息子の部屋

    映画「息子の部屋」
  映画「息子の部屋」 監督、脚本、主演は全部ナンニ・モレッティ。 第54回カンヌ映画祭最優秀作品賞パルム・ドール受賞作品。 監督は12月6日都内のホテルで記者会見し、カンヌ映画祭で最後に名前が呼ばれたときの喜びを語った。 ごく普通の理想的な家族でもお互いの深層心理まではわからない。 突然愛する息子を無くし、その悲しみから立ち直るまでを描いた家族の物語。    訳、吉岡芳子

  【ストーリー】
 精神分析医のジョバンニ(ナンニ・モレッティ)が朝の港をジョギングしている。 ここはイタリア北部の町。 街の中を駆け抜け喫茶店で一休みする。 窓の外を「踊る宗教団体」がにぎやかに通る。 彼はその後について歩き、部屋に帰った後もその音の旋律を楽しみうきうきしている。 そこに電話がかかってくる。 「もしもし、私です。 エッ 今日?。 何かあったんですか?」

 ジョバンニが学校の受付で「校長と面会の約束だ」。 校長室でドアをノックする「どうぞ」 「おはようございます」。 ドアを開けると校長の机の前に息子のアンドレア(ジュゼッペ・サンフエリーチェ)がうなだれてイスに腰をかけている。 「やあ、パパ」。 校長が言う「まことに残念な問題が起こりまして、じつはアンモナイトが盗まれまして・・・」 「僕、やってません」 「君が自慢するのを見たという子がいるんだよ」。

 自宅にある精神科の診療室、ジョバンニが患者に話す「あなたは、自分が悪いと何でも背負い込まないで忘れるのです・・・・」。 患者は夢のことなどジョバンニに訴えている。

  夕食時妻のパオラ(ラウラ・モランテ)や長女のイレーネ(ジャスミン・トリンカ)がアンドレアのことを心配している。 パオラがジョバンニに切り出す「アンドレアの言葉を信じる?」。 イレーネが答える「5分以内に帰えればアンドレア、15分以上なら校長先生の自作自演よ」。 母のパオラは「あの子がやったと認めるの、あの子は純真よ。アンモナイトがどんなものか知らないけどね」。 そこにアンドレアが帰ッた。

 父と子は二人で車で出かける。 アンドレアの友人ルチアーノの家に行く。 「君は化石を見たんだね」。 ルチアーノが答える「袋の中は化石だったよ」 「袋を見たのか?。 袋に入っていたと言うことも知らなかったぞ」。 ”アンモナイト。 袋。 靴”

 診察室に別の患者が来ている。 映画が好きなことやポルノを見ることなどから、自分の性行動の異常性を訴えている。

 ジョバンニは息子の部屋に行く、ドアを開け電気をつけて部屋を見回す、特に変わった様子もない、ベットに腰をおろし頭を抱える。 整理された若者の部屋らしい部屋である。

 診察室にまた別の患者がいる。 自殺願望があること、今も同じであることなどを訴えている。

 ジョバンニの友達が来て隣の部屋で宿題をしている。 葉っぱを吸ったことがあるとか、何時も吸ってるから平気だ、何て会話をアンドレアがしているのが聞こえるが、パオラは動こうとするジョバンニを制して首を横に振った。

 夫婦は寝室のベットにいる、ジョバンニは本を読みパオラは寝ている。 ジョバンニが言う「疲れてる?」 「うん」 「すごく、すごく?」。 ジョバンニが軽くキスをする。 「寝巻きか?」。 パオラが「じゃまね?」といって自分で肩から下ろす。 ジョバンニが愛撫する。

 家族四人で車に乗って郊外に出かける。 ぼんやりと時を過ごす。 テニスを見る。 ジョバンニがいう「アンドレアが可愛そうだ。ステファニーに負けただろ?」「勝たなきゃならないだろ?」 「なぜ?」

 ジョバンニがジョギングの途中、妻のいる会社に顔を出す。 パオラが聞く「なぜここに奇襲を・・・・。展覧会のカタログを今、取りに来るの」。 ジョバンニが言う「最近アンドレア変じゃないか?。僕は変だと思う」。 パオラが言う「化石は盗んでないと思うわ」 「そうだ」。

 診察室に別の患者が来ている。 頭が変だと訴えている。 「先生はこのつらさを想像できないでしょう」 「できますよ」

 親子でぶらっと街に出る。 本屋に入り、運動場でたくさんの人が思い思いのスポーツ練習をしているのを見て家に帰る。

 母親が聞く「勉強は?」アンドレアが答える「終わったよ」。 少し間を置いて「ママ、化石を取ったのは僕とフイリッポだよ。 先生の慌てる顔を見たくていたずらしたんだ 昨日パパに話そうと思って散歩にでたけど話せなかった。」

 前に来た患者が診察室にいる。 「前の分析医はもっとやさしくて、話を聞いてくれた。 今日で治療をやめて、別の医者の所に行く・・・・」と告げた。

 今日は休日の朝。 ジョバンニがイレーネに聞く「今日の予定は?」 「映画を観に行く」 「登場人物も、結末もみんな聞いたものを観てもしょうがないだろ」。 その時電話が鳴る。 患者からのようで明日でダメかと言っている。 電話を切って戻ってきたジョバンニにパオラが聞く「どうしたの?」 「患者の具合が悪い。往診する。遠いから帰りは何時になるか・・・・」

