山本周五郎原作の小説を脚色した「かあちゃん」です。
「こんな世の中、映画化するなら今しかない」市川崑監督が75作目に製作し
た「かあちゃん」。 演じるのは市川作品への出演8本目の岸 恵子 「不透明 で不安に満ちた現代。 社会が信じられなくても、人を信じればきっと前向きに 生きていける」 そんなことに気づかせてくれる映画です。
天保末期、不景気、失業、暗い事件の相次ぐ江戸。 老中・水野忠邦の改革
もその効なく、飢餓による米泥棒の横行など庶民の生活は貧乏のどん底にあっ た。
荒れ放題の空家同然の家に「勇吉」(原田龍二)は泥棒に入る。 しかし家の中
には着物も、道具も、食器も、畳さえもない。 だが、そこにこの家の主が帰って くる。 勇吉は床下に隠れるが、この家の主は「お上に届ければ取られたものを 返してもらえる」と大家から聞いて、家にありそうなものを出鱈目に届け出る。
勇吉は裏口からやっと逃げ出し、近くの居酒屋に入る。 ここで酒を飲んでる
長屋の連中が「同じ長屋に住むおかつさん(岸恵子)が毎日塩をなめて、近所 との付き合いも断り金を貯めている。」という噂話をしているのを聞きつける。
おかつさんの家では5人の子供も全員集まり、足掛け3年家族みんなで稼い
だお金を改めて数えなおしている。 「総計5両2分50文、やる気になれば、や れるもんだね」とおかつさんが言う。 木箱にお金をしまって、みんなを寝かせた 後もかあちゃんは針仕事の夜なべにかかる。 かあちゃんが起きているとも知 らずに勇吉が泥棒に入る。 いきなり顔を合わせびっくりする泥棒に「シーッ。内 には大きなせがれが3人もいるんだよ、眼を覚ますじゃないかッ。静かにしてお くれ」とおかつさんは言う。 「金を出せ、金があることを聞いてきたんだ」とすご む勇吉に、かあちゃんは「少しぐらいならやる。まだ若いのにどうして泥棒なん かやるんだい」といって木箱ごとお金を見せる。
箱ごと持っていこうとする泥棒におかつさんは話を始める「この金は、長男の
友達の源さんが、2両の金を盗んで牢屋に入れられている、出てきたときに商 売ができるよう、一家みんなで稼いだ金なんだ。長屋の付き合いまで断り、けち んぼと言われて貯めたお金だよ。その源さんが明日出てくる。今の話を聞いて も、持って行くと言うならもっておゆき」と。 だまって帰ろうとする泥棒を引き止 め残り物のうどんを食べさせるかあちゃん。 「こんやから家にいておくれ、家は 狭いし人数も多いけど一人くらいは入り込める。あんた名前は?」。 「ゆうき ち・・・・」
朝早く炊事のため台所にやってきた娘のおさん(家族からはバアサンと呼ば
れている)が台所の隅にうずくまっている勇吉と目を合わせ「キヤーッ」。 おか つさんは子供達みんなを集めて「千葉の木更津に遠い親戚があり、神田の飾り 屋に勤めていたが、夕べ私を頼って訪ねてきた勇吉と言う、私は世話をしてや りたいが皆はどう思う」と聞いた。 家族みんなが賛成してくれる。
町内ではお役人が人相書きの手配書を見せながら、手配人を探している。
「年は25歳、石川島の牢に繋いでいたが、大水が出て一時釈放をしたが一人 だけ戻ってこない。しかしへたな絵で人相がよく判らない」
勇吉は娘のおさんに、牢から出てくる源さんと言う人がどんな人かと訊ねる
が、おさんは「オレ知らない」と言う。「知らない人を助けるって変だよ」と言いな がら炊事を手伝わされる。 裏口から抜け出し逃げようとするが、途中で長屋の 住人の噂話を耳にする。 「おかつさんの家の前を通ったら、魚の塩焼きの匂い がした。長屋の付き合いもしないで自分達だけとは汚い」と。 ゆうきちは堪ら ず飛びだして「それには訳がある」と言いかけるがすべてを話せない。
長男の が、牢から出所した源さんと妻、子を迎えに行き帰ってくる。 祝い
の膳に祝い酒一杯ずつでお祝いをし、おかつさんがお金の入った木箱を持って くる。 「長男の から聞いたとおり、この金は源さんが帰ってきたときすぐに商 売ができるように、家族みんなで貯めたお金や、神田緑町6丁目に家も借りて いて、いつでも商売できるようになっている。 家賃、道具代、当座のお金や。 このお金は借りるのでも、貰うのでもない、源さんたちのものや」 「みなさんあ りがとう」礼をいって源さん夫婦は泣き崩れる。 これを見ていた勇吉は「お金を 貰った源さんが喜ぶのは当たり前、みなさんまでこんなに喜んでいなさる。 い いものを見せてもらった・・・・」とつぶやく。
大家がやってきて最近、五月蝿いからと「身元あかしの書付」を求めてきた。
勇吉は皆に迷惑はかけられないと逃げ出すし河原まで行くが、娘のおさんが後 を追ってくる「私達がそんなに嫌いなのか?、勇吉さんが前に勤めていた飾り屋 さんの名前はなんと言う?。」隠し切れないと勇吉は「オレはおかみさんの親戚 のものじゃない、本当は泥棒なんだ。」と夕べからの経緯を話す。
一方、おかつさんは「身元証の書付け」を神田の飾り屋にもらいに行くと家を
出て、八幡様の境内にいる「手相見」の易者に金を渡し、「書付」を作ってもら う。 早速届け出ようとするところに役人がやって来る。 役人に渡した「書付」 には「勇吉というもの、千葉の木更津の生まれで・・・・」と書いてある。 そこに 岡引が飛び込んでくる「手配中の男が間違えて番屋にやってきた。牢に戻りた いけど道が分からなくなった」と。
子供達はかあちゃんの後をつけて境内に行き、かあちゃんが易者に頼んでい
たことを知っている。
長男の勤める大工の仲間の熊さんが怪我をする、一人手がいるということで
勇吉が雇ってもらえる。今日からみんなと一緒に仕事にでる勇吉。
勇吉は言う「親にもこんなにしてもらったことはねえ。」おかつさんが言う「親の
ことを悪く言う人間は大嫌い。どんなときでも、まず子にしてやりたいのが親じゃ ないか。聞き捨てならないね。」
長男の がいう「母さんは耳にホクロのある人には親切なんだ、源さんも父
さんも、みんなホクロがあるだろ」
居間の仏壇に向かって、いつまでも手を合わせているかあちゃんの姿があっ
た・・・・・・。
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