアの兵器工場でした。ミグ戦闘機の部品を作っているところです。

チタンと言うのは表面に空気が入りやすいんです。空気を圧力をかけてつぶし、出来た製品は全部レントゲン検査をするのです。「レントゲン装置をオマエのところで持ってくるなら引き受ける」と言われましたが、工場内を見ると設備があるんですね。「そこにある」と言ったら、「ウチにはあるけど、オマエのところの製品を検査する設備は無い」と言われたので辞めまして、最終的には三井造船が協力してくれたのですが、これが重すぎて、これを酸に付けて表面を薄くすることにしたのです。これの特許を取りました。

練習場のほうが最近は大変混んでいます。待つ時間も多くなっています。業界のためにはいいことかなと思います。若い人たちが、始めてくれたので、またゴルフブームも来るでしょう。どんどんクラブを買い換えて腕を上げていってもらいたいものです。私の知人には96歳で、現役でゴルフをされている方がいらっしゃいます。この方は逢うたびに30以上も年の違う私の健康を心配してくださいます。健康維持のためにもゴルフを続けましょう。

 

   【追記】

2年前までゴルフクラブは進化をしてきたのに、昨年は下げたという話をしましたが。理由は、慣性モーメントが大きくなりすぎて、シャフトが長くなりすぎて、インパクトが遅れると言うことがあったのです。一部の設計者が、「クラブは慣性モーメントだけ高めればいいのだ」というクラブ造りもしたんです。三角形や四角形もあって慣性モーメントは非常に大きかったのですが、だけど打つとだめと言うクラブでした。これがなくなったために数字が落ちたのです。ゴルファーが打つ位置は重心なのですが、シャフトが長いと自分の考える重心と実際の位置がずれてきて、デメリットが出てきてしまうのです。

パターで球を打ったときに、頭が動くのを防ぐには、パターを自分の位置で動かせるパターにすると良いと思います。長尺パターを使うのも一つの方法かと思います。