 ジョバンニは田舎の道を車を走らせる。

 若者達が四人、みんな潜水用のウエットスーツを着て、ボートに乗り沖に向かって出てゆく。

 ジョバンニは患者の家に着いた。 「電話では話したくないし、次の診療日まで待てなかった。日曜日に先生を呼ぶなんて・・・・。ガンなんです。X線検査の結果わかったのです。」

 帰り道で家に電話を入れる。 「誰もいないのか?。僕だ。もうすぐ着くからね」(留守電を入れる)

 車で家に着くと外に数人の人が待っている。 「何事です?」 「息子さんが事故で・・・・。潜水中に・・・」。 ジョバンニが聞きなおす「ルチアート!。アンドレアがどうしたって?」。 ジョバンニは車を飛ばして、体育館に行く。 バスケットに熱中しているイレーネがいる。
 
三人は抱き合って泣く。 病院の待合室から電話をかける。 「ジョバンニだ。今、病院にいる。伝言は・・・・、その・・・、伝言を・・・・」切る。

 アンドレアがひつぎの中にいる。 イレーネがアンドレアの顔にキスをする。 ジョバンニが同じくキスをして「さようならアンドレア」という。 パオラが二度キスをして泣き伏す。 葬儀屋の男が蓋を持ってきてうえに乗せる。 イレーネが「ちょっと開けてください」といって覗き込む。 「ありがとう」。 蓋の周りをハンダで溶接してネジ釘が打ち込まれる。

 ベットでパオラが大きな声で泣き伏す。 ジョバンニはゲームセンターや遊具の激しく動き回る遊園地で時を過ごす。 家に帰り一人静かな部屋の机に座る。 イレーネが食事を持って母のいる部屋のドアをノックする。 「入っていい?」。 中から母の「待って・・・」という弱々しい声。 パオラはベットにいる。
 
父は診察室に入り机に座り眼を閉じている。 「パパ。パパ?」イレーネがドアの前で呼ぶが返事が無い。

 「私の人生には何の変化も無いのです。ここに来ると落ち着く、だが、今日は違う、今日はひたすら泣きたい。」

 診察室に患者が来ている。 「鎮痛剤を飲んだがきかない・・・・。彼女を愛しているのになぜか抱けない。・・・・先生の答えは何時も同じ戯言だ。」
 
 「何時仕事に復帰するつもりかね?」。 ジョバンニが妻に聞く「来週から・・・・」。 イレーネが入ってくる「学校の友達と話したわ。他のことも考えたけどミサが一番悲しくて・・・・」。

 ジョバンニはジョギングに出る、走りながら涙が頬を伝う。 イレーネは部屋にこもりCDを聞いている。 父も部屋に座り、落ち着かず、ラジオのボリュームを上げたり下げたりしている。
 
ジョバンニは潜水具店に行き店員に質問する。 「どのくらい続いて潜れるの?。 空気量は測れるの?。 空気の調節バルブはどうするの?。 圧力計は正確なの?。」。 店員は面倒臭そうにそれでも答える「空気は200入っていて50のところに予備線がある。熟練者ならあと10分は潜れる」

 ジョバンニは朝の電話のことを考える。 「今日は無理です。明日朝8時に行く」と言えば・・・・・。

 妻と二人でレストランに行く。 「外で気を紛らわすのはよいことだ」。 妻に潜水具店に行ったことを話す。 「バルブが詰まっていて空気を通さなかったのだと思う」と言う。 パオらも「引っかき傷もあったし、爪が割れていたからそうだと思う」と言う。

 夫婦はイレーネのバスケットの応援に行く。 イレーネは相手のファールにエキサイトして、相手に殴りかかり次の選手権の出場は出来なくなった。

 ミサのとき神父が言う「人生に期日は決まっている。 神のご決定だ。聖書の一部にある、いつドロボーが入るか判っていれば、なにも盗まれない」

 ジョバンニは部屋にいても気持ちが高ぶる。 室内の食器の欠けたのや、好きな花瓶の欠けたのを自分が接着したものさえ今は許せず、割ってしまう。

 室内バスケット所でイレーネが一人黙々と練習をしている。 ジョバンニが声をかける「なぜ、ここに居る。迎えに来たよ」。 「ママに頼まれたの?。二人で私に気を使ったりして」。 「マリテイと別れたの。学校では会うわ。鈍感だから私は寂しくないの。」

 ある日知らない女性から、息子あての手紙が届く「アンドレア君、キャンプから帰って来た時を覚えてる?。あなたに会ったのは一日だけだったけど、夏休みの思い出・・・・・」 「住所はかいてあるか?」 「書いてあるわ」 「彼女は知らないんだ?」 「まだ、1ヶ月もたっていないんだ。その日の服のことだって、きっと知ってるよ」。

 母が娘と洋服を買いに行く。 色も気にいって上下を買う。 パオラが聞く「ジョバンニから聞いた?。 あの子あてに恋文がきたのよ。 アリアンナという子なの。会ってみたいわ」 「ガールフレンドが居たの?」。

 夫婦ベットの中で「もう寝るわ。 彼女への手紙はまだかいてないの」 「ジョバンニ、後戻りはできないのよ」。 「あともどりをしたい」。

 朝の食卓で、誰もが沈んでいる。 パオラがアリアンナに電話をする。 「もしもし、アンドレアの親です。アンドレアは海の事故でなくなったの。(電話口で泣く)。 あなたに会いたいのだけど・・・・。 学校があるならそちらに行くわ・・・・。 今、決めなくてもいいの・・・そう、残念だけど、あなたがそう言うなら・・・・」。

 診察室に患者が来て「残念だが今日が最後、電話か手紙にしようかとも思ったが、会って挨拶したほうがよいと思って・・・・」。

 ジョバンニは台所で料理をし、パオラは手紙を書いている。 イレーネは友達とレストランで食事をしている。 ジョバンニは一人で食事をする。 みんながバラバラで口数も少なく、気分は滅入っている。 ジョバンニがグラウンドに行ってぼんやりしている。

 彼は精神科医に相談する「患者にのめり込んで、もう誰も助けられない。」と話す。 「決心を早まるな、もう少し待て」 「だが、待っても仕方が無い。いろいろのことが身に降りかかったうえに息子のことが・・・・。もう、分析医は出来ない」。「再会の日を待ちます」。

 診察室に患者が来ている。 「すべて告白させてそれで終わりか?。こけにしやがって。・・・」と大暴れ、室内をめちゃめちゃにする。 「俺は病気なんかじゃない・・・。」 「病院を閉める」。

 イレーネは旅行に行く。 友達と居る彼女は嬉々として、少女に戻りはしゃいでいる。 ジョバンニはイレーネを見送って、CD店に行く。 息子くらいの店員に「息子の友達にプレゼントしたいのだけど、君の方が息子のことを良く知っているから・・・」 と選曲を頼む。 「いい曲だから気に入るよ」と言われて、彼は「息子への贈り物なんだ。」と訂正する。 「聞いてみますか?」と言いながらカウンターに、持っていくと、まもなく、店内一杯にスローテンポの曲が静かに流れる。

 「こんばんは、アリアンナ(ソフィア・ビジリア)です。アンドレア君のお父さんですか?。奥様にお会いしたくって・・・・。」ドアの前に少女がたたずむ。 「パラオに行って今、留守です。・・パオラはもう帰ると思います」。 アリアンナが言う「彼の部屋を見たいんですが・・・・。彼が取った写真です」と言って数枚の写真を出す。 「彼が?・・・」 「部屋を見せてくれたんです・・・・」(部屋の中でおどけた顔や、格好をし一人くつろぐアンドレアの自分で写した写真だった) 「滑稽だね・・・・」。

 パオラが戻ってくる。 「あの子が来ているよ・・・・。旅行の途中で君に会いたいと・・・」。 アリアンナが言う「彼のことを聞いたとき、私は知らなくて・・・・、長い髪だったけど、最近切って・・・」。 パオラが言う「外で食事を・・・。泊まって行けば良いのよ」 「外で友達が待ってます」。 アリアンナが続ける「父は反対で、父は電話をすれば良いと言ったのですが、ヒッチハイクで友達と来ました・・・今日ジュノバまで帰ります」。

 車で、途中のガソリンスタンドまで送って行くことにした。 冷え込んだ無人の夜のスタンドでたたずむ二人が車を拾えるときを、三人は遠く離れた車の中から観ている。 しばらく待っても車が来ない。 街の大きいスタンドなればきっと拾うのも楽だろうと又、二人を乗せて五人で車を走らせる。 目的地のスタンドにつく。  「ここで降ろす約束だが、二人とも疲れてよく眠っている」 「起こさずにもっとゆきましょう」とさらに車を走らせる。

 夜が明ける。 バスの発着所のある港町についた。 ジョバンニとパオラが車を降りて朝の海を見ている。 イレーネが眼を覚まし車から降りてくる。 二人はまだ眠っている。 イレーネがいう「何処なの?。今夜試合があるのよ。失格後初めての試合なのよ!。」。 またイレーネがいう「彼女と彼はもう3年も付き合ってるんだって・・・」。 ジョバンニが口をはさむ「いや、もういい。何も言うな。言わないでいい」。

 「ステファーノ。着いたら手紙を・・・・」。 パオラが声をかけながらバスの乗り場に案内する。 二人が乗ったバスが出発する。 三人が手を振っている。 バスの中の二人も手を振る。 三人は目の前の海岸の砂浜に降りて行く。 思い思いに波打ち際をゆっくり歩みながら思う、彼女に恋人がいたことで少し気が抜けたような気持ち、でも、彼の死を受け入れ、少しづつ普通の気持ち、昔の生活を取り戻せているようで・・・・・。   終わり
                    「千年の恋」(光源氏物語)  にリンク

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